99/03/24 <特集ワイド>新社会人狙う悪徳商法 専門家・堺次夫さんに 毎日新聞ニュース速報

あなたは、だまされない自信があります? 間もなく新社会人、新入生が新しい生活をスタートさせる。期待に胸膨らませる4月だが、待ち構えているのはコンパやサークルの勧誘だけではない。この時期、悪徳商法の業者は、18歳から24、25歳までの若者に狙いを定めているのだ。そこで、四半世紀にわたり悪徳商法を追及してきた悪徳商法被害者対策委員会会長の堺次夫さん(49)に、若者を狙う主な商法や最近の手口と、対策を聞いた。 【矢吹 修一】

◆アポイントメント商法とデート(恋人)商法

「おめでとうございます。抽選で選ばれました」などと、若い女性の声で突然電話がかかる。指定された喫茶店や営業所へ行くと、時には複数の相手に囲まれ、数時間にわたり「割安で楽しめる」「入会金は不要」と説得され、数十万から100万円以上ものレジャークラブ会員券、英会話のビデオ教材などの購入を契約させられるのが「アポイントメント商法」。もう一歩進み、異性が電話で接触してきて、デートを重ね恋人関係になったところで、振りそでや宝石などを買わされる現代版結婚詐欺が「恋人商法」だ。

《アドバイス》相手の呼び出しに応じたらアウト。「関心がありません」と電話を切るのが一番。きっぱり断わらないと何度もかけてくる。

◆資格(士)商法

職場に電話があり、行政書士などの資格取得の講座、通信教育の受講を勧誘してくる。「労働省認可なので、受講料の半分20万円分は後で補助金として出る」などのうそを使う。「補講料」名目で追加金を要求したり、別の業者が「あなたはだまされている。わが社の講座なら安心」と二重、三重にだますケースもある。

《アドバイス》「結構です」「いいです」とあいまいな断り方をすると、代金振り込みを請求してくる。「口頭でも契約は成立する」「裁判に訴える」と脅される場合もあるが、「契約した覚えはなく、今後も契約する意思はありません」と答えて提訴された人はいない。仮に「受講する」と答え、契約書が送られてきても、クーリングオフ制度で、その日から8日間以内なら無条件で解約できる。

◆マルチ商法

知人や友人、職場の先輩からの電話で勧誘が始まる。「割りのいいアルバイトがある」などと言われ出向いたホテルや公共施設の会場には、大勢の若者らが集まり、「拍手、音楽、照明、話術、唱和」を駆使した“集団催眠”的な説明会となる。会社や商品のすばらしさの話に続き、「月収が7桁になった」と「成功物語」が次々紹介される。雰囲気にのまれるうちに入会を誘われるが、条件は数万から数十万円の商品(洗剤、化粧品、健康食品、寝具、貴金属、浄水器、OA機器など)の購入で、「お金がない」と言うと、「クレジットを組めばいい」「友人らを10人を連れてくれば、後は私たちでやる」「3カ月で収入がある」と説得される。しかし、実際は勧誘が進まず、欲しくもなかった商品の代金支払いに追われる。勧誘できても、その後の人間関係が崩れて行く。

《アドバイス》被害者が知らないうちに加害者となる特に悪質な商法。あまり親しくもなかった友人や同級生などから電話があったら注意が必要。説明会場に連れて行かれ、おかしいと思ったら、シナリオ通りの説明が始まる前にき然と席を立つこと。

◆「消費者金融調査」詐欺

「消費者金融会社の甘い融資審査の実態を調べる」と求人雑誌などで調査員を募集。応募すると「返済は当社で責任を持つ」と言われ、消費者金融会社でカードを作り、引き出した現金とカードを持ってくるよう指示される。アルバイト料を受け取り安心していると、消費者金融会社から返済の催促が来てだまされたことに気づく。

《アドバイス》メジャーなメディアの募集広告でも、他と比較し条件がよければ疑ってかかる必要がある。

◆インターネットねずみ講

法律で開設も加入も禁止されている「ねずみ講」が、最近はインターネットのホームページなどを通して広がっている。5人とか7人の会員リストがあり、順位1位に数千円から1万円前後を送り、順位を繰り上げて、自分をリストの最後に加えた新たなリストを複数の友人らに送ると、将来、数百万円から最大億単位の金が届く、というのが典型的な手口だ。

《アドバイス》もし1日に1人が3人ずつ勧誘すると17日で日本の人口に達してしまう計算になる。実際すぐに破たんし、丸損になる。

★堺さんに聞いた

今の若者は「素直で人を疑わず、断れない。怒らないで、すぐあきらめてしまう」というのが特徴で、これほどだましやすい対象はない。一方、現代はプライバシーのない時代で、業者に多くの名簿が出回り、突然電話やダイレクトメールがくる。しかも、悪徳業者は実に巧みに、最初はさわやかな態度で接触してくる。お金を持って行くまでですがね。

では、悪徳商法に引っかかるとどうなるのか。クレジットなどで大きな借金を抱え、家や職場にも催促が来て仕事も手につかなくなる。友人、親類、後輩らを巻き込み人間関係を壊し、最悪の場合、追い詰められて自殺に至るケースさえある。

こうしたことを自覚することが大切だが、同時に、新社会人や新入生を受け入れる企業や学校側の対応も重要だ。特に大企業や優良企業では「だまされるような者は採用していない」と、新入社員研修での悪徳商法対策を軽く見がちだが、そんなことを言っている時代ではない。被害は知らないうちに、職場や独身寮、取引先に広がる。企業防衛の視点から対策が必要だ。それも、これから1カ月が勝負。マルチ商法などは、業者がだますのが早いか、若い社員らに危険や対策を教え込むのが先かの競争となる。

さかい・つぎお 1950年岡山県生まれ。中央大文学部卒。74年から消費者問題、特に悪徳商法の研究と追及の市民活動に入り、75年2月に市民グループ「悪徳商法被害者対策委員会」を設立、会長となる。豊田商事問題、海外先物取引など多くの悪徳商法を告発。ねずみ講禁止法など各規制法制定の原動力となる。国際短期大学講師(消費経済学)。著書に「新悪徳商法事情」「その手にのらない基礎知識」など多数。[1999-03-24-12:14]

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