2001/8/8 <経済観測>戦略思考 毎日新聞ニュース速報

IT不況の底は深い。需要は根強いのだが急激な伸びをあてこんでの過剰投資のとがめである。それに加えてDRAMの分野ではいつの間にか日本の優位は韓国にお株を奪われている。巨大な投資と市場シェア拡大が好循環する企業だけが生き残る激しい国際競争の中で存続さえ危ぶまれつつあるという。

なぜそういう事態になるのだろう。IT産業の土台となるDRAMのような分野の確保は国にとっても死活を握る戦略性をもっているのに、今の日本にはそのような視点と対策が乏しい。「改革」は良いが、これまでのゆがみの累積にメスを入れる、というものが多く、未来を開く戦略は見えてこない。国として産業構造をどうシフトし、その中核企業が育つ環境や条件をどう整えるのか。それを考え、実行しているのはむしろ米、欧を含めて諸外国である。日本が自由競争や市場原理を教条的に信奉してきた「つけ」であるのかもしれない。

戦略ということで言えば、戦後の通産省の産業政策が思い浮かぶが、もっと新しい観点が必要なのではないか。

産業にとっても構造改革の中で大きな意味をもつのは医療改革年金改革だろう。医療は企業の参入余地も多くある。年金は雇用の流動化や終身雇用の行方に深くからむ。そうしてみると、新時代の戦略思考は、個々人の人生設計がもっと関心事になってよいのではないか。それは人間がいかなる存在であり、何に充実感を感じるのか、その目的は何であるのか、という基本の問いかけに応えつづける中でつきつめるものだろう。

その観点に立てば、誰にも身近で分かりやすい全体のビジョンと自分との関係も見えてくる。それは一人一人が経済活動にかかわる姿勢を、もっと主体的で真剣なものにしてゆく何よりの助けになることだろう。 (猷)[2001-08-08-23:30]


記事と論評のページに戻る 最初のホームページに戻る  pf4m-atm@asahi-net.or.jp