演奏 レスリー・ハワード       
タイトル 『リスト ピアノ独奏曲全集 VOL.15 無言歌集 メンデルスゾーン、ベートーヴェン他歌曲編曲』
データ 1990年録音 HYPERION CDA67481/2
>>輸入盤
ジョン・マーティン『幸福の谷のアーサーとエーグル』
DISC INDEX ≪DISC.1≫ ≪DISC.2
収録曲
≪DISC.1≫
ベートーヴェン〜リスト “アデライーデ” Op.46
1. Einsam wandelt dein Freund 3:52
2. カデンツァ 2:53
3. Einst,o Wunder! 3:02
ベートーヴェン〜リスト ゲレルトの詩による6つの歌 Op.48
4. 神の力と摂理 1:09
5. 祈り 1:24
6. 懺悔の歌 4:13
7. 死について 2:42
8. 隣人の愛 1:09
9. 自然における神の栄光 2:30
ベートーヴェン〜リスト 連作歌曲“遥かなる恋人に寄す” Op.98
10. 丘の上に私は座って 2:00
11. 山々の青いところ 1:26
12. 空高く軽やかに舞う鳥 1:12
13. 空高くゆく雲 0:52
14. 5月がめぐってきて 1:58
15. お別れにこの歌を 3:26
ベートーヴェン〜リスト ゲーテによる6つの歌
16. ミニョン                    Op.75 No.1 3:17
17. 彩られたリボンもて            Op.83 No.3 2:49
18. 喜びにあふれ、また悲しみにくれ    Op.84b No.4 1:13
19. メフィストの蚤の歌            Op.75 No.3 2:02
20. 寂しさの喜び               Op.83 No.1 2:07
21. 太鼓をうちならせ            Op.84b No.1 2:33
メンデルスゾーン〜リスト 7つの歌
22. 歌の翼に 3:27
23. 日曜日の歌 1:44
24. 旅の歌 1:51
25. 新しい恋 1:45
26. 春の歌 2:17
27. 冬の歌 0:48
28. ズライカ 2:28
デザウアー〜リスト 3つの歌
29. Lockung 4:14
30. Zwei Wege 1:23
31. スペインの歌 4:14
感想   ベートーヴェン〜リスト “アデライーデ” Op.46  最終バージョン
  S466 1847年
1.あなたの恋人はさびしく春の庭をさまよう  ※1
ベートーヴェンの“アデライーデ”は1794年〜95年にかけて作曲されました。テキストはマッティソンによります。“アデライーデ”は二つの対照的な部分からなる1曲であり、最初は穏やかな美しさを讃えた感じ、まるでベートーヴェンの緩やかに始まるいくつかのピアノソナタのように始まります。

ハワードの解説によると、リストはこの“アデライーデ”を3回編曲しており、基本的に3つのバージョンともベートーヴェンの原曲に忠実なのですが、第2バージョンにおいて最初の部分(#1)の終わりにコーダをつけた、とのこと。そして第3バージョンにおいて、#1から#3に移行する部分に、コーダをより発展させたカデンツァ部#2を作ったとのこと。ハワードは#2のカデンツァ部を区切って観賞できるように、トラックを3トラックに分けて録音しています。

リストは1838年イタリアにおいて、“アデライーデ”を演奏しています※2。また1842年のロシア滞在時にもサンクト・ペテルスブルクにおいて演奏しています
※3

この巻に収められている、ベートーヴェン、シューマン夫妻、メンデルスゾーン、フランツの歌曲編曲について、リストは1874年11月24日 ブライトコプフ&ヘルテル社宛の書簡で、ワーグナーの編曲作品といっしょにまとめて出版する意向を伝えています。その際、楽譜には詩の内容が伝わるように、詩もいっしょに記載すること、ただし“アデライーデ”だけは詩が曲に対して自由すぎる?せいか除くとしています※4。

※1 タイトルの翻訳は、シュライヤー、シフのCDベートーヴェン歌曲集(POCL-1645)の対訳、渡辺護さんの訳を使用しました。
※2 An Artist's Journey  translated amd annotated by Charles Suttoni The Univwrsity Chicago Press 1989 P141
※3 FRANZ LISZT  The Virtuoso Years 1811-1847 Alan Walker Cornell Univwrsity Press 1987 P.376
※4 LETTERS OF FRANZ LISZT VOLUME2
Franz Liszt, letters collected by La Mara and translated by Constance Bache INDYPUBLISH.COM LETTER NO 157

