崩れいく一日三食 朝の欠食・深夜の大食い・・・背景に


 1998.09.22  朝日新聞

(著作権の関係上、内容をそのまま全て掲載出来ません。 概要として纏め直して掲載しています。)
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朝昼晩、一日三食。ふだんの食事の大原則が崩壊しつつある

 朝の欠食、深夜の大食い、カロリー取り過ぎの間食……。食べたとしても、食事とは言えないような内容も。食生活の大規模な変化は子どもたちの間で特に目立ち、多忙な大人たちの夜型社会に巻き込まれているようだ。
 食の崩れは、健康の不安に直結する。「生活習慣病の予備軍を、どんどん生み出しているようなもの。どこかで歯止めをかけなければ」との指摘も出ている。

 「子どもたちの体の防衛本能が壊れてしまった」と、東京都内の小学校に勤める養護教諭は、ため息をつく。
 かつては、朝食抜きの子どもが授業中に体の不調を訴え、保健室に駆け込んでくるケースがよくあった。それが、朝食抜きが恒常化し、午前中の空腹に体が慣れてしまったらしく、最近では減っている。 とはいえ、朝食抜きの児童は、体育の授業中に倒れることがしばしばだ。
 朝ご飯を抜く背景には、大人たちの姿が色濃く反映されている。親が早く起きられず朝食が用意されていない。食べたとしても冷蔵庫のケーキやプリン、紅茶で済ます。
 塾の後、ジュース類で空腹感を満たし、寝る前にカップラーメンを食べる子どもも目立つ。翌朝は胸がむかついて何も食べられない。酒を飲んだ後、ラーメンで締めくくる大人たちそのものだ。
 「朝ご飯をちゃんと作ってもらいなさい、と子どもたちに指導できる時代ではなくなった。せめて、普通の食材を冷蔵庫に入れておいてもらいなさい、と言っている。極端かもしれないが、親はあてにできない。自分で健康を守らなくては」。前記養護教諭は、こう話す。

 食事の崩れは生活リズムにも影響をきたしている。東京都足立区中川北小学校の管理栄養士・山本登美子さんは昨年、子どもたちの生活を調べた。

 朝、排便して登校する児童は全体のわずか三割。「起きる時間が遅くトイレに入る習慣がついていない」ようだ。
 ベターホーム協会(本部・東京都渋谷区)は今年3月、東京、大阪、名古屋、札幌、仙台、福岡の全国6カ所で、中学生を持つ母親、中学教師、中学生合わせて314人に食事について尋ねた。
 ある教師は、午後7時に家族で夕食を取った以外は、一時間か二時間おきにアイスクリームを食べる生徒がいる、と回答。朝食にステーキとチャーハンを食べた生徒もいる、と指摘した教師もいた。

 食事への関心そのものが後退している家庭も目につく。学校に持たせる弁当では、「白いご飯とパックの納豆」「弁当箱にマッシュポテトを詰めただけ」という弁当を目撃した例もあった。
 幼児の世界では、朝昼晩の食事と間食の垣根があいまいになっている。東京都が実施している幼児の栄養調査では、直近の1994年の約1200人を対象にした調査では、幼児が間食で取るエネルギーの割合は22.4%に。
 適切な範囲といわれる10〜15%を大きく上回った。
 82年には23.7%、87年には21.1%と減っていたが、逆転した。
 「朝ご飯を食べない若者」も、ほぼ定着しているようだ。シリアル食品メーカーの日本ケロッグは昨年暮れ、全国の18歳以上の男女約2000人を対象に調べた。20代の男性では「毎日朝食を食べる」と答えたのが35.5%だった。92年の調査と比べると18ポイント近くもの減少となった。
 足立区立六月中の管理栄養士、上林真美子さんは「糖尿病などの生活習慣病は大人の問題ではない。食事の大切さをきちんと教え続けていかなければならないのですが……」と心配している。

