演奏 レスリー・ハワード       
タイトル 『リスト ピアノ独奏曲全集 VOL.8 クリスマスツリー』
データ
1989年録音 HYPERION CDA66388
ジャケット ロシアのクリスマスの絵画『屋根に猫が飛び乗り、トナカイに何か言いたがっているかのよう』
収録曲
  クリスマスツリー全曲
1.古いクリスマスの歌
2.おお聖なる夜
3.飼葉桶のそばの羊飼いたち
4.誠実な人びとよ来たれ(東方三博士の行進)
5.スケルツォーソ
6.カリヨン
7.子守歌
8.古いプロヴァンスのクリスマスの歌
9.夕べの鐘
10.昔々
11.ハンガリー風
12.ポーランド風

13.クリスマスの歌

 十字架の道行
14.王の旗は先立ち
15.留1 “イエスは死刑の宣告を受ける”
16.留2 “イエスは十字架を持ち上げる”
17.留3 “イエスは初めて倒れる”
18.留4 “イエスは聖母マリアに会う”
19.留5.“クレネのシモンはイエスが十字架を運ぶのを手伝う”
20.留6 “ヴェロニカはイエスに布を差し出す ”
21.留7 “イエスは再び倒れる”
22.留8 “イエスはイェルサレムの婦人達を慰める”
23.留9 “イエスは三たび倒れる”
24.留10 “イエスは服を剥ぎ取られる”
25.留11 “イエスは十字架に打ち付けられる”
26.留12 “イエスは十字架上で息絶える”
27.留13 “イエスは十字架から降ろされる”
28.留14 “イエスは墓に入れられる”


  コラール(12の古いドイツの宗教的旋律よりNO2〜12)
29.祝福されし十字架
30.イエス・キリスト
31.わが魂は神を崇める
32.いざ、もろびとよ神に感謝せよ
33.今、すべての森は憩いて
34.血潮したたる主の御頭
35.おお汚れなき神の小羊
36.おお悲しみよ
37.王の旗は先立ち
38.神のみわざは善きかな
39.ただ愛する神の摂理にまかす者
S186













S502

S504 a
















S504 b











感想  クリスマスツリー全曲        S186      1876年
リストが孫娘のダニエラ(コージマの娘)のために書いた作品集です。1875年11月20日のオルガ宛書簡で“クリスマスツリー”を作曲し始めたことに触れられています。

クリスマスツリーに収められている曲はすべて、どこか夢見心地のような、まどろんでいるときに見る幻想的な光景のような感じがあります。それはとても微妙で繊細なニュアンスで、それが見事に実現されている傑作です。

ダニエラのためといっても、子どもが容易に弾けるものではないと思います。リストは“クリスマスツリー”をピアノ連弾曲に編曲しています。それを孫と連弾することがリストの一番の目的だったのでしょうか?

また“クリスマスツリー”は、最初の4曲についてはハーモニウムで演奏しても可の指示があります。

Weihnachtsbaum
(Total 33:15 HYPERION CDA66388)
1.古いクリスマスの歌
曲集のオープニングにふさわしい明朗な和声の力強い美しさを持つ曲です。曲集の中で最もキャッチーな旋律を持ち、旋律のすべてがクリスマスをイメージさせます。第2主題はスズを鳴らしているかのような旋律です。この曲で使われている主題はミヒャエル・プレトーリウス(1571−1621)が作曲したコラールの主題とのこと。プレトーリウスはドイツの初期バロックの最大の音楽家です。著書『音楽大全』は世界初の音楽辞典とのこと。

Weihnachtsbaum〜Pasallite
(1:55 HYPERION CDA66388)
2.おお聖なる夜
1曲目に比べて静かな曲です。“巡礼の年 第1年 スイス”の曲、“リヒャルト・ワーグナーの墓に”を似た旋律が出てくるように思いました。のどかな情景描写と、晩年のリストらしい思索的な表情とを合わせもつ美しい小品です。この曲は合唱曲(S−)にも編曲されているようです。

