暦とは
暦は季節の移り変わりを知る物差しとして人間が作り出した概念である。古代から天体の運動と深い関連性があったが、現在では地球の公転周期から正確な暦が作成されている。 太陰暦
月の運行を元に作成された暦。月は29.53日で地球を一周する(これを「一朔望月」と呼ぶ)ため、一ヶ月は二十九日、もしくは三十日で構成される。太陰暦は三百六十四〜五日で構成されるため、実際の季節の推移からずれる。
太陰太陽暦
太陰暦に季節変化の目安を取り入れた暦。暦と季節のずれを補正するために「閏月(うるうづき)」と呼ばれる月が挿入され、一年が十三ヶ月の年が約三年ごとに存在した。日本の旧暦、ユダヤ歴、ギリシア歴等がこれにあたる。
太陽暦
地球の公転周期を元に作成された暦。地球は365.24日で元の位置に戻るため、一年を三百六十五日とし、四年に一度、一年を三百六十六日とした。現在利用されている太陽暦はグレゴリオ歴と呼ばれ、三百六十六日有る年を「閏年」と呼ぶ。閏年は西暦が四で割り切れる年に設定されているが、百で割り切れる年は閏年とせず、かつ四百で割り切れる年は閏年とすることで誤差を小さくしている。
この他、地球の公転軌道のふらつきを補正するために日本時間で元旦の九時(世界標準時で元旦零時)直前に秒の調整をする。これを「閏秒」と呼び、1997年は閏秒として1秒が加算され、8時59分59秒→60秒→9時0分0秒と時が刻まれた。
四季
四季は地球の温帯地方の概念で一年を四つに等分したもの。天文学上の四季と気象学上の四季が存在する。
天文学上の四季(西洋占星術等と深く関連する。西洋では古くから夏至や冬至の日に民族的祭典が開かれることが多いのはこの為である。)
春:春分〜夏至前日
夏:夏至〜秋分前日
秋:秋分〜冬至前日
冬:冬至〜春分前日
気象学上の四季(太陽暦で通常用いられている概念)
春:三〜五月
夏:六〜八月
秋:九〜十一月
冬:十二〜二月
和風月名
旧暦における各月の名称は以下の通り。現在の暦でも同様の名称で呼ぶことがあるが、季節的には一ヶ月ずれているため、各月の名称が意味する季節との間にずれがあることに注意が必要。
一月 | 睦月(むつき) | 二月 | 如月/衣更着(きさらぎ) | 三月 | 弥生(やよい) |
四月 | 卯月(うづき) | 五月 | 皐月/早月(さつき) | 六月 | 水無月(みなづき) |
七月 | 文月(ふみづき) | 八月 | 葉月(はづき) | 九月 | 長月(ながつき) |
十月 | 神無月(かんなづき) | 十一月 | 霜月(しもつき) | 十二月 | 師走(しわす) |
これらの名称は年代、地域によって変わることがある。例えば神無月は出雲地方では「神有月」となる。これはこの時期になると神々が出雲地方に集まるため、出雲以外は神無月、出雲は神有月と呼び方に違いが生じる。
十二支
中国で生まれた暦の概念で、当初は十二ヶ月の順序を意味する物であった。元々、「子」が一月を指していたが、夏正(立春正月)の採用と共に三月に当たる「寅」が一月を意味する様になった。十二支と月の関係は以下の通り。
寅(いん) | 旧暦一月。※(いん/「うごめく」の意)が語源で草木の芽が発生する状態を示す。(※はJIS規格外文字) | 申(しん) | 旧暦七月。呻(しん/「うめく」の意)が語源で草木の果実が成熟して締めつけられ固まっていく様を示す。 |
卯(ぼう) | 旧暦二月。茂(ぼう/「しげる」の意)が語源で草木が生え地を覆う様を示す。 | 酉(ゆう) | 旧暦八月。※(しゅう/「ちぢむ」の意)が語源で草木の果実が成熟の極に達した様を示す。 (※はJIS規格外文字) |