●「一汁三菜」型は減少、子の和食離れも進む

 一日三食の崩壊と並行するように、食事の中身も変化している。95年から2年間、調査会社が、首都圏350世帯の夕食3206件を調査した。味の素の朝倉寛・専門部長は「一汁三菜のような伝統的和食は登場しにくくなっている」と話す。
 調査ではご飯、汁、主菜、副菜、漬物がそろっているのを「従来型1」、汁か漬物のどちらかが欠けたものを「従来型2」、中核の一品料理があり、ほかは副次的なものを「目玉メニュー型」、家族一人ひとりが好みの料理を一、二品ずつ注文したような構成を「居酒屋型」と分けた。
 従来型1と2の合計は、95年は48.2%だったのが96年には44.5%に減少。逆に目玉メニュー型は36.7%が38.2%に、居酒屋型も14.7%から16.7%に増えた。
 目玉メニュー型も居酒屋型も、例えば焼きそばにコロッケといった構成で食文化や味覚の関連は考えられていない。朝倉さんは「家族が一緒に食事を取れない家庭が増え、料理に時間と手間をかけられなくなった。従来型が減った背景には、家族の変化がある」と話す。
 中学の給食では生徒の和食離れも顕著だ。栄養士らの話では、同じサケでも、焼き魚はまるごと残る場合が目立つのにフライだと残らない。学年が下になるほど和食の時の残飯は増える。「手軽なファストフードの影響が大きい」と話す養護教諭もいる。

●なぜ三食なのか 女子栄養大大学院・香川教授に聞く

 朝昼晩一日三食の大原則は、なぜ体にいいのか。女子栄養大学大学院の香川靖雄教授(医化学)に聞いた。
 食事後、約四時間は胃や腸などの消化管から吸収された糖が血糖として体に安定して供給され、体に負担はかからない。4時間を過ぎたあたりから、肝臓に蓄えられたグリコーゲンが動員され血糖値が維持される。少し空腹を感じるころあいだ。
 食後10時間を過ぎると、脳に糖を供給するため筋肉などに蓄えられたたんぱく質を取り崩していかなければならなくなる。抵抗力や免疫力が下がり、何よりも脳の活力が落ちる。
 一日三食を崩し、一日二食で必要なエネルギーを確保しようとする場合には、一度の食事でたくさん食べてしまい血糖値が上がる。余分な糖は脂肪として蓄えられ、肥満につながる。逆に一日何度も食事を取るような場合は、消化管が休息する機会もなく、肝臓の代謝も絶えず働いている状況になる。
 朝七時過ぎに朝食をとった場合、正午前後に昼食、午後3時ごろに「おやつ」をとり、夜の八時ころに晩ご飯を食べるという生活リズムが一つの理想といわれるのは、そのためだ。

●現代人のための簡単調理法 一汁一菜朝食、あっさり夜食

 大人の労働時間が長く不規則になり、受験競争で子どもの夜の塾通いが日常化している現状に大幅な変化が起きない限り、一日三食の原則を維持するのは難しい。だが、忙しい、を連発しているだけでなく、何らかの手を打てないものだろうか。ベターホーム協会常務理事で講師の堀江雅子さんに、五分で出来る朝食と、ほどよい量の夜食を作るヒントを教えてもらった。

 【朝食】
 「一汁一菜」は守りたい。  「一汁」のみそ汁を作るのが面倒な場合は、わんに梅干しとノリを入れてお湯を注ぐだけで、吸い物の出来上がりだ。シラス干し、とろろ昆布でもいい。味に物足りなさを感じたら削り節を足そう。
 「一菜」では冷凍の緑黄色野菜を駆使する。例えば冷凍のホウレンソウをフライパンでいためてドーナツ状にし、真ん中に卵を割り落とす。
 タイマーを使って炊いた熱々のご飯を添えれば、立派な朝ご飯だ。たんぱく質やミネラル、食物繊維も取れる。果物を添えれば、さらに良い。

 【夜食】
 冷蔵庫の野菜を活用する。あっさり味で量も少なめに抑えておくと、翌朝もしっかりと食べることができる。
 例えば「スープかけご飯」。ニラ、ニンジン、シイタケ、鶏のささみ肉を刻んでスープに加え、煮る。これを、軽く盛ったご飯にかけて、ゴマを散らして食べる。  ご飯の代わりにめん類でもおいしい。
 保護者が忙し過ぎる場合、子どもたちは、体調を崩さない「自衛策」として、自分で作るのも良いだろう。



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