宇宙改革
飛鳥狂香


『スペースチルドレン』
 それは遥か昔、宇宙の片隅で起こった。星々は今よりも互いに近くにあり、銀河間もより濃密だったころ、宇宙に生まれた生物たちは彼らの技術で多くの星を旅していた。不毛の大地を切り開き、極寒の大地を暖め多くの生物が宇宙に広がっていた。彼らを開拓者と呼ぶ者もいれば、山師とも、宇宙移民とも呼ぶ者もいた。彼らの生い立ちはさまざまだった。戦いに敗れて逃げ延びて来た者もいれば新天地で新しいことに挑戦する者、希少資源を求め一攫千金を狙うやからもいた。しかし、彼らには共通するものがひとつだけあった。それは、新天地への希望である。小さな小競り合いは日常茶飯事であったが、そのころの宇宙はまだ十分に広く、豊かであった。しかし、時が過ぎ星々が離れ往来もままならなくなると、少なくなった資源を互いに奪いあうようになった。そのころの地球は、宇宙移民に「怒れる大地」と呼ばれていた。それまでの地球は地殻変動が激しく、灼熱の時代があったかと思えば、氷の球体の時代になるなど、とても生物が安定して暮らすことなどかなわぬ荒ぶる星であった。それゆえ、訪れる者もなく、独自の生態系をゆっくりとはぐくんでいた。時あたかも地球に最初の人類が誕生したころである。それからさらに長い時が過ぎ、「怒れる大地」はやがて伝説の星となった。
「長老、怒れる大地に住むものが現れたと聞いたが本当か。」
銀河系中央議会で、ある星の大使の発言だった。
「うむ。宇宙意識と同化されておるギー導師によれば、かの星も一時期ではあるが安定期に移り星の外へ出る者が現れたそうだ。」
小さな金属球体が説明をした。
「そこでじゃ。」
中央にいる3つ頭の議長の1つの口が開いた。
「もし、噂が広まれば、彼らに接触し住民狩りを始める連中がでてくるだろう。自然進化した生物の寿命は本来短いものだ。が、違法に彼らを捕らえ寿命を延ばし労働力として売買しようとするやつらが必ず現れるはずじゃ。しかし、怒れる大地はあまりにも辺境。保護区として隔離するべきか、自治区として組み入れるかを決めねばならん。」
議長の言葉が終わると同時に中央近くの席から
「自然発生した種族は野蛮である。ここは保護区として密猟者から隔離すべきである」
との声とともに大きな歓声があがった。
「保護区では発生装置設置までの間の警備が大変である。海賊どもの勢力が増しつつある今、軍の力が分散するのはよくない。自治区として彼ら自身に守らせるべきである。そもそもさしたる資源もないことがわかっておる辺境区域の星だ。大規模に攻めてくるような連中はおるまい。」
別の一角の発言にあちらこちらから歓声があがる。
「みな忘れてないか。あそこは辺境といえど革命軍の拠点の近くにある。軍事参謀の私としては革命に占拠される前に確保したい。まずは軍による統括を行うべきだ。」
議長のとなりで発せられたこの発言に歓声と不満の声があがる。
「軍の一部で氾濫のために辺境に拠点を求めている者がおるとの噂がある。もし、軍が革命と手をくむことにでもなったら議会はおしまいだ。軍は監視できる中央においておくべきだ。」
「そうだ。」
議長の反対隣の老人の言葉に多くの賛同の声があがる。
「何の兆候もないうちから軍が出るのは私も反対だ。」
中央議長の別の頭が発言した。
「辺境といえど、議会の空白地域に位置する。反勢力にはとられたくないというのは皆の一致する意見だと思う。しかし、保護区として外界から隠してしまうと、彼らの存在そのものを否定したのと同じになってしまう。今は安定期であるが、すぐに環境が変動するのは今までの観測でわかっておる。その際に住民達の移住も考えねばならん。辺境の民は周囲に協調すべき他者がおらんのだからわれわれから見て野蛮と映るのもいたしかたあるまい。われわれの歴史も決して平和ではなかったのと同じだ。わたしは、怒れる大地の住人にはわれわれが失った何かを持っているような気がしてならないのだ。私は住人が空白地帯に自然発生したことは単なる偶然とは思えない。将来ではあるがこの地域をわれわれと同等の独立議会地域として育てるべきではないかと考えておる。往来にわれらの一生を費やさねばならぬほど離れてしまっては自治も保護も意味がない。」
議長の3番目の頭が物静かに語った。
「しかし、育てるにしても彼らの短命さが障害になりますなあ。」
軍事参謀が皮肉っぽく口をはさむ。
「それについては心配ない。彼らは生物として短命なのではない。怒れる大地ゆえのことじゃ。変動の激しい環境ゆえに次々と世代をかえなねば生存できないのだ。」
長老の言葉にみな納得した。

 そのころ地球では一部の人々が宇宙ステーションへの移住をはじめ、そこで子供たちが生まれ始めた。彼らはスペースチルドレンと呼ばれた。その中でも第一世代はアルファタイプと呼ばれた。彼らの特徴は成長が遅く地上で生まれたものより体、特に頭が大きいことだった。そして多くの子が高い知能を示した。医者たちは、宇宙ステーションの安定した生活が脳の肥大化と能力の開花をうながしていると推測した。
ある時、ひとつのステーションが地上に墜落するという事故が起こった。幸いにも空中で分解するこなく地上に着地したものの、生存者はいなかった。調査団が原因を調べたところ違法に投棄された宇宙ごみ群との衝突によりステーション内の空気が漏れ制御不能に陥ったことがわかった。そして空気を失ったステーションの人々は窒息死と報告された。ただ、不思議だったのは死体の数が足りないことだった。大人の場合は修復のための作業員が空気の放出とともに宇宙に飛び出したものと記録から判明した。が、保育器の中にいたはずの数名の赤ん坊が保育器ごと消えていたのは説明がつかなかった。調査団はその子らも衝突の衝撃で宇宙へ放り出されたのだろうと結論した。後に第7ステーションの悲劇と呼ばれる事故である。

