2001/7/6 <無党派はどこへ>福岡政行・白鴎大教授と大河原雅子都議に  毎日新聞ニュース速報

無党派層の投票行動について報告してきた。最終回では、フィールドワークをもとに無党派層の研究を続けてきた福岡政行・白鴎大教授と、6月の東京都議選で無党派層の票を集めて議席を倍増させた「東京・生活者ネットワーク」代表委員、大河原雅子都議の2人に、有権者意識について聞いた。 【小国綾子】

福岡政行・白鴎大教授

無党派層の増加は世界的な傾向だ。日本だけではない。無党派層を英語で「independents」(政党から独立した者)と表現するが、それ以外に「swing」(揺れる)という言葉がある。政党間で揺れる票、という意味で、無党派層の票の行方は1カ月で簡単に変わるのが特徴だ。

このswingは、米国でも増えている。米国はかつて、民主党支持者の家系は全員が民主党支持者というくらい、政党支持が非常に固かった。それが今や半分が無党派層と指摘されている。英国でも、ブレア首相が再選されたのは、無党派層が「今のままでいい」と評価した結果だと言われている。

世界的な無党派層の台頭を背景に、有権者は成熟し、賢明になってきている。この点に敏感なのが、小泉純一郎首相だ。彼が無党派層の支持を集めるのは世論の怖さを熟知し、世論の声に耳を傾けているからだ。

千葉県知事選の終わった3月末、私は小泉首相に会って話をした。首相は「加藤紘一氏の乱」について「私の行動の座標軸になっている」と話した。世論を見くびると選択を誤る、という意味だ。だから首相は世論を見据え、自民党総裁選予備選にも出馬した。「市民の支持を受ければ勝てる」と判断したからだろう。また小泉首相は、千葉県知事選について「無党派層はクレバーだね。よく考えて投票している」とも言った。無党派層が動くと選挙結果が大きく変わることを理解しているからこそ、ハンセン病訴訟で控訴を断念し、行財政改革断行を打ち出したのだと思う。

無党派層の投票行動の転換期は1997年にさかのぼる。この年、橋本内閣が消費税を5%に上げ、医療費負担を増やした。山一証券や北海道拓殖銀行がつぶれ、自殺者が急増し、有権者に「黙っていてはいけない」という思いが芽生えた。

98年の参院選で、有権者は橋本内閣をリコールした。99年には無党派知事として石原慎太郎東京都知事が誕生した。このころから無党派層の投票行動は「非自民」パターンに入った。2000年になるとこの動きはさらに加速し、無党派層が政治の主役となった。衆院選東京選挙区では自民党の閣僚経験者の多くが落選し、長野や千葉で無党派知事が誕生した。「既成政党NO」の機運が最高潮に達したのが3月の千葉県知事選だった。

しかし、それから約1カ月後に小泉内閣が発足し、再び投票行動は大きく転換した。足利市長選、荒川区長選、千葉市長選と、自民党系の候補が大差で勝ち続け、6月24日の都議選でも、自民党は前回より50万票以上票を伸ばした。投票率が上がった分を、ほとんど自民党が持っていった形だ。しかし、有権者は自民党を選んだのではなく、むしろ千葉や長野で無党派知事を選んだのと同じ意識で、小泉首相を選んだに過ぎない。有権者はあくまで自民党ではなく、改革断行の小泉首相に投票しているのだ。

自民復調と小泉人気について、「有権者の民度の低さを意味する」と論評する人もいる。しかし私は、有権者は極めてよく分かったうえで投票したと思う。自民党を勝たさないと小泉首相が自民党につぶされてしまうということを、有権者は意識している。

ケーエスデー中小企業経営者福祉事業団(KSD)事件など自民党に絡む不祥事は多い。これらをすべて忘れられるほど国民は健忘症なのか、という指摘もある。しかし、国民は忘れたのではない。むしろ覚えているからこそ、既得権益を守ろうとする族議員や、大事な問題は先送りする今の自民党を変えてくれそうな人間に力を貸すのだ。

この流れは、参院選まで変わらない。自民党は2500万票くらい取るだろう。しかし小泉首相がひとたび国民を裏切ったり、改革を断行しないと分かれば、80%を超す内閣支持率が一気に20〜30%にまで下がる。小泉首相がダメと分かったら、有権者はすぐ首相をリストラする。高支持率のまま、流されていくような事態にはならない。

生活が苦しくなったことで、有権者、特に無党派層は成熟した。今や、政治的に目覚めた人が無党派層の半分を占めるのではないか。だからこそ選挙結果を左右できるのだ。有権者の成熟を受けて、日本もようやく「観客デモクラシー」から抜け出そうとしている。だからこそ、有権者は真剣に悩み、投票する。日本は今、「異議申し立て」の民主主義になってきている。小泉首相に投票するのは、自民党への「異議申し立て」であり、民主党も自由党もたるんでいるぞ、という野党への「異議申し立て」でもある。

選挙に関わるボランティアの増加などを見ても、有権者は意識的に成熟しただけでなく、政治を身近に引きつけようと行動するようになった。バブル経済崩壊後の10年間を「失われた10年」と人は言うが、この10年こそが「有権者の目覚め」をもたらした。日本再生への第一歩と、私は期待している。[2001-07-06-15:20]


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