99/4/15 ◇郵送DNA鑑定に新指針 日本法医学会◇朝日新聞ニュース速報

だ液などのサンプルを郵送で受け付け、親子関係のDNA鑑定をする民間会社が増えている。日本法医学会は4月14日、個人のDNAが安易に調べられることで起きる可能性がある家族間の不和や人権侵害を防ぐための指針案をまとめ、理事会に報告した。

学会員の意見を募ったうえで、5、6月中に正式に公表する。米国ではサンプル採取に第三者が立ち会うなどの指針を設けているが、日本ではこうした取り組みはなかった。今回の指針案は、日本のDNA鑑定の社会的な位置づけや扱い方をめぐる議論を呼びそうだ。

指針案をまとめた法医学会の作業班(座長、勝又義直・名古屋大学教授)によると、DNA鑑定をする民間会社は一昨年春ごろから登場。現在、インターネットで広告している11社のうち、10社がだ液や毛髪、つめなどのサンプルを依頼者に郵送してもらい、親子かどうかをDNA鑑定している。多くは海外企業の支社や提携関係にある日本企業で、費用は鑑定1件につき15万円から25万円程度だという。

問題は、こうした方法だと、鑑定の対象者が本人の知らない間に調べられてしまう危険性があるほか、分析結果から、本人だけでなく家族の遺伝的な情報までが第三者に知られてしまうおそれもある。家族のきずなが鑑定で崩壊する恐れもあり、同学会は昨秋からこうしたケースを防ぐ指針づくりに取り組んでいた。

今回まとまった指針案は、まず、倫理的配慮として鑑定対象になる人が鑑定に異論がないことを確かめることを要求サンプル採取の状況が不明確なものは鑑定を禁じた。具体的には、サンプルが鑑定対象の人のものであることを証明する写真や署名などの証拠が必要とし、サンプル採取には第三者が立ち会うことも求めた。こうした鑑定の具体的手順を盛り込んだ手順書の作成も要請する。

勝又教授は「私の教室にも鑑定依頼はあるが、家族関係が鑑定結果だけで左右されないよう事前にカウンセリングして熟考してもらっている。郵送ではそうした対応が難しい家族に知られずに鑑定できることを宣伝している会社もあるが、この指針をきっかけに、鑑定の受け付け方をよく検討してほしい」と話している。

米本昌平・三菱化学生命科学研究所室長の話 親子鑑定は、米国では認めているがフランスは裁判関係を除いて禁じている。いずれも、個人のDNA情報を社会がどう扱うか、議論を重ねた結果だ。日本ではなし崩し的にサービスが海外から持ち込まれた。病気の発生予測出生前の遺伝子診断も普及しており、DNAを調べる技術の適正な使用について、国などの公的な機関はきちんとした議論の場をつくるべきだと思う。[1999-04-15-03:05]


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