Weihnachtsbaum〜O heilige Nacht!
(3:37 HYPERION CDA66388)
3.飼葉桶のそばの羊飼いたち
続く曲も“巡礼の年 第1年 スイス”の“泉のほとりで”や“パストラール”を思い出させます。主旋律がやはりクリスマスらしい楽しげな曲です。この曲は有名な古いクリスマス・キャロルの主題を使っているとのこと。

Weihnachtsbaum〜Die Hirten an der Krippe(In dulci jubilo)
(2:30 HYPERION CDA66388)
4.誠実な人びとよ来たれ(東方三博士の行進)
4曲目で雰囲気が少し変わります。イントロは晩年のリストの作品に見られるような暗く重い旋律です。ただ全体の曲調にはやはり明るさが感じられます。#3と同じく有名なクリスマス・キャロルを題材にしたものとのこと。

東方三博士は占星術の学者で、イエス・キリストが生誕したときにベツレヘムの星を目撃し、産まれたばかりのイエスを見に巡礼にくる人たちです。そのためクリスマスに関係して歌われるようです。また絵画などでも繰り返し使われているモティーフです。

Weihnachtsbaum〜Adeste fideles:Gleichsam als Marsch der heiligen drei Konige
(2:57 HYPERION CDA66388)
5.スケルツォーソ(クリスマスツリーに点火するとき)
再びクリスマスらしいイメージの曲となります。楽しげな様子が描かれているようです。輝かしい響きとユーモラスな表情が楽しめます。

Weihnachtsbaum〜Scherzoso:Man zundet die Kerzen des Baumes an
(2:05 HYPERION CDA66388)
6.カリヨン
カリヨンというのは、教会にある音調を整えた、旋律を奏でる組み鐘のことです。教会の鐘の音はこれほど豪華なのでしょうか?シャンデリアのような輝きを放つ美しい曲です。幻想的な色彩を持つ曲です。まるで目の前に、突然、幻影が現れたかのように“はっ”とさせる美しさを持ちます。

Weihnachtsbaum〜Carillon
(1:42 HYPERION CDA66388)
7.子守歌
単音旋律によるシンプルなイントロから、まどろみを促す小波のような中音域の伴奏の上に、旋律を奏でていきます。曲の途中で終ってしまう不思議な感じがあります。

Weihnachtsbaum〜Schlummerlied
(2:42 HYPERION CDA66388)
8.古いプロヴァンスのクリスマスの歌
少しエキゾチックな主題と、明確なリズムを持つ曲です。ここで使われている主題は古いフランスのキャロルとのこと。

Weihnachtsbaum〜Altes provenzalisches weihnachtslied
(1:28 HYPERION CDA66388)
9.夕べの鐘
ゆるやかで静かな曲です。途中、拍子が何回か変わる感じがとても面白いです。

Weihnachtsbaum〜Abendglocken
(3:29 HYPERION CDA66388)
10.昔々
メランコリックでアンニュイな舞踏曲調の曲です。中盤から華麗に盛上がる感じは、晩年の“忘れられたワルツ”(S215)を思い出させます。

なぜか10曲目はリストとヴィトゲンシュタイン侯爵夫人が出会った頃の思い出を描いたもの、11曲目はリスト自身を表わしたもの、12曲目はポーランド出身のヴィトゲンシュタイン侯爵夫人を表わしたものと、言われてきました
※1。ですが曲を聴いて、そのような感じを持つのは難しいです。ハワードの解説によると、どうもこのような捉え方をしたのはハンフリー・サールで、ハワードは“確かにそうかもしれないが、現在の研究者は(そのことを証明する)有力な資料を見付けられない”と述べており、ハワード自身も少し否定的な立場のようです。

※1 属啓成さんもそっくりその考え方をとっています。リスト『作品篇』 P.21。またドレーク・ワトソンも簡単な記述ですが、同じ考えです。

Weihnachtsbaum〜Ehemals!
(2:55 HYPERION CDA66388)
11.ハンガリー風
あまりクリスマスのイメージを感じない曲です。リストの他のハンガリー風の重々しい曲などと性格が類似しています。また旋律が高音に到達するところでは“メフィストワルツ第2番”(S515)を思わせます。

