99/11/10 <金融メガ統合>経済界に衝撃 どう見る 専門家がズバリ予想 毎日新聞ニュース速報

日本興業、第一勧業、富士の3銀行統合に続き、住友とさくらの両行が合併に合意してから約1カ月が経った。再編のうねりは損害保険業界にも押し寄せ、金融界はこぞってパートナー探しに忙しそうだ。経済界に衝撃を与えのは何と言っても、旧財閥の中核だった住友・さくらの合併だろう。系列のグループ企業を巻き込み、産業界の再編成も一気に加速しそうだが、この金融メガ統合を専門家はどうみているのか。大学教授や証券アナリストに聞いた。 【大石雅康】

◇明治大政治経済学部、高木勝教授

★三井物産がグループ離脱も!?

――両行の合併は旧財閥の統合ですか、それとも解体とみますか。

◆答えは両方でしょう。例えば、系列企業に住友建設と三井建設があります。両社とも経営状態が良くない。親銀行同士の合併を契機に、両社は集大成されると思います。以前から提携している住友化学工業と三井化学も関係を深め、新銀行のグループに入っていくでしょう。そういう意味では財閥統合の側面がある。

一方で、大変な優良企業である三井物産は、さくらでは資金面で十分な対応ができず、興銀や富士に頼っていた。住友商事とは水と油みたいな関係であって、三井物産はグループを飛び出していく可能性がある。

さらに、資金調達の手段は銀行融資ばかりではなく、社債発行や国際的なマーケットからの導入もある。銀行を中核とした旧財閥を脱して、新たな動きをしてもおかしくない。その意味では、財閥解体に向かうでしょう。

――この合併で、産業界のあり方も大きく変わりますか。

◆激変でしょう。従来のような血のつながりが濃いイメージでの取り引きは、なくなると思います。新たなグループ化があっても、単に金銭の貸借関係になり、ドライな関係になる。そういう意味では財閥解体が進みます。統合の側面といっても、財閥色みたいなものは払しょくされるし、なくさなければ生き残れません。

――これまでのメーンバンク制度や系列企業との株式の持ち合いといった日本型経営慣行にも変化が起きますか。

◆当然、メーンバンク制は変容していきます。これまでは株式の相互持ち合いや人的資本の注入が目立ちましたが、もう通用しません。高度成長期には機能していた日本的慣行ですが、成熟経済となり、世界的な激しい競争に見舞われ、仲良しクラブ的な経営では勝ち残れない。金融機関の経営は経済の合理性を基準に動くようになり、業績が悪い企業に生命維持装置を付けるような時代は終わった。冷徹な収益至上主義に照らし合わせ、見込みがなければ銀行は撤退するしかないでしょう。

――銀行の系列企業に対する主導権も低下しますね。

◆融資を基本とする主導権は、もうなくなるでしょう。特に大企業にとっては「銀行よ、さようなら」の時代です。企業は時価発行増資をする、転換社債、ワラント債、コマーシャルペーパーを発行する。ベンチャー企業でもナスダック・ジャパンやマザーズといった新しい株式市場が登場する。銀行の地位はますます低下していきます。

◇立教大社会学部、斎藤精一郎教授

★三和があさひ、東海と手を組む!?

――斎藤さんは統合か解体のどちらとみますか。

◆旧財閥を中心とした、特に金融を中心とした日本的な共栄共存関係のネットワークがついに役割を終えて解体に向かっていく。財閥や系列企業というものに意味があったのは、資金が不足していた時代です。カネがすべてを仕切るきずなで、金融帝国主義の時代には系列企業にも意味があった。ところが、一人当たりの国民所得がアメリカに並び、資金が余る時代になった。企業の資金調達が容易になり、カネのきずなは必要なくなりました。

――銀行が系列企業に対して、ある意味で「社外監査役」の役割を果たしてきたと思いますが。

◆そういった役割はなくなります。アメリカではすでに進んでいますが、社外重役の登用が、企業の経営を監視するという意味では、一つの解決策になるでしょう。株式市場や消費者によるチェックもあります。そういった社外の目をうまく受け入れられるような仕組みを企業側が取り入れる必要があります。あとは、情報公開です。