辰(しん) | 旧暦三月。振(しん/「ととのう」の意)が語源で陽気が動き草木の活力が活発な様を示す。 | 戌(じゅつ) | 旧暦九月。滅(めつ/「ほろぶ」の意)が語源で草木が枯死する様を示す。 |
巳(し) | 旧暦四月。已(し/「やむ」の意)が語源で草木の成長が極限に達したことを示す。 | 亥(がい) | 旧暦十月。※(がい/「とざす」の意)が語源で草木の生命力が種子の内部に閉蔵された様を示す。 (※はJIS規格外文字) |
午(ご) | 旧暦五月。忤(しん/「つきあたる」の意)が語源で草木が衰弱の傾向を生じた様を示す。 | 子(し) | 旧暦十一月。孳(じ/「ふえる」の意)が語源で新しい生命が種子の中に萌し始める様を示す。 |
未(び) | 旧暦六月。味(び/「あじ」の意)が語源で草木の果実が成熟して滋味を生じた様を示す。 | 丑(ちゅう) | 旧暦十二月。紐(ちゅう/「からむ」の意)が語源で萌芽が種子の中に生じてまだ充分に伸びていない様を示す。 |
十干
十干(じっかん)は古代中国で使われた日の順序を表す符号(数司)であった。十日を「一旬(いちじゅん)」として占う卜旬(ぼくじゅん)が広く行われており、この循環を示すのが十干であった。一ヵ月を三つの旬に分けることが出来ることから、十干が広く使われた。現在でも月を初旬、中旬、下旬と分けているのは十干の影響である。 その後、十二支と組み合わされるようになった。十二支と組み合わせると六十日で元の組み合わせに戻り、その六倍の三百六十日でほぼ一年となるため、暦の上でも便利であった。
また、陰陽五行説(木、火、土、金、水を総ての現象の源とする五元思想)と結合し、五行に陽(兄・え)と陰(弟・と)を組み合わせて十干とした。「兄弟(えと)」は干支の語源でもある。 様々な要素が絡み合った十干は、吉凶や縁起を占う目印として、また様々な迷信と結びついた。 十干のそれぞれの語は草木の発生、繁茂、成熟、伏蔵の過程を十段階に分けて付けられた物であり、先に示した十二支と同様の陰陽道の思想である。干支の呼び名は陰陽五元思想による。現在では干支の呼び名の方が一般的である。
甲 (こう) 木の兄 (きのえ) |
甲はよろい・かぶとを意味し、甲冑の甲から導かれた語である。草木の種子を覆う厚い皮の意。種子が発芽する前の厚い皮を被った状態を指す。木の兄は大樹を意味する。 | 乙 (おつ) 木の弟 (きのと) |
乙は軋(あつ)を語源としている。軋は「きしる」の意。草木の幼芽が未だ自由に成長していないで屈曲している状態を指す。木の弟は灌木を意味する。 |
丙 (へい) 火の兄 (ひのえ) |
丙は柄(へい)を語源としている。柄は「あきらか」の意。草木が成長してその姿が著名になった状態を表している。火の兄は太陽の光熱を意味する。 | 丁 (てい) 火の弟 (ひのと) |
丁は丁壮(壮年の男性の意味)と同意で、草木の姿形が充実した状態を指す。火の弟は提灯やロウソクの炎を意味する。 |
戊 (ぼ) 土の兄 (つちのえ) |
戊は茂(ぼう)を語源としている。茂は「しげる」の意。草木が繁茂して盛大となった状態を指す。土の兄は山や丘の土を意味する。 | 己 (き) 土の弟 (つちのと) |
己は紀(き)を語源としている。紀は「すじ」の意。草木が充分に繁茂して盛大となり、且つその条理の整然となった状態を指す。土の弟は田や畑の土を意味する。 |
康 (こう) 金の兄 (かのえ) |