サールの捉え方に反論する根拠として、ハワードが指摘している点は、この曲が特別にコルネル・アブラニーに献呈されているという点です。

ハンガリー風の曲をリストは数多く書いており、この曲だけを“リスト自身”と考えるのは、あまりピンときません。それほど“クリスマスツリー”作曲と離れていない1869年に、リストは“ブロックヴィル侯爵夫人の肖像”(S190)という、“音楽による肖像”という明確なコンセプト・ミュージックを手がけています。音楽による肖像を作るのならば、何か過去の主題を取り入れたり、という仕掛けをしたのではないでしょうか?

Weihnachtsbaum〜Ungarisch
(1:44 HYPERION CDA66388)
12.ポーランド風
エレガントな旋律で始まり、不可思議な感じ、そして“メフィストワルツ”のようなネガティブさを併せ持つ曲です。この曲もあまりクリスマスのイメージを感じません。

ハワードは、この曲のエレガントな感じ、マズルカのリズムを持つ点に着目してでしょうか、ヴィトゲンシュタイン侯爵夫人が“タバコを吸い、難解で不明瞭な教会問題に没頭し、おそらくはダンスなどできなかった”と皮肉っぽく述べ、この曲が、ヴィトゲンシュタイン侯爵夫人と関係ないのでは・・・という立場のようです。

この曲をヴィトゲンシュタイン侯爵夫人を表わしていると考えると“おかしいな”と思う点はまず作曲年代です。“クリスマスツリー”の作曲は、スケッチが1866年、本格的には1874〜76年です。リストとヴィトゲンシュタイン侯爵夫人は1861年の結婚の計画に挫折し、お互いの感情には距離が生じています(もちろん親交はその後も続きます)。1861年以降に、ヴィトゲンシュタイン侯爵夫人のことを想うような曲を書く、と考えることには首を傾いでしまいます。

また人間関係から考えても、ピンときません。“クリスマスツリー”はコージマの娘のダニエラのために作曲されており、コージマの母は、コージマと仲が芳しくなかったとはいえ、マリー・ダグーです。マリー・ダグーの孫にあたるダニエラのための曲集に、ヴィトゲンシュタイン侯爵夫人の肖像のような曲をいれることは、あまり釈然としません。

Weihnachtsbaum〜Polnisch
(5:42 HYPERION CDA66388)
13.クリスマスの歌           S502      1864年
シンプルなリズムのクリスマスキャロルです。2拍子のシンプルなリズムは“コラール”(S504b)の曲調と似ていると思います。ハワードによるとリストはこの曲を、他に3つの異なるバージョンで合唱曲として作っている、とのことですが、どの曲かわかりませんでした。“クリスマスの歌(おお聖なる夜)”(S−)は違うと思います。

Weihnachtslied
(0:47 HYPERION CDA66388)
  十字架の道行            S504 a       1878〜79年頃
“十字架の道行”はオルガン伴奏の合唱曲版(S53)、ピアノ伴奏の合唱曲版(S53a)、オルガン独奏版(S674a)があります。楽譜は一つで、このS504aのピアノ独奏版も含め、4つの演奏形態が指示されているとのこと。一番有名なのがオルガン伴奏の合唱曲版だと思います。

リストは1866年にローマの聖フランチェスカ・ロマーナ教会に住んでいる頃に、作曲を着手し、
1878年の夏にエステ荘で完成させました。ローマに住んでいる頃、コロッセウムで開催された“十字架の道行”の務めに参列し、感銘を受けたことが作曲の契機のようです。テキストはヴィトゲンシュタイン侯爵夫人によって選ばれ、1877年に書簡でリストはヴィトゲンシュタイン侯爵夫人に、優れたテキストを選んでくれたことに感謝しています。

