2000/4/19<特報・放送大>講義番組差し替え 外国人差別助長の指摘を 毎日新聞ニュース速報

在日外国人との共生をテーマにした放送大学(本部・千葉市)の講義番組が、「外国人排外の差別意識を助長する」との学内関係者の指摘を受け、一部を今月14日の放送前に差し替えていたことが18日、分かった。番組を制作した担当教授(66)は在日外国人の多い特定地域について「犯罪の増加が悩み」としたうえで、外国人に限った犯罪検挙数の推移を示すグラフを持ち出したが、最終的にこの部分をカットした。東京都の石原慎太郎知事の「三国人発言」が波紋を広げる中、外国人観をめぐる放送内容の変更は論議を呼びそうだ。 【伊藤 正志】

この番組は「共生の時代を生きる」というタイトルで、今年4月から15回の予定で始まった。文化人類学を専攻する担当教授の講義は2回目で、日系ブラジル人労働者が増えている群馬県大泉町を取り上げ、国際化社会での共生のあり方を考える内容。当初制作した講義ビデオの中で、教授は企業城下町として成功している町の姿を紹介した後で「この町でも犯罪の増加が悩み」などと述べ、グラフを使って群馬県内と同町の外国人犯罪の最近10年間の増加数などを示し「地元の刑法犯は89年の0人から98年は17人に増えた」などと指摘した。

番組は差別表現などをチェックする「考査」部門を既に通っていたが、昨年後半、学内関係者から「外国人犯罪のグラフだけを使ったうえに数字の分析も不十分。外国人犯罪だけが増えているような誤解を与える」などの声が上がった。担当教授は当初、変更の必要を認めなかったというが、番組内容チェックの責任者の副学長らがビデオを見て手直しをアドバイスし、最終的にグラフを使ったシーンを別のインタビューシーンに差し替えた。

群馬県警などによると、日系ブラジル人を中心とする同町の外国人登録者数は町民の約12・6%。同町など3町を管轄する大泉署の昨年1年間の刑法犯の検挙者数は179人で、うち外国人は16人と1割未満。外国人犯罪の割合が特に高いという事情はない。

教授は差し替えて放映された講義でも「日系ブラジル人の増加でリトルブラジルともいえる地域ができ、閉鎖的傾向も懸念されている」と述べ、この矛盾を地域が包み込んで共生が図られていると解説した。大学周辺の関係者は「日本人だけの立場に立った見方ではないか。差別意識を感じる人もいるだろう」と話す。

教授は元国立大教授で異文化間教育学会の会長を務めたこともある。毎日新聞の取材に「グラフは犯罪の増加を強調するのではなく、むしろ大泉が県内全体よりも外国人犯罪の増加率が低いことを示すつもりだった。ただ変に誤解されてはまずいと思い自発的にカットした。矛盾を抱えながらも日本人と外国人が共生の努力をしている点を指摘することが講義の主眼だ」と語る。

放送大学は、テレビやラジオで学ぶ大学として放送大学学園法に基づき1985年に開校。所定の単位を取れば大学卒業となり、学士(教養)の学位が得られる。学生数は約8万人。今回の番組は主題科目と呼ばれ、受講者は多いという。

日弁連国際人権問題委員会副委員長で「在日外国人」の著書もある梓澤和幸弁弁護士の話 石原知事発言と根っこは一緒だが、単に批判するだけでは足りない。少なからぬ日本人の外国人への違和感の反映だからだ。政治家や学者は素朴な感情に流されず、それを乗り越える知恵を語るべきだ。少子化が進む日本社会は外国人との共生なくしては成り立たない。

作家の加賀乙彦さんの話 現在、日本にはブラジル人など南米系が27万人、アジア・アフリカ系が27万人、計54万人以上の外国人が働き、日本経済を支えている。その中で犯罪の数をうんぬん言うのは枝葉末節。外国人の人権が守られていないことの方がよほど重要だ。ただ今回の件については結果として放映しなかったのだから、特別コメントはありません。[2000-04-19-03:00]


記事と論評のページに戻る  4月の新着情報

最初のホームページに戻る   pf4m-atm@asahi-net.or.jp