☆☆N−1★★       マッスルike


・始まり

 外からの明かりが届かない暗く、誰もいない部屋。薄くほこりのかぶった無機色のデスク。その上に置かれた大型液晶ディスプレイは青白い光を発し続けていた。
画面には、次々と文字が流れ続けている。
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世界的な石油燃料の枯渇、新エネルギー移行の失敗
原子力発電所の事故が多発
車の個人所有が禁止
化学製品の値上がり
灯火制限の実施
早起きになる
農業、漁業など第1次産業の復活
各都市への主要な移動機関が激減
国、都市、町の孤立化
教育の特殊化
小水力発電、地熱発電の再開発
情報社会が無意味になる
地域社会が活性化する。協力しないと生きて行けない
高層マンション、インテリジェントビルのゴーストタウン化
風土病の復活
民間療法の復活
最悪の自然環境が復活、川の復活、海の復活
廃虚となるディズニイランド、西武園
出産率の上昇
高級品の自転車
鍛冶屋、篭や、商店が蘇る
銃器類の分散
地方都市で特化した文化が発達する

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 日本政府は2010年に組織されたエネルギー管理機関に、その主導権を奪われコントロールされる状態となっていた。中東の石油枯渇による輸入量ゼロの状況前に、エネルギー管理機関は、緊急かつ強引な地方都市への電源供給の停止。通称「とかげのしっぽ切り政策」を政府に承認させた。
これが実際に実行されれば、地元に発電設備のない都市は、ほとんどにおいて都市機能が麻痺し、都市全体が崩壊状態に陥るだろう。
一方、新エネルギー省では、社会構造の改革による日本再生を研究推進していた。その主任技術士の新藤克也は、計画した日本の将来構想が、現エネルギー管理機関の動きや政策と反目しており、急遽危険人物として政府に軟禁状態されてしまった。
これに対して、現政府に草の根的に反対運動を起こしている民間組織「サツキマス」は、彼の救出に向かったと言われている。


・光る町

 夏真っ盛りであったが、夜になると幾分爽やかな風が吹いていた。15才の昇平は村外れの丘に一本だけある大きな樫の木に登っていた。眼下には、この昇平の住む山から10Km以上離れている町の光が見えていた。
この木には、太い枝が町に続くなだらかな斜面方向に張り出しており、その張りだした枝をうまく利用し平らなテラスが作ってあった。
枝までは縄梯子が架かっているので、年の割には背が低い昇平でも簡単に登ることが出来た。テラスの上で風が昇平の前髪を乱していたが、そんなことにも気づかないように、昇平は町を見つめていた。
天気のいい日、このテラスは父がよく昼寝をしたり、一人で静かに町を眺めながら物思いに耽っていた場所であった。昇平は夜一人でこの場所に来るのは父に禁止されていた。それにもかかわらずたまに約束を破り、テラスに登り町の明かりを見ていた。でも今はもう昇平を注意する父はいない。ちょうど1年前、東京で難しい仕事があると言って出かけ、その後何の連絡もないまま父は行方不明になったのだ。
昇平の目に映る町は、まだ電気の供給が続いており、夜になっても少しの間は色々な照明が灯っていた。昇平にとってオレンジ色に輝く町はとっても懐かしく感じた。それと昇平が10才の時に父と別居して町に行ったはずの母もきっと住んでいるはずだった。『大きくなって自立したら、きっと町に行き、あの光のなかで母を探しだし、一緒に暮らそう』昇平はそう思っていた。

 「ねえ、あの明かりはなんなの?」
先まで黙って昇平の横にいた弟のカズが口を聞いた。
カズにとって、夜、この場所に連れてきてもらうのは初めてだった。
昇平は15才、カズは昇平より6年下で9才だ。短く切った髪の毛が可愛く、体格は昇平と違ってがっちりし背も高かった。弟はこの山で生まれ育ったので、火や月、星の光以外の人工的な輝きを見る機会は余りなかった。だから町の明かりが、きっと不思議に感じたのであろう。一方昇平はまだ幼い頃の記憶として人工の明かりを見たことがあった。