『変動』
 第5世代のスペースチルドレンが誕生するころ、各地のステーションから大量に人が消える事件が発生する。時期を同じくして船外作業者の多くが未確認物体を目撃していた。巷では宇宙人が人体実験のためにさらっていくのだとまことしやかにささやかれていた。
そんな中、一機の飛行物体が地上に降りる。中からはスペースチルドレンの特徴を持つ数名の若者が出てきた。
「われわれは、死んだとされた第7ステーションのスペースチルドレンです。」
若者の一人は、国連の場に乱入したかと思うと発言を始めた。
「近年おきているステーションでの失踪事件は宇宙人のある組織によるものです。」
各国の代表は騒ぐことなく自席で話を聞いている。もっとも彼らは声を出すことも指一本を動かすこともできなかった。一種の催眠状態にあったといっていい。
「我々は宇宙に秩序をもたらそうとする議会と、自由を求める革命との歴史と戦いを見てきました。これは事実です。そして、その中で暗躍する海賊によって地球人は奴隷として誘拐、売買されています。しかも、寿命を延ばすための人体改造もされています。われわれは地球と違う時の空間で育ちました。そこで長い時間をかけて多くを学びました。今、地球には決断の時が迫っています。」
かれらはそういい残すとその場を去っていった。その後、大規模な襲撃が始まると彼らの言葉が事実だったと知るまでにはそう時間はかからなかった。が、狙われるのはスペースチルドレンだけだったために、地上の人々は相変わらず地上の覇権争いに夢中であった。いや、むしろ地上の有力者達にとって、寿命も知力も高いスペースチルドレンはうとましい存在だった。
結果ステーションによる連合が発足。第7ステーションのスペースチルドレンはアルファと呼ばれ、かれらのまとめ役となった。
「われわれはすでに地球人ではない。ステーションに暮らす者が決断してください。」
アルファの一人が腹立たしげに話した。
「そうはいっても、われわれはアルファたちほどの知識があるわけではない。」
連合の代表メンバーの一人が答える。
「宇宙海賊による拉致問題は地上から全権がこのスペース連合に委譲されています。ただし、地上の設備、人材はあてにできない状態です。すでに地球を狙う宇宙海賊は数十集団います。対抗するには中央の議会側か革命側につくしかないでしょう。」
アルファの一人が説明した。
「議会側についても距離が離れすぎている。孤立するだけだ。ここは地域としてみればより近い革命側とコンタクトをとるべきだろう。」
ステーションの代表者たちもようやく口を開き始めた。
「革命側は小数勢力の寄せ集めじゃないか。いつ寝首をかかれるかわかったもんじゃない。」
「中立という選択肢はないのか。」
「相手は海賊なんだ。戦うには味方が必要だよ。」
いつものように結論はでないまま議論も終わろうとしていた。
「議会と革命、両方を味方につけられないだろうか。」
普段は発言しない代表の一人がぽつりと漏らした。
「そんな方法があれば苦労しないさ。」
「いや、今まで誰も考えてないじゃないか。結論付けるのはまだ早い。」
この何気ない発言がきっかけとなり、議会と革命、両者との協調路線を模索することとなった。もっともそのために海賊の被害はいましばらく続くのではあるが。
アルファは主な革命軍の間を飛び回った。結果、いくつかの平和的なメンバーがゆるやかな共同体を構築しはじめる。かれらは穏健派とよばれ、アルファの主力メンバーが第二世代になるころには革命から独立し第三勢力を構築、地球は第三勢力に入ることになった。
残った過激派の革命は海賊たちと結びつき、ここに三国時代が幕をあけた。

「現在地球をとりまく状況は連合が3割、旧革命の共同体が5割、旧海賊の革命が2割です。」
中央議会での報告が続く。怒れる大地は地球と呼び名を改めていた。
「独立議会地区としての下地は整ったわけだ。われらの予想とは若干違ったが、革命が穏健派になったことは望ましい誤算だ。」
3つ首の議長は語った。
「われわれが偶然にも事故の時、助けた地球人たちは十分に期待に答えてくれておる。われわれのテクノロジーを地球人には公開しない約束もいまだ守られておる。だが、世代交代が進めばやがて、正義はすたれるのも歴史的事実。事は急がねばならん。ところで軍事参謀が欠席のようだが。」
長老の言葉が終わるか終わらないうちに議場にはけたたましい警報がなり響いた。
「保護地区発生装置設置のために派遣していた軍の一部が反乱をおこしました。中央軍には反乱がありませんが、辺境の広い範囲でクーデターが続いています。」
議場は騒然となった。
議場のスクリーンに軍事参謀が映った。
「これは、議会のお偉方。あなたがたは中央で、もはや孤立した存在。古臭い銀河中央など何の魅力もない。せいぜいその狭い地域で仲良く暮らすのですな。これからは外宇宙の時代。無限の外宇宙はわれら革命が支配させてもう。それから、最新の保護地区発生装置は土産にもらっておく。」
軍事参謀サボーの起こした反乱に議場は混乱した。
「議長、放っておけば海賊たちがこの中央にも進出してくるぞ。いまの中央軍だけでは守りきれまい。」
代表だちは議会軍の弱ったいま自分たちの星がいつおそわれるか気がきではなかった。
「案ずることはない。」
どこからともなく議場におだやかな声が響き渡った。
「どういうことですかギー導師。」
誰かが発した問に、おだやかな声は続いた。
「軍は海賊退治と称して中央から分散させ、革命と密かに手を組んでおったのじゃ。その上でクーデターを起こした。ちょうど中央を取り囲むようにな。今地球の子供たちと意識がつながった。わしを通じて話をするがよい。」
「地球の子らよ。軍が反乱した。」
議長の声は動揺していた。それに反するように落ち着いた声が議場に響く。
「話は、導師から伺いました。安定していた3勢力のバランスが崩れました。革命を吸収した反乱軍はおそらく議会を中央におしこめ、こちらの共同体を壊滅し、一大勢力になろうとしていると思われます。そうなればもはやだれも止めるものはいないでしょう。共同体は議会とともに抵抗勢力して戦うことを提案いたします。」
短い3国時代は終わり、議会と反乱軍の2大勢力時代が到来した。
「地球の子らよ。いまこそ、封印していた能力の開放するときじゃ。肉体から精神を離脱させるのだ。肉体は朽ちてしまうが、解き放たれた精神は時間を超越し、宇宙意識とシンクロすることで何万光年はなれたところへも瞬時に移動できるだろう。」
ギー導師の導きによりアルファたちは肉体を捨て意識体に進化した。それから彼らは反乱軍の動向を監視しつつ中央議会と共同体議会の仲立ちとなった。
中央議会の足並みはそろわなかった。反乱軍の神経を逆撫でしたくないというのもや、徹底抗戦を主張するものまで。そのために中央議会の唯一の軍である中央軍は議会を守ることしかできなかった。
一方、個々に個別の決定を重視し共同の軍を持たない共同体では、統率された動きはないものの対応は早かった。星ごとの武装とともに情報共有体制が迅速にとられ、共同体議会は決定の場ではなく情報の伝達機関としてのみ機能していた。共同戦線や相互派兵はおこなわれることはなかったが、それゆえに共同体が大打撃をうけることもなかった。
地球では地上の有力者たちは未だに事態を理解していなかった。自分たちが攻撃されないよう、ステーションに共同体離脱を働きかける連中すらいた。
アルファは地球から少し離れた銀河内に拠点を設けた。意識体である彼らには実体を持つ拠点は意味を成さなかったが決戦に備えて共同軍を組織していた。それは戦闘軍ではない。諜報活動を行う組織である。彼らの得た情報によって、反乱軍は正体不明の皇帝を中心にした軍事組織であり、海賊は自由の保障の見返りに反乱軍に協力していることがわかった。

