麦門冬湯(金き要略)


方函 栗園先生によれば、按ずるに「金き要略」の本条に肺い(なえる。手足の力がなくなる。しびれる)の字無し。「肘後方」に言う、肺い(なえる。手足の力がなくなる。しびれる)にて咳嗽、涎沫止まず、咽乾燥して渇するをなおす。

沈明宗によれば、「私はひそかに擬して肺い(萎える。手足の力がなくなる。しびれる)の主方となすなり」と、蓋し「肘後方」にもとづく。

麦門冬 半夏 人参 甘草 粳米(ねばりけがなくかたい米の意。うるち) 大棗 以上六味。

或、地黄・阿膠・黄連を加え、吐血、下血、虚極する者をなおす。

地黄あるいは石膏を加え、咳血および血証後に上逆する者をなおす。

口訣 麦門冬湯は「肘後方」に言うとおり、肺い(萎える。手足の力がなくなる。しびれる)、咳唾、涎沫止まず、咽渇いて渇する者に用いるがよい。

「金き要略」に、大逆上気としか書いてなくて漫然としているが、肺い(萎える。手足の力がなくなる。しびれる)でも、頓嗽でも、労嗽でも、妊娠咳逆でも、大逆上気の意味する症状に用いれば大いに効果があるので、この四字の大逆上気は簡古であるが深い意味があるように見える。

小児の長くつづく咳には、麦門冬湯に石膏を加えて妙験あり。

さて咳血には、麦門冬湯に石膏を加えるのが先輩の経験ではあるが、肺い(萎える。手足の力がなくなる。しびれる)に変わろうとする者に、石膏を長く使用すると食欲不振となり、脈力が減ずるので、「千金要方」の麦門冬湯の類方の意味で、地黄・阿膠・黄連を加えて用いれば、具合よく効果がある。

「聖恵」五味子散の意味で、五味子・桑白皮を加えると、咳逆がひどい者に効果がある。

また、麦門冬湯は、老人が津液枯渇して食べ物が咽につまり膈症に似た症状の者に用いる。

また、麦門冬湯は、大病後、薬を飲むことを嫌い、咽に喘気ありて、竹葉石膏湯のような虚煩が無い者にも用いる。

皆、(麦門冬湯は)咽喉不利の余旨なり。


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