昇平はカズの声で物想いから覚めた。そして昔父からよく聞かされた事をカズに話した。
「家の窓の光は蛍光灯で道沿いの光は水銀灯。それは電気によって光るんだ。電気は石油を燃やして作るんだ。道を動く赤い明かりは車のものだよ。車も石油で動くんだ。でも今はその石油がほとんど無くなくなっているんだよ。だから僕らはここで暮らしているんだ」
「ふーん、なんだかわかんないけど、きれいだね。あそこに行ってみたいな」
「僕だって、行きたいよ。でも・・・」
昇平は父が母によく言っていた言葉を思いだした。
『石油が無くなれば、町は何時か必ず崩壊する。その時の為に生活基盤をここで作るべきなんだ』
でも、昇平としては、あの輝く町がなくなるなんて信じられないことであった。
そして、二人の兄弟が町の光を見た日から1ヶ月後に、そんな信じられない事が現実となった。


・脱出

 村山は、政府のこの町に対する最終処理情報をいち早くつかんでいた。それに対してどうすべきか?多少過激な対策ではあったが、自分達の最終目的を考えると新藤の意見に賛成するしかなかった。でも、この様な一方的な形で最終処理が実行されるとは全く想像していなかった。また新藤本人もエネ管(エネルギー管理機関)に拉致されているという情報が伝わっていた。
とにかくこの事を「サツキマス」の幹部メンバーに連絡する必要があった。今となっては情報通信網を使用しての連絡は政府に筒抜状態である。従って村山は政府の情報と詳細計画証が入力されてミニディスクを「サツキマス」の中央本部があるN市に直接持って行かなければならなかった。
脱出するにおいて、村山のいる町は二つの山脈に挟まれた盆地の中にあり、太平洋側の河口に位置するN市へ行くには、峠を直接越える山道以外、トンネルを抜けて太平洋側に出る幹線道路一本しかなかったのだ。
山道を徒歩で行くには、あまりにも時間がかかる。また9時以降送電がSTOPされている夜間。真っ暗な幹線道路を個人所有が禁じられている車で走行するのは、簡単にエネ管の実行部隊に見つかってしまう。
なにか、いい考えはないか?
村山は忙しく自分の部屋を見回たした。そしてその視線がある物の前で止まった。それはもう聞くこともなくなったステレオの上にあった。
埃をかぶったトロフィーそれを目にした瞬間、村山はある考を思いついた。
「いい方法があった」村山は呟いた。

 ライトを消した車で、狭い林道にはいる。季節は盛夏、林道は生い茂る広葉樹の葉により、ほとんど月明かりがと届かない状態である。普段なら無灯火で車を乗り入れるような状況ではないが、市街地をライトを消し緊張した状態で走り抜けてきた村山にとっては、暗がりはありがたかった。
林道を2km程度走ると道がかなり険しくなり、さすがに無灯火での運転では危くなってきた。村山はついに諦めて車を止めた。村山は車を降りるとすぐにトランクに積んであるスペシャルマシンを降ろし、前輪と後輪のホイルを取り付けた。久しく乗っていいなっかたが、チタン製のマシンは錆一つない状態であった。
「ようし、いっちょうやったるか」
呟く村山の手には、前輪がカヤバ製、後輪がオーリンのフルサスタイプのクロスカントリー用のMTB(マウンテンバイク)があった。
ここから林道は1km程度で終わりだ。そこからは、シングルトラック(MTBが1台程度しか通れない山道)が森の中を走っており、この町を囲む山を越え太平洋側に抜けている。山を越えれば、そこからは手持ちの無線電話で仲間に連絡し援助を要請出来るはずだ。
『このミニディスクを渡せば、この「とかげのしっぽ切り計画」の日本全体への施行も、もしかしたら阻止できるかもしれない』そう思うと気力がわいて来た。
村山はバッテリー式のランプを点灯し、力強いペダリングで闇の中に走りだした。

 車は発見された。発見者はエネ管特殊工作部隊の田口であった。
市民通報により行動をおこし幹線道路を封鎖して、この車を発見するまで15分かかった。この林道は行き止まりであり、車を降りた目標はおそらく一人だが、林道の終わりから始まる山道を徒歩によて逃走していると判断した。『夜間の外出禁止令を知っていながら、無灯火の車で林道を行くとは、きっと何らかの反政府運動の人間であろう・・』多少の焦りを感じつつ田口は、この追跡に打って付けのメンバーを準備していた。
「頼むぞ」田口がそう言うと、暗がりから3人の男が現れた。絞り切った肉体の上に黒のスポーツタイツとロングスリーブシャツ。Dバッグを背にしている。
「わかりました」一番前の男が答えると、男達は追跡を開始した。