Adelaide  〜Einsam wandelt dein Freund-
(3:52 HYPERION CDA66481/2)
2.カデンツァ
#1から繋がって始まるカデンツァ部です。ここはベートーヴェンの主題によるリストのオリジナル色が強いカデンツァ、ということになります。とても美しい旋律と装飾で彩られ、この曲の最も魅力的な部分とも思えます。

Adelaide  〜Cadenza ad libitum-
(2:53 HYPERION CDA66481/2)
3.いつかわが墓の上にも
#3はリズムの明確な陽気な感じの曲。

Adelaide  〜Einst, o Wunder!
(3:02 HYPERION CDA66481/2)
  ベートーヴェン〜リスト ゲレルトの詩による6つの歌 Op.48
  S467  1840年
ゲレルト(1715−69)はライプツィヒの詩人、学者で、1757年に出版された詩集『宗教的なオードとリート』は多くの作曲家のテキストとなりました。詩集は“祈り”“教会祝日”“賛美”“道徳”“病と死”のグループに分けられており、ベートーヴェンは“教会祝日”以外の4つのグループからテキストを選びました。ベートーヴェンの作曲は1798年から始められ、1802年に完成しました。リストの編曲は原曲の曲順と異なります。

ベートーヴェンの順番 リストによる順番
祈り 神の力と摂理
隣人の愛 祈り
死について 懺悔の歌
自然における神の栄光 死について
神の力と摂理 隣人の愛
懺悔の歌 自然における神の栄光

4.神の力と摂理                 S467/1   1840年
ベートーヴェンの歌曲は、神の栄光を称えるような内容です。短くても力強い曲で、リストはこの曲を序曲の役割に選んだようです。

Sechs geistliche Lieder von Gellert − Gottes Macht und Vorsehung
(1:09 HYPERION CDA66481/2)
5.祈り                 S467/2   1840年
ベートーヴェンの歌曲は、神に対しての祈りの歌です。静かな曲ですが、明確なリズムを持っているため力強さを感じます。

Sechs geistliche Lieder von Gellert − Bitten
(1:24 HYPERION CDA66481/2)
6.懺悔の歌                   S467/3   1840年
ベートーヴェンの歌曲は、タイトルどおり神に罪の許しを乞う内容です。マイナー調でゆったりと始まりますが、後半メイジャー調に変わり、テンポが速く華やかに歌い上げられていきます。原曲において最後を飾るものにふさわしく、この曲集の中で、最も長い曲で、ドラマティックにまとめられています。

Sechs geistliche Lieder von Gellert − Busslied
(4:13 HYPERION CDA66481/2)
7.死について                   S467/4   1840年
ベートーヴェンの歌曲は、人に死について考えをめぐらせるよう促すような内容です。イントロの和声とリズムがとても印象的です。

Sechs geistliche Lieder von Gellert − Vom Tode
(2:42 HYPERION CDA66481/2)
8.隣人の愛                    S467/5   1840年
面白いことに、冒頭の旋律が、リストの“死者の追想”の主題に似ています。曲全体としてはしっかりとした讃美歌のような感じです。

Sechs geistliche Lieder von Gallert - Die Liebe des Nadcheten
(2:42 HYPERION CDA66481/2)
9.自然における神の栄光             S467/6   1840年
リストはこの神の栄光を讃えるスケールの大きな曲を終曲に配置しました。

Die Ehre Gottes aus der Natur
(2:30 HYPERION CDA66481/2)
 ベートーヴェン〜リスト 連作歌曲“遥かなる恋人に寄す” Op.98
 S469 1849年
10.丘の上に私は座って
ベートーヴェンの連作歌曲“遥かなる恋人に寄す”は1816年に作曲されました。テキストはヤイテレスによります。1曲目は牧歌のようなのどかな感じを湛えた中音域の旋律の美しい曲。この曲集はすべての曲が繋がっています。

An die ferne Geliebte 〜 Auf dem hugel sitz ich spahend
(2:00 HYPERION CDA66481/2)
11.山々の青いところ
パガニーニエチュードの第5番に音型が似た作品です。静かなオープニングから徐々にスケールが大きくなっていきます。

