その年の冬は、世界中でカゼが大はやりしたの。
「ゴホン、ゴホン・・・ゼ−ゼ−。」
「まあまあ、だめですよ。」
ベッドから起き上がろうとしたおじいさんを押し戻すかのように、おばあさんはあわてて駆け寄るとおじいさんに布団を掛け直しました。
「すまないねぇ。」
おじいさんは横になりながら弱々しく答えるのでした。
「あと一週間あったら・・・」
「ほんとうに。」
そのころ町では妙なうわさが流れていました。
「ジャン、クリスマスがこないって知ってるかい。」
「ああ、もちろんさ。うちはケ−キ屋だぜ。そのせいでおやじもおふくろもシケた面してんだ。」
こんな会話が、パリでもニュ−ヨ−クでも、こどももおたなも、そこかしこでささやかれているのでした。
「テレビの前の皆さん、今晩は。さて、今夜は特別番組『どうしたの?サンタさん』をお送り致します。」
「パパママ、早く早く。はじまったよ!」
各テレビ局は、毎日こういった番組を報道していました。
「今夜は、祝祭日評論家の安三田宇礼氏をお迎えしてお送りします。あ、さてェ。長い間世界中のこどもたちに夢を与えてくれたサンタのおじいさんで親しまれておりましたサンタクロ−ス氏ですが、突然今年は休むという手紙が世界中の町まちに送られてきたことは、すでに皆さんも良く御存じとおもいます。が、原因についてはまだわかってい
ません。そこで、なぜにサンタさんはいらっしゃらないのか!ということをいっしょに推理していきたいと思います。」
おとなたちは皆、サンタなんかいないと思っていましたから、質の悪いいたずらだろうと考えていました。でもこどもたちにとっては、プレゼントがもらえるかどうかの背
と際でなので深刻な問題だったのです。これに付け込んでか各マスコミなども視聴率や売上を確保しようと一層世論をあおり立てるのでした。
「安三田さん。ほとんどのマスコミが、誰かの悪戯だろうと報じているようですが、あなたもそうだと思いますか?」
アナウンサ−は少しもったいぶったようにカメラを横目で見ながら、小肥りの男に向かって尋ねました。
「なんでだ、なんでなんだ。どうしてクリスマスが休みにならないんだ。そうだ。これはきっとお菓子屋の陰謀に違いない。冬休みになっても、こどもたちが旅行にいってし
まわないようにしてるんだ。クリスマスがなんだ。サンタクロ−スが、どうしたって!どうして毎年毎年やってくるんだ。いつだって誰も何にもくれやしない。バレンタインデ−だって、誕生日だってそうだ。」
「誰か押さえろ・・・はっはっは。ただ今は大変お見苦しい所をお目にかけました。いったいどうしたんでしょうか。き、きっとクリスマスがこないので気が動転していたの
でしょう。」
アナウンサ−は、スタジオの隅で、さるぐつわを噛まされ縛り上げられているゲストをちらっとみると、すぐにカメラに向かって精一杯笑顔を作り続けていました。
こんなふうに世界中のいたる所でうわさがうわさをつくり大騒ぎになっていたころ、さきほどのおじいさんとおばあさんが、こんな話をしていました。
「今年は皆、困っていることでしょうに。おじいさんがカゼなんかひくからですよ。」
「わしも、もう年かのう。」
おじいさんは、熱があるのでしょう、赤い顔をして横になったままボソッといいました。しわのよったその顔には、白くて長いあごひげがありました。
「むすこのセルジュがいてくれたら。」
おばあさんはさびしそうにつぶやきました。
「あの子のことは言うんじゃない。ごほごほ。」
「おじいさんだめですよ。とにかく今年は仕事を休みにしましたから。」
そう、このおじいさんこそ、本物のサンタさんなのでした。
「今年は、つまらないね。」
外ではいつもそりを引いて走るトナカイたちも、退屈そうに話していました。
「ルディ。ちょうと・・・。」
おばあさんが家の蔭から一匹のトナカイを呼びました。すると角の赤いトナカイが声のする方へと駆けていきました。彼があの有名な赤鼻のトナカイさんの孫の赤い角のル−ドビッヒ・トロイヤ・三郎太・・・ええい、めんどうだ!ルディだったのです。
「お前、すまないけどちょっと街の様子を見てきてくれないかい。」
「パパ、本当にサンタさんは来ないの?」
「そんなことはないさ。きっとプレゼントを持って来てくれるさ。」
「僕、ファミコンが欲しいなあ。」
どこの家でもこんな明るい会話が交わされていました。
「これじゃあ、サンタクロ−スはもう廃業かな。」
ルディはそう言うと、帰ろうとしました。
「あっ、トナカイだ。」
みると一人の男の子がルディを見つけて近寄ってくるではありませんか。
「すごいなあ、きっとサンタさんもこんなトナカイにそりを引かせてるんだろうなあ。」
「坊や、サンタクロ−スを信じてるのかい。」
突然の声に少年は、あたりをキョロキョロと見回していました。
「こっちだよ。」
少年は驚きました。だって目の前にいる、トナカイが、声にあわせて大きな口をパクパクさせていたのですから。しかし驚きは、一瞬の後には喜びとなって彼の体中を駆け巡
っていました。
「君かい?君なんだね。」
少年は小さな目をまあるく見開いたまま、トナカイに話しかけました。
「そうだよ。」
「すごいなあ。すごいや。」
男の子は、茶色い毛のふさふさした大きなトナカイに、小さな手で恐る恐る触りました。