 村山と友人の新藤は若い頃、共に日本を代表するトップMTBライダーであった。トロフィーは2001年のMTB日本選手権で村山が優勝した時のものだった。
村山は、今でも部品では特にタイヤの入手が難しいが、なんとか昔の仲間からの提供を受けて、MTBをセットアップしていた。そして仕事の息抜きに暇があれば山を走っていたのだ。それが今夜役に立った。
このシングルトラックは森の中を走りアップダウンは少ないが、道は粘土質で昨晩の雨の影響で大変スリップしやすい、タイヤの性能が今一歩の状態では、確実に路面を捉える慎重な走りが要求された。

 安定したペダリングで村山は確実に走行距離を稼いでいた。そして目的地まで距離にして半分位の位置で携帯食を食べた。とっておきの保存食だ。そのゼリー状の食品を少しづつ飲み込んだ。これには100g中1000kcalのエネルギーを摂取できる。この携帯食は体の浸透圧に合わした成分加工しているので消化吸収が素早い。負荷がAT値(*1)50%以下の運動中アスリートには最適な食事といえる。
この種の補給食は1981年から爆発的に発展したニュースポーツであるトライアスロン(*2)のロングディスタンスにおける携帯食として急速に発展した。しかし現在では、加工食品の入手が困難であり、一番多く使われる携帯食は乾燥いちぢくや乾燥イチゴなどである。

 闇に目がなれてきた村山は快調に走り続けた。気分もいい。ナイトランも、もし遊びなら楽しいだろう。休憩無しで2時間、やっと太平洋側の山の斜面にでた。うっそうとした森を抜けると急に視界が広がった。頭上には月が見える。満月だ。逃げるには大変都合が悪い。眼下の斜面には2m程度の杉の苗木が生い茂っている。
こちらの斜面はエネルギー危機前は酸性雨が原因でほとんどの木が立ち枯れていた。しかし現在はそのエネルギー危機のおかげで空気汚染が減少し、再び植林が開始されているのだった。

 強靭な肉体と心肺機能を持つエネ管追跡隊3名は、一定の速度で走り続けていた。
彼らは1kmを3分以内のペースで40km以上走り続けることが可能だ。また彼らの存在は価値は、このエネルギー危機においては絶大なものであった。

 エネルギー転換の失敗によるエネルギー危機を向かえて以来、現在民間人のガソリン使用は厳しく制限されている。また公共の交通機関も90%が運行を取りやめた状態になっている。自転車も石油製品であるタイヤの入手が難しく、一般には使用されていない状況である。馬も交通手段として使われているが、固いアスファルト道路では足を痛めやすく、あまり当てにはならない。それと飼育自体が大変である。こうなった今、唯一確かな移動手段は自分の足で歩く。または走ることであった。
そのため現在、人間の評価基準において、歩行や走りによる移動能力は非常に高く評価されるようになっていた。その結果人々はあらそって、その歩行・走行能力の向上に努めてた。おそらくマラソンの世界記録は1時間50分代が可能な時代になっているのだろう。そのような状況で、走ることに関して優秀な人材を集めたエネ管追跡隊は、現代のエリート集団とも言えた。そして、その隊員の中でも、今3人のメンバーの先頭を走るドッグはアスリートとしてトップの実力を持つのだった。

 ドッグは久しぶりの追跡行で身体の機能が格段と向上しているのを感じとっていた。しかし田口の指示されたこの追跡にある疑問を感じていた?
『何故、これほどまでのペースで走っているのに追いつかないのだろうか? 相手が歩行しているならとっくに追いついているはずだ。何かおかしい?』
それでも、スピードは落とさず、暗い山道をドッグは走りつづけていた。他の二人の追跡メンバーは彼程優秀な人材ではないため、彼のハイペースに追いつけず次第に遅れ始めていた。
そしてドックはついに森を出て杉の苗木が広がる斜面に走りでた。そこからは視界が急に広がており、ドッグは走りながら目標を探し始めた。

 ドックが走り続けている場所から1kmほど先で、雨に濡れた粘土質の非常に滑りやすい路面で、村山は、長時間の運動による血糖値低下で集中力がふと途切れてしまい。なんでもない下りのタイトターンで、ついにスリップをしてしまった。どのみち濡れた粘土質の路面は、今履いているぼろタイヤでは滑って当然であった。なんとかそれをくい止めていたのは村山の技術によるものだったが、それにも限界があった。
「くそ、頭がふらふらする」村山は立ち上がりながら呟いた。
「やばいな、リヤの変速機が破損している」
なんとか直そうと試みるが、時間が無駄に過ぎていくだけであった。