An die ferne Geliebte 〜 Wo die Berge so blau
(1:26 HYPERION CDA66481/2)
12.空高く軽やかに舞う鳥
パッセージの早い。軽快な曲です。鳥の優雅な動きをイメージしているのかもしれません。

An die ferne Geliebte 〜Leichte Segler in den Hohen
(1:12 HYPERION CDA66481/2)
13.空高くゆく雲
高音の装飾的な効果が楽しめる作品。

An die ferne Geliebte 〜Diese Wolken in den Hohen
(0:52 HYPERION CDA66481/2)
14.5月がめぐってきて
陽気な春の到来を讃え喜ぶような曲です。“糸紡ぎの歌”のようなトリルの効果が楽しめます。

An die ferne Geliebte 〜Es kehret der Maien
(1:58 HYPERION CDA66481/2)
15.お別れにこの歌を
最後を飾るのは、少し寂しさを湛えた、穏やかな旋律の歌です。エンディングでは第1曲目の主題も登場し、晴々とした感じで終わります。

An die ferne Geliebte 〜Nimm sie hin denn dieser Lieder
(3:26 HYPERION CDA66481/2)
      ベートーヴェン〜リスト ゲーテによる6つの歌 
      S468  1849年    
16.ミニョン                    Op.75 No.1   S468/1
1809年に作曲されたベートーヴェンの“6つの歌”の第1曲です。リストにも同様のテキストを用いて、S275のリーダー曲、S370のオーケストラ伴奏歌曲があります。

ミニョンはゲーテの『ヴィルヘルム・マイスターの修行時代』に出てくる人物です。

Mignon
(3:17 HYPERION CDA66481/2)
17.彩られたリボンもて            Op.83 No.3    S468/2
リストのピアノ独奏曲編曲で聴くと、この曲の冒頭の出だしは、“歓喜の歌”に似ています。ベートーヴェンはこの歌曲を1810年に作曲しました。“ゲーテの詩による3つの歌 Op.83”の第3曲です。

Mit einem gemalten Bande
(2:49 HYPERION CDA66481/2)
18.喜びにあふれ、また悲しみにくれ    Op.84b No.4   S468/3
1809年〜1810年に作曲されたベートーヴェンの劇付随音楽“エグモント”の第4曲“クレールヒェンの歌「喜びにあふれ、また悲しみにくれ」”を編曲したものです。この“喜びにあふれ、また悲しみにくれ”のテキストには、リスト自身も歌曲を作っており、S280になります。

Freudvoll und leidvoll
(1:13 HYPERION CDA66481/2)
19.メフィストの蚤の歌           Op.75 No.3        S468/4
1809年に作曲されたベートーヴェンの“6つの歌”の第3曲です。まるでサイレントのスラップスティック映画に使われそうなおどけた調子の曲です。

テキストはゲーテのファウスト第1部の“ライプツィヒ市のアウエルバッハの酒場”でメフィストーフェレスが歌う詩をつかっています。王様が飼っていた蚤の話しでもあるため、“ 蚤の歌”とも言われます。同じ詩を使って、ブゾーニ、ムソルグスキーも作曲しています。この場面はメフィストーフェレスが、学生達をからかい、その魔力を発揮するという場面です。


リストには、同じテキストを使った世俗合唱曲“むかしむかし王様が”(S74 1844年)という作品があります。

Flohlied des Mephisto (Es war einmal ein Konig)
(2:02 HYPERION CDA66481/2)
20.寂しさの喜び             Op.83 No.1    S468/5
ベートーヴェンはこの歌曲を1810年に作曲しました。“ゲーテの詩による3つの歌 Op.83”の第1曲です。非常に静かな小品です。

Wonne der Wehmut
(2:07 HYPERION CDA66481/2)
21.太鼓をうちならせ           Op.84b No.1   S468/6
1809年〜1810年に作曲されたベートーヴェンの劇付随音楽“エグモント”の第1曲です。これもクレールヒェンのためのソプラノ曲です。この曲もサイレント映画の音楽のような調子を感じます。覚えやすく、親しみやすいものです。

Die Trommel geruhrt
(2:07 HYPERION CDA66481/2)
    メンデルスゾーン〜リスト 7つの歌        S547   1840年
メンデルスゾーンのOp.34は、“6つのリート”で、1832年〜1835年にかけて作曲され、全曲が1836年に出版されています。りすとがそこに2曲加えたOp.19aも1830年に作曲され1834年に出版されています。

