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学名 Lyra 略号 Lyr 20時の南中月日 8月下旬 星座設定者 プトレマイオス
伝令神ヘルメスは足が速いことから、泥棒の神様でもありました。 ヘルメスは生まれて直ぐ、太陽神アポロンの牛を群れごと盗みました。 その牛の群れの中から2匹を食べて、残りの群れを隠していたところに 海亀が這って来たので、その亀を食べ、その甲羅に穴を開け、手琴を作りました。丁度その時、牛を取り返しに来た音楽の神でもあるアポロンに見つかってしまいました。 ヘルメスとアポロンは口論となりましたが、ヘルメスは「この琴を造りました、 あなたに差し上げますので、音楽の神である貴方はこの楽器などすぐに弾きこなしてしまうでしょうが、 どうか許してくれませんか」と、琴を弾いてみました。
手琴の音を聞いたアポロンは「今まで歌は当初音楽の精女ムーサ達の笛の伴奏のみであった、 この楽器はなんと素晴らしい響きだ」と竪琴の音にほれ込んでしまい、ヘルメスの罪を許すかわりに、 ヘルメスが作った竪琴を貰います。このときからヘルメスとアポロンは仲が良くなり、 アポロンはヘルメスに「伝令杖カデュケウス」をあげたのでした。
さて、時は暫くたちまして、音楽精女ムーサの一人のカリオペーとオイアグロスから 後にヘラクレスに竪琴を教えた教育者のリノスと、吟唱詩人オルペウスが生まれました。 名義上の父親はアポロンと言う事になっておりました。アポロンはムーサ達のところへ立ち寄るたびに、 詩の才があったオルペウスのところへより、その才を愛でて、これはお前が持つものだと ヘルメスに貰った竪琴をオルペウス譲り渡しました。
オルペウスの歌と、彼の奏でる竪琴は、人にあっては言うまでもなく、 野獣や草木までもが聞きほれたと言います。オルペウスは精女のエウリュディケーと結婚しました。暫く二人は幸せに暮らしておりましたが、ある時アリタイオスと言う男が、 川岸を散歩しているエウリュディケーをさらおうとしました。それに気がついた エウリュディケーは逃げましたが、その時うっかりと草むらにいた毒蛇を踏んでしまい、 その蛇に咬まれてしまいました。
オルペウスはエウリュディケーが何時までも帰ってこないので、辺りを探しまわりましたが 草むらで倒れているエウリュディケーを見つけました。しかし彼女は既に死んでおり ヘルメスにより冥界へつれて行かれてしまった後でした。
オルペウスはエウリュディケーを連れ戻すために、冥界へ降りて行く事にしました。 オルペウスの竪琴の調べは冥界のあらゆるものを虜にしてしまいました。オルペウスはやがて冥界を七巻にしているステュクス河(三途の川)にたどり着きました。 そこには三途の川の渡し守カローンと言う老人がいて、死者から1オボロスの銅銭を受け取り 冥界に渡していました。銅銭を持っていない死者はなかなか河を渡してもらえず、 何時までもこの世と冥界の間をさまよっていなくてはなりませんでした。
オルペウスはカローンの所に行き冥界へ渡してくれるように頼みました。 しかしカローンは生きているものを渡すわけにはいかないと断りました。 そこでオルペウスは竪琴を弾き始めました。
カローンはなんとも言われぬ気分になり、死者を冥界に渡す事などどうでもよくなって ぼんやりしておりました。オルペウスはその間に空いている船を見つけ、 自分で漕いで冥界に渡りました。
ステュクス河を渡り終えたオルペウスは、竪琴を再び奏でながら冥界の奥へと進んで行きました。 そこには様々なものが生前の行ないのやむことのない罰を受けていました。 しかし彼らはオルペウスの竪琴を聞き、それまで科せられていた刑をしばし忘れ、 聞きほれていました。例えばこの世で初めて親族殺しをしたイクシーオーンは、火炎車にくくり付けられて 永遠に引きずり回わされていますが、オルペウスの竪琴の音が聞こえた途端、 火炎車は炎を消して回転する事を止めました。