 ドックは、夜間用の特殊グラスをかけた目で、遠くに動くものを捕らえた。
『人間だ、こいつが目標物だ。やはりMTBを使ってたか!』
ドックは体力消耗度が激しくなっており能力的には限界に近づいていた。それでも最後の力を振り絞りダッシュを開始した。ドッグは一気に目の前の坂を下り始めた。しかし不運な事にその坂からは先は、とても滑りやすい濡れた粘土質の路面であった。
ドッグは目標に気を取られていたことから、その土質の変化に気づかなかった。 結局ドッグは坂に入ったとたん右足を滑らせ、左足が着地する前に腰を地面にたたきつけて転んだ。

 その軽い振動を地面から感じた村山は追ってが予想より早く近づいている事に気づいた。目を凝らすと、100m程後方に動くものを発見した。おそらくあの超人的な追跡隊の一人だろう。それもとびっきり優秀な奴に違いない。
このままでは確実に捕まってしまう。
考える間もなく村山は、本道である山道をはずれ、壊れたリアの変速機があまり影響しない、下るだけのコースへ向かった。
しばらく下ると川の音が聞こえて来た。おそらくこの川は、トンネルを出た幹線道路と交差するはずだ。しかし、MTBではどうすることも出来ない。
「くそ、泳いでいくか?」
「水温が問題だな」村山は決断できぬまま、走り続けた。

 ドッグは立ち上がったが右足が完全にいかれていた。おそらく重度の足首の靭帯損傷であろう。『このままではあいつを見失ってしまう』焦るドックは、担いでいるバックから急いで応急処置用のエア注入タイプのサポーターを取り出し足首にまいた。これは切断または損傷した靱帯を補うような役目をするサポーターだ。ようやっと立ち上がると、ドッグは何事もなかったようにまた走り始めた。

 村山は、川に逃げ込む前にMTBを発見される危険を避けるために、隠し場所を探しながら走り続けていた。しかしなかなかいい場所が見つからなかった。 『ともかく行けるところまで川に沿ってMTBを走らせ、いい場所でMTBを隠し泳いで幹線道路まで出よう』そう計画した。
それに今のところ、この急流では川に入っても溺れるの確率の方が大きかった。
今のところ追跡者は目には見えないが、追われるているという緊張感をひしひしと村山は感じていた。それはレースで何時も味わっている口の中が乾くような緊張感だった。
そんな状況に加えて、悪いことに河原沿いの道は大きく尖った石が多く、タイヤが何時パンクしてもおかしくない状況であった。
そして、ついにその激しい路面の故にタイヤはパンクした。

 ドッグは川に出た。この川を辿れば幹線道路に行き着くはずだ。おそらく目標は、この川沿いにルートを取ったのだろう。ドッグも川沿いに進んだ。
このルートは石が多いためMTBでもそう速度は出せないはずだ。そして10分ほど走り続けた後、ついに目標に追いついた。そいつはMTBの横で作業しているようだ。おそらくパンクだろう。厳しく訓練された者が持つ洗練された無駄のない動作で静かに、かつ素早くドッグは村山に近づいた。

 MTBレースでの基本として、後方に目を向けて作業する。そうしないと後ろか全力で飛び込んで来るMTBに激突してしまう。その基本動作が染みついていた村山は、ドッグが静かに近づき、銃を取り出した間一髪のところで、その危険に気が付いた。
村山は慌てて背後の岩に飛びのいた。乾いた銃声が川面に響いた。もう方法は一つだ。もの凄い勢いで近づくロボットみたいなドッグを背後にして、全力で川に向かった。奴のあえぐ息が聞こえる。と思ったとき、村山は川に飛び込んだ。『冷たい、おそらく水温は18度程度だろう。夏で良かった』川は3級程度の瀬だが、浅いので気をつけいないと岩に激突する。元々カヌーの経験も豊富な村山は器用に岩を避けて流され続けた。
『奴は、飛び込んできた様子はない。ともかく助かったようだ』そんな気持ちとは無関係に村山の体は流れに巻き込まれつつ下流へと流れていった。

 ドッグは、川を見つめて言った。
『俺は泳げないのだ』
走るために、体脂肪率が極端にい少ないドッグの体は、水に浮かないし、20度以下の水温だとすぐに体の機能が低下してしまうのだ。
ドッグはバックから携帯無線を取り出した。
「目標は逃走中、追跡はここで止める。理由は、私自身の負傷と押収物があるため。以上」
ドッグは、報告を終わると岩に座り込み、頭上を見上げた。
「満月か、本当に脱出には不向きな日だ」