康は更(こう)を語源としている。甲は「あらたまる」の意。草木が成熟固結して行き詰まった結果、自ら新しい物に改まっていこうとする状態を指す。金の兄は金剛を意味する。 | 辛 (しん) 金の弟 (かのと) |
辛は新(しん)を語源としている。新は「あたらしい」の意。草木が枯死して新しくなろうとする状態を指す。金の弟は柔剛を意味する。 |
壬 (じん) 水の兄 (みずのえ) |
壬は妊(じん)を語源としている。妊は「はらむ」の意。草木の種子の内部に新しいものがはらまれる状態を指す。水の兄は海、川、洪水の水を意味する。 | 癸 (き) 水の弟 (みずのと) |
癸は揆(き)を語源としている。揆は「はかる」の意。草木の種子の内部にはらまれた物が、しだいに形づくられて、その長さを測ることが出来るほどになった状態を指す。水の弟は水滴、雨露、小流の水を意味する。 |
二十四節気
旧暦では太陽の公転を二十四等分し、それぞれに名前を付けて暦と季節のずれがどの程度かを表した。各季節の意味は以下の通り。
雨水 | 啓蟄 | 春分 | 清明 | 穀雨 |
陽気地上に発し、雪氷とけて雨水となればなり | 陽気地中に動き、縮まる虫、穴開き出ずればなり | 日天の中を行きて昼夜等分の時なり | 万物発して清浄明潔なれば、此芽は何の草としれるなり | 春雨降りて百穀を生化すればなり |
小満 | 芒種 | 夏至 | 小暑 | 大暑 |
万物盈満すれば草木枝葉繁る | 芒有る穀類、稼種する時なればなり | 陽気至極し、また日の長きのいたりなるも以てなり | 大暑来たれる前なればなり | 暑気いたりつまりたるゆえなればなり |
処暑 | 白露 | 秋分 | 寒露 | 霜降 |
陽気とどまりて、始めて退きやまんとすればなり | 陰気ようやく重なりて露こごりて白色となればなり | 陰陽の中分なればなり | 陰寒の気に合って、露結び凍らんとすればなり | 露が陰気に結ばれて霜となりて降るがゆえなり |
小雪 | 大雪 | 冬至 | 小寒 | 大寒 |
冷ゆるが故に雨も雪となりてくだるが故なり | 雪いよいよ降り重ねるおりからなればなり | 日南の限りを行きて日の短きの至りなればなり | 冬至より一陽起るが故に陰気に逆らう故、益々冷ゆるなり | 冷ゆることの至りて甚だしきときなればなり |
現在の二十四節気は天文学的に決められている。春分点(太陽の通り道である「黄道」と天の「赤道」の交点のうち、春に太陽がある位置)から黄道を二十四等分して決める。この為、昔の二十四節気とは微妙にずれている。例えば春分や秋分は大気の屈折現象の影響を受けて、地上における昼夜の長さが等分されていない。
五節句/五節供
節句は年中行事の中で特に重要とされた日のことを言う。以下の五つの節句をまとめて五節句と言う。
人日(じんじつ):旧暦一月七日
人日は中国の占いの風習から来ている。正月一日から六日までは獣畜のことを占い、七日に人を占うところからこの名が付いた。この日の天候でその年の運勢を占い、もし晴れなら幸があり曇りなら災いがあるとされた。江戸時代に幕府の公式行事として将軍以下が七草粥を食べて祝ったために祝日となった。
上巳(じょうし):旧暦三月三日
元は三月巳の日に行ったものが後に三月三日に固定された。古代中国ではこの日に川で身を清め不浄を払う習慣があった。平安時代に形代(かたしろ)と呼ばれる人形を作りこれに汚れを移して川に流して不浄を払った風習があり、現在も「流し雛」として各地に残る。江戸時代以降雛祭りとして庶民に広がったことから節句となった。
端午(たんご):旧暦五月五日
