'98年1月


「氷舞 新宿鮫VI」
大沢有昌 カッパ・ノベルス

 新宿鮫の第4作目。新宿のホテルでの殺しが、CIAの工作員だという事から昔の事件へと遡っていく。裏にいる公安上層部、政治家などの絡みや、警視庁と公安との軋轢など、関係は複雑だけど、話は一気に展開し、テンポもよく迫力があって面白かった。

 昌がメジャー・デビューして疎遠になり、謎のパフォーマのマホの登場など、人間関係でも多少色っぽい所もあるのだけど、まあ、その辺の書き込みは上手く無い。それを抜かした部分は満足。


「さるのこしかけ」
さくらももこ 集英社

 ここの所読んだ、さくらももこの中では一番だったし、笑えるというのなら最近のエッセイの中ではダントツだった。余りに笑えるので通勤中には読めなかった(^^;)。

 旅行関係もよかったけど、インド旅行に出てきた案内人、真面目なキャラの大麻豊がいい。名前が凄すぎ(^^;)。


「もものかんづめ」
さくらももこ 集英社

 面白かった。
 しかし、「メルヘン翁」に出てくるクールな視点が怖い。「コントロール・ドラマ」の中で、さくらももこの事をアダルトチルドレンだと評した信田さよ子はこのエッセイを読んで書いたのだと思う。


「合衆国崩壊」1- Executive Orders - Tom Clancy
トム・クランシー 新潮文庫

 さすがに文庫本で2300ページ近い量というのを読むの大変。もっと短くてもいいとは思うのだけど、トム・クランシーらしいオタクな書き込み方が面白いので、一気に読んでしまう。

 ついに大統領になったジャク・ライアンが政治の再編成、誘拐、暗殺、エボラ・ウイルスによるテロと様々な問題に直面し、最後には砂漠の決戦。余りに詰め込み過ぎている気がするんだけど…、それに眼新しいポイントは無かったし。でも、何故かオタク心をくすぐる面白さがある。しかし、ラストの強引さは余りに凄い。トム・クランシーの右翼らしさが出ている(^^;)。

 世界史上はじめて生物兵器を用いたのは、アレクサンドロス大王というの勉強になりました。


「合衆国崩壊」2- Executive Orders - Tom Clancy
トム・クランシー 新潮文庫


「合衆国崩壊」3- Executive Orders - Tom Clancy
トム・クランシー 新潮文庫


「合衆国崩壊」4- Executive Orders - Tom Clancy
トム・クランシー 新潮文庫


「辻留・料理のコツ」
辻嘉一 中公文庫

 辻留の辻嘉一の料理の本。ホントにコツ的な事が細かくて面白い。しかし、基本的には主婦に向けて書かれているので実用的。


文庫版「メタルカラーの時代」1
山根一眞 小学館文庫

 システム手帳が流行ったあたりから、山根一眞は面白いと思っているんだけど、考えてみると1986年「変体少女文字の研究」以来は「スーパー仕事術」シリーズ以外は読んだ事無い気がする。

 この「メタルカラーの時代」文庫本版は、ハードカバー版を分野別に再整理したもの。
 メタルカラーは、ホワイトカラー、ブルカラーに続く技術開発情熱を注ぐ人を示す山根の造語。本書はメタルカラーの人々のインタビュー集。
 ほとんどが現場の人の声で、有名人でも成功者でもないところがいい。猪瀬の「日本凡人伝」に通じる面白さがある

 シリーズ1の最初の方の明石大橋の関係は、必要性に疑問はあるし、巨大信仰が強すぎてあまり納得出来ない所が多い。その後の情報社会関係は面白かったけど。
 20世紀初頭まで、天然ゴム景気でアマゾンに富が集中しマナウスの街は世界でもっとも豊かだったとか、19世紀中に英国は地球を一回りする電線を引いていたとか、西南戦争で官軍が勝ったのは東京-長崎の電信のおかげだったとか、そういう細かい話が雑学的によかった。


「女たちよ!」
伊丹十三 文春文庫

 伊丹追悼の意味で、遥か昔に読んだこの一冊を選んで再読。

 今、読んでみると、この当時のエッセイって今時のエッセイとまるで違う。現在、エッセイと言えば、トホホもの全盛時代だと思うけど、この「女たちよ!」の大上段に構えて、押しつけっぽくて、知識をひけらかしてして、おまけに西洋文化至上主義ってのが、今では逆に新鮮に感じてしまうほど古臭い(^^;)。

 とは言え、食い物の話はやはり読んでいて面白い。昔、読んで影響を受けている部分も多いので、きっと自分も、伊丹みたいに断定的に食い物の事を語っているんだろうなあ、と思ってしまう(^^;)。


「じゃマール「その後」大追跡!」
じゃマール追跡グループ編 ワニブックス

 自慢じゃないけど、「じゃマール」は創刊から着目していて、その着目点の斬新さにずっとウオッチングを続けていたんだけど、最近は飽きて読んでない。
 この本は、題名通りに、「じゃマール」掲載後にどうなったかを追跡している本。予想通りに、結婚などの話もあるけど、思ったよりはノーマルな例ばかり。