『予言』
「サドー、いつまでゲームしてるの。少しは弟たちの面倒を見て頂戴。」
地球の第570ステーションの一室での会話である。
「いやよ。あいつらときたら乱暴だし、騒々しいだけじゃない。」
少女はモニタを見ながら叫んだ。
「ニック、今回もわたしの勝ちね。これで150勝0敗。」
モニタの中の男の子は悔しがっていた。二人はもともと幼なじみであった。しかし、男の子は数年前に共同体議会の仕事をする父親たちとともに引っ越したのであった。それ以来、二人はモニタ越しに遊ぶ仲となった。
「え゛ー、少しは勝たせてくれよ。容赦ないんだから。僕はクラスの中ではこのゲームで負けたことがないんだ。で、君は僕より弱い連中にすら勝てない。なのに何で僕が君に勝てないんだ。」
ニックは少しうんざりしたようにサドーに言った。
「だめよ。勝負に情けは禁物。」
サドーが勝ち誇ったように喋る。
サドーとニックの家族は第7ステーションの出身である。かれらの先祖はたまたま調査のために留守にしていたために事故をまぬかれたのであった。
現在サドーのいる第570ステーションはそれまでのステーションと違い、星間航行を行う地球初の自立型ステーションである。
かれらはこのステーションで生まれたスペースチルドレンである。
「ただいま」
「お帰りなさい。あなたからも少しは注意してくださいな。サドーったら部屋にこもってゲームばかりで、家の手伝いをしないのよ。」
サドーの父親フォンはステーションの5人の船長のうちの一人である。船長は3交代制で常時3名が協議して船に関する決定を行うシステムになっている。これは独裁を避けるために導入された。
「ニックと離れてあの子も寂しいんだよ。まだ、アルとフィーナじゃ話し相手にもならんからな。」
フォンはそそくさと寝室に入ってしまった。
サドーの弟のアルと妹のフィーナは双子の赤ん坊である。まだ生後3ヶ月なので片言もしゃべれない状態であった。
フォンがうとうととし始めたころ、非常警報がステーションに鳴り響いた。
「フォン船長、非常事態です。すぐ第一コックピットにお集まりください。」
非常呼び出しとともにフォンはあわただしく部屋を出て行った。
「フォン船長、お休みのところ申し訳ありません。海賊の襲来です。」
士官の一人がフォンに報告した。コックピットは緊張した空気が張り詰めていた。
「ふぁあ〜。いいんだよ。」
そういうとフォンは勝手に通信回線をあけた。
「久しぶり。いま、寝ようとしてたところだったのに。相変わらず間の悪いやつめ。」
「まあ、そういうな。せっかく帰ってきたんだ。それにいつも寝てるようなもんだろ。」
モニタには黒い顔が映った。
「ニックは一緒じゃないのか?サドーが残念がるなあ。」
それはニックの父親であるドルガだった。フォンとドルガは戦友であると同時にライバルでもあった。共同体議会の役職にあるドルガは敵の目を欺くため偽装海賊船でやってきたのである。
「ドルガおじさんこんにちわ。」
サドーはフォンに連れられたドルガに挨拶した。
「しばらくこのステーションに厄介になるよ。ニックはアカデミーの都合でこれなくてすまないね。」
そういうと、ドルガとフォンはステーションの奥に消えていった。

「共同体議会内に不穏な動きがある。」
ドルガが子声でフォンに言った。
「ああ、知ってる。君も信頼されてないからニックを人質として残してきたんだろ。」
「息子を身代わりに残すなど情けない話さ。」
「大丈夫。ニックには素質がある。」
「それはサドーも同じじゃないか。なんたってあの子らは・・・。」
「しっ!」
フォンはドルガの言葉をさえぎるとあたりをみまわしてさらに小声でささやいた。
「この部屋も安全ではないのだ。いつ話が漏れるかわからない。いくら妨害波を出しているからといっても数ヶ月後には敵に漏れていると思ってくれ。」
「物騒な世の中だね。それでも数ヶ月後ならこの話は問題あるまい。われわれはおおよそスパイの目星はつけた。しかし、問題はその背後に居る黒幕だ。フォン、君の予想通り中央議会の副議長が反乱軍に関係しているらしい。しかし、彼もどうやら皇帝に脅されて協力しているに過ぎないということだ。皇帝の正体についてはさっぱりだ。」
ドルガは椅子に深く腰掛けると慎重に続きを喋りだした。
「フォン、こんな船の船長をやめてそろそろ私の手伝いをしてくれないかね。そうすればサドーもニックと一緒にまた遊べるというものだ。」
「その話ならお断りだ。」
フォンはドルガの顔から視線をはずすとうんざりしたように首を横に振った。
「私はサドーを巻き込みたくないのだ。まだ年端もゆかぬ女の子なんだ。アルファの予言が真実になるかどうかわかるまい。もし真実になるのだったらできるだけ遅らしてやりたい。せめてもの親心だよ。ドルガ、ほかに優先する議題があるから来たのだろ。まずは用件を済ませたらどうだ。」
「はいはい、君は昔からせっかちだったよな。中央議長が近々任期が終わるのは知っているな。副議長はその座を狙っている。」
「それなら心配はない。彼は議長にはなれないよ。人望がたらん。議長が再任されるさ。」
フォンは眠そうにあくびをしながら言った。
「ところがそうでもないんだ。長老が行方不明になった。ギー導師は長老が反乱軍に拉致されたとの見解だ。議長は長老の監禁場所を任期内に突き止めることはできないだろう。そうなれば議長は立候補しない。」
「あの丸い金属体が長老だろ?議会を欠席したなんて聞いてないぞ。」
フォンはおどろいたように身を乗り出した。
「いや、あれは長老じゃない。長老の影武者だ。まだ一部の者しかしらない。本当の長老は行方が知れないらしい。長老には影がいる。見かけは、ほぼ同じ。どちらが本物かは長老本人と導師を除けば議長しか知らないはずだった。なんせ議長が変わるたびに長老の意識は移し変えられている。どちらに入れるかはその時々の議長が決定していたので、議長以外に判断がつかないはずというのが議会の見解だ。」
「まずいな。」
フォンは低くつぶやいた。二人はしばらく黙っていた。
「アルファの予言では議会に闇が広がる時、暗黒の夜空に隠された双子星がひとつになる。その輝きが失われたなら世界は殻に覆われる。」
「いやな予言だ。双子星を隠す身にもなれってんだ。」
ドルガは頭をかかえて、再び黙り込んでしまった。
「あ〜あ、この平和な生活ともおさらばか。」
長い沈黙の後フォンが口を開いた。
「おお、やっとその気になったか。」
ドルガが立ち上がって叫ぶ。
「いや、もう少し悪あがきをしてみるよ。悪いね。」
フォンはそういい残すと部屋を出て行った。ほどなく、彼ら一家はいづこかへと消えた。その後、フォンと反乱軍との通信記録が発見されフォンは反逆者として共同体から追われる身となる。

ドルガはフォンの代わりに船長に就任。ドルガの仕事は息子のニックが引きついだ。
中央議会では副議長が議長に任命された。その後の議会は毎回紛糾し、重要な決定は何一つできないまま無駄な時間が費やされた。
新しい議長が中央議会の記録室でフォンの家族の秘密の一部を知るにはそう時間はかからなかった。フォンの妻は地球のステーションではなく、議会の一惑星で2度目の出産をしたことになっていたが、出産記録は何者かに改ざんされ、フォンには双子の実子はなかったのだ。
反乱軍はアルファの予言した双子星はフォン家の双子とみて捜索を始めた。しかし、その行方はようとしてわからなかった。フォン一家が消えたあとニックの通信記録にもサドーとの通信が現れることはなかった。