刑の宣告を受けたイエス・キリストが、自身が磔となる十字架を背負いゴルゴダの丘まで運んでいく情景が、“十字架の道行”です。これは14の留(Station)に分けられ(11やその他の数の場合もあるそうです)、教会などではそれぞれの絵、あるいはレリーフなどが飾られており、信者は少数のグループに分かれ、それぞれの留の前で祈りを捧げるとのこと。

ポール・メリック(マシュー・ベスト指揮の合唱曲版のCDライナー)によると、十字架を表わす“G−A−C”のモティーフが全体で使われ、リストの他の宗教的作品でも使われているとのこと。短いモティーフなので、使われているすべての作品(メリックはファウスト交響曲やソナタまでをも・・)を関連付けるのは難しいと思うのですが・・・。

この曲は“7つの秘跡”(S52)“ロザリオ”(S56)とともにプステート社から出版を拒否されました。

Via crucis
(Total 29:28 HYPERION CDA66388)
14.王の旗は先立ち
“コラール”(S504b)の9曲目と同じ旋律が使われています。この旋律はS504bよりも親しみやすいアレンジとなっています。力強い導入で、合唱曲版ではオルガンのリードに続いて混声合唱で歌われる箇所です。

Via crucis〜Vexilla Regis
(2:48 HYPERION CDA66388)
15.留1 “イエスは死刑の宣告を受ける”
迫力のある旋律が、恐ろしい刑の宣告を表わします。合唱曲版のオルガンの場合、さらに恐ろしさが強調されます。合唱曲版の場合、この導入が終った後に、男声ソロがピラトの言葉を一句無伴奏で歌い上げます。ピアノ伴奏版ではそれは奏でられていません。

Via crucis〜Station I:Jesus est condamne a mort
(0:50 HYPERION CDA66388)
16.留2 “イエスは十字架を持ち上げる”
そして苦痛に満ちた行進が始まります。低音部の不穏に満ちた伴奏が続きます。合唱曲版では途中で、伴奏を伴わずに、イエスの悲痛な叫びを思わせるバスの短い独唱が入ります。

Via crucis〜Station II:Jesus est charge de sa croix
(2:17 HYPERION CDA66388)
17.留3 “イエスは初めて倒れる”
イエスが倒れ、その後聖母マリアが現れる場面が描かれます。合唱曲版では、最初のイエスの倒れる場面が力強い男声合唱、その後、聖母マリアの優しさと悲しみを女声合唱で静かに歌われます。ピアノ独奏版もそのように演奏されます。

Via crucis〜Station III:Jesus tombe pour la premiere fois
(0:55 HYPERION CDA66388)
18.留4 “イエスは聖母マリアに会う”
深い慈愛の感情を、神秘的な和声と旋律が奏でます。合唱曲版では留4は歌は入りません。

Via crucis〜Station IV:Jesus rencontre sa tres sainte mere
(1:23 HYPERION CDA66388)
19.留5.“クレネのシモンはイエスが十字架を運ぶのを手伝う”
イエスが倒れ、力尽きたと思われたため、たまたま居合わせたシモンが手助けすることになります。後半で、留2の“行進”を表わす主題にうつり、受難の行進が再び始まる様子が描かれます。合唱曲版では留5は歌は入りません。

Via crucis〜Station V:Simon le Cyreneen aide Jesus a porter sa croix
(2:03 HYPERION CDA66388)
20.留6 “ヴェロニカはイエスに布を差し出す”
ヴェロニカがイエスの悲惨な様子を憐れみ、イエスに布を差し出し、イエスがその布で顔を拭う場面が描かれます。ここは合唱曲版では混声合唱で力強く歌われる箇所です。“コラール”(S504b)の6曲目と同じ旋律が使われています。

Via crucis〜Station VI:Sancta Veronica
(2:00 HYPERION CDA66388)
21.留7 “イエスは再び倒れる”
アレンジ、和声が一部異なりますが、ここは留3と同じ場面で、同じ曲が使われます。

