99/9/24 <飛べニッポン>再生へ ジャック・アタリ氏 毎日新聞ニュース速報

【ジャック・アタリ】1943年、アルジェ生まれ。仏理工科学校、国立行政学院などを卒業後、70年、コンセイユ・デタ(国務院)入り。81年から91年まで、故ミッテラン大統領の特別補佐官を務めた後、91年4月、新設の欧州復興開発銀行初代総裁に就任。その後、国際コンサルティング会社「アタリ・エ・アソシエ」を興し、現在、社長。経済学博士。

――経済を中心に沈滞気味の日本ですが、その現在と近未来をどう見ますか。

◆今は混乱の時期だが、遠望を持つことが必要だ。人口構成上の高齢化社会の進行など課題は多いが、明るい材料もある。

――どんな点でしょう。

◆まず、日本は電子技術、バイオテクノロジーなど最新の先端技術を持っている点だ。また、中等レベルの教育水準も高い

――最大の課題は高齢人口の増大でしょうか。

女性が生涯のうちに1・3人程度しか子を産まない現状は深刻だフランスはじめ欧州諸国は戦後、人口の減少に戦いを挑んできた。このままいくと日本は23、24世紀には消滅しているだろう。

――問題点はほかにも?

日本社会の閉鎖性と硬直性だ。中央省庁の官僚を頂点に、企業でも年功序列、終身雇用、集団志向など凝り固まった社会構造を、もっと柔軟で開かれたネットワーク型に変えていかねばならない。

――具体的にはどんなことから始めればよいでしょうか。

◆まず、もっとたくさんの外国人を受け入れ、日本社会の器量を大きくしていくことが決定的に重要だ。たとえば英国は、インドなど英連邦の国々から多くの外国人を受け入れているが、もし英国が日本のような閉鎖的な政策をとったら活力を失い、国際社会の中での地位も著しく低下するだろう。

――戦後、半世紀以上を経て、まだ日本は近隣諸国との関係修復を終えたとはいえません。

◆米国との関係一辺倒でなく、特にロシア、中国といった隣りの大国との関係を良くしていかねばならない。もちろん、インドネシア、ベトナムなど東南アジア諸国との関係改善も必要だ。

――何がきっかけになるでしょうか。

◆若者たちだ。みな米国にばかり行きたがり、ロシア、中国に行く日本の若者は少ない。これをもっと行き先の多様化をはかる。フランスとドイツは1950年代初めから、学生、若者たちの交換プログラムを拡大させ、これが仏独を軸にした欧州の統合過程を下支えしてきた。時間をかけて次代を担う若者たちの間で信頼関係強化をはかっていくのは一つの方法だ。

――長所とされる先端技術と中等教育の水準の高さですが、ここにきてかげりが指摘されています。

◆電子、情報、生命科学などの分野で、現時点では日本が世界の先端を行く技術を持っているのは間違いない。中等教育もまだ相対的には高いほうではないか。問題は日本社会の閉鎖性、硬直性が改善されないと、これらもいずれ失われるということだ。

――高度技術を維持、発展させていくために不可欠な中等教育の後の高等教育はどうでしょうか。

日本の大学、大学院にはまだまだ外国人留学生が少ない。互換性のある学位を認定して留学生を誘致するのも、日本社会の開放性を高めるのに寄与する。

――グローバリゼーションによって米国の価値が世界を覆いつくそうとしていますが、高等教育も例外でなく、みな米英を向いているように思えます。

◆自国語とその文化の保持に最も敏感で熱心なフランスでも事態は同様だ。しかし、欧州では昔から、優れた個人は常に真の二重文化を生きてきた。

マラノス」という言葉がある。中世、スペイン、ポルトガルで迫害を受けカトリックに改宗したユダヤ人を指す言葉だ。彼らは表向き改宗したが実際は自らの信仰を捨てなかった。スピノザもフロイトもマルクスもこうした二重文化の伝統の中から出てきた。米語を自在に操り、米文化に精通した、しかし、日本人であることを存在の核に据えた日本版マラノスを創るときではないか。

――米国が日本を飛び越して中国に接近し、日本は見捨てられるのでは、といった自閉症的な考え方さえ出てくるのが現状です。

孤児の感覚こそが、父離れを果たし、自立した大人になるための唯一のカギだ。日本は後ろ向きの感傷に浸ることなく未来を見据え、アジア・太平洋圏で主要な役割を担うことが期待されている。 【聞き手・橋本 晃】[1999-09-24-23:12]


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