若尾文子 出演作品集
「積木の箱」 1968年 日
監督/増村保造 評価/★★★★ カテゴリー/ 家族
出演/若尾文子、緒形拳、松尾嘉代、梓英子、南美川洋子、内田喜郎
受賞/
東京国際映画祭協賛企画「増村保造レトロスペクティブ」によるリバイバル上映での鑑賞。

三浦綾子原作小説の映画化。
北海道の企業王一家の華麗な外面に覆い隠された内面の崩壊を思春期の長男・一郎の目を通して描く。

裕福な家庭で何不自由なく育ってきた一郎であったが、思春期に差しかかり、大好きな「姉」(松尾)が実は父の妾であることを知ったのをきっかけに、自らの心と身体の乖離に悩み、教師や父親などの大人に嫌悪感と反発を覚え、ついには取り返しのつかない行動へと駆りたてられてゆく。

若尾は、一郎の父である企業王の許で秘書をしていた頃に彼に犯され、その結果生まれた子を女手ひとつで育て上げてきた女性を演じる。
デビュー作「セックスチェック第二の性」で増村監督に気に入られての出演となった緒形拳は、一郎の教師で若尾演じる女性に惚れる熱血漢を好演。
本作で最も輝いているのは一郎の父の妾を演じる松尾嘉代。持て余し気味の色香を四六時中発散させ、一家崩壊の導火線となる魔性の女を存在感たっぷりに演じる。ストレートな美しさだ。

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「偽大学生」 1960年 日
監督/増村保造 評価/★★★ カテゴリー/ 人生
出演/ジェリー藤尾、若尾文子、船越英二、藤巻潤、伊丹十三
受賞/
東京国際映画祭協賛企画「増村保造レトロスペクティブ」によるリバイバル上映での鑑賞。大江健三郎原作。

四浪の末東大に四度落ちた青年は追い詰められ、偽大学生としてキャンパスライフにもぐり込む。しかし、ジャズ喫茶で逮捕された学生運動のリーダーから組織への伝言を請け負った事から、彼も左翼活動に巻き込まれ、それを学生生活の本分と取り違えた彼は、運動の先陣を切るまでに積極的に活動にのめり込んで行く。しかし、じきに彼が偽学生であることは発覚し、一転スパイとしてリンチ・監禁を受けた彼は、遂に精神を病み、それが逆に運動側を不安に陥れる。
若尾文子は、組織側でリンチにも参加するものの、微塵の清廉性もなく利己的な運動や運動員の現実と欺瞞を嫌気して不毛の問題提起に及ぶ、戦前の筋金入り活動家の娘を演じる。

紳士的な体制側と、非民主的で野蛮な左翼活動家。大衆や受動的な学生たちの共通認識を覆す皮肉に満ちた視点を、増村の執拗で冷徹な映像が見事に表現する。精神に異常を来した偽大学生が精神病院で「安保反対」を患者たちと唱和するラストなどは、反体制活動を道化の所産と言わんばかり、嘲(あざけ)るが如く、観客に強烈な印象を焼き付ける。

ただ、監督の演出や原作の魅力に対し、若手中心の男優陣の演技力が追い付いていない感が否めない。配役のバランスが悪いのと、彼らに学問の徒としての知性や才気の片鱗も感じないのだ。それが演出意図なのかどうかはわからないが、何れにせよ、藤巻や伊丹の映じる人間の人物像が他の人物よりも格段に弱く、その弱さの主因が俳優本人の表現力にあるように感じられる。

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「日本橋」 1956年 日
監督/市川崑 評価/★★★★ カテゴリー/ 
出演/淡島千景、山本富士子、若尾文子、品川隆二、船越英二、沢村貞子、浦辺粂子
受賞/
東京・日本橋に生きる対照的な二人の芸者を中心に、華麗な花街に生きづく女たちの強さと弱さ、彼女たちを取り巻く男たちのそれぞれの人生を生き生きと描き出す秀作。
七五調を多用した切り口上な台詞回しや、随所に見られる決めポーズなどは、舞台演劇の香りを色濃く出していて、なかなか小粋な感じにし上がっている。
市川監督に対して、後に監督として手腕を発揮する増村保造が助監督を務める。

