99/10/4 作業員に臨界の知識なく「ざっと読んだだけ」被ばく社員が捜査に 毎日新聞ニュース速報

茨城県東海村の核燃料加工会社「ジェー・シー・オー(JCO)東海事業所」の臨界事故で、作業中に被ばくした社員の1人が同県警捜査本部の調べに「マニュアルをざっと読んで同僚2人に口頭で伝えたが、自分の理解が不十分だった。事故を引き起こし2人に悪いことをした」と供述していることが4日、分かった。同社作成のマニュアルは国に無届けの違法なものだったことが判明しているが、捜査本部は、職場長がマニュアルをこの社員に渡す際、安全上の十分な説明を怠った疑いが強いとみている。またJCOも、同日、社員に臨界について全く教育していなかったこと、発生時に「臨界事故しかない」と認識したが、対応が遅れたことを認めた。

これまでの調べでは、この社員は30日午前、同事業所の転換試験棟で、社員3人の作業グループのリーダーとして、ウラン溶液を沈殿槽に充てんする作業をしていた。この際、マニュアルとは違う手順で制限値を大幅に上回るウランを投入したため、臨界事故を引き起こした。3人はいずれもこの作業は初めてだったという。

同事業所では通常、新しい作業を始める際、職場長が現場のリーダーに作業マニュアルを渡して手順を説明。リーダーはマニュアルを部下に説明し、作業させることになっている。

しかし、この社員は調べに対し、「私のマニュアルの理解が不十分で、作業の手間を省くため横着した部分があった。(核分裂反応が連鎖的に起こる)臨界に関する知識もなかった」などと供述しているという。

捜査本部は、手順を誤れば臨界事故を引き起こしかねない極めて危険な作業について職場長がこのリーダーに十分な説明をしなかった疑いが強いとみて、職場長からの事情聴取を進めている。[1999-10-04-14:03]


99/10/4 作業員、臨界の意味を認識せず  読売新聞ニュース速報

茨城県東海村の核燃料加工会社「ジェー・シー・オー(JCO)」東海事業所の臨界事故で、茨城県警は三日、捜査員約百人体制で捜査本部を設置し、同社からウラン燃料製造の違法な手順書(マニュアル)の任意提出を受ける一方、このマニュアルを承認した同社の製造部長ら上層部から一斉に事情聴取を始めた。また、被ばくした作業員の一人は同県警の調べに対し、「臨界の意味は分からなかった」「仕事を早く終えたかったので工程を省いた」と供述。効率重視のあまり、JCOが現場の手抜き作業を認めただけでなく、安全教育まで怠っていた疑いが強まった。同県警は、管理・監督にあたる会社上層部についても、原子炉等規制法違反などの疑いで捜査を進めている。一方、科学技術庁は同日、同規制法違反の疑いで、労働省は労働安全衛生法違反の疑いで、それぞれ立ち入り検査・調査に乗り出した。

JCOは少なくとも四、五年前から、ウラン酸化物を溶解する際、正規のマニュアルを無視して、溶解塔を使わず、ステンレス製バケツに手作業でウラン酸化物を入れてかき混ぜるようになった。九七年十月には同社の製造部長も承認したうえで、正規のマニュアルを改訂した。

同県警ではすでに、この製造部長などから事情聴取しているが、被ばくした作業員三人のリーダー格の作業員は、県警の事情聴取に対して、「工程を省いたのは、作業を早く終わらせたかったためだった」と供述。「私が二人に指示を出した」などと話したという。また、作業員らは「こうした違法な作業工程は前日の九月二十九日も行っていた」と違法な作業が日常化していた、と供述しているという。

さらに、今回の臨界事故については、作業員は「臨界という意味がよく分からない。こんな大変な事故になるとは思わなかった」と供述した。JCO側は会見で、「年二、三回の社員研修を行っており、臨界の危険性は知っているはず」と話していたが、同県警は、社員教育が徹底されていなかった可能性が強いとみている。

一方、JCO側は、改訂したマニュアルが同規制法に違反することについては認めているものの、硝酸溶液を貯塔でなく、沈殿槽に入れたことについては「上司の指示ではなく、現場の判断」としているが、同県警では、上層部の監督責任などについても、解明を進めている。

この違法マニュアルには製造部長ら七人の幹部の印鑑が押されており、同県警では、これら幹部が違法作業を認めた経緯についても詳しく事情を聞く方針だ。

また、被ばくしたリーダー格の作業員が、高速増殖炉用の高濃度の硝酸ウラン溶液の精製については、今回の作業まで実際の経験がなかったことが三日、わかった。JCOの当初の説明では、三人の作業員のうち、この作業員だけは二か月の経験があるとしていたが、実は三人ともまったくの未経験だった。

JCOの説明によると、同事業所で硝酸ウラン溶液の精製が行われたのは二年ぶりで、この作業員はこれまで軽水炉用の低濃度のものの経験はあったが、今回の高濃度の精製作業の経験はなかった。[1999-10-04-03:02]


99/10/4 違法手順書に地元住民の怒り増す 読売新聞ニュース速報

「住民をないがしろにするにも程がある」。国内初の臨界事故を引き起こした茨城県東海村の核燃料加工会社「ジェー・シー・オー(JCO)」東海事業所で明るみに出た違法な手順書(マニュアル)の存在。危険と隣り合わせの作業が常態化していたことに、三日、地元住民らからは怒りの声が噴き出した。

「何年も前から裏マニュアルがあったなんて許せない」。避難要請の解除まで、東海村内の自宅にこもって過ごした主婦穂積道子さん(51)は、激しい口調で語った。穂積さん宅は事故現場から三百五十メートル圏内にあり避難対象だったが、避難所に移動する間の被ばくを恐れ、会社員の夫、定雄さん(53)と長男(25)の三人で、雨戸を締め切り、扇風機で暑さをしのいだ。

くんできたばかりのわき水が一週間分ほどあり、飲み水には困らなかったが、電話がなかなか通じず、行政からも何の連絡もなく、不安は募るばかりだった。

穂積さんは、「国もしっかり監視していると信じていたのに、裏切られた感じだ。老後も住み続けるのは正直言って不安。事故を起こした会社に家と土地を買い上げてほしいぐらいだ」と話す。

また、同村の飲食店に勤める男性(32)は「うちは娘が二人いるが、もし健康被害が出ていたら、どう責任を取ってくれるのか。社長が土下座するより、もっと管理者としての自覚をもって社員に安全教育を徹底しろ、と言いたい」と語気を強めた。

東海村の村上達也村長(56)は「避難住民の大半を自宅に送り届けてほっとしたが、一夜明けると、JCOに腹が立ってきた」と語る。「(違法マニュアルでの)ずさんな作業体制を見逃していた科学技術庁にも責任がある。審査するだけでなく、立ち入り調査結果を公表する必要がある」とも。

「損害額を正確に把握して、JCOに損害賠償を求めていく」と言い切るのは、同県ひたちなか市のJAひたちなかの須藤武夫理事長(85)。スーパーなどの中には、茨城県産の農産物を拒否しているところもある。国や県から「安全宣言」は出たが、イメージ回復は容易でなく、当面は「農協の倉庫に保管している(秋の味覚の)サツマイモ約五十トンが売れるかどうかが不安で仕方ない」と訴えた。

[1999-10-04-00:05]


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