・旅立ち

 明るい月明かりが町へと続くアスファルトの道に、二つの子供の影を落としていた。 二人の子供、昇平とカズであった。

 昇平はよく考えたうえでの行動だった。父も母もいない今。ここにじっとしていては、母とも父とも、二度と会えないように思われた。
『町に行ってみよう。ともかく父の友達の村山オジサンに相談してみよう』そう決断した昇平は、食料や水、釣り竿等の父が所有しているサバイバル用品をリュックに詰めると、じいちゃんが寝入った深夜、父が自然エネルギーの利用技術の限りを尽くしたて立てた家を静かに出たのだった。
昇平は、少し歩くと後ろを振り返った。そこには屋根全体に貼られたソーラパネルが月明かりを青く映している。一時期、母と父とじいちゃんと暮らした家。昇平の胸に寂しい思いがこみ上げてきた。『よし行くぞ!』昇平はくじけそうな思いを振り払い、家に背を向けて歩き出そうとした。そして最初の一歩を踏み出そうとしたその時、ドアがいきなり開いた。それはカズだった。とても慌てている。このままでは大声をあげて騒いでしまうにちがいない。きっとじいちゃんを起こしてしまうだろう。昇平は声を落として、手を振ってカズを呼んだ。
「カズ、こっちだ!静かにしろ!」
その声に気づくとカズは嬉しそうに昇平の元まで走ってきた。
「どこに行くんだよ? いきなりいなくなったから、びっくりしたよ」カズは言った。
「町だ、お前もリュックに荷物を詰め込んでこい、そしたら一緒に連れてってやるよ。それとカズ、静かにな。じいちゃんには秘密だから」昇平は一人で行くと決心したけど、本心は心細かったのだ。だから内心カズがついてきてくれてとっても嬉しかった。
「うん」と返事をしたカズは、荷物を取りに家へ戻った。
『もう2度とここへは来ない』そう思うとまた昇平は少し寂しくなった。しかし、『やるべきときは、必ずやらないといけない』父がよく言ってた言葉を思い出した。
「今、やるっきゃない!」昇平はつぶやいた。
見上げれば、村を脱出するには、もってこいの月明かりだった。

続く


*1の説明
MTBトレーニングの一例(クロスカントリー用)
  競技時間:60〜90分

   心拍 MAX   182以上 パワークライム   全体の 5%  1ms以下
    A HR   182〜176 パワークライム   全体の25%  1ms〜5ms
    B AT   176〜163 フラット      全体の40%  5ms〜30ms
    C ML   163〜138 ダウンヒル     全体の30%  30ms〜60ms
    D AL   138〜119   ---             60ms以上
    E スキル  ダウンヒルコーナ
    F  同等のラン、スイム

  B:アップヒルのインターバル  登りのパワーアップ、筋力、心肺機能
  C:シングルトラックの流し   タイトな激坂、心肺機能
  E:コーナ           タイトコーナ、キャンパー、運動系
  F:トライアスロン       心肺機能

  ATレベルとは心拍数Bの運動強度である。


*2の説明
トライアスロンミニ知識
1978年ハワイで行われたアイアンマンレースが始まりと言われている。
試合形式は水泳で始まり、次に自転車のロードレース、最後にマラソンと3種目を一人の人間で行い、ヨーイドンで一斉スタートする順位争いレースだ。
各競技の距離は水泳は1500mから3800m max バイクは40kmから187km maxで、ランニングは10kmからフルマラソン maxである。
あらゆる力が試される総合的な長距離レースである。1998年頃から発祥地のUSAよりドイツの方が国際レースを引っ張るトップ選手を多く輩出している。
日本は国際レースで10位内入賞する選手もおり、アジア地区では一番の力を持っている。


*3の説明
カヌーでは川の流れの難度を級数で表現する。以下がその状況説明。

1級の瀬:ほとんどが静水
2級の瀬:少し波が立っているが危険なし。
3級の瀬:波はやや高い。水中の障害物が多い。かなり危険。
4級の瀬:波は結構高い。上級者向き、危険。
5級の瀬:波高1m以上カヌーでの漕行の限界




マッスルIke:
15年間もトライアスロンを続けている男である。
最近、長年の試合と練習による酸欠が原因なのか?脳細胞の50%以上が死滅してしまった。
きっとあと10年もすれば痴呆老人だ!
その前に日本の川の敵と子供達の敵を両方とも壊滅させたいと密かに思っている。

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