同じようにオルペウスの竪琴の音を聞いたタンタロスは渇きを忘れ、 シーシュポスの岩は止まり、グナオスの娘達は水を汲むのを止めました。
こうして、オルペウスは冥界の王ハデスの前にたどり着いたのです。
ハデス:「おい、生きた人間が冥界に来るとは何事か!」オルペウス:「妻のエウリュディケーを連れ戻したく、ここまで来ました。どうか妻を帰してください」
ハデス:「何を言うか。そのような事を許してしまったら、生きている者が次々に冥界に入り、 死んだものは生きかえり、そのようなものが我が我がと冥界に押しかけ、全ての秩序は失われる。 ここに来たお前でさえ生きて返すつもりはないのだぞ!」
オルペウスは手にもつ竪琴を奏ではじめました。 するとハデスのあの恐ろしい側近達まで、エウリュディケーを返してあげたら如何でしょうと、 ハデスに進言しました。
ハデス:「おお!なんと言う事だ。お前達まであの竪琴の音に惑わされたのか。 だが、このわしはそうはいかんぞ。」
ハデスがふと傍らの妻のペルセポネーを見ると、涙ぐんでいるではありませんか。
ペルセポネー:「ハデス。許してやっても良いではありませんか。」
ペルセポネーに何か言われると弱いハデスは、
ハデス:「うう。そうか。では、こうしよう。オルペウスよ妻のエウリュディケーを 返してやろう。但し、お前は地上に帰りつくまで決して後ろを振り返ってはいけない。 それが条件だ。」
オルペウスは地上に向かって歩き始めました。確かに後ろに誰かついてくるような 気配がします。オルペウスはそのまま歩きつづけました。歩いている内に、本当にエウリュディケーは後ろからついてきているのだろうかと 不安になりました。しかし振り返ってはいけないと思いを振り払い歩き続けました。
しばらく歩いた後に、ハデスの事に思いをはせました。ハデスは死者を蘇らせたと 医神アスクレピオスを殺しました。意地悪でも有名なハデスが本当に エウリュディケーを返してくれるのだろうか。段々不安はたまらないもになっていきました。
地上の光がわずかに見え出した時オルペウスはたまらず後ろを振り返ってしまいました。
ハデスとの条件を破って振り返ったオルペウスは本当にエウリュディケーが後ろにいるのを 見ました。しかしエウリュディケーの姿はす〜と後戻りしはじめました。 オルペウスは急いでエウリュディケーを抱き留めようとしましたが、 エウリュディケーの姿は微笑みながら霧のように消えてしまいました。エウリュディケーはオルペウスが冥界まで追ってきてくれただけで、 それはもう嬉しいことだったのです。
オルペウスは消えて行ったエウリュディケーの姿のあったあとをしばらく見つめていましたが、 はっと我に帰り、急いできた道をひき返しました。
オルペウスはもう一度カローンの所に行き冥界へ渡してくれるように頼みましたが、 もう二度とは渡さないと言いました。竪琴の音も用心しているカローンには効き目がありませんでした。 しばらくオルペウスは粘っておりましたが、ついに根負けし、冥界のものは皆白状だと言い残し 一人地上に戻りました。
さて地上に戻ったオルペウスは、冥界に行ったただ一人の者として有名になりました。 そうしているうち、オルペウスにアルゴ船に乗って大遠征する話しが持ちこまれました。 オルペウスはこの遠征に行って大活躍しますが、 それはアルゴ座でのお話と致します。
さてアルゴ遠征から戻ったオルペウスはますます有名になりました。 オルペウスの住むトラーキアの女達は次々にオルペウスに言い寄りましたが、 エウリュディケーに辛い思い出があるオルペウスは他の女性は全く相手にしませんでした。 トラーキアの女達は次第に自分たちが侮辱されているように感じ始めていました。そして冥界は酒神ディオニュソスが話していることは違うとオルペウスは言い、 彼独自の宗教で、朝日つまりアポロンを信仰するオルペウス教を唱え始めました。