 まあ、個人広告というメディア自体はずっと掘り下げてみる価値は高いと思う。
 今度は、Webのをやって欲しい(^^)。


「ライカ通の本」
円谷円 小学館文庫

 まあ、ともかくライカの本。M3を手に入れてから、魅力に引き込まれた著者が、その魅力を語るのだけど、カタログデータ的にも役に立つ。
 話は、ライカの生みの親、オスカー・バルナックから始まり、ヌルライカ、A型…と歴史通りに展開していく。ここの細かさが面白い。

 ライカ自体、始めればハマる事が判っている一つなので、そうやすやすとは手を出せない(^^;)。買うなら何かは決めてあるんだけど(^^;)。

 ところで、「ちびまる子ちゃん」に出てくるたまちゃんのお父さんが凝っているカメラはライカみたい。フイルム巻き戻しクランクの形からボディはライカのM4かM6?。なんて事を急に思い出した(^^;)。


「小説家になる!」
中条省平 メタローグ

 著者の事はまるで知らないのだけど、「日本初の創作学校CSW(クリエイティヴ・ライティングスクール)の教師で、その講義をまとめたものらしい。
 小説というモノがどういう風に成り立つか、小説家はいかに考えストーリをくみ上げていくか、美しく読みやすい文書をいかに作り上げていくかという面では、本好きの人にも参考になると思う。

 特に、随所に出てくる例が面白い。読んだことない本も多いのでチェックしてみたい。解説通りに、別の視点で読むと面白そう。


「電子透かし」マルチメディア時代の暗号システム
井上彰 丸山学芸図書

 電子透かし、あるいはデジタル・ウォーターマークなどと呼ばれる技術について、あまりまとめた本は無いがこれが最初の一冊かな。

 まあ、技術的な事も書いてあるけど、基本は何も判らない人に解説してある程度。基礎をつかむにはいい本だと思う。


「心の昏き川」上 - Dark River Of The Heart -
ディーン・クーンツ 文春文庫

 クーンツは、アカデミー出版から超訳(^^;)で出た「インティシティ」は、内容はともかく、訳が嫌いだったけど、これよかった。

 謎の男が謎の女と出会って、謎の団体に追われるという謎だらけのよく判らないストーリで引っ張っていく手腕というのは見事というしかない。クーンツ、さらにうまくなっている気がする。
 今回、エンターテイメント性とともに、政治的な主張が強く入っているのも注目すべき所。特に資産没収法に対して強い。著者あとがきで、「民主主義を堅固とするには、1)資産没収法に反対、2)不起訴免責特権廃止、3)特異な信条を犯罪と規定する法律制定の中止」、と明確に述べている。こういうクーンツというのも意外だった。

 ちなみに、解説で吉野仁が「蛇足ながら、この二作を、緊張感がまったく感じられない凡訳でなくはなく、白石・松本両氏によるよる快調かつてごたえのある訳文で読めるのは…」と書いているが、当然のごとくアカデミー出版に対して言っているのであろうなあ(^^;)。まったく、同感だけど。


「心の昏き川」下 - Dark River Of The Heart -
ディーン・クーンツ 文春文庫


「渥美清 わがフーテン人生」
サンデー毎日編集部編 毎日新聞社

 1976年新年号からサンデー毎日に連載した17回連載した、聞き書きを一冊にまとめたもの。渥美清としての唯一の自伝であり、興味深い。
 戦時中から、終戦直後の上野で不良少年時代、フランス座、結核での闘病時代、TVから寅へ行き着くまで、羽仁進監督「ブワナ・トシの歌」のロケ隊とともにアフリカへいく話。TVの「男はつらいよ」から劇場版になる時の話。役者になってからは、まったくプライベートな話題は出てこない。家族などの話は徹底して触れられていない。
  単行本化は1996年だから、20年後という事になる。


「防壁」
真保裕一 講談社

 警視庁警護課員(SP)、海上保安庁特殊救難隊、陸上自衛隊不発弾処理隊、消防士の活躍を描く、4本の短編集。「防壁」「相棒」「昔日」「余炎」。

 このアクションバンド的な、ちょっとオタクっぽい、職業の選び方がいかにも真保裕一。でも、話としては、あまり緊張感や、ミステリー性があるモノは少ない。結構素直。
 個人的には、一番話が入り組んでいる不発弾処理隊の「昔日」が好き


「CURE」
黒沢清 徳間文庫

 映画「CURE」の監督自身による原作(ノベライズ?)。
 結局、内容的には映画とまるで同じだった。間宮の生い立ちや、富山山中、プロローグの部分が多く書き込まれているぐらい。でも、映画ではちょっと不満足だった人はその辺ぐらいは立読みする価値あるかも。ラストの方が、映画と違って素直に書かれているから判りやすいが、やはり不可解な所は不可解(^^;)。


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