'99年4月


「狗神」板東眞砂子
角川文庫

 映画より、原作の「死国」にひかれるモノがあったので「狗神」はちょっと楽しみだった。
 善光寺での戒壇巡りのシーン、出だしからゾクゾクさせる上手さを感じる。田舎の閉鎖的な雰囲気と人間関係の描写の上手さは「死国」と同じ。ただ、ラストも「死国」と同じで、ちょっとスペクタクルにしすぎている感じはする。

映画「狗神」感想


「錯覚のはなし」
- How to Really Fool Yourself / Illusion for all your sensed-
by Vicki Cobb,illustrated by Leslie Morrill
ヴィッキー・コブ著 レスリー・モリル絵 東京図書

 刊行は1989年だけど、新装して1998年復刊したらしい。原書は1981年刊行。
 著者のヴィッキー・コブは、教育テレビシリーズの「科学ゲーム」の製作者。

 内容的には、錯覚の羅列であって、まあ、それほど深い内容ではない。しかし、その内応の多様さで楽しませてくれるヘルマンの格子、ベンハムの独楽、アメスの窓などお馴染のものから、擬音効果、蜃気楼などの自然現象、リッツ・クラッカーを使ったアップルパイを真似た料理なんてのまである。


「クリムゾンの迷宮」
貴志祐介 角川ホラー文庫

 貴志祐介は「黒い家」が面白かっただけに、単純に無視出来ない気がする…。これは角川ホラー文庫向けの書き下ろし。
 記憶が曖昧なまま、深紅色の岩石の世界で目覚める。目的も判らないままにサバイバル・ゲームが始まる。展開は思った通りで、意外性はなかったけど、まあ読ませる力はある。文章はちょっと稚拙だけど。

 取材した情報を入れる努力をしているのは判るんだけど、どうも知識が物語から浮き上がって見える。例えば映画監督やサバイバルや宝石商や、常に新たな知識を入れ込んでくるディック・フランシスでも、知識というものを非常にうまくストーリに組み込んでいき、そこに必然性がある。


「リンク」
ウォルト・ベッカー 徳間書店
- LINK - Walt Becker

 中央アフリカのマリ、ドゴン族の遺跡から異星人だと思われる奇妙な化石骨と未知の合金が発掘された。そこから始まる異端の古人類学者のジャックの謎解きの冒険。しかし、超古代文明マニアが好きそうなネタばかりで、胡散臭い。「神々の指紋」のグラハム・ハンコックなんかが正統な科学者として出てくるし。
 ネタも展開も、どっかで見た様なものばかり。さらに安っぽいラブ・ロマンスと安直なアクション入れていて辟易する。
 例えば、同じ様な始まりでもJ.P.ホーガンが書けば「星を継ぐもの」の様な緻密で壮大な物語が展開出来る。
 
 南米ボリビアの地下遺跡、チチカカ湖のプレインカ文明の遺跡ティアワナコ。設定的には面白いんだけど、もうちょっと納得出来るネタとストーリ展開があればよかったのに。


「中央線の呪い」
三善里沙子 扶桑社文庫

 1994年7月に二玄社から同名で刊行されたものの文庫本化。題名からは、中央線に頻発する飛び込み自殺を扱っている様に思えてしまうけど、まったく別。中央線住民(端の方だけど)として、興味を持って読み始める。
『「沿線民族学」というジャンルを確立したとされる』を著者の紹介をしているけど、 内容は泉麻人的な都市民俗学。
 貧乏文士、ヒッピー、なんて古いトコから市民運動、無農薬野菜なんてトコ、さらにラーメン、飲み屋のこだわり文化などなど。さらに東横線を電通文化圏と一まとめにして中央線文化と対比させ、その<中>華思想を暴いていく…。
 面白いんだけど、まあ、こんなネタ一本でよく本を一冊書き上げたなあという、その腕が素晴らしい。


「ベストセラー小説の書き方」☆
ディーン・R・クーンツ 朝日文庫

 文句無く面白い。
 ありきたりの文章技法の本では無い。まずはマーケティングから入る所が斬新。SFや推理小説やホラーもの、つまりジャンル小説では無く、とにかく一般大衆小説をめざせと繰り返している。クーンツ自身がホラー専門と思っているから不思議な感じするが、本文を読むと意味が判ってくる。クーンツのホラー作品自体、ジャンル小説では無く、一般大衆を対象に書かれているし、売られているという事であろう。この辺は、米国との事情の違いが微妙にあるだろうから理解が難しいが。
 マーケティングの事を読むと、それは読者に媚びる事を教えている様に思えるが、実際には作家が陥りがちな罠を避け、自分にレッテルを貼る危険性を教えているのである。
 その後のストーリの組み上げ方、キャラクタの作り方、背景描写、文体すべて、一般手大衆に読まれるという基本をベースにしている。だから、技術論としてもより細かく実践的。
 しかし、この本を読むと作家という商売は割に合わないと誰しも思うだろう(^^;)。

 巻末の読書ガイド「読んで読んで読みまくれ」のリストだけでもこの本は価値が十分にある。ちょっと古いので90年代末ならこれに何人もの作家が加わるだろうけど。
 中に挙がっている書名で、翻訳されている書名で正しくないものがある。例えば、ハインラインの「獣の数字」など「ザ・ナンバー・オブ・ザ・ビースト」となっているし(P272)。

 原書は1981年、日本での単行本化は1983年の刊行。


「東京暮らしの逆襲」
まついなつき 角川文庫

 まついなつきは、昔の面白い頃の「宝島」に連載しているのは読んでいたけど、単行本では初めて。「宝島」ではトホホな話ばかり書いていた。なぜ印象に残っているかというと同じ年齢だから(^^;)。

 1995年に角川書店から同名で刊行されたものの文庫本化。ちょうど引っ越しシーズンを狙って文庫で出した感じもするんだけど、結構面白い。
 あちらこちらの雑誌に書いたもので、暮らしやモノに関するものをまとめたらしいけど、単行本としてなかなか上手くまとまっている。そもそも、まついなつきが人様にお役に立てるような文章を書いている事自体が感慨深いものがある(^^)。


「大河の一滴」
五木寛之 幻冬社文庫

 去年のベストセラーが早くも文庫本化したので読んでみる。
 簡単に言えば「生」というものを五木寛之的な優しい切り口でエッセイにしているという所か。何か、同時代的な感覚もあってか遠藤周作の「深い河」を連想させた。 しかし、これがベストセラーになるというのも不思議な感じがする。それだけ日本は疲れているという事か。


「アッと驚く!数学が面白くなる本」
中村義作 三笠書房 知的生き方文庫

 数学に関する雑学モノ。暇潰しに買ったけど、ちょっと内容的には平凡かな。
 卵の形が転がり落ちない形になっているだとか、お寺の屋根がサイクロイド曲線だとかはちょっと面白かったけど。


「映画監督術」-Shot bye Shot-
スティーブン・D・キャッツ フィルムアート社

 純粋に映画撮影の技術論の本。多分、一生使うことの無い技術だろうけど、ちょっと立読みした感じでも映画を理解する上でも多くの知識が詰まっているようで読み始める。
 難しく言えばカメラ前の三次元空間をスクリーン上に投影される二次元映像に表現するための劇場用映画のショットフローについての技術。プロセス的にはプロダクションデザイン(コンセプト・スケッチ)、ストーリーボード、会話シーケンスの演出、移動のショットなどなど。
 観ていると何げない技術なんだけど、体系的に読むとなかなか深いもんだと実感。


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