――両行は合併2年後に当たる2004年3月までに計9300人のリストラをします。実現可能でしょうか。

◆日産自動車がカルロス・ゴーン氏を迎えて、大胆なリストラ策を打ち出しました。これが一つの判断材料になるでしょう。労働組合の反発や、リストラに対する社会の批判も根強い。しかし、世界を相手に競争するためのリストラですから、やらざるを得ない。住友・さくらの場合、私は7割ぐらいは可能だと思います。やらなければ敗北者になってしまう。それほど情勢は厳しいとみています。

産業界、金融界ともに、21世紀体制への衣替えが進みつつあります。そのなかでも、住友・さくらは衝撃的だった。そこまで捨て身になったかという印象を抱きました。この勢いで、リストラを成功させれば、大変な評価を得るでしょう。

――金融界のさらなる再編については、どのような組み合わせを予想していますか。

◆ついこの間までトップだった東京三菱が、あっと言う間に3位に転落してしまいました。それなら三和と合併するかというと、これはタイプが全然違う。ウルトラCを言えば、三和があさひ、東海と手を組む。あさひ、東海は中小企業を中心に取り引きしていますが、日本で最も強みがあるのは中小企業であり、その中小企業も国際的な取り引きをしている。三和との連携で大きく化ける可能性がありますね。

◇ウォーバーグ・ディロン・リード証券、笹島勝人シニアアナリスト

★東京三菱に三和、大手証券が加わる!?

―笹島さんの目にも、財閥解体と映りますか。

◆財閥のエゴやプライドが崩壊したという意味では、解体でしょう。しかし、経済的な観点からすると、これはもう統合の方向だと考えた方がいい。経済がこれだけグローバル化し、市場原理が導入されて、企業の業績が株価で判断される時代になった。世界的な視点でみれば、旧財閥は小さな企業グループでしかない。企業の資金調達方法が多様化しているとはいえ、銀行借入が6割ほどあり、まだまだ銀行依存度が高い。銀行が合併して強くならなければ、グループ企業も競争力が高まらない。

――アメリカではすでに、銀行が巨大化することによるメリットは乏しいとの指摘もありますが。

◆規模が大きければコスト負担が軽減されます。それと同時に、日本の銀行が欧米のメガバンク(巨大銀行)と肩を並べていくには、やはりそれなりの規模が必要です。特に、これからの邦銀にとって問題になってくるのは、IT(情報技術)投資です。欧米ではITに年間数千億円を注ぎ込んでいます。日本では数百億円。統合3行がようやく、年間1500億円を費やすと言っていますが、このIT投資がどれだけできるかが分かれ目になるでしょう。

――そのIT投資は、どのようにしたらいいのでしょうか。

◆これからは銀行も投資信託や保険を商品として開発し、売ることになります。そのためにはコンピューター・システムの整備が必要ですが、現在の投資額では、米銀には到底、太刀打ちできません。米銀はマーケティングが優れている。何をどう売るかというシステムですが、さらに、お客さんのニーズを先取りする、あるいは予測するシステムまで持っています。邦銀ではまだ、自分が持っている顧客データをどう分析しようかという段階です。それにもまして、利益が上がっていないからIT投資も十分にできない。まず、利益水準を上げなければならないし、そのためには大胆なリストラも必要です。

――証券アナリストの目からみると、金融界のさらなる再編はどうなりますか。

◆今、残っているのは面白いことに、それぞれがトップ企業です。東京三菱、三和、三菱信託、日本生命、野村証券、東京海上。銀行では、東京三菱と三和が合併する可能性はあると思いますが、それだけではつまらない。銀行界では勝ち組だった両行ですが、合併しても統合3行に次ぐ規模にしかならない。こうなると、次は業界を超えた合併でなければ競争力は維持できない。

例えば、野村が加わる、日生、三菱信託が加わる。マーケットは合併を評価する場合に、顧客基盤が強化されるか、新会社の機能が広がるかの2点を見ています。東京三菱と三和に大手証券が加われば、日本最強の金融機関になる。マーケットはそれを期待しているし、そうならなければ非常に失望すると思います。[1999-11-10-12:38]


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