「ニック、お前に話しておくべきことがある。」
ドルガは息子を自分のステーションに呼んで話し始めた。
「お前は私たちの本当の子ではない。この表現は正確じゃないな。肉体は私の子には間違いない。母さんはお前たちの出産の際に死んだ。お前には双子の妹がいる。しかし、こともあろうに精神はひとつしかなかった。実に奇妙なことだが、一人の意識がなくなるともう一人の意識が目覚める。精神が二つの肉体を渡り歩く状態だったのだ。当時の科学では理解できないことだった。われわれは意識体であるアルファに相談した。このような1精神多胎児は、肉体がひとつだけなら精神が定着するだろうといわれた。母さんの形見であるお前たちの一方を失うということは耐えられなかった。失望している私を見かねて一人のアルファがいった。自分たちの誰かが欠けている精神の一方に入ろうと。通常、肉体のダメージは精神にも蓄積される。人は死によって肉体と精神が分離するがその死が精神に記録されるため、死者の意識体を転移しても肉体は死を再現してしまう。アルファであれば自ら離脱した者たちだから転移しても肉体的ダメージは起きない。また、精神が異なる波長の肉体に入ることはできないが、その肉体と同調している意識の補助があれば未発達の体になら転移することが可能だ。補助がなければ拒絶が起こるし、筋肉の動作加減がわからないから心臓などが爆発する。だが転移しても新しい肉体が死ねば意識体は更なる転移はできない。アルファにとって肉体を持つということはその寿命を縮めるのと同じことだ。新しい肉体では従来の記憶や意識も失われる。彼らがなぜそんな不利なことを提案してきたのかまったくわからない。実体を持たぬものには実体の世界に関与することができないといっていた。私は彼らの提案の飛びついた。そして、もともとの精神を妹に、アルファの精神をお前に入れた。お前は、私たちの子であると同時にスペースチルドレンの元祖であるアルファでもあるのだ。」
ニックは何かを確信したようにうなづいた。
「とうさん、昔から生まれるはるか前の古い記憶が時折現れるので不思議に思っていました。」
「ニック、お前は一度アルファのもとへ行かねばならない。そこで何をなすべきかを知らねばならん。それはわしらにも教えられていない。」
ドルガは静かに語った。
「ニック、妹が誰なのかお前に伝えることはできない。それがアルファとの条件だ。万一今妹の存在が敵に知られればお前はなすべきことができなくなる。アルファのもとで本来の能力が戻ればおのずと妹の存在が認知できるとも言っていた。後のことはすべて始末しておく。敵に知られる前にすぐにここを出るのだ。」
これがドルガとニックの最後の会話になった。ニックが出発して一ヶ月ほど後にドルガは息絶えた。

『真実』
ニックは数名の親友とともに宇宙を進んでいた。かれらは地球人ではなかった。古くからの旧革命の戦士の子孫である。
6本の細い手をもつメカニックのナナフシ。盲目の操縦士であるナビ。ボール体系の戦士トリム。かれらはニックの学生時代の友人である。かれらは世間的には落ちこぼれである。メカニックオタクであるナナフシは人間関係のトラブルから失業していた。ナビは盲目ゆえに資格が取得できなかった無免許操縦士である。彼はナナフシがつくった触覚パネルを使えばどんなパイロットよりも的確な操縦をこなした。トリムは体系に似合わず室内では有能な戦士だった。しかし、その戦い方は壁に体をはずませることであらゆる角度から切り込むもので、壁のない屋外では戦力にならないと軍に入れなかった経歴を持つ。
地球は共同体とともに新宇宙航行技術を開発していた。超重力によって宇宙空間を歪ませ圧縮した空間を一気に移動するものである。この航行は空間密度が低いほど圧縮抵抗が少なくなり高速に移動できる。空間密度の低い銀河辺境には特に有効なシステムである。さらに、移動には実質的加減速が不要であることでロスがない点でも優れていた。多重圧縮を避けるため、領域の密度に応じて圧縮率の設定は細かく規定されていた。かれらはこの航行で光の百倍の速度で宇宙空間を進んだ。地球から銀河の中心方向に渦ひとついったところに、かに星雲として知られている空間がある。その中心には超新星が崩壊したブラックホールが存在していた。
「本当にブラックホールにつっこむのか。」
ナナフシがニックに確認した。
「僕の古い記憶が示している。」
ニックは毅然と答える。
「まあいいさ、無謀で終わるか新発見になるか。面白いじゃないか。」
ナビは気楽なやつだった。それだけ操縦に自信もあった。
「じゃあ、もう一度確認するぞ。光の80%定速で中心のブラックホールの重力臨界面に50%の空間圧縮をして接すればいいんだな。間違ってましたじゃ済まないんだ。ブラックホールにつかまるか、臨界面にはじかれて分解するかなんだぞ。」
ナビの説明にニックは黙ってうなづいた。
「おい聴いてるのか。」
ナビは少々むっとしたように続けた。
「すまない。キーはあっている。それで、ゲートの1つが開くはずだ。」
盲目のナビにはニックがうなづいたことは認識できないのだ。

重力の臨界面に接した時、彼らの周りは一変した。そこはこれまでの宇宙空間と異なった領域だった。空間は暗黒でなく光にあふれていた。星のような巨大な固体はなく単なる空間内に色々な形状の物体が点在していた。
「よく来た。ここは重力面に広がる異空間だ。多少狭いがここまでは反乱軍もセンスできない。」
かれらの前に一人の地球人が現れた。
「われわれは実態を持たない。これはホログラムだ。相手が見えていたほうが話しやすいだろう。」
そういうと、ある建物に4人を招いた。
「見慣れた空間設備のほうがリラックスできるだろう。はじめに言っておくが、君たち4人は同じ空間に居るように感じているだろうが、それぞれ別の説明がされる。それはそれぞれで知っておくべきことと知らないほうがいことが異なるからだ。君たち4人には課せられている使命が異なる。」
「私は何のために生きて・・・」
ニックがそういいかけたとき、膨大な知識が彼の中に流れ込んできた。
「ニック、君のもとの意識が持っていた知識の一部を今戻した。整理するには時間がかかるだろう。それまでいくつか重要なことを話そう。君に入ったアルファタイプの一人は宇宙のバランスを取るために実体化した。議会が機能しなくなった今、我々の代表として実体を持ち世界の運命に関与できるものが必要だった。われわれアルファもこの宇宙で生まれた一員には違いないのだ。単なる傍観者でいるわけにはいかない。ニック、君の人格は変わってはいない。ただ、われわれが導師とともに見てきた銀河の歴史と実体を君は理解せねばならない。導師もわれわれと同じ意識体であるため、実体の世界を直接動かすことができない。そして、宇宙の中心である宇宙意識には善悪はない。我々が行動した結果善と悪が意味づけられるにすぎないのだ。宇宙にとって海賊たちが正義で、我々は悪なのかもしれない。すべては結果でしかない。だれにも決められないことなのだ。宇宙の意思決定のための葛藤がわれらの戦いそのものであるといってもいい。つまりは我々は我々に与えられた役割としての戦いをこなさなくてならないのだ。いま、宇宙は秩序と無秩序のどちらにいくか決めるときがきた。議会がつくる秩序社会と海賊がつくる無秩序社会である。われわれアルファは事故で孤児となった。そして、時空の異なるこの臨界面で育てられた。ここでは時がゆっくり進む。が、長時間ここで育ったために肉体は元の時空と異なる時間軸に存在する結果になった。そこで肉体を捨て、意識体になった。知識は意識ではなく肉体を媒介にして継承される。意識体である我々の寿命は長いが、無限ではない。我々の知識を継承するための媒体となる器が必要だった。通常は同じ時間意識のシンクロによって異なる肉体でも知識の継承が可能だ。周波数の合わない通信は単なるノイズでしかないのと同じだ。しかし、君の意識はアルファである。精神的シンクロのできない君は、他人とは意識の継承はできない。偶然か必然かはわからぬが、意識の欠けた肉体が現れた。しかも、双子である君の妹なら肉体的シンクロによって次元の異なる意識でも知識の継承が可能なのである。君から妹へ、そして彼女から宇宙へ知識が継承されることで、我々の存在は完結する。そのためにも君は妹を見つけねばならない。意識の同調によって君らは互いに認識し合える。君は今までは元の意識を封じていたため同調を感じられなかった。しかし、妹は同調によって君の考えが手に取るようにわかったはずである。」
そう告げるとホログラムの地球人は消えた。4人が意識を取り戻したときには彼らの宇宙船は臨界面を離れて漂っていた。