勝ち気な芸者を淡島千景が切れ味良く、また、優しさが故、操の律儀さが故に苦労を背負い込む芸者を山本富士子がしとやかに演じ、ここに淡島演じる芸者のおかかえとしてまだあどけない若尾が加わり、あでやかな夢の共演が実現している豪華作でもある。

女郎と呼ばれながらも叶わぬ恋に身を焦がす彼女たちの姿がいじらしい。

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「濡れた二人」 1968年 日
監督/増村保造 評価/★★★ カテゴリー/ 恋愛
出演/若尾文子、北大路欣也、高橋悦史、渚まゆみ、平泉征、町田博子、小山内淳
受賞/
東京国際映画祭協賛企画「増村保造レトロスペクティブ」によるリバイバル上映での鑑賞。

仕事に忙殺されて自分を顧みてくれない夫(高橋)に業を煮やした妻(若尾)は、例によって夫にドタキャンされたバカンスを一人で強行、実家の元家政婦の住む港町を訪れる。合流の期日をさらに日延べにする夫に失望した彼女は、地元の逞しい漁師の青年・繁雄(北大路)とのアバンチュールに炎を燃やす。噂が町に広まり始めた頃、夫が到着。しかし、既に心が決まっていた彼女は夫に別れを告げる。

若尾の相手役として北大路はいかにも色気不足。対して、繁雄の言い名づけの少女を演じる渚まゆみが、粗野ながらどっしりと地に足のついた漁村の娘を実に生き生きと演じていて、若尾の敵役として十分に渡り合っている。

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「華岡青洲の妻」 1967年 日
監督/増村保造 評価/★★★ カテゴリー/ 伝記
出演/市川雷蔵、若尾文子、高峰秀子、伊藤雄之助、渡辺美佐子、内藤武敏、丹阿弥谷津子
受賞/
世界で最初に、自作の麻酔薬を用いての全身麻酔による乳癌除去手術を実施した医師華岡青洲の医道に賭ける執念と、彼の偉業を命を賭けて支えた妻との15年に及ぶ軌跡を描く。原作は有吉佐和子。
破天荒な青洲の父(伊藤)に不似合いなほど貞淑で賢明なその妻(高峰)。幼少の頃より彼女に憧れつづけた少女加恵(若尾)は、彼女から息子の嫁に請われたとき、両親の反対にもかかわらず激しく輿入れを欲し、華岡家へと嫁ぐ。嫁となった彼女は、姑の欺瞞に気付き愕然とするが、それに大きく勝る夫の深い愛と信頼を受け、姑と競い合うように夫に仕える。その愛に夫が示した答えは、母親を退けて彼女を危険な麻酔薬の実験台とすることであった。もうこうなってくると、倒錯愛の世界ではある。度重なる実験で加恵はついに視力を失うが、彼女はそれを誇ることもなく、静かに夫を愛しつづける。夫も、深い信頼に裏付けられたその献身に答え、彼女に憐憫の情や罪の意識を感じることはなく、まるで自らの体を傷つけたがごとく、彼女と共に自らの医道の成功の喜びをともに分かち合う・・・。

実話に基づくストーリーであり、主役、脇役を含め、ベテランの演者たちの好演に非の打ち所はない。
しかし、原作に忠実でありすぎたためか、少女の憧れ、夫婦の愛、嫁姑の確執、青洲の険しい医道と、物語の脈が分散してしまい、映画としては焦点がボケてしまっている。ドラマというよりも、伝記モノとして鑑賞すべき作品である。


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「花くらべ狸道中」 1961年 日
監督/田中徳三 評価/★★ カテゴリー/ ロード
出演/勝新太郎、市川雷蔵、若尾文子、五月みどり
受賞/
狸界の大王の座を巡って勃発した勢力争い。腕ずくで王位を我がモノにしようとする「文福」一味に対し、人望厚い「阿波狸」の大将一派は劣勢。この情勢を打破するため狸界総本山の狸御殿へ談判に向かう特使として名乗りをあげた自称「野次喜多」二人の若狸が繰り広げる東海道珍道中を、田舎芝居風の安舞台を演出して描く娯楽大作。「平成ポンポコ」の原点である。
若尾文子は、この若狸の一人と恋仲にある可憐な女狸<たより>を演じて、むちゃくちゃかわいい。