メンデルスゾーンの順番(Op.34) リストによる順番(Op.34、19a)
愛の歌 歌の翼に
歌の翼に 日曜日の歌
春の歌 旅の歌
ズライカ 新しい恋(Op.19a)
日曜日の歌 春の歌
旅の歌 冬の歌(Op.19a)
ズライカ
22.歌の翼に                   S547/1  1840年
とてもポピュラーな歌曲の編曲です。原曲の詩はハイネによるもので、1835年に作曲されました。詩の内容は、空想の美しい自然を、2人で旅することを、恋人に歌にのせて優しく語りかけるような感じです。リストの編曲は原曲のゆったりとした世界をそのまま移し変えています。

Sieben Lieder 〜 Auf Flugeln des Gesanges
(3:27 HYPERION CDA66481/2)
23.日曜日の歌     S547/2
テキストはクリンゲマンによります。原曲は1835年に作曲されています。パストラール調ののどかな日曜日を歌った曲のようです。

Sonntagslied
(1:44 HYPERION CDA66481/2)
24.旅の歌         S547/3
テキストはハイネによります。急速な曲で、リストらしいピアノの装飾効果も楽しめます。

Reiselied
(1:51 HYPERION CDA66481/2)
25.新しい恋          S547/4
この曲は、同じ頃に作曲された“6つのリート”Op.19aの第4曲になります。この曲も速度が早く細かい表現が楽しめる作品です。

Neue Liebe
(1:45 HYPERION CDA66481/2)
26.春の歌             S547/5
Op.47の第3曲です。詩はレーナウによります。非常に旋律がキャッチーな曲で、リストの編曲も効果を発揮し魅力的な作品になっています。

Fruhlingslied
(2:17 HYPERION CDA66481/2)
27.冬の歌            S547/6
Op.19 a の第3曲です。原曲のテキストはスウェーデンの詩とのこと。非常に短いですが、もの悲しい旋律にとても魅力があります。

Winterlied
(0:48 HYPERION CDA66481/2)
28.ズライカ            S547/7
Op.34の第4曲です。詩はゲーテによります。“ズライカ”はゲーテの『西東詩集』に収録されています。岩浪文庫P457 の訳者注(小牧健夫)によれば、ゲーテが当時恋愛感情を抱いていたマリアンネ・フォン・ヴィレマーに対して、ズライカというイランの女性名を借りて、その恋慕の思いを詠ったものであり、ゲーテとヴィレマーによる贈答になっています。

哀愁の漂う旋律で、特にオリエンタルな風味があるわけではありません。夜想曲のような感じです。

Suleika
(2:28 HYPERION CDA66481/2)
〜・〜・〜・〜
  デザウアー〜リスト 3つの歌           S485    1846年
29.Lockung              S485/1
ゆるやかなノクターンのような作品で、とても美しい小品です。ショパンの作品のような感じがします。原曲のテキストはアイヒェンドルフによります。

ハワードの解説によればデザウアー(1798年〜1876年)は、昨今ではほとんど忘れられてしまった作曲家で、ショパンの“2つのポロネーズ” Op.26が献呈された作曲家としてしか名前を残していおらず、グローブ音楽辞典の記述と、このリストの編曲作品から推し量るに、すぐれた歌曲作家だったことが分かる、とのこと。

Lockung
(4:14 HYPERION CDA66481/2)
30.Zwei Wege            S485/2
原曲のテキストはジークフリート・カパーによります。リズムのはっきりとした陽気な感じの曲です。

Zwei Wege
(1:23 HYPERION CDA66481/2)
31.スペインの歌            S485/3
原曲のテキストはクレメンス・ブレンターノによります。装飾効果の凝った作品で、明らかにリストのスペイン演奏旅行後の、一連のスペイン風作品と同じスタイルを持っています。

Spanisches Lied
(4:14 HYPERION CDA66481/2)