「そうか、道理で勝てないわけだ。」
ニックは目覚めるとほかの3人には聞こえないようにつぶやいた。
「いやあ、おどろいたな。だって・・・。」
そういいかけたトリムの口をナビの手がさえぎった。
「我々の知ったことは口外してはいけないといわれたはずだ。各自に知っていいことと悪いことがあり、誰が何を知ったのかは知るべきではない。」
「そうだったな。じゃあ僕は隣の恒星にある暫定基地に行くよ。そこでもうすこし修行を積む。」
「私は中央議会で彼らの技術を習得してこよう。戦闘になればメカニックは部品を選んでられないからな。」
「二人はそれぞれコールドスリープ用ポッドでいってくれ。この船は私しか操縦できないし、君らのいく空間は密度が高いので圧縮航行には不向きだ。それに私はニックのアシストをしなきゃならないらしいから。すでに合流先はセットしてある。眠っている間に迎えの船が拾ってくれるはずだ。」
「しばらくは別行動だ。またいずれ再会しよう。」
ニックの言葉を最後に4人は3方に散っていった。
「行き先は聞いたのか。」
ニックはナビに問いかけた。
「とりあえず、行方不明のフォン船長を探すようにいわれた。しかし手がかりすらないらしい。どうやらアルファも知らない意識体が関与している。だがそれ以上のことは口止めされている。もっとも宇宙の多次元構造を認知でない地球人にはこれ以上の説明をしようがないことだけど。意識体にも色々な種族がいるってことさ。僕の推理だが、一家はどこかの保護地区に居るんじゃないかと思う。」
「保護地区は誰も入れないはずだろ。それに一度保護地区に指定されれば、どこににあるかもセンスできないはずだ。」
「いかにも多次元構造を認知でない地球人の発想だな。君たちは保護地区をあたかもブラックホールで覆われた内部空間のように教えられているはずだ。目という光センサしか持たない地球人にとってはわかりやすい例えだ。内側からの光も外側からの光もブラックホールというボールの皮が吸収してしまうからな。しかし今君はそのブラックホールの皮の内側を想像できる。意識というのはどこでも自由に経路を持たずに移動することができる。3次元的に封鎖された空間であっても4次元的には出入り自由ということだ。我々の種族は次元をまたがって移動していた。そのために地球人よりも多い次元をセンスする器官がある。しかし、この世界に定住をしてからはすっかり退化し君たちと同じように3次元空間しかセンスできなくなった。ただ僕のように生まれつきの盲目のもののなかには先祖がえりによって多次元センスをできるものがいる。さっきの空間もそんな多次元空間の1つだが、ゲートによってロックされていたので存在は検地できても内部までは見れなかったが。通常さっきのような自然発生空間は狭いのだが、保護地区はそれを人工的に広範囲に発生させたようなものだ。センスだけなら可能だよ。見えないブラックホールでも位置だけは推測できるようね。ただ、発生装置を止めない限り誰も入れないし、発生装置は空間内にあるから誰も外からの進入はできない。空間的制約を受けない意識体を除けばだがね。」
「ナビ先生の講義は終了かね。」
ナビはニックにアルファの知識が戻っていることを知らなかった。そしてそれは他の2人にも同様に秘密にされ続けた。
「保護地区は空間歪みがでるから通常は低密度の空間にあるはずなんだ。ということは銀河の周辺領域のどこかってことだ。」
「近くに行けば僕にはわかる。今は説明はできないが。」
「それなら候補となる地区をしらみつぶしにあたるだけだ。古い保護地区には妨害がないから敵にも内部が見えるものがいるはずだ。となると比較的新しい地域もしくは移動後保護地区になった場所ということになる。少なくとも肉体をもったまま別次元で地球人が暮らしているとは思えない。」

『再会』
半年ほどたったころナビとニックは行き詰っていた。
「もしかしたら、発想が間違っていたのかもしれない。」
ニックは焦っていた。もし、反乱軍か海賊にでも一家がみつかれば間違いなく殺されるだろう。
「今まで、敵からも味方からも発見されていないということはわれわれの知らない空間にいるとしか考えられない。保護区域には最低5つ程度の太陽系がないと内部重力バランスが保てないはずだ。」
「君が選ばれた理由が何かあるんじゃないかな。アカデミーでの論文は何だったっけ。」
「多次元宇宙における連続時空すべりを応用した航行の可能性かい。」
「いや、その前にあったじゃないか。」
「宇宙における不連続特異面に関する研究ってやつかい。でもあれは没になった。」
「そもそも保護地区では3次元付近で時空の不連続が発生しているというものだったろ。」
「いってみれば次元の落とし穴ってやつだ。落ちることのない落とし穴の中味を調べても航行技術には関係ないといわれたよ。そうか、どっかの落とし穴の中に隠れているってわけだな。でも、穴の中に入る方法はないんだぞ。唯一の方法が意識体になることだが、安定した意識体になるには導師やアルファのように長い修行が必要だ。赤ん坊のいるフォン一家にできるとは思えない。」
「方法なんかどうでもいいんだよ。可能性があるかないかだ。」
「内部にシンクロできる肉体があれば転移できるが、普通なら隔離された内部は独自の進化をしているから奇跡でも起きない限り転移はできない。」
「でも、奇跡が起きれば可能なんだな。」
「ああ、だがひとつの肉体には常にひとつ以上の意識が結合していないとその肉体は生物的死を迎える。転移可能な体がいくつもある生物なんて・・・。」
二人は顔を見合わせると異口同音に叫んだ。
「長老!」

「しかし、ナビ、いくら長老でもシンクロする肉体がないと内部に入っても何もできないぜ。」
「長老の消えたあたりに次元の欠落したところがある。かなり古いもので空間の歪はほとんど消えている。次元間航行をするわけでもないから普通のセンサには引っかからないわけだ。ニックは到着するまで寝ていてくれ。さて、昔ナナフシと作った多次元演算装置が役に立ちそうだ。」

「ナビ、おはよう。」
「ニック、これは古い保護区だよ。地図にも載ってないんだ。多次元演算装置で次元センス結果を計算したところ、どうやら1太陽系程度の小さい空間らしい。アカデミーで講師をしている先輩に頼んで調べてもらったら、あの長老は保護地区発生器開発のプロジェクトメンバーで、唯一の生存者だった。」
「ここが目的地に違いない。僕にはわかる。」
「中から君と同じ肉体波動を感じるよ。しかし、妙だな。本来、精神と肉体の波動は一致するはずなんだが、君の精神波動だけまったく異なるというのはいったいどんな手品だい。」
「時が来れば話すよ。」
「ところで、どうやって入るんだ。呼び鈴なんかどこにもなさそうだぜ。まさか開けゴマとか。」
その時、激しい衝撃が宇宙船を襲った。次の瞬間、今まで何もなかった空間にいくつもの星々が現れた。
「制御不能だ。どこかに引っ張られてる。急速な空間の開放で逆歪が起きているから補正データができるまで安定航行はできない。」
船は1つの惑星に下りた。そこにはフォン一家と長老がいた。

