'97年9月
月末に香港へ行った


「アジアの路上で溜息ひとつ」☆
前川健一 講談社文庫

 香港への旅行中に読んでいた一冊。相変わらずのアジア各国のエッセイであるが、やはりこの人のは安心して読めるし、面白い。食べ物関係の話題は読んでいて楽しい。「銀行の天使、スリの仁義」では、パスポート、航空券、現金、トラベラーズ・チェックを無くすが、旅行中に読んでいるとこのパニック状態がひしひしと伝わってきて恐い。
 ところで、この本のp243「三泊四日遅延の旅」に出てくる、インターナショナル・ディレイ・エアライン(国際遅延航空)ってどこの航空会社でしょう。誰か教えて下さい。
 しかし、三泊四日の遅延とは物凄い(^^;)。


「震源」
真保裕一 講談社文庫

 「奪取」が気に入ったので、真保裕一モノは出来るだけ目を通すようにしている。
 津波警報のミス、地震観測データを持ったまま行方不明の教授などなど、出だしの引きつけ方が上手くてかなり引き込まれた。でも、後の方になるほど展開がダルくてちょっと詰まらない。地震兵器でも出てくるのかと思ったら、結末はかなり地味でちょっとがっかりした。ま、
 真保裕一がそこまで話を大きくする事は無いか(^^;)。


「帰還」
ディック・フランシス ハヤカワ文庫

 まあ、いつも通りに安心して楽しめる読めるディック・フランシスだった。でも、ちょっと盛り上がりに欠けるし、花が無かった気がする。主人公が外交官ってのがちょっと地味過ぎる。


「大江戸魔方陣」
加門七海 河出書房新社

 江戸を守るために作られた風水的呪術の解明の書であるが…、まあ理解は出来るのだけどこじつけっぽい所もあるのじゃないかなあ。正確な地図無しでどうやって、広大な幾何学図形を作れるのか疑問だし。そもそも、観相学を基礎にする風水で、地図レベルの幾何学図形に風水的な意味を感じたかどうかが一番の疑問。


「行ってみたいな、童話(よそ)の国」
長野まゆみ 河出書房新社

 長野まゆみは「少年アリス」以来、注目しているのだけど、でもあんまり読んで無い(^^;)。
 「グリム童話」や「アンデルセン童話」が持つ、残酷性、不条理やその他もろもろを引き出して仕上げた、「ハンメルンの笛吹き」、「ピノッキオ」、「にんじん」の三本。いじめ、同性愛、性的虐待、SM、近親相姦その他さまざまオンパレードで、ちょっと頭がクラクラします(^^;)。長野まゆみってやっぱり凄い。


「僕に踏まれた町と僕が踏まれた町」
中島らも 集英社文庫

 考えてみると、中島らもは、「人体模型の夜」と「ガダラの豚」の二作しか読んで事が無い。しかし、「ガダラの豚」は圧倒的に面白くて、思わずファンレターを出してしまった程。
 旅行中のための軽い読み物を捜していて、ちょうどこれを見つけて購入。確かに、軽いノリだし、一話が短いので旅行向き。
 学生運動と、バンカラとヒッピーが混ざった灘高時代の話がメイン。なんとなく、大林宣彦の映画「青春デンデケデケデケ」の主人公とイメージが重なる。


「エイミー」
バリ・ウッド 扶桑社

 クローネンバーグが監督した「戦慄の絆」の原作者のバリ・ウッド。「戦慄の絆」自体は読んだ事ないのですが、この「エイミー」も人間のメンタルな部分と超自然な能力を扱っている。
 主人公、エイミーの幼児期のトラウマと超自然的な能力。能力を持ってしまった不幸の描き方が素晴らしい。ただ、展開や語り口は上手いとは言えないけど。もうちょっと、キングの様なストーリー・テーリングの力があれば凄く面白くなったのに。
 ま、とにかく「戦慄の絆」は読んでみようと思う。

 文庫巻末の対談に出てくる未訳の小説「TRIBE」がめちゃくちゃ面白そう。これだけ期待させて翻訳してないのがずるい。翻訳させたいという確信犯的な対談なのかな(^^;)。


「女神の沈黙」
アンネ・ホルト 集英社

 ノルウェーの小説というだけで珍しいのに、前職女性法務大臣によるベストセラーというサスペンス。
 実際、展開のテンポが悪くてかったるい所も多いのだけど、内容は面白かった。やはり、現場にいた人のリアリズムというのは面白い所がある。でも、やっぱりノリが悪くてイマイチかな。


「戦時下動物活用法」
清水義範 新潮文庫

 週間小説に載った短編を集めたもの。
 面白いものもあるが、ほとんどはつまらない。清水義範のベストからはかけ離れたレベル。なかでも、「こだわりの旅」「服を買う」あたりはまだよかったけど、多少笑える程度。「国語入試問題必勝法」や「永遠のジャック&ベティ」ぐらいの、電車の中で笑い転げて恥ずかしい思いをするような小説を書いて欲しいものである。


「左手に告げるなかれ」
渡辺容子 講談社

 第42回江戸川乱歩賞受賞。
 元不倫相手の妻が殺される、その容疑者が主人公。万引きや社内不正を取り締まる保安士の仕事、コンビニの実態など知らない話が実に面白い。女性が主人公のハードボイルド・ミステリーとしては好き。


「ギョーザのような月がでた」
椎名誠 文藝春秋

 週間文春に1996〜1997の間に連載されたエッセイのまとめ。つまらなくは無いのだけど、なんとも軽い内容であんまり中身が無いのが寂しい。雑誌で読んでるぐらいならいいんだけど、まとめて読まされると辛い。

忙しくい執筆で、原稿用紙の升目を埋めているといった感じの文章が多いのが残念。旅行中に電車で読むのにあった文書ではあるけど。


「エヴァン・スコットの戦争」 ☆
ミッチェル・スミス 新潮文庫

 「ストーン・シティ」のミッチェル・スミスの新作。「ストーン・シティ」はその年のベスト3に入るぐらい好きだったので、これも期待の一作。
 謎の転落事故を目撃する建築家が主人公。それがインド系秘密結社との結び付き、全面的な対決に入る。ベトナム戦争のトラウマや、家族の問題などを足かせにして戦う姿が、実にリアリティがあって深く感情移入してしまう。
 よりハードボイルド色が濃くなっているような気がする。一気に読んでしまうパワーを持っている。


「涙はふくな、凍るまで」
大沢在昌 朝日新聞社

 監督萩庭貞明、主演萩原聖人で映画化された「走らにゃあかん、夜明けまで」の原作の続編。前作は未読。大阪でヤクザ相手に立ち回ったポテトッチップスを売るサラリーマン坂田勇吉が、今度は北海道の地で、ロシア・マフィア相手に立ち回る。
 さすがに、大沢在昌だけあって、それなりに読ませるところはあるけれど、「新宿鮫」などに比べてしまうと、力強さに欠ける部分も多い。それは主人公の力だけではなくて、文章の力でもある。
 映画の「走らにゃあかん、夜明けまで」では、題名とは違って、走るという事が活かされてなかったのが残念。この小説では、北海道の寒さという物がうまく活かされてなかった。よりリアリティを感じられなかったのは残念。


Books Top


to Top Page