99/4/5 <景況感>底打ちの兆し 米国型の大胆なリストラ期待が背景 毎日新聞ニュース速報

5日発表の日銀短観や経企庁の景気動向指数から、悪化の一途だった景況感に底打ちの兆しが見えてきた。景況感改善に最も効いたとみられる株価の上昇は、米国型の大胆なリストラ期待が背景にあり、企業が「過剰な設備と雇用」をそぎ落として、収益向上や新たな投資も見込める体質に再生するのを展望している。しかし、企業が一斉にリストラに走る事態は、雇用不安と消費減退の悪循環を招くうえ、「失業の受け皿が乏しい日本では、米国型の景気回復軌道を期待しても無理」との見方が少なくない。

日銀短観の結果で不思議なのは、1999年度の売上高予想は横バイなのに、経常利益の伸びは20%超の増益を当て込んでいる点だ。実際の売上高は減少するとの指摘もある中で、増益を達成するには厳しいコスト削減が不可避で、最大の経費である人件費を切り込まざるを得ない。

90年代前半の米国では、企業が大胆な雇用削減を含むリストラを断行した結果、企業収益は好転し景気指標が底を打っても、雇用は増加しない「雇用なき回復」が続いた。だ、時間差を置いて、雇用は拡大し、失業率の日米逆転に結びついた。

最近の株価上昇は、相次ぐ主要企業のリストラ発表が、海外投資家に米国型の回復軌道を連想させた面がある。ただ、米国では、企業の大量解雇があっても、失業者が自ら事業を起こすなど雇用の受け皿があったが、日本にはそれが整っていない。

野村総研の高尾義一・研究理事は「政府が今年度成長率をプラス0・5%楽観し続けている限り、失業増加を直視した対策は見込めない」と指摘する。賃金削減や時間をかけた雇用削減で調整する余裕があれば別だが、「企業はリストラをしなければ生き残れないところまで追い込まれいる」(高尾氏)待ったなしの状況だ。

規制撤廃や税制面などで新規事業が自由に起こせる環境を整備するなど、失業率を抑え込むのではなく、次のステップを見越した対策を急ぐ必要がある。底打ちの兆しの景気は、小さなきっかけで再び下振れする可能性を秘めており、楽観はできない。 【福本容子】

景気の本格回復には、リード役の産業の登場が必要だが、現状では見極めが難しく、過去の回復局面を引っ張った建設業(公共事業)や自動車、電気機械などの輸出産業には多くを望めそうにない

昨秋から暮れにかけて、節電型の白モノ家電ブームや消費税還元セールでの売り上げ増など、「工夫で消費を動かす」(久保英也・ニッセイ基礎研究所上席主任研究員)現象が起きたが、息切れも早かった。今回の短観でも、自動車の業況判断が「軽」の規格変更に伴う販売増で16ポイントの大幅改善だったが、6月予想では14ポイント悪化と一進一退だ

あえて期待するなら、情報関連産業と言える。短観の業況判断では、情報化投資に支えられた通信が、24業種で唯一、大・中堅・中小ともプラスだった。ただ、現時点では機材や部品メーカーへの波及は大きくなく、光ファイバー埋設など形を変えた公共事業で潤っている可能性もある。

一方、米国で雇用の受け皿となったベンチャー企業も、すそ野が狭いため期待薄のようだ。介護保険関連産業で「70万〜80万人の雇用が見込まれる」との見方もあるが、育つには時間がかかる。公共事業の安易な追加ではなく、「米国のスーパー情報ハイウエー構想のように政府が進路を示し、制度や税制面で支援してほしい」(杉浦哲郎・富士総合研究所経済調査部長)との要望が強い。 【藤好陽太郎】

◇三菱総合研究所浜矩子・経済調査部長◇

今年度の設備投資計画は厳しく、雇用過剰感も強い。業況判断が回復しているのは、公共投資や銀行への公的資金注入などの政策効果に過ぎず、実体的な景気回復の予兆は感じられない。

今は必要なのは「景気が下げどまりつつある」ということではなく「現状が厳しい」と認めることだ。厳しい認識がなければ、痛みを伴うリストラは受け入れられないからだ。特に、雇用調整は最も難しいが、巨大な建設産業を維持することで雇用を抱え続けるのは、結果的にコストが大きくなる。安心して雇用を切ることができる体制を作ることが必要だ。

米国の1990年代の景気回復は、過去5年程度のバブル経済の清算だった。日本がいま直面しているのは、戦後の経済システムの再構築。米国の当時とは変革の幅も広さも比べものにならない。

◇三和証券 斎藤満・調査部長◇

日本はバブル崩壊後、土地で700兆円以上、株で500兆円以上の資産を失った。企業はこの資産の目減りを穴埋めするため、必死で収益を回しているが、処理はまだ道半ばだ。過剰設備、過剰負債、過剰雇用という3種類の過剰問題を、これまで以上に速いスピードで解決するよう迫られている。

問題は、その過程で強まるデフレ圧力を政策でいかに和らげるかだ。金融政策は現状維持しかないが、財政では、従来型の公共投資ではなく、設備、負債の償却を税制で優遇したり失業に焦点をあてたものが求められる。

米国のように、消費者(個人)を直接救うような方策をこの辺で考えてみてはどうか。個人の購買力を増やす円高を目指す手もあるのではないか。[1999-04-05-21:54]


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