DISC INDEX DISC.1≫ ≪DISC.2≫
収録曲 ≪DISC.2≫
1. フランツ〜リスト  嵐をおかして彼は来た “12の歌”作品4 第7番 2:34
フランツ〜リスト 葦の歌 作品2
2. Auf geheimen Waldespfaden 1:35
3. Druben geht die Sonne scheiden 3:19
4. Trube wird’s 0:57
5. Sonnenuntergang 1:04
6. Auf dem Teich 1:42
フランツ〜リスト 3つの歌
7. Der Schalk 作品3 第1番 2:42
8. Meerestille  作品8 第2番 1:58
9. Der Bote 作品8 第1番 1:11
10. Durch den wald in Mondenschein 作品8 第3番 2:30
フランツ〜リスト 4つの歌
11. Treibt der Sommer 作品8 第5番 1:04
12. Gewitternacht 作品8 第6番 3:24
13. Das ist ein Brausen und Heulen 作品8 第4番 0:54
14. Fruhling und Liebe 作品3 第3番 1:26
15. ルービンシュタイン〜リスト O!wenn es doch immer so bliebe 作品34 第9番 8:38
16. ルービンシュタイン〜リスト 青いアズラ 作品32 第6番 4:57
ロベルト・シューマン、クララ・シューマン〜リスト 10の歌
I :ロベルト・シューマン
17. クリスマスの歌 作品79 第16番 1:16
18. 歩きまわる鐘  作品79 第17番 1:33
19. 春の訪れ 作品79 第19番 1:40
20. 牛飼の別れ 作品79 第22番 2:08
21. 時は春 作品79 第23番 1:29
22. ただあこがれを知る者だけが 作品98 第3番 2:00
23. 戸口に忍び寄って 作品98 第8番 1:47
II :クララ・シューマン
24. なぜ他の人にたずねるのか 作品12 第3番 1:37
25. Ich hab’ in deinem Auge 作品13 第5番 4:46
26. Geheimes Flustern 作品23 第3番 3:21
27. シューマン〜リスト プロヴァンスの歌 作品139 第4番 1:13
28. シューマン〜リスト 日の光に寄す 作品36 第4番 1:13
29. シューマン〜リスト 私の恋人は赤いバラのようだ 作品27 第2番 2:28
30. シューマン〜リスト 春の夜 作品39 第12番 2:09
31. シューマン〜リスト 献呈(君に捧ぐ) 作品25 第1番 3:18
感想 1.フランツ〜リスト  嵐をおかして彼は来た 作品4 第7番
   S488   1848年
ロベルト・フランツは、ハレの教会のオルガン奏者で、ドイツ・ロマン派のリート作曲家として活躍しました。ハレ大学の音学部長としても活躍しますが、不幸にも人生の半ばで、難聴となり、また精神をわずらったことで、そのキャリアには終止符がうたれてしまいます。フランツの歌曲は、シューマンやメンデルスゾーンからも認められ、そしてリストもまた賞賛を与えた一人でした。
一連のリストによるフランツの歌曲編曲作品を聴いても、オリジナルの歌曲の良さが窺い知れます。

1845年に作られた“嵐をおかして彼は来た”は“12の歌”作品4の第7番で、詩はリュッケルトによります。シンプルな旋律を和声と音域を変えながら、激情に駆られるように突き進む、ロマン派らしい佳曲です。原題は“シュトルム・ウント・レーゲン”ですが、“シュトルム・ウント・ドランク”を思わせるような格好がよく劇的な曲です。

またこのリュッケルトのテキストには、クララ・シューマンも歌曲を作っています。“3つの詩”作品12の第1曲目です。またその曲はシューマンの歌曲集“恋の曙”よりの12の詩の第2曲目に組み入れられます。

Er ist gekommen in Sturm und Regen Op.4 No.7
(2:34 HYPERION CDA66481/2)
         フランツ〜リスト 12の歌   S489   1848年
I : 葦の歌 作品2    S489   1848年
2.Auf geheimen Waldespfaden  S489/1
“葦の歌”はレーナウの詩による作品です。“知られない森の小道を通って”という意味のようで、ハワードの解説を参照すると、詩人は葦のしげみを恋人が歌うのを聴きながら進んでいく情景のようです。この詩にはアルバン・ベルクも歌曲にしている、とのこと。“7つの初期のリート”の第2曲だと思います。