長老はかつて、保護地区発生器の実験の際にこの空間に一人閉じ込められた。自分の肉体をコールドスリープさせ救助を待った。当初から万一の場合には外部のシンクロする擬似肉体へ意識体となって転移することになっていた。今ではコンピュータシステムによって手足のような可動部を持つことも可能になったが、当時の擬似肉体は意識体を閉じ込めておくだけの檻のようなものだった。長老は保護地区内部にある肉体へ転移して保護地区発生器を瞬断し、フォン一家を内部へかくまったのだった。そのために長老もここを出るわけにはいかなかった。
フォンは自分の宇宙船から荷物を降ろすと、
「空間歪の衝撃をじきに反乱軍も観測するだろう。そうなればここも安全ではない。中には入ってこれなくても外から空間包囲されたら出ることができなくなるからな。ニック、サドーとも積もる話があるだろう。続きは宇宙船でしよう。それから時間的変化補正の入った空間データを作ってある。これで、この膨張空間を敵に先んじて抜け出せるはずだ。我々の乗ってきた船では計算が間に合わない。ナビ、君の船で全員を運んでくれ。」
と言った。一行はすぐにナビの船に移動した。
「で、どこへいけば。」
「それも入っている。敵に先を越されたくないからな。ちなみにこの空間内部にも敵の探査機はいる。われわれの会話は常に盗聴されている。ただ、隔離されていたために情報が今まで漏れなかっただけだ。」
少々戸惑うナビに長老は静かに告げた。

「ニックが兄さんだったなんてショックだわ。」
ドナーはベッドの座り心地を確かめながらつぶやいた。
「それよりも僕の意識が筒抜けだったことのほうがショックだよ。」
ニックは彼女の上の段で叫んだ。狭い宇宙船の中では個室などはない。地球の重力に合わせた部屋にフォン一家とニックは詰め込まれた。幼い双子は部屋の隅で熟睡していた。フォン夫妻は長老とナビと共にコックピットに行っていた。
「ニックは兄妹だっていうことが残念だったんでしょ。」
「こんなうるさいのと家族だったなんてぞっとするよ。」
「うそついてもだめよ。なんたってニックの考えてること、わかっちゃうんだから。ちなみに私にはその気がないから心を読んでも無駄よ。」
ニックはしばらく黙っていた。そして、
「ところで、僕たちに何ができるっていうんだろ。」
と、ぽつりと漏らした。
「アルファにもわからないことがあるんだ。」
サドーは無邪気にニックをからかうのであった。
「アルファの知識はあるが、意識はニックなんだ。つまり、考えまではわからないんだよ。」
「ごめんなさい、ニック。」

「長老、最終目的地はどこなんですか。いくら計算しても、無限ループをおこして出ない。」
ナビは宇宙船を指定された航路に従い進めながら長老に問いただした。
「いいんだ。パラメータ不足だからな。この通り行けば自ずと欠落していた情報が集まる。ディスクの情報はすでに敵にも漏れていると思っていい。この船のシステムもハッキングされておる。もともと圧縮航行システムにはやつらのウイルスが住み着いているからな。無理にウイルスを取り除こうとすれば空間が押しつぶれる。しばらくはごまかせるさ。補正せずに行けば次元の狭間の虚数面に落ちる。通常、すべての圧縮航行システムから虚数補正回路をとりはずしてある。通常運行は実数面しか使わないから差し支えないからな。」
「だから従来の船では計算速度が間に合わないといったのか。この船なら多次元空間の計算ができるから虚数補正しながらでも十分間に合うわけだ。」
「それに、補正は人手でやらんと無理じゃし。そうそう、君にひとつわびておくことがあった。不連続特異面についての研究を止めたのはわしだ。研究が進めば虚数面の存在が明らかになる。意識体が瞬時に空間を移動できるひとつの解だ。現在は虚数面を肉体が通過できないが、テクノロジーはいつか想像を超える。もし、そうなればこの宇宙は無法地帯となってしまう。さて、もうじき目的地につく。そこでニックと幼い双子はギー導師に預ける。ナビは議会へこの補正データを渡してくれ。残りはそこに待機させてある船で地球の第570ステーションに向かう。」
「ステーションへ行く目的は?」
「必ず皇帝は双子を捜すためにわしを追ってくる。わしにはわかる。じゃが、やつの考えまではわからん。そこで、サドーに捕虜になって目的を突き止めてもらう。そのために船が故障したようにみせかける。よいか、敵にこちらの目的を知られぬことが重要じゃ。万一の場合に備えて、ニックの意識と同化できる脱出用小型艇も用意してある。意識を同調すれば船は遠隔操作できるはずじゃ。」

「議会長老の運行予定データの解析は終わったか。」
「それが、いくらやっても計算不能です。」
「役立たずが。追跡は順調なのだろうな。」
「計算結果と実際のルートに微妙な誤差が生じており、無人追跡機が次々と消失しています。どうやら毎回、直接補正をしないと正しい航路が算出できないようです。」
「ならば、わたしがいく。」
「サボー様が不在になられては万一の時に。」
「議会の腰抜けとエゴイストの共同体どもに何ができる。」

「皇帝陛下、フォンどもが見つかりました。これから仕留めにいってまいります。」
「それはご苦労。危険な芽は早めに摘み取っておかぬとな。ところで空間トンネルの設置は順調なのだろうな。」
「はい、議会の主要衛星のほぼ設置完了しました。ただ、共同体は広範囲のため3分の1が未設です。」
「雑魚はかまわん。主要な星から設置を急がせろ。トンネルが開通しだい海賊どもを一斉に送り込むのだ。そうだ、わしもおまえに同行しよう。わが宿敵も連中に同行しておるはずじゃ。ならば、わしがおった方が連中の居所がわかりやすいというもの。」
長老はとある小惑星帯に幼い双子とニック隠した。
それから隠してあった小型艇にサドーだけを乗せた。
「嘆くことはないわ。少しの間の別れです。敵を信用させるにはこうするしかないの。ニック、サドーをお願いね。」
そう言い残すとフォン夫婦は長老とともに別の船で漂うように離れていった。

「皇帝陛下、やつらに追いつきました。救難信号を出しています。」
「捕まえろ。わしが直々に処刑してくれる。」
フォン夫婦と長老の乗った船は抵抗することなく反乱軍の船に収容された。
「議会長老もこうなってはおわりだな。」
皇帝は長老の意識に語りかけた。
「皇帝自ら来たとは光栄だな。」
長老も皇帝の意識に同調した。
「おまえたちのことだ、子どもはどこかに近くに隠したのだろう。じっくり探してやるわ。どこに隠れていてもこの小惑星帯がなくなれば同じ事だ。自分たちの無能さをそこで、痛感するがいい。だが、わしも親子を離ればなれにするほど鬼ではない。すぐにお前たちも後を追わせてやろう。」
「それはどうかな。」
もし長老に表情があれば、にやりと笑ったことだろう。
その直後、フォン夫婦と長老の乗った宇宙船が爆発をした。
サボーの右手にあった金属球体が白煙をあげて、床に落ちた。それは長老とそっくりの球体だった。
「皇帝が負傷された。。しかたがない、探査機だけを残し引き返せ。」
探査機がコールドスリープ状態で漂っていたサドーを見つけるにはさほど時間がかからなかった。サドーを連れて探査機が消えた後、それを待っていたかのように小型艇がニックと双子の隠れている小惑星に降り、彼らを乗せるといづこかへ去っていった。