Via crucis〜Station VII:Jesus tombe pour la seconde fois
(0:55 HYPERION CDA66388)
22.留8 “イエスはイエルサレムの婦人達を慰める”
苦難の行進を続けるイエスを、憐れむ女性達にイエスが言葉をかける場面が描かれます。合唱曲版では途中で、イエスの言葉が伴奏を伴わずバリトン独唱で歌われます。ですがこの独唱部分はピアノ独奏版にはありません。

Via crucis〜Station VIII:Les femmes de Jerusalem
(1:36 HYPERION CDA66388)
23.留9 “イエスは三たび倒れる”
アレンジ、和声が一部異なりますが、ここは留3、留7と同じ場面で、同じ曲が使われます。

Via crucis〜Station IX:Jesus tombe une troisieme fois
(0:59 HYPERION CDA66388)
24.留10 “イエスは服を剥ぎとられる”
磔にされるために、イエスが服を剥ぎ取られる場面です。

楽譜の草稿にリストは、ワーグナーの“パルジファル”でアンフォルタスが引用する“同情によりて智を得る”という言葉を、書き記しているとのこと。ここは半音階進行の深く沈みこむような場面です。真中あたりで、留6のヴェロニカの旋律が登場するとのことですが、ちょっとわかりませんでした。

Via crucis〜Station X:Jesus est depouille de ses vetements
(1:31 HYPERION CDA66388)
25.留11 “イエスは十字架に打ち付けられる”
そしてイエスは十字架に磔られます。恐怖に満ちた音楽がその情景を描きます。

Via crucis〜Station XI:Jesus est attache a la croix
(0:37 HYPERION CDA66388)
26.留12 “イエスは十字架上で息絶える”
そしてイエスは十字架上で息絶えます。受難の時が終り安らぎが訪れる場面が描かれます。合唱曲では、バリトン独唱とオルガン独奏が交互に奏され、最後に美しい女声合唱、力強い混声合唱が、イエスが天に召されたことを歌います。“コラール”(S504b)の8曲目と同じ旋律が使われています。

Via crucis〜Station XII:Jesus meurt sur la croix
(4:57 HYPERION CDA66388)
27.留13 “イエスは十字架から降ろされる”
イエスの体は十字架から降ろされます。ここでは留4で使われた聖母マリアの旋律が登場します。つまり聖母マリアに抱かれるイエスの場面が描かれます。これは音楽による“ピエタ”の場面です。

Via crucis〜Station XIII:Jesus est depose de la croix
(2:19 HYPERION CDA66388)
28.留14 “イエスは墓に入れられる”
最初の“王の旗は先立ち”の旋律に戻り、エピソードをまとめます。合唱曲版では女声独唱と混声合唱が交互に歌うかたちです。

“十字架の道行”は素晴らしい宗教的感動に満ち、新ドイツ学派の作風と、教会音楽が見事に合致した傑作だと思います。

Via crucis〜Station XIV:Jesus est mis dans le sepulcre
(4:10 HYPERION CDA66388)
  コラール(12の古いドイツの宗教的旋律よりNO2〜12)   S504 b 1878〜79年頃
この曲は合唱曲“12の古いドイツの宗教的旋律”(S50)から2〜12曲目、計11曲を編曲したものです。合唱曲といっても、大きなものではなく、ハワードも“プライヴェート”での演奏を目的としたものではないか、と考えているようです。どの曲も1分ぐらいのものです。家族や知人たちとプライヴェートで歌ったのでしょうか?僕には“レスポンソリウムとアンティフォナ”(S30)をもう少し音楽的に色付けしたような作品に感じました。“レスポンソリウムとアンティフォナ”(S30)がリスト個人のためのものなら、“コラール”(S504b)は家族、身内のためのもののような感じと思いました。