静かな、朝露が草木から滴るような印象を受けます。

Schilflieder 〜 Auf geheimen Waldespfaden
(1:35 HYPERION CDA66481/2)
3.Druben geht die Sonne scheiden   S489/2
“太陽は遠くに沈み”というような意味です。ハワードの解説から詩の内容を類推すると、湖に恋人の姿が映り、悲しみの中、夕星の光を待つ、といった感じです。

少しリズムがはっきりとしている静かな曲です。

Schilflieder 〜 Druben geht die Sonne schieiden
(3:19 HYPERION CDA66481/2)
4.Trube wird’s               S489/3
“陰鬱な雲”が立ち込めるような内容でしょうか。暗い曲調ですが、装飾効果も楽しめる格好のいい曲です。

Schilflieder 〜 Trube wird's
(0:57 HYPERION CDA66481/2)
5.Sonnenuntergang       S489/4
“Sonnenuntergang”は“夕陽、日没”、というような意味です。ここでは悲しみの中で日の沈む情景が歌われます。親しみやすい旋律と、繊細な装飾が美しい小品です。

Sonnenuntergang
(1:04 HYPERION CDA66481/2)
6.Auf dem Teich           S489/5
ハワードの解説を参照すると“湖にて”という意味のようです。物語詩の完結で、月の光に映し出される自然の美しさと、詩人の愛の優しさが歌われるようです。曲は静かに優しく響きます。この詩はメンデルスゾーンが“6つのリート 作品71”で取り上げています。

Auf dem Teich
(1:42 HYPERION CDA66481/2)
 II : 3つの歌
7.Der Schalk 作品3 第1番     S489/6
親しみやすい愛らしい旋律の小品。原曲の詩はアイヒェンドルフによります。

Der Schalk
(2:42 HYPERION CDA66481/2)
8.Meerestille  作品8 第2番    S489/7
“穏やかな海”という意味のようです。詩はアイヒェンドルフによります。ハワードの解説を読むと、詩は自然描写的な内容ではなく、海の神が支配する様を歌っているようで、そのため曲調には力強さと厳粛さがあります。

Meerestille
(1:58 HYPERION CDA66481/2)
9.Der Bote 作品8 第1番      S489/8
“手紙、手紙を渡す人”という意味でしょうか。跳ねるようなリズムの小品。この曲だけではあまり魅力がないのですが、次の曲とリストはつなげてしまっています。

Der Bote
(1:11 HYPERION CDA66481/2)
10.Durch den wald in Mondenschein 作品8 第3番    S489/9
ハワードの解説によれば原曲はハイネの詩により、1枚目のトラック#25の“新しい恋”と同じだそうです。意味は“月夜の中の森を通って”という意味のようです。このトラックの前半は前曲の主題を展開しており、ハワードの演奏で1:15あたりからこの曲の主題に入るのだと思います。#9と#10がいっしょになることで魅力的な作品となります。

Durch den wald in Mondenschein
(2:30 HYPERION CDA66481/2)
III : 4つの歌
11.Treibt der Sommer 作品8 第5番     S489/10
“夏がバラを咲かせる”という意味でしょうか?ハワードの解説によると、過去の幸福を偲び、現在の境遇にため息をついているような雰囲気を持つ曲です。詩はオスターヴァルドによります。

Treibt der Sommer
(1:04 HYPERION CDA66481/2)
12.Gewitternacht 作品8 第6番         S489/11
“嵐の夜”という意味のようです。タイトルのとおり荒くれる力強い曲です。リズムの取り方、旋律線の感じが、#1の“嵐をおかして彼は来た”に似ています。フランツにとって“嵐”の描写、イメージなのでしょう。詩はオスターヴァルドによります。

Gewitternacht
(3:24 HYPERION CDA66481/2)
13.Das ist ein Brausen und Heulen 作品8 第4番    S489/12
テキストはハイネの詩で、悲しみのために嵐の夜に風雨に打たれる少女のことを歌った内容のようです。冒頭がショパンの“木枯らし”のような音効果を持っています。

Das ist ein Brausen und Heulen
(0:54 HYPERION CDA66481/2)
14.Fruhling und Liebe 作品3 第3番        S489/13
テキストはファラースレーベンの詩です。“春と愛”というような意味です。タイトルのとおり控え目な輝きとぬくもりを持った穏やかな曲です。

