99/6/4 <失業時代>雇用は守れるか 労組に手詰まり感 中高年対策 毎日新聞ニュース速報

「この10年で210を超える組合を新たに組織した。その一方で、同じくらいの数の組合が企業倒産で離脱した。いたちごっこですよ」。連合加盟の単産で、中小労組が圧倒的に多いゼンキン連合の服部光朗会長は、中小・地場産業の雇用のもろさに苦闘を続けている。

1100単組、30万組合員を擁する組織だが、今年1〜3月だけでも、2社が倒産した。工場閉鎖は7社に上り、希望退職募集は35社を数える。

新規採用者の削減や資産売却で乗り切ろうとする大手企業の労組とは異なる「現場」も抱えながら、失業問題での、連合の存在感は乏しい。

「労働側だけでは、雇用創出に限界がある」(笹森清・連合事務局長)と、連合は、昨年12月、日経連と共同で「100万人雇用計画」を提言し、政府に要望した。

主なものは、介護・福祉42万人▽小中学校の30人学級実現で10万人▽住宅建設促進で11万人▽近郊林整備で37万人――。数字をあげ、具体的な提言という形式は整えたものの、「寄せ集め」の印象はぬぐい難い。

笹森事務局長は日経連との連携効果を強調するが、目ぼしい対応がないまま組織内労働者からも失業者が次々と生まれているのが現実だ。

連合の姿勢に懐疑的な見方もある。ジャーナリストの大宅映子氏は1日の雇用審議会で、新たな雇用対策基本計画を策定する小委員会メンバーに笹森氏が入ったことについて「労働組合じゃない視点で取りまとめをお願いしたい」と、くぎを刺した。100万人雇用計画に教員増が盛り込まれていることに「日教組への配慮」という身内の事情優先を感じ取る人も少なくない。笹森氏から、特段の反論はなかった。

政党では連合と最も近い関係にある民主党。同党が3日に国会内で開いた「失業・雇用対策本部」を途中退席した幹部の一人は、「(会議の中身は)全然たいしたことないよ」と言い切った。この日の会議で、雇用・失業対策の国会決議への取り組みや、衆参両院の予算委員会での政府追及方針、緊急雇用シンポジウム開催などを決めた。しかし、実態は「国民向けのアリバイ」という域を出ていない。

実際の動きも鈍かった。3月に対策本部の初会合を開いたものの、その後は、統一地方選で休眠状態。5月27日に活動を再開したが、これは笹森氏から前日、「雇用問題で自民党からも呼び掛けがある、直接交渉も考えている」と羽田孜幹事長に伝えられ、あわてたというのが真相のようだ。

では、だれが「雇用」を守るのか――。

労組に関して言えば、実は労働経済の専門家たちでさえ、労組の役割を重視していない。「労組も手詰まりだ。早い話が雇用問題の解決法は景気を良くするしかない」(仁田道夫・東大教授=労使関係論)からだ。「政府の対策が補正予算を含めて労働者の役にたっているかどうかを見極めることぐらいでしょうか」。仁田教授も、労組自身に痛みを伴うような対策は別として、当座の対応策をすぐには思いつかない。

政府の各種審議会委員や沖縄問題懇談会座長を務め、雇用問題を含む日本経済の再生のためには「規制緩和しかない」と各方面へ檄(げき)を飛ばす島田晴雄・慶応大教授は、6月1日の閣僚懇で各省庁が出した対策について「気持ちは分かるが、国民の資金で失業者を雇いましょ、ということ。ミニ失対事業。役人、政治家のアリバイづくり」と見る。効果より、制度の独り歩きを懸念する。

その島田教授も「失業が本当に大変な人に重点的に対策を取るべきだ」と中高年の雇用対策をより手厚くすべきだと考えている。

「これまで会社で努力してきた。子供もいる。今の雇用保険の給付期間では、精神的に疲れたまま面接に臨み、再就職はできない」

(1)十分な職業訓練(2)自己啓発の優遇税制(3)民間の職業紹介機関、より利用しやすくする――ことで「失業してもこわくない社会を作らねばならない」が主張だ。

企業のリストラはこれから本格化する。失業率は5%を確実に突破する。戦後の雇用の常識が音を立てて崩れる中での「対策」が求められている。

この企画は、桜井茂、前田浩智、行友弥、有田浩子(政治部)、橋本利昭、福本容子、小島昇、木村旬、乾達(経済部)が担当しました。[1999-06-04-23:32]


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