シンポジウム 「腸内細菌と健康」/東京テクノ・フォーラム21

 1995.10.09 東京読売 朝刊

 
(著作権の関係上、内容をそのまま全て掲載出来ません。 概要として纏め直して掲載しています。)
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 「東京テクノ・フォーラム21」(代表・水上健也読売新聞社代表取締役副社長)のシンポジウム「腸内細菌と健康」が、健康づくりの視点から腸内細菌の役割を見直す狙いで、先月28日、東京・内幸町の日本プレスセンターで開かれた。

 冒頭、渡辺格・慶応大学名誉教授が「人間に役立つ細菌の研究は日本が世界をリードしている。今後の研究成果次第で健康観が一変する?・・。」と挨拶。

 続いて光岡知足/東大名誉教授、金沢暁太郎/自治医大教授、辨野義己/理化学研究所室長による講演と、渡辺氏の司会で質疑応答が行われ、参加者約400人は、体内で織りなす腸内フローラ(菌叢・きんそう)の話しに耳を傾けた。
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<出席者>  

光岡 知足 (みつおか・ともたり)  (東大名誉教授)
    53年東大農学部獣医学科卒。70年理化学研究所主任研究員、82年東大農学部教授を兼任。90年から日本獣医畜産大学教授。専門は微生物生態学。

金沢暁太郎(かなざわ・きょうたろう)(自治医大教授)
    58年東大医学部卒。東京都養育院付属病院腹部外科医長、筑波大助教授を経て82年から現職。専門は消化器がん、腸内細菌と発がんほか。

辨野 義己(べんの・よしみ)    (理化学研究所室長)
    72年酪農学園大学酪農学部獣医学科卒。同年、理化学研究所研究員。91年から同研究所培養生物部分類室長。専門は微生物分類学。

渡辺  格  (わたなべ・いたる)   (司会・慶応大名誉教授)
    40年東京帝大理学部化学科卒。東大、京大、慶応大、北里大の教授を歴任。専門は分子生物学。「物質文明から生命文明へ」など著書多数。




善玉・悪玉菌のバランスが老化とも密接な関係に<光岡>

 ある時期まで腸内細菌の領域は、あまり研究されてきませんでしたが、最近はどんな細菌が住み付き、健康保持にはどのような細菌群のバランスが良いのか、判ってきました。

 腸の中には約百種類、百兆個の細菌が生息し、三種類に大別出来ます。酸素がなければ生きられない「好気性菌群」、逆に酸素が有害な「嫌気性菌群」、最近知られるようになったビフィズス菌などの「乳酸菌群」です。

 ものが腐るのは細菌が原因ですが、赤ちゃんの便は臭くありません。赤ちゃんには臭くならない細菌がおり、そのバランスも私たちと異なるのです。

 無菌で生まれた赤ちゃんは、その後大腸菌などに続いて、乳児特有のビフィズス菌が出てきます。この菌が腸内で乳酸と酢酸を作って強い酸性にし、大腸菌など腐敗を起こす菌類を住めなくしています。

 赤ちゃんの腸内は、ビフィズス菌が95〜99%も占めています。それが離乳期になると、大人型ビフィズス菌に入れ替わり、大腸菌も増えて便が臭くなってくるのです。

 細菌の大半は、毒素を出して病気や老化に関係する悪玉菌ですが、ビフィズス菌に代表される善玉菌が15%位ないと、健康が維持できません。ビフィズス菌の働きはいろいろありますが、まず体外から侵入する病原菌の感染を防御し、腸内環境を整えて大腸がんや乳がんを予防するとみられています。抗生物質で病気の治療をしますと、腸内細菌のバランスが崩れますが、その副作用をビフィズス菌が軽くします。

 もっと重要なのは、免疫を刺激して高める作用です。コレステロールを抑えるのにも役立っています。

 ところが老年期になると、ビフィズス菌が減って大腸菌やウェルシュ菌といった悪玉菌が増えてきます。これを私は「腸内細菌の老化現象」と呼んでいます。おなかが張ったり、便のにおいが強まり、老化やがんを促しかねません。