Fruhling und Liebe
(1:26 HYPERION CDA66481/2)
                〜・〜・〜・〜
15.ルービンシュタイン〜リスト トルコ人はわたしを足で蹴った 
   作品34 第9番      S554/1    1880年 演奏会バージョン
“ミルザー・シャフィによる12の歌”の第9番です。ミルザー・シャフィはペルシアの詩人とのこと。ルービンシュタインはこの曲を1854年に作曲しました。リーダー曲をもとにしているにしては長い曲です。ゆったりとした曲で、細やかな装飾音が楽しめます。ペルシアの詩にしてはエキゾチックさがそれほどありません。

O! wenn es doch immer so bliebe
(8:38 HYPERION CDA66481/2)
16.ルービンシュタイン〜リスト 青いアズラ 作品32 第6番
   S569  1872年  
ルービンシュタインの“6つの歌”はハイネの詩により、1856年に作曲されました。静かな曲で神秘的な雰囲気を持っています。

Der Asra
(4:57 HYPERION CDA66481/2)
ロベルト・シューマン、クララ・シューマン〜リスト 10の歌   S569 1872年
I :ロベルト・シューマン
17.クリスマスの歌 作品79 第16番         S569/1
“少年のための歌のアルバム”Op.79の第16番目の曲です。1849年に作曲されました。詩はアンデルセンによる曲です。とても簡単な曲で、1ブロックを2度繰り返して終わります。

Weihnachtslied
(1:16 HYPERION CDA66481/2)
18.歩きまわる鐘  作品79 第17番        S569/2 
“少年のための歌のアルバム”Op.79の第17番目の曲です。テキストはゲーテによる歌曲です。四角張ったリズムの明確な、すこし哀愁のある旋律です。

ハワードの英訳だと、“The Changing Bell”となっており、独和辞典で確認すると“Wandelnde”には、“Change”と“Haunting”の両方の意味があるようです。

ハワードの解説からは、少年が鐘が歩いて教会へ入っていくという夢に恐れおののく、という内容が読めるので、“Haunting”の意だと思うのですが。

Die wandelnge Glocke
(1:33 HYPERION CDA66481/2)
19.春の訪れ 作品79 第19番       S569/3 
“少年のための歌のアルバム”Op.79の第19番目の曲です。テキストはファラースレーベンによります。まるで印象派を思わせるような旋律線が耳に残ります。静かなノクターンのような曲です。

Fruhlings Ankunft
(1:40 HYPERION CDA66481/2)
20.牛飼の別れ 作品79 第22番       S569/4 
“少年のための歌のアルバム”Op.79の第22番目の曲です。テキストはシラーによります。この詩は『ヴィルヘルム・テル』からのもので、リスト自身もこの詩に対して、シューマンよりも早い1845年に、“シラーのヴィルヘルム・テルによる3つの歌曲”の第2曲“羊飼”(S292/2)として歌曲を作曲しています。

シューマンの作品も、のどかな牧歌的な自然を背景にしたような作品です。

Des Sennen Abschied
(2:08 HYPERION CDA66481/2)
21.時は春 作品79 第23番          S569/5 
“少年のための歌のアルバム”Op.79の第23番目の曲です。テキストはメーリケによります。旋律の親しみやすい小品です。冒頭の伴奏の和声と、続く旋律に魅力があります。

Er ist's
(1:29 HYPERION CDA66481/2)
22.ただあこがれを知る者だけが 作品98 第3番         S569/6 
“ゲーテの『ヴィルヘルム・マイスター』によるリート”Op.98aの第3曲です。このリート集は第1部がリート集で9曲あり、第2部としてミニョンのためのレクイエムとして管弦楽伴奏の合唱曲が作られています。シューマンはこの作品を1849年に作曲しました。

情感のこもった非常に美しい旋律の小品です。

Nur wer die Sehnsucht kennt
(2:00 HYPERION CDA66481/2)
23.戸口に忍び寄って 作品98 第8番         S569/7
“ゲーテの『ヴィルヘルム・マイスター』によるリート”Op.98aの第8曲です。おそらくこのテキストは『ヴィルヘルム・マイスターの修行時代』第5巻第14章で竪琴弾きの歌だと思います。中音域の悲しげな旋律と、控え目な装飾が魅力的な曲です。

An die Turen will ich schleichen
(1:47 HYPERION CDA66481/2)
II :クララ・シューマン
24.なぜ他の人にたずねるのか 作品12 第3番       S569/8  
原曲はリュッケルトの詩による歌曲です。どことなく“献呈”の主題にも似ています。