元々は五月最初の牛の日を指す。古代中国ではこの日に野に出て薬草を摘んだり、ヨモギで人形を作り戸口に飾り魔除けにする、菖蒲湯を飲んで邪気を払うなどの風習があった。これが日本に伝わり菖蒲や蓬を軒につるす、柏餅を食べて祝うなどの習慣に変わった。古来日本は五月を悪月、物忌み月などと言い、田植えを始める前に早乙女が家に隠って身を清め、田植えの神を迎える風習があり、これが中国の風習と一緒になった。当初女性の節句であったが、武家社会により男子の節句に変わった。江戸時代には男子の居る家で鯉のぼりを建てる、鎧兜や人形を飾るなどの成長を祝う行事となった。
七夕(しきせき):旧暦七月七日
七夕は幾つかの行事が複合して出来た習慣である。『その1』中国の牽牛星(彦星)と織女星(織り姫)の星祭り。『その2』女子が手芸で上手になることを織女星に願った中国の乞功奠(きこうでん)。 『その3』古来からの「棚機つ女(たなばつめ)」。これらの伝説が一つになり、江戸時代から現在の七夕伝説と行事の形態ができあがった。
重要(ちょうよう):旧暦九月九日
重要は易で言う陽数の極みである「九」が重なる日で重九(ちょうく)とも言い、古来中国では大変めでたい日として邪気を払い長寿を願って菊の花を飾り、酒を酌み交わして祝った。平安時代に日本に伝わり、宮中儀礼として取り上げられた。江戸時代には最も公的な性質を持った行事となり、武家では菊の花を酒に浸してのみ、祝った。民間ではアワ御飯を食べる風習があった。
雑節
二十四節気や五節句の他に季節を正確につかむため、また生活に密着した風習と関連した暦日が登場した。これを雑節と呼ぶ。雑節には以下の季節がある。
節分(せつぶん)
耐寒より十五日目、立春の前日である。元々節分は「節」を分ける立春、立夏、立秋、立冬の前日の呼び名であったが、いつしか立春の前日だけが暦に記載されるようになった。一年の最後の日の意。
彼岸(ひがん)
春と秋の彼岸会のこと。昼夜が等分される春分、秋分だけを意味する場合と、前後三日間を加えた七日間を指す場合がある。元々は仏教における祭事であった物が暦に記載されるようになった。彼岸は太陽が真西に沈むことから仏教の西方浄土説と結びついたと考えられる。
社日(しゃにち)
春分、秋分に最も近い戌(つちのえ)の日を指す。社は生まれた土地の生土神(うぶすがみ)のことを指し、春は豊作の祈願を、秋は収穫のお礼参りをする。
八十八夜(はちじゅうはちや)
立春から数えて八十八目。種まき、茶摘み、養蚕等が忙しい時期を指す。この頃までは霜が降りるため、注意の意味で暦に加えられた。
入梅(にゅうばい)
梅雨が始まる時期。現在では太陽が黄経80度を通過した日を入梅としている。
半夏生(はんげしょう)
梅雨の終わりを意味する。現在では太陽が黄経100度を通過した日を半夏生としている。
土用(どよう)
本来は立春、立夏、立秋、立冬の前の十八日間をこう呼んだが、現在は夏の土用だけを暦に記載する。
二百十日(にひゃくとおか)
立春から数えて二百十日目。この頃稲の花が咲くことから台風の襲来を警戒すべき日として暦に記載された。
二百二十日(にひゃくはつか)
立春から数えて二百二十日目。二百十日と同じ意味。
初午(はつうま)
二月最初の牛の日を指す。江戸時代の稲荷信仰の流行がきっかけで暦に記載されるようになった。
大祓え(おおはらえ)
六月と十二月の晦日に行われる祓えの神事。人の犯した罪や汚れを除き去るために行われる。六月を夏越しの祓え、十二月を年越しの払えと言う。
盂蘭盆(うらぼん)
七月、もしくは八月十五日。元は旧暦の七月十五日に行われた仏事で、先祖の霊を自宅に迎えもてなす行事。十三日夕方の迎え火で始まり十六日の送り火に終わる
