2002年5月


「わが心臓の痛み」☆
マイクル・コナリー古沢 嘉通訳
- Blood Work - Michael Connelly

 心筋症により心臓移植を受け引退していた連続殺人担当のFBI捜査官テリー・マッケイレブ。彼の元に現れた看護婦のグラシエラ、彼女の妹グロリアは強盗に殺され、その心臓がマッケレイブに移植されたという。グラシエラは妹を殺した犯人の捜査をマッケレブに頼むが…。

 すばらしく面白かった。設定からゾクゾクするモノがあるが、ちょっと色モノっぽい気がしていたが、どんどん本格的ミステリーに突入。その疾走感が素晴らしい。防犯ビデオ、電話、デジタル時計、催眠術、自己催眠などなど、細かい道具立てが上手いし、操作の方法論も面白い。わき役、特にヨットの隣人バディ・ロックリッジがいい味を出している。


「仮面のコレクター」
- Special Victims -Nick Gaitano
ニック・ガイターノ 平井イサク訳 ハヤカワ文庫

臓器提供のための謎の殺し屋コレクター、完全な犯罪を実行し、殺しに快楽を求める。シカゴ市警の捜査班トニー・トゥリオ刑事が追う殺人事件、そしてコレクターはトゥリオの恋人で弁護士のメリアンに近づく…。
とんでもなくつまらなかった。薄っぺらな人間像に、薄っぺらな設定。文章自体はそれほど悪くなく展開も面白いのだけど、後半に入るにしたがって、その薄っぺらさに嫌気がさしてくる。著者については、正体が謎で、別名義という話もあるらしいが、ま、他のも読みたくないな。
臓器移植と連続殺人という所で「わが心臓の痛み」と近いモノを感じたが、中身はまるで違っていた。


「エニアック-世界最初のコンピュータ開発秘話」
- Eniac:The Triumphs and Tragedies of the World's First Computer - Scotto McCarthney
スコット・マッカートニー著 日暮雅通訳 パーソナル・メディア

1941年、ペンシルヴェニア大学ムーア・スクールで出会ったモークリーとエッカートの二人は、砲弾の弾道計算を素早くする機械を求めていた陸軍から資金援助を受け、床面積1800平方フィート、重量30トン、真空管18000本を使う「ENIAC」を完成させる。

前半はエニアック完成の物語を綿密に描く。後半は、"プログラム内蔵方式というアイデアは実際はどこから出たのか"を追及する事により、ファン・ノイマンの「コンピュータの父」という称号が、実際はモークリーとエッカート二人のものでは無いかという疑問を追求。その後は、アタナソフ博士との30年の特許紛争などなど、ドロドロした話。
後半よりは、前半のエンジア魂溢れる物語の方がわくわくさせられる。
著者はウォールストリート・ジャーナルのスタッフライター。文章はまとまって判りやすいし、なかなか上手い。


「9坪ハウス狂想曲」
萩原百合 マガジンハウス

夫の勤めるリビングデザインセンターOZONEの「日本人とすまい」企画展、テーマ「柱」で使われた、増沢洵による最小限住宅の軸組をもらいうけ、自分の家を立てる事を決意する著者。土地探しから、家とモノの関係などなど、実体験で家を考えていく…。

 住居移動説の主義から簡単に宗旨替えをするのは、なんとも軟弱だけど、行動はパワフルだし、モノや暮し方に対する柔軟な姿勢には頭が下がる。家にいる時間は長くても、実は家にはついてはそれほど考えてない事に気づかされる。
ところで途中出てくる前川國男邸は現在、江戸東京たてもの園にあるけど、たしかに素晴らしい建物でお気に入りの一つ。

「9坪ハウス」


「ミスティック・リバー」☆
- Mystic River - Dennis Lehane
デニス・ルヘイン 加賀山卓朗訳 早川書房

11歳のショーン、ジミー、デイヴ。ある日警官を装った二人組の男にデイブだけが連れ去られ4日後に自力で脱出する。25年後、犯罪に手を染めるが更生するジミー、刑事となったショーン、野球選手を引退したデイブ。それぞれの世界で生きる三人を、ジミーの最愛の娘ケイティが惨殺されるという事件が結びつける。

  面白かった。それでもなんとも言えないすっきりしない読後感。それぞれの心の傷はさらに深くなり、その後を考えると悲しいものがある。三人、それぞれの描き方がすばらしく、特にデイブの心の闇が痛々しく、読んでいてなんともつらい。それを描く視点には、暖かさがあるのが救い。緊張感をもってテンポいい展開もよく、特に後半の畳み掛け方は素晴らしい。


「ブラックホーク・ダウン-アメリカ最強特種部隊の戦闘記録」 上
- Black Hawk Down - Mark Bowden
マーク・ボウデン 伏見威蕃訳 ハヤカワ・ノンフィクション文庫

 映画「ブラックホーク・ダウン」の原作。1993年10月3日、内戦が続くソマリアの首都モガディッシュ、最高幹部を拉致することを目的とした特殊作戦に出かけるデルタ、レインジャーたち精鋭。短時間で終わるはずの作戦はブラックホーク・ヘリコプターが撃墜された事で泥沼の戦闘へとなっていく…。
 映画を観て、あまりの混乱に人間関係がさっぱり判らなくなって、原作を読むことにする…しかし、結果的には原作を読んでも判らない事だけが判った(^^;)。この混乱は、戦闘そのままの混乱。
 内容的には、綿密な調査やインタビューから組み立てられるノンフィクションは見事。現場の意見でも、作戦責任者の将軍に対する非難がほとんど無いのが印象的。
 エピローグのこの事件の分析は非常にためになる。武力による治安維持の限界、米軍戦闘員損失の許容量の低下など、指摘されるとなるほどと思う。

映画「ブラックホーク・ダウン」感想
早川書房 「ブラックホーク・ダウン」Official Website -ソマリア、特殊部隊など背景について詳しい


「ブラックホーク・ダウン-アメリカ最強特種部隊の戦闘記録」下
マーク・ボウデン 伏見威蕃訳 ハヤカワ・ノンフィクション文庫


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