Warum willst du andere fragen?
(1:37 HYPERION CDA66481/2)
25.Ich hab’ in deinem Auge 作品13 第5番          S569/9 
“君の瞳に永遠の愛を見た”という意味でしょうか。これもとても静かな曲です。

Ich hab' in deinem auge
(4:46 HYPERION CDA66481/2)
26.Geheimes Flustern 作品23 第3番             S569/10
“神秘的なささやきがあらゆるところに”という意味でしょうか。クララ・シューマンの3曲は、慈しみに溢れた、控え目な優しさに包まれています。リストもおそらく原曲に忠実に編曲したのだろうと思います。

Geheimes Flustern
(3:21 HYPERION CDA66481/2)
〜・〜・〜・〜
27.シューマン〜リスト プロヴァンスの歌 作品139 第4番
     S570  1881年
原曲のテキストはウーラントによるものとのこと。ハワードはこの編曲が晩年にされていることに興味を持っています。跳ねるようなリズムのおどけた感じの曲です。

Provencalisches Minnelied
(1:13 HYPERION CDA66481/2)
28.シューマン〜リスト 日の光に寄す 作品36 第4番   
   S567  1861年
1840年に作られた“6つのリート”の第4番です。原曲のテキストはライニックによるものです。リズムの強調されたポロネーズのような曲です。この曲は次のトラック29とつながっています。この作品の中間部にリストによって#29の曲が組み込まれているような感じです。

An den Sonnenschein
(1:13 HYPERION CDA66481/2)
29.シューマン〜リスト 私の恋人は赤いバラのようだ 作品27 第2番  
   S567 1861年
1840年に作られた“リートと歌 第1集”の第2曲です。テキストはバーンズによるものです。静かな曲ですが、#28の中間部に組み込まれても違和感がないような、少しリズムの明確な曲です。そして#28に戻って曲は終わります。

Rotes Roslein
(2:28 HYPERION CDA66481/2)
30.シューマン〜リスト 春の夜 作品39 第12番     S568  1872年
1840年に作られた“リーダークライス”の第12曲です。詩はアイヒェンドルフによります。細かくリズムを刻む高音の装飾がまるで夜桜の花吹雪のような美しさを持っています。主旋律が、エディット・ピアフの歌った“愛の賛歌”を思わせます。

Fruhlingsnacht
(2:09 HYPERION CDA66481/2)
31.シューマン〜リスト 献呈(君に捧ぐ) 作品25 第1番   演奏会バージョン
   S566  1848年
歌曲集“ミルテの花”(作品25)の第1曲目です。“ミルテの花”は、1840年9月11日クララ・ヴィークとの結婚式の前夜に、彼女に捧げられました。詩はリュッケルトによります。恋人を称えるようなストレートな愛の歌です。

シューマンの原曲も輝かしいピアノ伴奏の歌曲ですが、リストの編曲はさらに輝かしいアレンジになっています。このような点を、リストは“曲の真意を理解せずに、派手に飾り立てた”と非難する向きがありますが
※1、次のように考えることも出来ると思います。リストの歌曲編曲のパターンとして、(1)そのまま編曲するパターン、と(2)人間の声の持つ力を、ピアノ全体で表現しようとするパターン、の2つがあると思います。人間の声をそのまま、減衰するピアノの単音旋律に移しかえるだけでは、曲の持つ力を伝えられない場合があるからです。“歌の翼に”のようなヴォーカルパートも静かな歌曲の場合、リストは素直にそのまま編曲しています。

※1 かく言うシューマン自身も、リストについてこのようなことを述べています。『音楽と音楽家』岩波文庫P.136

“献呈”の編曲には、第56巻に収められている原曲に近いS566aもあります。

1884年6月20日のマスタークラスにおいて、リストは“献呈”を弟子達の前で演奏しています。ゲレリヒによると“マスターはこの曲を輝かしく、すばらしく熱情的に演奏した”とのこと
※2

※2 Diary notes of August Gollerich 『The Piano Master Classes of Franz Liszt,1884-1886』edited by Wilhelm Jeger ,translated by Richard Louis Zimdars (Indiana University Press ,1996) P49

Widmung
(3:18 HYPERION CDA66481/2)


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