99/4/3 <新教育の森>学校と私 田村哲夫さん=渋谷教育学園理事長 毎日新聞ニュース速報

◇10代で耳から英語学んで◇

英語は嫌いだった。とにかく覚えないといけない。

高校時代は単語を丸暗記するため、何十、何百回と紙に書いた。授業は英文を読んで訳をつけ、文法を覚えることが、その中心だった。大学入試を突破するための「受験英語」を学んでいたと思う。

Nを「エヌ」ではなく、「エヌゥ」と発音せよと指導する恩師がいた。「エヌゥ先生」と親しまれていたが、今思うとNを「エヌゥ」とわざわざ発音させることが、英語を話すうえで、どれほど意味を持っていたのだろう。

受験勉強では全精力の半分近くを英語に費やしたが、そこで身に着いた受験英語が大学合格後に役に立ったことはない。東大生になっても外国人の話す英語が分からなかった。

英語が好きになったのは、就職後に語学学校で学び始めてから。テープレコーダーから流れる英語を耳で理解し、その通りに何回も発音する。耳で英語に親しんでいると、文法も身に着いた。学生時代は相手が話した英語を頭の中で文字に置き換え理解し、文型にあてはめ会話をしていた。

私は耳から入れないと、英語を話せるようにならないと思ったし、この考え方に多くの専門家が賛成する。だが、学校教育の英語は根本的に変わっていない。改革の最大の障壁は読み書き中心で英語を勉強しないと、大学入試を突破できないためだ。

大学入試の英語は英語を使いこなす能力より、(1)忍耐力(2)記憶力(3)論理力を試し、受験生が大学で学ぶ資質を測っているように思う。英語自体を研究対象にする大学教員が難解な問題と教科書を作り、生徒全員に押し付けている。多くの生徒は受験英語しか知らずに英語を学ぶのをやめてしまう。非常に不幸だ。

大学入試から英語を廃止するか、読み書きより聞く話す能力を問う問題に入試を改革してはどうか。「受験英語を学んだからこそ、会話力が簡単に身に着く」と言う人もいる。それは順序が逆ではないか。頭が柔軟な10代の時こそ、耳から通して英語を学び、受験英語は勉強したい者が大学でやればいい。21世紀の子供に必要なのは受験英語だろうか。入試を作る大学教員はよく考えてほしい。

渋谷教育学園理事長。1936年東京生まれ。東大法学部卒。住友銀行を退社した62年、渋谷教育学園理事に。70年から理事長。中央教育審議会、教育課程審議会、教育職員養成審議会の各委員を務めている。入試英語廃止論者

【聞き手・福沢 光一】[1999-04-03-00:13]


文部省データの小目次に戻る 教育の大目次に戻る 

最初のホームページに戻る  pf4m-atm@asahi-net.or.jp