音楽教育ゼミナール 原稿


 
「学校教育のニーズ合ったマルチメディア教育実践ワークショップ」


対象:音楽教員、音楽大学教員。
ニーズ:音楽教育におけるコンピュータの利用にどのようなものがあるか?
1、dtp
2.演奏ソフト
3.作曲ソフト
4.データーベース(鑑賞ソフト)
5.マルチメディアソフト


実際に音楽作品をつくってみよう。
1.ノーテイションソフトによる音符入力
2.画像作品をともなうマルチメディアなホームページの作成。


創造的な活動を重視する音楽教育

 「技術的な発達に伴わない、自己表現の発達」
 自己表現ではなく、教師の指示に従っていることが多い。
 感性は生徒個々に関するものでありながら、歌唱や器楽演奏の領域では、授業が
 集団で行われることが多く、個々の音楽的な感性の育成は不十分である。
 つまり、学校教育においては、再現芸術としての音楽教育は、個人レッスンが
 可能にならなければ、個々に対応した感性の発達は十分に望めない。
  創作、つまり作曲や即興演奏の領域は、生徒個々の自己表現が無くては成立しない
 ものであるが、近年は創造的音楽教育などの方針によって、様々な実践がある。
 特に、学習指導要領の項目にある、「音楽をつくって表現する」の活動内容は重要な意 義を持っている。これに関しては、かつては「ふしづくり教育」があった、最近ではペインターの流れを汲む「創造的音楽教育」のような現代音楽の即興表現による授業が盛んである。

音楽物語作りについて:

物語に合わせた効果音作りになっているのではないか。
 即興演奏における演奏能力の不足、ならびにそれ以上に、作曲能力の欠落がある。
 作曲には自分が想定した音楽を再現する能力が必要である。それは、作曲家がオーケストラ曲を作曲する場合に、まずピアノに向かって、考えたフレーズを弾く能力が必要であることと同じである。また、楽器によって実際の音として演奏できなくとも、楽譜を読んで、内的な聴覚で聞くことができれば、自分の作品を聞くことはできる。(聴覚を失ったベートーベンはこの才能によって、偉大な作品を制作した。)しかし、ほとんどの子供達は、演奏能力やソルフェージュ能力が十分に発達していない現状で、作曲を音楽教育の根幹に置くには、大きな無理があった。
 このような課題が、音楽領域におけるコンピュータの利用によって、解決できることに気付いた現場の教師達は、実際の授業でコンピュータを利用した音楽教育を行っている。
ただ、音楽教育におけるコンピュータ利用に関しては、2つの大きな課題がある。
 1つは、生徒一人一人がコンピュータを利用できるような環境が、十分に整っていないこと(特に音楽データの処理関係)。もう一つは、音楽教員の育成カリキュラムにコンピュータを用いた音楽情報処理の内容がないこと。
 


 音楽教育における近年の動向について:


 1.音楽教育におけるテクノロジーの利用について
 近年の音楽教育における大きな変化といえば、コンピュータの導入に代表される音楽情報の生徒による発信の拡大ではないだろうか。インターネットなどのコンピュータ通信網が盛んにもてはやされるのは、情報の受信者であった個人が、情報の発信者に手軽になれるからである。従来の音楽教育が生徒達にもたらしてきた恩恵は何か?を鑑みるとき、


1)音楽文化の伝達:楽譜と演奏データ(レコード、CD、レザーディスク、VTRなど)
2)音楽技能の育成:歌唱や楽器演奏の能力
3)音楽知識の育成:楽典や作曲技法
4) 音楽的感性の育成:さまざまな音楽文化の鑑賞
5)音楽創造能力の育成:

 などが主なものであり、音楽情報の発信についてはほとんど行われていない。


 また、近年DTMによるコンピュータ音楽を利用した音楽教育が盛んになっているが、それによって音楽教育の新しい側面が実現できるかどうか?について、本格的に論議されてこなかった。

*一方、学校週5日制度の完全実施を控えて、学校教育における全体的なカリキュラムをどうするのかが、大きな問題となっている。現在、情報化社会化はますます発展しており、学校現場にもインターネットなどのマルチメディア環境が整備されつつある。このような状況の中で、音楽の授業で音楽ソフトの使用を試みることだけでは解決できない、現在の学校教育が直面している大きな課題があるように思う。それはマルチメディア情報が氾濫する現在において、音楽メディアだけを取り扱う授業やコンピュータ操作だけを指導するだけでは、生徒自身の生涯教育という視点から見たとき、如何にも不十分であると筆者は考えるからである。マルチメディア情報とは、複合された媒体によって成立するものである以上、マルチメディア教育というものがあってしかるべきである。人間の生活は様々な感覚機能から入力された情報を総合的に知覚・認知して成立している以上、従来の学校教育において教科・科目ごとに分断された内容を、再び複合させることによって、今後のマルチメディア社会に対応できる生徒を育成できるのではないだろうか。

2.学校現場における課題:
1)教科・科目ごとに分離された教育内容を統合する生徒の能力の不足。
 現在の小中高校の生徒は、「ゆとり」を取り戻すべく設定された時間割によって、月に2回の土曜日が休日になった。しかし、教育内容自体は旧来のものから大きな変化がないまま、授業時間だけが軽減されている。これは休日を多くしたために、かえって日々の授業内容を「ゆとり」のない状況に追い込んでいるのではないだろうか?授業時間の軽減によって、各教科・科目では、重要な内容(大学入試に必要な内容)を精選して、集中的に指導することになる。これによって、従来の授業時間で取り入れられていた入試には関係の無い内容(教科・科目に関する補足的事項
1 ) がほとんど切り捨てられてしまっていいるが、さらに重要なのはこの様な状況に関する課題が教育現場での反省があまり見られないということである。学校教育とは、本来、生徒を人間としてあるべき姿に育成する営みであるはずである。しかし、中学校や高校では、卒業後の進路を実現するための入試・入社試験に対応するためのカリキュラムが重視されていることが、本来の教育の姿からは的はずれな教育を必要としているのである。

