99/10/18◇天声人語「私記ロッキード事件」堀田力◇朝日新聞ニュース速報

弁護士でさわやか福祉財団理事長の堀田力(つとむ)さんは、かつて東京地検特捜部の検事を務めた。「ロッキード事件」の捜査に心血を注いだ一人である

▼二十三年前、「田中角栄前首相逮捕」の号外が飛び交ったときは、日本中が衝撃を受けたものだ。ことし六月、堀田さんは日本新聞協会の会合で、事件をめぐるあれこれを率直に語った。ジャーナリストへの教訓に満ちた内容だった。新聞週間のいま、その話を思い出す

▼「マスコミと検察は、基本的には同じ志です。腐った事実、みんなが知らなければいけない事実で、しかも隠されている事実をきちんと公にする。マスコミは社会的責任を、検察は法的責任を明らかにする。それによって社会を浄化するのが基本的な使命だと思います」

『壁を破って進め 私記ロッキード事件』(講談社)と題した本を堀田さんは書いた。それに触れて語った個所が、なかでも私たちジャーナリズムに携わる者の痛いところを突く。「書かなかったのはプライバシーの部分などごくわずか。政治や外交に関することをはじめ、あとは事実を全部明らかにしたのです。あの本について、何人かの記者から取材を受けました」

▼「ところが、ほとんどの方が『国家公務員法違反になりませんか』『あそこまで書いて大丈夫ですか』と聞く。ジャーナリストの書評にもそうしたものがあった。大変心外でした」「法務省や検察の方から、しかられるのなら分かる。ただし、甘んじては受けず、言い返しますが。でも、どうしてマスコミの方から大丈夫なのかと聞かれるのか。なぜ、もっと話さないのかと言ってくれないのか。取材されながら心外でした

▼「心外」を繰り返して、話は核心に至るのだった。「もっともっと話をさせてもいいのではないか。ロッキード事件にかぎらず、政治の内幕などについても、そう思います」[1999-10-18-00:39]


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