『同調』
「お嬢さん、気分はどうですかな。」
「ここは?え、体が動かない。」
「万が一のことも考えて意識を肉体と分離させてもらいました。原理は議会の長老と同じですよ。いまのあなたの体はこの金属球体です。これでもうあなたも物理的に我々をじゃますることはできませんからな。体は後で丁重に宇宙葬にでもしてあげますよ。ところで双子の居所を喋る気になりましたかな。」
「誰が、あなたなんかに。」
「強情なお嬢さんだ。」
「海賊全艦トンネルを通過しました。」
「よし、ゲートをしめろ。」
「何をしようというの。」
「この銀河全体を保護区として外から空間隔離してしまえばもはや誰も出てはこれない。邪魔な海賊ともども皆閉じ込められるというわけだ。空間縮小に備え全艦空間補正データをローディングしておけ。」
皇帝はサボーにさしだされた箱を受け取った。
「こんな小さな銀河など、連中にくれてやる。この広大な外宇宙は我々の物だ。」
そういうと皇帝は箱の小さなスイッチに乗った。いままでまばゆいばかりの光を放っていた銀河が徐々に縮みはじめやがて目の前から消失した。
「トンネル内部の空間切断確認。トンネル内部圧力低下のためにゲート崩壊します。」
それははじめからそこにはなにもなかったかのように、空間だけが広がっていた。
「ニック!」
サドーの叫びはむなしく空に消えた。
「これで、肉体のあるものは永遠にこの世界から消えた。たとえ意識体でも転移するものがなければ幽霊のようなものだ。」

宇宙船の一室で動くものがあった。それは死んだはずのサドーの肉体だった。
「信じられない。あれほど毎日シャワーとブラッシングって言って置いたのに。汗臭いし、リンスしてないから枝毛まである。」
「おい、そこで何をしている。」
見回りの兵士が叫ぶ。

「おや、誰かと思えばフォンの娘のサドーじゃないか。意識を抜かれた体が動くなんてありえないぞ。おまえは、誰だ。」
サボーは兵士に連行されてきたサドーに向かって見下すようにゆっくりと尋ねた。
「私はサドーに決まっているじゃない。他にこんな美しい人がいて。今はちょっと枝毛があるけど。」
「この傲慢さは確かにフォンの娘。じゃあ、この球体に入っているのは。」
頭を上げ、毅然として答えるサドーを見て、サボーは手に持っていた金属球体を見つめた。
「兄貴さ。」
金属球体内部から意識が流れ出す。
「ありえない、肉体波長の違うもの同士で転移などできないはずだ。」
「精神波長は調べましたの?」
「生物は生まれながらに精神波長と同じ肉体波長を持つものだ。」
「それはどうかしら。」
「もしや、単一精神多胎児。そうか、肉体は双子でありながら精神が1つというわけだ。普通なら一方が死ぬはずだが、誰かの精神を移植したということか。」
「そうよ。もともとはどちらも私の肉体ですもの。自由に行き来できましてよ。もっとも兄は精神波長が違うから肉体がつながっているときだけしか移動できませんけど。でもやっぱり男の体よりもこっちのほうが馴染みますわね。」
「安心したよ。お前を殺せば誰も邪魔できないってことだな。ところでお嬢ちゃん、この球体を壊せばどうなるかな。」
「さあ、どうなるの?」
「おまえの兄は死ぬ。永遠に。」
「へえ、やってみる?」
「おい、誰の精神かは知らんが妹を恨むんだな。おい、なんだ、何とか言え。こういうときには命乞いのひとつもするもんだろ。」
「そいつはただの物体です。精神が入ってません。」
球体をスキャナで調べていた兵士が答えた。
「馬鹿な、同調している精神はこの檻からは抜け出すことはできないんだぞ。」
「同調してればね。」
「同調してなかった。そうかい、騙されたわけか。」
サボーとサドーの会話に空間内から響くように
「気付いたようだね。君らが肉体と精神を分離してくれたおかげで元の意識体に戻れたよ。」
ニックの言葉が流れた。
「アルファ、なるほどそういうことか。」
皇帝は部屋に入るなり、忌々しそうに言った。
「皇帝陛下、もうよろしいのですか。」
サボーは皇帝に向かって事務的な口調で尋ねた。
「心配いらん。それより、長老の考えではないな。やつならこんな危険は冒すまい。」
「私たち2人だけの考えよ。あなたが、長老の意識を読めるかもしれないと思ったから。皇帝、いや長老の影武者と呼ぶべきかしら。」
サドーは勝ち誇ったように皇帝に向かっていいはなった。
「ふん、本当なら私が長老になってもよかったはずだ。あのいまいましい事故さえなければ。やつとわしは同じ肉体を共有する意識だった。もともとわしが肉体と同調しておったのだ。いってみればやつは頭だけの居候だった。あの事故によって肉体と同調していたわしのほうがより大きなダメージを追った。やつはそれを理由にわしを影にした。いつか復讐してやると誓った。それから、わしはやつから真意を隠した。無防備な、あの能なしにはわしの意識は読めまい。」
「でも、あなたは野心家だった。長老にはなれないわね。」
「なあに、もうあの老いぼれも生きてはおらん。最期にわしの意識に同調して死のダメージを与えようとしおったが、抜け出してやったわ。急なことで、ダメージは追ったがな。」
そのとき船に激しい衝撃が起こった。
「大変です。捕獲したサドーの船があばれています。」
「パワーはすべて停止したんじゃないのか。」
「兄ですわ。もともとあの船は兄の精神波長に合わせて造られてましたのよ。肉体と波長が違ったから見落としたのね。」
「保護地区発生器の出力が安定できません。このままでは発生器が停止します。」
「海賊たちがトンネルを逆送してきます。」
「トンネルゲートを閉めろ。」
「空間切断時にすでに崩壊していてもはや閉鎖不能です。」
「すぐに戦闘体制をとれ。」
「それが空間の開放によって発生した歪みに飛ばされ前線の船は衝突、壊滅状態です。」

『反撃』
「やつらもこの嵐のような歪みのなかでまともに航行はできまい。すぐに体制を立て直すのだ。」
「だめです。完全に海賊船に包囲されました。敵船は膨張歪みを予測できるようです。」
「攻撃を開始しろ。」
「膨張時の歪み補正データがないため照準があいません。このままでは味方にまであたります。」
「構わん、砲撃開始。皇帝さえご無事ならいくらでも立て直しがきく。」

