99/9/21 <飛べニッポン>ジョン・ケネス・ガルブレイスさんインタビュー

毎日新聞ニュース速報

――日本では、戦後の経済を支えてきた政官財のゆ着構造が限界にきたと言われています。

◆答えが見つからない時にいつも官僚組織が批判される。すべての組織は間違いを起こす。日本も例外ではない。資本主義は、投機的なバブルとその後に続く崩壊という逃れられない問題を持っている。日本はこの問題に遭遇したのだ。日本の経験は異常なことではない。17世紀にはオランダのチューリップ投機18世紀には英仏で歴史的投機事件があった。米国の1929年の株価大暴落もそのひとつだし、それ以降も同じ現象があった。経済学や政策にとって最も重要なことは歴史感覚を持つことだ。

――日本経済は復活するでしょうか。

◆バブル崩壊を経験したことで、今後の運営に当たっての大きな教訓を得ることができたはずだ。私の同僚だったシュンペーター教授(故人)が「創造的破壊」と呼んだ機能をバブル崩壊が果たすのだ。日本は21世紀には経済を立て直すことができるのではないかと思う。

――日本はバブル崩壊後の1990年代に、米国をモデルに経済システムの改革をしてきました。

米国が現在、投機的な時代に入っていることは疑いの余地がない。多くの人々が、理解もせずに、しかも才能がないにもかかわらず、株式や不動産に夢中になっている。彼らは金をもうけ、価格をつりあげることに熱中している。現在のウォール・ストリートの投機熱はどの国のモデルにもなりはしない。今の米国は幸せな結末を決して迎えないだろう。

米国にとって、貧富の格差が非常に大きいことは最も深刻な問題のひとつだ。繁栄の時代にありながら、所得の多くが、上からわずか1%の人に帰属し、下から25%の人にはわずかしか分け前がない日本は、富の過剰な集中を排除し、貧しい人や平均的な所得を稼ぐ人を支援するような平等な所得分配をいかに実現するかについての関心を持ち続けてほしい。

――米国流のグローバリゼーション、市場主義がこれからの潮流であり続けるのでしょうか。

◆グローバリゼーションについて語る多くの人は、流行だから使っている。しかし、以前から経済がどんどん国境を越えて国際的な協力関係が深化していた。グローバリズムは、国際協力関係、国際貿易、国家間の資本の流れの親密化、強化という言葉で説明可能だ。グローバリゼーションが新しいものだと言う人は、歴史の長期的な大きな流れをわかっていない。昔は資本主義と呼ばれたものが今の流行では市場経済と呼ばれている。

――社会主義が色あせた今、資本主義にとってかわる新しい思想は出てくるのでしょうか。

◆経済は民間企業の活動や利益追求活動に依存する度合いが高まってきた。民間企業や金もうけをしたい人にまかせた方がうまくいく分野が多数あるのは事実だが、政府にしか扱うことのできない多くの分野が依然としてある。社会主義か資本主義かという議論によって物事を判断するのではなく、個々の具体的な状況に応じて解決策を考える発想を取るべきだ。

――インターネットなど情報通信の発達は、資本主義を変容させますか。

◆技術は人間精神の関わる範囲を拡大し、コンピューターは人々の満足や知識を増大させてきた。しかし、過去にも、鉄道、航空、ラジオ、テレビに関しても同じようなことが言われてきた。我々は技術を正しくつりあいの取れた形で位置づけなければならない。

――21世紀に日本は何をすべきですか。

◆来世紀に最も重要なことは、平和を維持することであり、日本に強調する必要はないかもしれないが、核兵器をコントロールすることだ。日本にとって最も重要なことは、日本の人々が満足や幸福を感じることができる政府、社会、経済システムを作り、世界の平和や福祉に貢献することだ。日本は、他のアジア諸国や世界のモデルになってほしい。

すべての国はその国の内側からにじみ出てくる知性に基づいて進まなければならない。日本が米国の模倣によってではなく、日本の知性によって運営されることを希望する。 【聞き手・逸見義行、写真も】=つづく

1908年カナダ・オンタリオ州生まれ。ケネディ、ジョンソン両大統領の顧問を務めた米リベラル派知識人。市場主義とは一線を画し、長期的視野に立った資本主義の分析で知られる米国を代表する経済学者。「ゆたかな社会」「不確実性の時代」「バブルの物語」など著書多数。ハーバード大経済学部名誉教授。90歳。[1999-09-21-01:11]


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