99/03/25 <就職事情>一括採用では変化に対応できず 東芝のスペック 毎日新聞ニュース速報
「国際的に活躍する大企業でなければ自分の専攻が生かせない」。アメリカの大学と日本の大学院で日米の独占禁止法を学んだ男子学生が1998年春、文系学生を対象とするスペック(専門職)採用で東芝に入社した。
はっきりした目的意識と専門知識を持ち、商品価値を高める自己投資を怠らない。独禁法と背中合わせの大企業・東芝にとって願ってもない人材だった。
東芝がスペック採用を始めたのは同年入社組から。「キャリアを意識した学生ときちんと向き合う選考をすべきだと考えた。経営環境がめまぐるしく変わる時代に、一括採用をしてから社内教育をする従来の制度では変化に対応しきれない」(揖斐洋一・人事教育部採用担当部長)ためだ。文系50人の採用者の中にスペック採用組は5人だった。
学生の興味や専門知識を生かすため、あらかじめ入社後の配属先を決める採用に乗り出す企業もある。伊藤忠商事は事業部門別に分社化した97年度、現場のニーズに近い人材を確保する狙いで導入した。この「配属先決め」で採用するのは全体の4割強。一次、二次面接の試験官は各カンパニーの管理職が担当する。
日本生命保険、野村証券、ソニーも分野別・コース別採用を導入した。「漠然とした志望動機の文系学生はもう入社が難しい」(伊藤忠人事サービス人事事業部)。買い手市場が続き、採用開始時期も一段と前倒しされる中で、企業側に学生生活の中身を吟味する姿勢が鮮明になっている。
その一方で、情報公開や採用プロセスの透明性はコインの裏表の関係。学生就職情報センターの2000年採用予定企業調査によると、大学OBを窓口にしたリクルーター制度を「活用しない」企業は、84・9%(前年71・6%)にのぼった。完全公募制をとる野村証券は東京、大阪の2カ所に金融や同社について深く知るための「野村ライブラリー」を開館中だ。
しかし、採用方法の変化に伴い、新たなジレンマが生まれたのも事実。「幅広い経験がないと独創的なアイデアが生まれにくい」(永野貴士・野村証券採用課長)▽「人材育成の時間軸は5〜10年と長い。せっかくの人材を即戦力として生かすシステムの構築が課題」(揖斐・東芝採用担当部長)と、日本型経営との矛盾が露呈してきた。また、入社後に興味の変わる学生も少なくない。
就「社」ではなく本当の意味での就「職」へ――。その溝を埋める作業はまだ始まったばかりだ。【岡田 功】[1999-03-25-02:06]