二十八宿
天の黄道に沿って選び出された古代中国の二十八の星座を言う。二十八宿はもともと天球上の月の位置を示す目安である。月は特定の恒星の位置に27日7時間3分11.5秒で戻ることから、月の軌道を二十七、もしくは二十八分割して作った純天文学的な暦であった。各星座の区分(距離)は等しくない。月や惑星は黄道(太陽の軌道)付近(一般に「黄道帯」と呼ぶ)を通過し、特に月は一日で一宿を移動すると考えられた。月が居る宿とその月齢から太陽の位置を推定することが出来た為、季節を知る事が出来た。二十八宿の各宿は以下の通り。
角 (かく) |
すぼし。おとめ座α星付近 | 斗 (と) |
ひつきぼし。いて座ψ星付近 | 奎 (けい) |
とかきぼし。アンドロメダ座ζ星付近 | 井 (せい) |
ちちりぼし。ふたご座μ星付近 |
亢 (こう) |
あみぼし。おとめ座κ星付近 | 牛 (ぎゅう) |
いなみぼし。やぎ座β星付近 | 婁 (ろう) |
たたらぼし。おひつじ座β星付近 | 鬼 (き) |
たまおのぼし、ためほめぼし。かに座θ星付近 |
※ (てい) |
ともぼし。てんびん座α星付近 | 女 (じょ) |
うるきぼし。みずがめ座ε星付近 | 胃 (い) |
えきえぼし。おひつじ座35番星付近 | 柳 (りゅう) |
ぬりこぼし。うみへび座δ星付近 |
房 (ぼう) |
そいぼし。さそり座π星付近 | 虚 (きょ) |
とみてぼし。みずがめ座β星付近 | 昴 (ぼう) |
すばるぼし。おうし座17星付近 | 星 (せい) |
ほとおりぼし。うみへび座α星付近 |
心 (しん) |
なかごぼし。さそり座δ星付近 | 危 (き) |
うみやぼし。みずがめ座α星付近 | 畢 (ひつ) |
あめふりぼし。おうし座ε星付近 | 張 (ちょう) |
ちりこぼし。うみへび座υ1星付近 |
尾 (び) |
あしたれぼし。さそり座μ1星付近 | 室 (しつ) |
はついぼし。ペガサス座α星付近 | 觜 (し) |
とろきぼし。オリオン座ψ1星付近 | 翼 (よく) |
たすきぼし。コップ座α星付近 |
箕 (き) |
みぼし。いて座γ星付近 | 壁 (へき) |
やまめぼし。ペガサス座γ星付近 | 参 (しん) |
からすきぼし。オリオン座δ星付近 | 軫 (き) |
みつかけぼし。からす座γ星付近 |
(※はJIS規格外文字)
中国でうまれた二十八宿は、その後中国からインドに伝わり、吉凶を占う二十七宿となった。二十七宿は前述の二十八宿から「牛宿」を除いたものである。二十七宿は唐の時代に七曜と一緒に「宿曜経(すくぎょうぎょう)」として中国に逆輸入された。一般に「宿曜経」は空海により日本にもたらされたと言われているが、高松塚古墳の壁画には天井に二十八宿の諸星が描かれていることから、より古い時代から日本に存在したと考えられるようになった。日本では当初二十七宿として用いられたが、貞享改暦によって二十八宿となった。 二十八宿(二十七宿)では各年の各月の新月がどの宿に在るかが割り振られており、一年で一巡する。逆に、一年が太陽公転周期と大きくずれている太陰暦では、月の宿から季節と月とのずれを読みとり、場合によっては「閏月」を導入する指針に二十八宿を用いた。閏月に関しては前月と同じ宿を用いる。宿と各月の関係は以下の通り。
室 | 正月 | 張 | 七月 |
壁 | 二月 | 角 | 八月 |
胃 | 三月 | ※ | 九月 |
畢 | 四月 | 心 | 十月 |
参 | 五月 | 斗 | 十一月 |
