「危険因子 急増の裏に高脂肪・飲酒
大腸がん:1(あすへのカルテ)」・・・
1995.07.02 朝日新聞 朝刊
(著作権の関係上、内容をそのまま全て掲載出来ません。 概要として纏め直して掲載しています。)
●30年前はがんというと胃がんでしたが、最近は大腸がんがよく見つかるようになりました。
4人に1人以上と、日本人の死因のトップを占めるがんの中で、大腸がんの増え方が著しい。
厚生省の人口動態統計によると、1992年の死亡数は27,287人(男性14,877人、女性12,410人)。がんの死亡数の11.8%を占めた。
戦後間もない50年には3,728人(男性1,819人、女性1,909人)で、5.8%だったのと比べ、死亡数は実に7.3倍になった。
人口や年齢構成の違いを差し引いても、増加ぶりが目立つ。大腸がんの内でも、結腸がんが突出している。
男性は92年に13.7人と50年の5倍近くに、女性も9.7人で約3倍になっている。
年齢的には男女とも40歳ごろから増え始め、60歳ごろを境に急増している。
「脂肪を多く含んだ食事をとるようになったのが大きな原因の一つでしょう」と、
大腸がんの発生などに詳しい秋田大医療技術短期大学部の成澤富雄教授(消化器外科)
は話す。
ラットを使った実験で、えさに全量の20%の脂肪を加えたグループと、5%のグ
ループで大腸がんの発生の度合いを比べると、脂肪をたくさん与えた方に2倍近い大
腸がんが出来た。
確かに現在の食事には脂肪が多い傾向が有る。厚生省の国民栄養調査によると、92年の脂質の摂
取は、75年を100とした指数で105.8と増加。その内容も55年は牛脂やバ
ターなどが半分ほどだったのに、92年は7割以上を占めるようになった。
●なぜ脂肪を多くとると大腸がんが増えるのだろうか?。
成澤さんは、脂肪の分解を助けたり、小腸で脂肪の吸収を促進させたりする胆汁酸を原因に挙げる。
脂肪を多くとると肝臓から出る胆汁酸が増える。多くは小腸で吸収されるものの、
一部は大腸に達する。
腸内細菌の働きなどで胆汁酸の構造が部分的に変わり、悪さをすると
いう。脂肪が消化、吸収されないまま大腸に運ばれ、ある種の脂肪酸になって悪影響
を与えることもある様だ。
ハワイに住む日系人には、日本に住む日本人より大腸がんが多いという報告もあり、
食事と大腸がんとの深い関係を裏づけている。
「飲酒も発生率を高める」と、予防がん学研究所(東京)の平山雄所長はアルコー
ルを一因に挙げる。
左党は大腸がんの一つであるS状結腸がんになりやすいという。
宮城、大阪、鹿児島など6府県で65年から17年間、40歳以上の計265,118人を追跡調査した。
S状結腸がんになりやすい危険度は、酒を飲まない人に
比べ、毎日飲む人は5.4倍も、時々飲む人でも3.8倍それぞれ高くなっていた。
肉類をはじめとする高脂肪食、飲酒、運動不足……。まれに遺伝的な要因もあるも
のの、大腸がんは、多くの日本人の暮らしぶりの中の問題点とぴったり符合している。
●大腸 長さは1.5〜1.7mぐらい。盲腸、結腸、直腸に大別され、結
腸は右下腹部の盲腸から上り(上行結腸)、左へ(横行結腸)、左下腹部を下がる
(下行結腸)。
直腸につながる部分をS状結腸という。結腸と直腸ではがんの危険因
子が異なる。
直腸がんではみそ汁や漬物などが高危険因子で、胃がんと似ているとい
う研究もある。
年齢調整死亡率(15人当たり)の伸びは直腸の方が結腸より低い。直腸と肛門
について、女性では1975年の5.7人が92年は4.6人と減った。