 ネズミの実験で一番長命なのは無菌状態ですが、悪玉菌がいてビフィズス菌のいないネズミが最も短命です。ビフィズス菌に解毒作用があると思われています。

 成人病の多くは食物繊維不足と関係し、これを多くとると善玉菌が増えます。日本で開発され、特定保健食品に指定されているオリゴ糖のほか、ヨーグルトも効果があります。私たちは無菌社会に生きることができません。長生きするには、善玉菌優勢、悪玉菌劣勢を保つことです




大腸がんの進行は、腸内の環境因子がカギ<金沢>

 大腸がんには遺伝するものが10%近くあるといわれていますが、残りの90%以上は原因が判っていません。日本人には大腸がんは少なく、胃がんが多いとされてきました。最近は胃がんの死亡率が頭打ちになり、代わりに大腸がんの率が増えています

 ハワイの日系人の場合、一世では白人より大腸がんの発生率が低いのに、二世、三世になると白人と変わらなく高くなります。これは食物が原因といわれています

 日本国内の5600人の高齢者の症例では、70歳以上になると半数以上の大腸にポリープ(腺腫)ができていました。発生頻度は大腸がんの死亡率が高い米国人と同じで、小さながんの発生頻度も同じでしたが、日本人の方が死亡率は低く手術後の成績も非常に良いことも判りました。再発も米国人に比べ少ないのです。その理由は、ポリープ等ができた場合、その発育を促進させる物質が日本では少ないという印象を持っています。

 がんの原因はいろいろありますが、食物と腸内細菌、この二つから出来る物質などの環境因子に支配されると思っています。大腸がんが大きくなるには便の存在が必要であることは臨床的に知られており、ネズミの実験でも確かめられました。

 コレステロールは腸内に入ると、細菌の作用で代謝され、その代謝物質の中にがんを作る物質が見つかっています。肉や魚などのタンパク質からはアミンなどが形成され、野菜の中に含まれる硝酸塩(井戸水にも硝酸塩は含まれています)らが体内で物理化学的あるいは細菌に依って 発がん性物質に変化するわけです。

 しかし、タンパクの加熱で発生する病原物質をはじめとする有害物質の作用を弱める菌もいます。また、ネズミを使った実験では乳酸菌やビフィズス菌にはがんを殺す作用が有るらしいという所まで判りました。今後は、体内細菌が大腸がんを防ぐことができるかの研究を進めることが重要な課題です




アンモニアをアミノ酸に 嫌気性菌の驚異の機能が<辨野>

 パプアニューギニアの2〜3000m級の山々が連なる高地に住む人たちの便を調べると、非常に低タンパクである事が判りました。

 食事は大人はイモ類を一日平均1.2kg食べています。日本人がこれだけ食べると、腸内にガスがたまって大変ですが、彼らは何ともない。こうした炭水化物の多い食事だと、普通は窒素のバランスが崩れて健康を損なうものですが、彼らは筋骨隆々で、高地をかっ歩しています。

 そこで、彼らの腸内を調べると、確かにブタやウシの腸内にいるのと同じ嫌気性のらせん状細菌や乳酸菌など窒素バランスを保つために、空気中の窒素を固定する腸内細菌が数多く住んでいました。これらは、アンモニアの中の窒素をアミノ酸として取り込む機能を持っています

 アンモニアは本来は毒性物質で、尿となって排出されるものですが、ブタの腸内にもアンモニアを効率的に利用する細菌が多く有り、低タンパクの状態で尿素を投与しますと、尿素が分解してできるアンモニアを利用してアミノ酸を合成します。

 こうしたことから、アンモニアを利用できる細菌がいれば、低タンパクでもしっかり生きられる可能性が高いことがわかります。

 次に、腸内細菌と発がん物質とのかかわりですが、ビフィズス菌は発がん関連酵素を減らすことが明らかになっています。また、腸内細菌には発がん物質や発がん促進物質を作る細菌がいるといわれていますが、無菌動物などを使った実験では、ビフィズス菌や乳酸菌は発がんを抑制することもわかってきました。
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