鬼 | 六月 | 虚 | 十二月 |
二十八宿は七曜(月火水木金土日)の四倍であるため、これと組み合わせて寒露、金剛峰、羅刹と言った暦注が出来た。また、中国では二十八宿を東西南北に分け、中華思想の一つである道(タオ)の幻獣に当てはめている(東−蒼龍、南−朱雀、西−白虎、北−玄武)。尚、これらの宿の中心に位置するのは北斗七星であった。これらの幻獣と北斗七星も高松塚古墳の玄室の壁に描かれていた。平安京の朱雀門なども、このような中華思想(風水)に起因する物である。 宿の内もっとも有名なのは昴宿「すばる」である。すばるは「星はすばる」で始まる「枕草子」で有名。昴は和名であり、天文学ではプレアデス星団と呼ぶ。すばるの語源は「統る(すべる)」であり、星が一つの集団にまとまっているところからこう呼ばれる。一部では肉眼で六つの星が見えることから「六連星(むつらぼし)」と呼ばれている。空気の良いところでは肉眼で十四個まで見えることから、最近では文部省などがプレアデス星団の星がいくつ見えるかを元に空気の透明度を調べるため、全国のボランティアに観測を依頼している。 二十八宿は明治六年の太陽暦の採用により暦への記載が禁止されていたが、陰陽道を中
心とした民間信仰にかかせない暦であることから、徐々に復活している。
月と暦
天空に浮かぶ「月」は暦の単位である「月」にも用いられるように、古代より暦の尺度として利用されてきた。これは単に天空の月が周期的に地球の周りを巡る衛星であるばかりでなく、蟹やふぐ、サンゴの産卵、人体リズムなどの生物学的な周期を支配してきた為でもある。一説には火山噴火のピークも月の周期に支配されていると言われる。地球の公転周期が月の公転周期の十二倍に近い事も暦を支配した理由として挙げられる。月は、自転と公転の周期が一致しているため地球に対して殆ど同じ面を見せている。実際には楕円軌道を回るために地球から見える月の表面は50%よりも少しだけ多い。
月は29.530589日で地球を一周する。この時、地球、月、太陽の位置関係によって月が満ち欠けを繰り返す(月だけではなく、地球から見た金星、水星も満ち欠けを繰り返す)。月は以下に挙げるように、月齢によって色々な名称がある。
新月(しんげつ)
旧暦の毎月初日の月。三箇月(みかづき)とも言う。新月は肉眼では見ることが出来ない。昔は朔(さく)と呼んでいたが、西洋のNew
Moonを訳した新月が一般的となったが、もともと新月とは朔が過ぎてから始めて見える細い月、すなわち三日月を新月と呼んでいた。
二日月(ふつかづき)
旧暦の毎月二日目の月。新月と同様、肉眼では殆ど見えない。
三日月(みかづき)
旧暦の毎月三日目の月。肉眼で見える始めての月。俳句の季語は秋で、旧暦八月三日の月を指す。眉月(まゆづき)、蛾眉、虚月、初月、織月等、異名が多い。三日月は新生した月であるため、古代人はそれに霊力があると考えてきた。現在も各地に三日月信仰が残っている。例えば静岡では三日月を見ると病気になるが、この日に豆腐を供えると幸福になるとの言い伝えがある。
既生魄(きせいはく)
旧暦の毎月六日のこと。月の光らない部分がほの白く浮き出た輪郭を言う。「魄」はやがて光り出そうとする月の輪郭のこと。
上弦(じょうげん)
旧暦の毎月七日目の月。真夜中に弦の部分を上にして沈むことから、「上の弓張り(かみのゆみはり)」、「上つ弓張り(かみつゆみはり)」等とも呼ばれる。その他にも「玉鉤(ぎょっこう)」、破鏡などとも呼ぶ。
十日夜(とおかんや)