「わはは、やっこさんでたらめに撃ってやがるぜ。そんなへなちょこあたりゃしねえよ。しかし、議会の連中よく補正データなんぞ持ってたなあ。しかも計算能力の低い船でも適用できるようにシミュレーション結果まで随時送ってきやがる。どんなスーパーコンピュータを使ってやがるんだ。」
海賊船の中ではすでに勝利したかのような活気に満ちていた。
「海賊をコケにした罰だ。簡単には死なせねえぜ。」
海賊船はじりじりと包囲網を縮めていた。反乱軍の船の密度が高まるにつれ反乱軍は自滅していった。
反乱軍はコンピュータ制御の船をすて有視界航行の可能な小型戦闘機で次々と逃げていった。
「旗艦に海賊が乗り込んできました。」
「ホッホー!船内戦闘だったら得意だぜ!」
トリムがその丸い体を弾ませながら反乱軍兵士の中へ切り込んでいった。
「なんだ、こいつ。予測がつかん。とりあえず壁際に退避しろ。」
トリムはちょっと体をへこますだけで歪みによりイレギュラーなバウンドを起こすことができた。
そして丸い体の影となった死角から海賊たちが次々と反乱軍に飛びかかっていった。
「ナナフシ、早くドアロックを解除してくれ。」
「待ってくれよ。大体メインコンピュータにハッキングするのがどれほど大変かわかっているのか。お前はいいよ、そうやってボンボン弾んでりゃいいんだから。」
「なんだと、これでも弾む方向を考えてるんだ。」

「ここもおしまいだな。サドー、こっちへこい。人質がいればやつらもうかつには攻撃できまい。わたしと皇帝は体制を立て直す。皆でやつらを生きて返すことのないように。ここで勝てば君たちは軍の英雄なのだ。」
そういい残すとサボーはサドーと皇帝を連れて司令室を出て行った。
それと、入れ違いにトリムたちが飛び込んできた。
「皇帝はどこへ行った。」
負傷した反乱軍兵士を押さえつけ議会兵士が詰め寄った。
「馬鹿目。今頃は手の届かぬところにいるわ。精々勝った気でいるがいい。直に皇帝陛下が助けに来てくださる。」

「追ってきたか。」
ニックの意識と同調した小型艇が脱出した皇帝たちを追ってきていた。
「だが、攻撃はできまい。妹の乗っている船を撃つわけにはいかぬからな。皇帝、このままどこかの星・・・」
サボーと一緒に乗ってきたはずの皇帝の姿はなかった。そしてサドーの姿も。そして1隻のボッドが船から離れていった。
「皇帝、何を!」
サボーがおどろく中、ある意識が彼の心を貫いた。
「長老!」
「はっはっは!爆破する前にわしはやつと体を入れ替えたのじゃよ。完全に交換できなんだで多少のダメージはあったがの。サボー、もはやおぬし一人じゃ。何もできまい。」
「くそー、皇帝など元々ただのお飾り。必ず体制を立て直して復讐してくれる。」

皇帝の体に入った長老とサドーはニックの操縦する船に移った。
「長老、彼を逃がしていいのですか。」
ニックは長老に尋ねた。
「一人では何もできまい。いったいどこへ逃げるつもりやら。」

「とりあえず、コールドスリープのままどこか適当な星へ行こう。何年、いや何百年かかるかわからないが、かならずこのお返しはしてやる。」
サボーを乗せた船が包囲する海賊にみつかったのは彼がコールドスリープに入って数時間後のことであった。しかし、中にはサボーの姿はなかった。

『波長』
「ところでサドーの肉体が生きておるのでシンクロしているニックの体も生きておる。サドーの助けがあればニックを元の肉体に戻すことの可能だがどうする。」
長老は淡々と尋ねた。
「やめておきます。もう役目は終わったし、心をいつも読まれているのは気分もよくないですから。」
「えー、人をストーカーみたく言わないでよ。だいたい勝手に流れてくるのよ。私は悪くない!」
サドーは少々ヒステリックに言った。
「ニック、ふたりの意識を交換したとき肉体は細胞レベルでつながっておったんじゃ。お前さんは何も見えなかったのかの?」
「いや、その」
長老の問いかけにたじろぐニックを見たサドーは
「ちょと、何。それって私の心を見たっていうこと。乙女の純心を覗くなんて最低。」
と、すっかり機嫌を損ねるのだった。
「勝手に流れてきたんだ。僕だって見たくて見たんじゃないやい。」
「聞こえない。あんた男でしょ。はっきりしなさいよ。」
「見たよ。見ました。」
「長老、こんなやつとは兄妹なんて耐えられない。ニックの体なんてさっさと処分して。私にはあんな男臭い体必要ないわ。この完璧に美しい体さえあればどんな玉の輿にだって乗れるわ。」
「無理無理、こんなじゃじゃ馬貰い手があるわけないだろ。」
ニックとサドーの激しい口論に長老が割って入ろうとした。
「あー、お取り込み中すまんが、ニックの体は・・・」
「処分して。」
二人は同時に叫んだ。
「仲良く喧嘩しているところ邪魔して悪いが、ここにある空の体も処分するかい?」
それはナナフシとトリムだった。
「それは?」
一同が言葉の真意を理解できずにいると・・・。
「ニックになる前のアルファのDNAで造った卵さ。機械の体よりはフィットすると思うぜ。成長するには時間がかかるけどね。」

産まれてすぐ失踪したアルファたちには名前はなかった。新しい卵に転移したアルファは成長すると従来どおりニックと呼ばれれることになる。それから20年ほどしてからのこと。
「盛大な式だったね。」
「なんたって銀河を救った英雄同士の結婚だもの。」
「でも、今日ぐらい喧嘩しなくたってよさそうなもんを。」
「あれは、ニックが悪い。だいたいドレスのすそを踏むなんて今どきお笑いでもやらないぜ。」
「ナナフシの再生した肉体がシンクロできてないんじゃないか?」
「おいおい、俺のせいかい。前は互いにシンクロしていたから考えがわかったけど、今はわからなくなって不安なだけさ。」
「サドーが怒ってドレスのすそを短く切っちまったのには面食らったが、ふたりらしい式でよかったじゃないか。」
「まったくだ。波長が合っているのか合ってないのかわからないな。しかし、サドーも20年間コールドスリープするかね。」
「ニックが成長するには時間が必要だったのさ。地球人は寿命が短いからね。これで、天国のフォン夫妻も安心だろうよ。」
「とんでもない。ここだけの話、二人は死んじゃいないよ。爆発に巻き込まれたのはただの器。出生記録のないサドーの弟たち双子、変だと思わないかい。波長をセンスして気づいたよ。親の個々の波長と同じなんだ。夫婦はもとは他人だ。まったく異なる波長をしている。しかし、子供は母親と何ヶ月も体内でつながっているんだ。母親の波長に類似するはずだろ。それが一人は父親の波長と同じってことはコピーってことだよ。自分たちはコピーに入ってたんだ。親の体のほうが遠隔操作されてたってわけ。だいたい自分の子供を囮にするなんて変だったんだよ。」
「ニックとサドーは知っているのかい。」
「ああ、ニックはアルファの知識が戻った後、知ったらしい。サドーはニックと意識を入れ替えたとき知ったらしい。騙されたって相当怒ったらしいよ。」

ニックとサドーは友人たちに見送られて旅立った。
「ナビはパイロットに、ナナフシは軍の研究施設に、そしてこのトリム様は大尉になったわけだが、あの二人はどうするのかね。」
「英雄に就職は似合わないだろう。」
「恩給は断ったらしい。」
「収入なしで暮らすのかい。」
「いらないだろう。誰があの二人からお金を取れるっていうんだい。」
「俺。」
「海賊以下になるつもりかい。」
「どっかで自給自足の生活送るらしい。おちついたら親しい友人には連絡をくれるそうだ。」
「なら、君にはこないな。」
「どうして。」
「だって、君は親友じゃなくて、悪友だ。」