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「薔薇はいくたびか」 1955年 日
監督/衣笠貞之助 評価/★★★★★ カテゴリー/ 恋愛
出演/若尾文子、根上淳、京マチ子、南田洋子、市川雷蔵、船越英二、勝新太郎
受賞/
妹が芸大受験で知り合った美しい少女。でも彼女らは合格の日まで互いに名も素性も聞かず、受験番号で呼び合うことを約していた。妹の送迎の折に彼女を見知った兄真一郎は、その日から彼女が忘れ得ぬ人となる。しかし運命の皮肉か、彼女は不合格。二度と会えなくなったという想いが、真一郎をさらに思いつめさせて行く。その心は少女も同じであった。しかし、時の流れは容赦なく二人をそれぞれに追い詰めて行く。そして少女は事業に失敗した実家の事情に遂に抗しがたく、心を閉ざして嫁入りすることを決意する。しかし、「足入れ」という挙式前の輿入れをした翌日、真一が出した探し人の広告を目にする。「117番へ 至急連絡されたし 119番兄」。このことが嫁ぎ先に見咎められて結局実家へ返された彼女は、父が死に、家も人手に渡って失意の中東京へ。そして幸運の女神は再び微笑んで二人は再会するのだが、一途に彼女への愛を貫いたと語る真一郎の前に、彼女は身を恥じ入り、真実を告白して彼の許を去る。ややあって、ようやく真一郎の心の整理がついたころ、彼女のピアノ教師が訪れ、彼女の苦しみと「心の純潔」の大切さを語る。そして彼女が東京を去るその日、二人は真の愛の旅立ちとなる再会を果たす。

封建的な慣習と、女性の自立や自由恋愛といった現代的な考え方が交錯する世相を見事に象徴して描き出された壮大な愛のドラマ。観る者は誰しも二人の幸運を祈らずにいられないのだが、何せ一年という時の流れをそのままに感じさせるような遅々とした展開にただただやきもきさせられる。ある程度周囲の声をはね付けることのできる男に対して、家の事情の前に抗する術を持たない女性の悲しさが漂う。そうした運命に翻弄されながらも、前向きに、心に正直に生きようとする健気な少女を若尾が可憐に好演。

「時」がテーマとあって、主人公真一郎の家業が時計製造会社というのは一興。


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「氾濫」 1959年 日
監督/増村保造 評価/★★★★ カテゴリー/ 人生
出演/佐分利信、若尾文子、左幸子、川崎敬三、叶順子、船越英二、沢村貞子
受賞/
東京国際映画祭協賛企画「増村保造レトロスペクティブ」によるリバイバル上映での鑑賞。
原作は伊藤整の長編小説。
主人公は町工場上がりの小化学会社の研究員。地道な研究の成果が画期的な<金属接着剤>として開花し、一躍時の人となるとともに、自身の重役への昇進、様々な「名誉」と銘打った金の無心話、家族の交際の俄ハイソ化と、彼の身辺は急激に騒がしくなる。ある日、家族疎開中の戦争下、彼が密かに仮初めの所帯を持った女(左)から連絡が入る。一方、愛娘(若尾)には、若き日の彼を彷彿とさせるハングリーな化学研究者(川崎)が接近してくる。
しかし、彼が身に合わぬ管理職を辞して一研究者へと戻る決意を固めた瞬間、周囲の状況は一変。彼が信じた友情や愛が、金や野心の前では如何に脆いものであるかを思い知らされることになる。

見事な適材適所の配役で、それぞれがそれぞれの役柄を、まるでその人自身であるかのように伸び伸び、生き生きと演じ上げている。そして、恥や情といった「人間的」なものを捨て、金や野望を選び取ることに何のためらいも無い人心の空虚を表現することに、「情緒」を徹底的に排除した増村の演出はこの上ない効果を上げる。
歪んだ栄光の謳歌を表現した徒に展望感溢れるラストシーンの矛盾が、映像の晴れやかさとは裏腹に激しい嫌悪感と葛藤、戸惑いの感覚を観る者に残す。