ちょうどそんな時、美の女神アプロディーテーが冥界の女王ペルセポネーと 美少年アドニスを奪い合った時に、オルペウスの母であるカリオペーが二人の女神の審判をする ことになりました。カリオペーは二人の女神に公平にアドニスの所有を分けました。
しかし美の女神アプロディーテーはそれを怒って、 トラーキアの女達が酒によって狂乱するディオニュソスの祭りの時に、 オルペウスを八つ裂きにして殺してしまうように仕向けました。
オルペウスの身体はバラバラにされ、ヘブロス河に投げ込まれました。 精女のムーサ達はオルペウスの身体を探し埋葬しましたが、首と竪琴は見つかりませんでした。オルペウスの首と竪琴はそのまま川を下り、レスポス島に流れ着きました。 そのオルペウスの首は予言をし、それが良く当たったと言います。例えば、
オルペウス:「我の灰が太陽の光に当たる時、レベートラ市はブタ(sys)により破壊されるであろう」
人々はブタが都市を滅ぼすなどありえないと言っておりましたが、 ある時一人の羊飼いにオルペウスが乗り移り、なにらや不思議な歌を歌い始めました。 人々はなんだなんだと大勢集まってきました。もう大騒ぎになってしまい、そのために 墓の柱が倒れてオルペウスの石棺が壊れてしまいました。
その夜に大嵐が起こり、シュース(sys)河が大氾濫を起こし、市の建物の多くが流されてしまいました。
こうした予言の噂をアポロンが聞きつけました。アポロンは自分の神託の影が薄れて 来た事を感じて、オルペウスをちゃんと葬ってあげる事にし、 傍らにある竪琴を天に上げて星座にしました。神々の中で音楽が好きなものは、その竪琴の回りに車を繋ぎ、 また琴の音に踊り出した動物達が回りを取り囲んだのだそうです。 黄道帯はギリシア語ではゾテイアクで、獣帯を意味します。 今夜空に見える琴座は星のメリーゴーランドなのですね。
シリア王ティアースに男の子が生まれました。 美の女神アプロディーテーは、この赤子が大変に美しいので、 冥界の王の妻ペルセポネーに養育を頼みました。ペルセポネーもその赤子が、次第にあまりに美しい少年に育って行くので、 手放すのが惜しくなってきてしまいました。
アドニスが成長し、アプロディーテーがアドニスを返すようにペルセポネーに頼みましたが、 どうしても渡さないと争いになってしまいました。
そので精女ムーサの一人カリオペー(オルペウスの母)が、 二人の間に入って裁定をしました。1年の1/3はアプロディーテーのもとに、 1年の1/3はペルセポネーのもとに、そして1年の1/3はアドニスの好きなようにと 決めました。
アプロディーテーは最初から私が見つけたのにと、カリオペーの裁定が気に入らなかったので、 アドニスは自分で自由に使える1年の1/3もアプロディーテーのもとにいる事にしました。
アドニスはある時、狩に出て女神アルテミスの怒りに触れ、猪に突かれて死んでしまいました。 その時の血からアネモネが生まれ、アプロディーテーの涙からバラが生まれたと言います。
毎年春になると、アドニスの蘇りを祝う「アドーニア祭」が行なわれ、 壷などにお湯を入れ芽生えを早めた植物で「アドーニスの園」と呼び、 アドニスの死を嘆いたと言います。
アドニスはもとはバビロニアのクムス神で芽生え・繁茂と冬の間の死を象徴する 農業神であったようです。
アネモネの花の写真はDANDANさんのページより拝借しました。
わしゃ、てっきり、これがアネモネだと思ってた(^^;
これはラナンキュラスと言うんですって。
あ!アルテミスがなんで怒ったのかは、調べられませんでした。
参考引用文献
- ★ギリシャ神話 神々と英雄たち /バーナード・エブスリン著/三浦朱門訳/教養文庫1314/D259
- ★ギリシャ神話・アポロードロス著・岩波文庫(紀元1−2世紀)
- ★ギリシャ神話・呉茂一著・新潮文庫(昭和44年)
- ★ギリシア・ローマ神話辞典・高津春繁著・角川書店
- ギリシャ・ローマ神話・T.ブルフィンチ著・ちくま文庫(1855年)