“血潮したたる主の御頭”“王の旗は先立ち”“おお悲しみよ”の3曲は“十字架の道行”(S53)にも入っています。“コラール”と“十字架の道行”はどちらが先かは分からないとのこと。ピアノ独奏版(S504a)で考えると、“血潮したたる主の御頭”は留6(ハワードのCDでは#34=#20)“王の旗は先立ち”は第1曲目と留14(CD#37=#14=#28)、“おお悲しみよ”は留12の後半(CD#36=#26)となります。“十字架の道行”の方がより発展したアレンジであることは間違いありません。

曲順は“はっきりしない”とのこと。そのため現代に入って初出版された際、アルファベット順に並べられています。ですが辞典では“12の古いドイツの宗教的旋律”(S50)の方は順番があるようですが・・・。その順番に従うと次のようになります。

コラール(S504b)〜12の古いドイツの宗教的旋律(S50)の順による トラック
神はわれらを祝福す
神よ、われらを憐れみたまえ 31
今すべての森は憩いて 33
血潮したたる主の御頭 34
おお汚れなき神の小羊 35
神のみわざは善きかな 38
ただ愛する神の摂理にまかす者 39
王の旗は先立ち 37
祝福されし十字架 29
10 おお悲しみよ 36
11 いざ、もろびとよ、神に感謝せよ 32
12 イエス・キリスト 30

ですが並べ替えて聴いても、特別な効果は感じませんでした。もともとがランダムに集めた曲集のようです。

Chorale
(Total 12:35 HYPERION CDA66388)
29.祝福されし十字架
穏やかで安らぎに満ちた曲です。

Chorale〜Crux ave benedicta
(1:21 HYPERION CDA66388)
30.イエス・キリスト
マイナー調の悲しみを湛えた曲です。2コーラス目での半音階の使い方が印象に残ります。

Chorale〜Jesu Christe:Die funf Wunden
(1:29 HYPERION CDA66388)
31.わが魂は神を崇める(神よ、われらを憐れみたまえ)
これもマイナー調の静かな曲です。

Chorale〜Meine seele erhebt den Herrn(Der Kirchensegen,Psalm 67)
(0:48 HYPERION CDA66388)
32.いざ、もろびとよ神に感謝せよ
力強く明るさをもった曲です。この曲は1883年に、リガ大聖堂のヴァルカー・オルガン奉献式のために作曲されたオルガン曲“いざ、もろびとよ神に感謝せよ”(S−)の中でも使われます。また1883年に合唱曲版(S−)も作曲されています。

Chorale〜Num danket alle Gott
(0:38 HYPERION CDA66388)
33.今すべての森は憩いて
後半の高音の単音旋律が他の曲に比べ変化を感じます。

Chorale〜Num ruhen alle Walder
(1:03 HYPERION CDA66388)
34.血潮したたる主の御頭
マイナー調の確固たる力強さを持つ曲です。これは“十字架の道行”(S53)では留6“ヴェロニカはイエスに布を差し出す”でも使われます。

Chorale〜O Haupt voll Blut und Wunden
(1:09 HYPERION CDA66388)
35.おお汚れなき神の小羊
明るい素朴な響きを持った曲です。明確なエンディングを持ちます。

Chorale〜O Lamm Gottes(am Karfreitag)
(1:11 HYPERION CDA66388)
36.おお悲しみよ
半音階進行を一部使用した旋律が魅力です。これは“十字架の道行”(S53)では留12“イエスは十字架で息絶える”の後半でも使われます。

Chorale〜O Traurigkeit
(1:15 HYPERION CDA66388)
37.王の旗は先立ち
力強くかっこいい曲です。この曲はアレンジをかなり変えて“十字架の道行”(S53)の第1曲目、及び留14でも使われます。

Chorale〜Vexilla Regis
(1:19 HYPERION CDA66388)
38.神のみわざは善きかな
メイジャー調の明るい曲で、高音の明瞭な旋律線が魅力です。

Chorale〜Was Gott tut,das ist wohlgetan
(1:03 HYPERION CDA66388)
39.ただ愛する神の摂理にまかす者
憂いを帯びたマイナー調の曲です。

Chorale〜Wer nur den Lieben Gott lasst walten?
(0:57 HYPERION CDA66388)


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