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「美貌に罪あり」 1959年 日
監督/増村保造 評価/★★★★ カテゴリー/ 人生
出演/若尾文子、山本富士子、野添ひとみ、川口浩、川崎敬三、杉村春子、勝新太郎、藤巻潤
受賞/
東京国際映画祭協賛企画「増村保造レトロスペクティブ」によるリバイバル上映での鑑賞。川口松太郎原作。

戦後の農地改革で傾いた旧地主家に生まれた三姉妹が、「家」に縛られることなく、それぞれに自分の力で人生を切り開いて行く様を生き生きと描き上げた秀作。農地改革と経済成長が招いた、地主と小作の資産逆転や開発・建設ブームという社会背景も巧みに描き込まれていて、あらゆる意味で時代を象徴し、予見さえする多面的な価値を持った作品でもある。

長女(山本)は、日本舞踊の師匠(勝)と周囲の反対を押し切っての結婚。タニマチの怒りを買って冷や飯を余儀なくされるが、夫を励まし、ゼロからの再スタートに献身する。次女(若尾)は、密かに受験したスチュワーデス(「スチアーデス」と表記されていて、時代を感じさせられる)に合格し、花卉栽培で細々と生計を立てる実家を飛び出し、華やかな世界にデビューする夢を叶えるが、その憧れの世界の影を知り、潔く幼馴染みと婚約を決める。三女(野添)は不幸にして聾唖者。思いを寄せる旧小作人の息子は長女に首っ丈。それでも粘って、いよいよ別れるその日に、手帳に書きなぐったメッセージを見せてのプロポーズ。これがまた、気持ちいいほどに通じてしまう。受け身に甘んじて来た女性がひとたび攻勢に転じるや、意外に門戸は大きく開かれていた。いざ乙女よ、自ら門を叩かん!そんなメッセージが声高に胸に響いてくる。

ラスト、三姉妹三者三様に大写しされる、自らの意思と力で勝ち取った今の幸福を噛み締め、未来に向かって一点を見据える姿が実に印象的。製作後40年経過した現在に於いても、「家」の概念こそ希薄になったものの、女性の精神の自立がこの作品ほどに確立されているとは言い難い。そうしたことからも、本作の先見性に目を見張り、公開当時の衝撃はいかばかりかと思いを馳せずにはいられない。


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「氷点」 1966年 日
監督/山本薩夫 評価/★★★★ カテゴリー/ 家族
出演/若尾文子、安田道代、山本圭、津川雅彦、森光子、船越英二、成田三樹夫、明星雅子、仲村隆、鈴木瑞穂
受賞/
三浦綾子の名作の映画化。
エリート医師一家の娘がタコ(タコ部屋労働者)に誘拐・殺害された。夫はその遠因に妻(若尾)の不貞があると勘ぐり、持ち前の似非博愛主義の発現と妻への復讐を兼ねて、犯人の娘を妻に内緒で養女に迎える。娘洋子は出生の秘密も知らず素直で優しい娘に育つが、あるとき秘密を知った妻は彼女につらく当たり始め、程なく長男(山本)も秘密を知り、家族の心の溝は決定的となる。そして洋子に惚れた青年(津川)が現れたとき、妻は自分が思いを寄せる男を娘から遠ざけるべく、娘の出生の秘密を本人の前で暴露する。洋子は自殺を図り、生死をさ迷う枕許に、青年は洋子の意外な事実を持って駆け付ける。それは嬉しい知らせであり、洋子も一命を取りとめるが、妻はもはや家族の絆と洋子の笑顔が蘇ることはないことを知っていた・・・。
エリート家庭の壮絶な心の砂漠である。女であることと母であることの間で揺れる30代の美しき人妻を若尾が妖艶に演じる。教授の娘であるというプライド、自らの美貌を知り尽くし夫の同僚に情欲を発散させる女の火照り、息子の友人を娘と対等に張り合う童女のような一面、そして娘と心中を図ろうとするか弱い妻であり母である姿。こうした主人公の多面性を、大きな演技と細かい演技を駆使して若尾はこともなげに演じ分ける。今更ながら、彼女が偉大な女優だったことに気付かされる。今もって美貌衰えぬ彼女の、もういちどの銀幕への復帰を願わずには居られない。

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