*教育を子供の手に取り返すために:
 筆者はこれまで高校の音楽教育現場で、画像と音楽作品を同期した作品(マルチメディアアートと呼んでいる)の制作指導を行ってきた。使用しているコンピュータやソフトは最新のものからは、かなり機能が限定されたものであるが、毎年音楽選択の全生徒(約250名)がマルチメディア作品を制作し、優秀作品をコンピュータ通信によって発表している。
 今回は、マルチメディア作品をコンピュータを応用して制作する授業を紹介するとともに、さらに進んだマルチメディア作品の制作のデモを行う。また、受講者によるマルチメディアアートの制作体験を行いたい。

2.音楽教育におけるこれまでのテクノロジーの利用

 現在、我々が日常的に使用しているテレビ・ラジオ・レコードプレイヤー・CDプレイヤーなどは、唱歌教育中心であった音楽教育のカリキュラムに大きな変化をもたらした。それは音楽そのものを記録し、再現できることを可能にしたからである。その後、音楽テクノロジーは2つの大きな転機を迎えることになる。
 その1つが、シンセサイザーの登場である。シンセサイザーは電子的機能によって、音自体を作ることを可能にすることによって、音楽表現の可能性を拡張したと言える。また、入力装置(インターフェイス)がキーボードであっても、様々な音色を表現できるようになった。この成果は、電子オルガンなどに応用された。シンセサイザーの発明は、鑑賞領域に限定されていた音楽テクノロジーの利用を、表現領域にまで応用できるようにしたこととして重要なことである。
 2つめは、音楽テクノロジーにおけるコンピュータの利用である。コンピュータは情報をデジタル化して処理するため、様々な情報を同一のOS(オペレーティングシステム)上で処理できる。例えば、映像や音楽データ・音声・文字などの情報の取り扱いは、これまで各々の情報に応じたメディアが必要であったが、コンピュータではそれらをデジタル情報化することによって、異なる種類の情報を自由に取り扱えるようになった。また、デジタル化された各情報は、コンピュータソフトの発達によって、記録や創作が容易にできるようになった。
 レコードやCD、あるいはテープレコーダーの出現は、歌唱中心であった音楽教育に、鑑賞への道を開いた。シンセサイザーは音色の作成という、新しい音楽領域を開いた。
では、コンピュータは音楽教育に、どのような新しい領域を開くのであろうか?

3.コンピュータによるデジタル社会への対応

 近年、インターネットやDTMが話題になっている。教育現場でも、各学校にインターネットが配備され、DTMを応用した音楽教育が実践されつつある。このような状況は、今や特定の教師の実践や限られた学校におけるものではなくなっている。むしろ、音楽教育学を研究する者の方が、これらの利用に関して知識不足である現状があるように思える。今回は、音楽教育にコンピュータがどのように利用できるのか?を紹介しつつ、今後の音楽教育の方向性を考えてみたい。


4.音楽情報処理の現状と課題:
1)音楽情報科学研究の組織と研究内容

 音楽をコンピュータによって取り扱う研究組織には、ICMC(INTERNATIONAL COMPUTER MUSIC COFERENCE)があり、日本では情報処理学会に所属する音楽情報科学研究会がある。これらの研究会では、音楽をコンピュータによって取り扱う様々な研究や音楽作品の制作発表を行っている。

 イメージ情報科学研究所からの応援:依頼
*サイバー尺八、DMIなどの大阪大学井口研の紹介。
*ホームページの制作指導。

2)市販音楽・マルチメディアソフトについて
 現在、様々な音楽やマルチメディアのソフトが発売されている。
音楽領域では音楽情報の編集・演奏を行うシーケンスソフトがMIDIデータだけでなく、
デジタルオーディオも取り扱える様になっている。また、楽譜制作を行うノーテイションソフト、楽音や音声を取り込んで楽譜に変換するソフト、マウスやキーボードを指揮棒に
例えて、演奏時に音量やテンポ変化を変化させつつ演奏する指揮ソフト、旋律に合った自動伴奏を生成するもの、現代音楽を即興的に演奏するもの、などがある。
マルチメディア領域では、映像や画像とともに音楽情報を編集するソフトや、様々な画像と音楽を選択することによって、簡単にマルチメディアタイトルが制作できる子供用のソフトがある。

 このような多様なソフトを用いる際に問題となるのが、子供達にコンピュータを使って何を学習させたいか?を明確にしておく必要性があることである。音楽を学習するという、従来の音楽教育の方向性に従えば、そこでのコンピュータの扱いは、シーケンサーソフトやノーテションソフト、あるいは音楽情報データーベースに限定される。しかし、今後は子供達による音楽やマルチメディア情報の発信に進展していく必要がある。
 現代社会のデジタルネットワークが可能にしたのが、インターネットを利用した、個人情報の発信である。電子メールによる文字情報の通信が可能になったが、今や音楽情報や画像・映像情報の通信が可能になり、それらはホームページとして、個人情報が世界を駆け巡るようになっている。
 この状況を、音楽教育の領域に反映させて、新たな音楽教育の方向性を考えなければならない時期にきている。


3)インターネットによるマルチメディア情報の取り扱い:

 インターネットが音楽教育にどのような影響を与えるのであろうか?
現在、このことについて、研究すべき時期にきていると言える。

1 このような授業内容が、実は生徒の学習意欲を引き出したように思えるのだが。