旧暦の十月十日の月。正確にはこの日に行う収穫祭の祝いを「十日夜」と呼ぶ。刈り入れが終わって山へ帰る田の神を送り出す祭りである。各地で様々な祝い事の習慣が残っている。
十三夜月(じゅうさんやづき)
旧暦の毎月十三日目の月。特に、旧暦九月十三日の月は、旧暦八月十五日の後に来る始めての十三や月であるため、「後(のち)の月」と呼ぶ。十五夜に続いて美しい月とされ、古くから月見の催しが行われた。また、秋祭りの収穫祭と結び付いた祭りが各地で行われている。一般に縁起の良い月と言われている。
小望月(こもちづき)、機望(きぼう)
旧暦の毎月十四日目の月。望月(もちづき、満月のこと)の前夜の月であることからこう呼ばれる。望月に近い(機)月であることから機望とも呼ぶ。また、中秋(または仲秋)の名月の前夜に出る月を待宵(まちよい)と呼ぶ。
満月(まんげつ)、十五夜(じゅうごや)、望月(もちづき)、三五(さんご)
旧暦の毎月十五日目の月。月の全面が光ることを望(ぼう・もち)とよぶため、望月とも呼ぶ。また、十五は三×五であることから三五の月とも呼ぶ。日没と同時に全面が明るい月が東の空に現れる。満月の夜には古くから多くの行事が行われている。特に、旧暦八月十五日の月は、最も月が美しく見える中秋の名月として各地で盛大な月見の行事が行われる。
十六夜(いざよい)、既望(きぼう)
旧暦の毎月十六日目の月。いざよいは「いさ(ざ)よう」を語源とする言葉で「ためらう」と言う意味がある。望が既に終わったことから既望とも呼ぶ。
立待月(たちまちづき)、十七夜月(じゅうしちやづき)
旧暦の毎月十七日目の月。夕方、立ったまま待っていてもそれほど疲れないうちに月が出てくることからこう呼ばれる。また、立待には眠らずに事が成就するのを待つ意味がある。
居待月(いまちづき)
旧暦の毎月十八日目の月。座って待っているうちに月が昇ることからこう呼ぶ。同様の意味で「座待ち月」とも呼ぶ。
寝待月(ねまちづき)
旧暦の毎月十九日目の月。月の出が遅いため、寝て待つという意味からこう呼ばれるようになる。俳句の季語では秋に属す。
更待月(ふけまちづき)、亥中の月(いなかのつき)
旧暦の毎月二十日目の月。夜が更けてからようやく出るところからこう呼ばれる。亥の刻頃(午後十時頃)に月が昇るため、二十日亥中(はつかいなか)、亥中の月等とも呼ぶ。
下弦(かげん)、真夜中の月(まよなかのつき)
旧暦の毎月二十三日目の月。月が沈むとき弦の部分を下にして沈むことから、「下の弓張り(しものゆみはり)」、「下つ弓張り(しもつゆみはり)」等とも呼ばれる。子の刻頃(午前零時頃)に昇ることから「真夜中の月」とも及ばれる。この日、月待ちをする事で願いが叶うことから「二十三夜待ち(にじゅうさんやまち)」と言われる行事が行われた。現在でも祭りをする地域がある。
三十日月(みそかづき)、晦(つきこもり・つごもり)
旧暦の毎月三十日目の月。晦は「月隠(つきこもり)」が変化した物で、月の光が隠れて見えなくなることの意味が転じて、各月の最終日を指すようになった。農村などではこの日に三十日そば(もしくはつごもりそば)を食べるしきたりがあった。また、月末を「みそか」と呼び、年末の日を「おおみそか」と呼ぶのはこのためである。
有明月(ありあけづき)
旧暦の十六日以降に出る月の総称である。夜明けになっても空に月が残っていることを表している。古くから趣深い月とされている。夕月(ゆうづき):夕方に見える月のこと。夕方だけ月が見える夜を夕月夜(ゆうづきよ)と呼ぶ。
既死魄(きしはく)
旧暦の二十三日から月末までの期間のこと。死魄とはやがて光を失っていく月の輪郭のことを言う。