「君サンタクロ−スをしんじてるのかい?」
「ううん、でもいたらいいんだけどなあ。・・・うわあ、あったかいや。」
そして、彼の身長の二倍はあるルディの、大きなおなかにほほをくっつけました。その時この子の目が涙で光ったことにルディは気付きました。
「どうしたんだい?」
ルディは優しく尋ねました。
「なんでもないよ。・・・そうだ、ねえ乗っけてくんないかなあ。」
少年は、少し甘えた声で言いました。
「いいよ。それじゃあ君の家まで送っていこう。」
「いやだ。家になんか戻るもんか。」
そう叫ぶとその子は、駆け出しました。
「僕、クリスマスはきらいだよ。」
二人は、小さな空き地にいました。そして少年は、一本の枯れ枝を拾うと、座ったまま通りのほうへ投げました。
「ほう、どうしてだい。」
ルディは、面白そうに尋ねました。
「だって、僕一度もプレゼントもらったことがないんだ。パパもママも忙しくっていつもひとりっきりなんだ。」
少年の名前は三太といいました。彼の父親は、バイオリニストで、この時期になると世界中を演奏していましたし、母親は牧師さんのお手伝いで帰ってこないのでした。
「クリスマスの時、一緒にいてくんないかなあ。」
男の子はルディの顔をのぞき込むようにしてたずねました。
「いいよ。」
ルディは、主人のサンタが休むんだからかまわないだろうとおもいました。
「ほう、そんなことがあったのかい。」
おばあさんは、しわの中に隠れて細くなった目をおもいっきり広げると嬉しそうにおじいさんの所へと駆けていきました。
「今年は、休みだしその子に来てもらったらどうでしょうね。たまには、世間並のクリスマスとゆうのも、いいんじゃありませんか。」
おばあさんは、さっそくパ−ティの準備を始めました。
「何年ぶりでしょ、我家でクリスマスを祝うなんて。あの子が居たころは毎年おじいさんが帰ってくるのを待って、皆で楽しく騒いでたのに。」
サンタ夫婦には息子がひとりいました。でも彼は、貧しい暮らしが嫌で都会へと出ていってしまったのでした。その後一人の男に子が生まれたとゆう知らせが一度あったきり
でした。
いよいよ、クリスマスの日がやってきました。約束どおりルディは、三太の家へとやって来ました。
「黒須 世留寿。ここだ。」
「すごいや。僕のためにパ−ティを開いてくれるなんて。でもパパ達が、なんて言うか心配だな。」
男の子は、ちょっぴり不安になりました。
「朝までには送るからおいでよ。」
サンタクロ−スの家では、サンタと気付かれないようにと、家中模様替えをしていました。
「真っ赤なお鼻のトナカイさんは、サンタに会ってから、いっつも皆の人気者。だっけどまぶしくていつもサンタは、不眠症。」
ルディは、得意の歌を唄いながら、三太を乗せて空を駆けていきました。
「サンタのそりを引くのは誰だい。こどもかい、おトナカイ。いまいちだったかな。」
二人は、大はしゃぎで星空をかけていきました。
「ほっ、ほっ、ほっ。メリ−クリスマス。」
家の中にはいるとおじいさんが出迎えてくれました。白い髭に、肥った体。それに真っ赤な服、それは正しくサンタクロ−スそのものでした。
「こんばんわ。」
「おや、似てなかったかな。」
おじいさんは、少しがっかりしたようにいいました。しかしその顔にはこぼれんばかりの温かさが、ただよっていました。
「本物のサンタさんみたいだよ。すっごくすてきだ。」
「おじいさんったら、驚かすんだって張り切ってたのよ。」
おばあさんは狐色にこんがりと焼けた七面鳥を運びながらしわだらけの顔一杯に優しい笑みをうかべていました。
「さあさあ皆席について。」
神へのお祈りも終わり、テ−ブルの上の数々の料理をろうそくの灯が照らしだすとそれが陽気なパ−ティの始まりの合図。
「僕まだ名前も言ってなかったね。僕、サンタ・クロス。」
「サンタクロ−スだって!」
あまりのことに、奥に隠れていた小人さんたちが飛び出してきました。
「名前が三太、名字が黒須。だから、さんたくろす。」
おじいさんはあわてて、小人たちをにらみつけました。とたんに、かれらは部屋の奥に、逃げていきましたが、三太は、しっかりと見つけていました。
「やっぱり、おじいさんはサンタクロ−スなんだね!」
「ほっ、ほっ、ほ・・・ごほごほ。」
「おじいさん、ねてなきゃだめですよ。」
おばあさんは、咳き込むおじいさんの背中をさすりながら心配そうにいいました。
「どうやら、ばれちゃったらしいね。じつは、ご覧のとおりかぜをひいてしまってね。それで、プレセントも配れない。」
「そこで、世界中に手紙をまいたってわけなの。」
おじいさんとおばあさんは、それまで小人さんたちが隠れていた奥の部屋の、机の上に山積みにされたリボンのついた箱を目でしめしました。それは、一年がかりで、おじいさんや小人さんたちが一生懸命作ったものでした。
「普通のお家は、おとうさんやおかあさんたちが、夜こっそりとプレゼントをおいていってくれるけど、身寄りのない子供達が世界中には大勢いるのよ。そんな子達は、クリ
スマスになると、空や、海にお願いするの。お人形を下さいとか、おもちゃを下さいとかよ。そんな子達のおもいが、風や波に乗ってこの北極までとどくのよ。」
「北極にサンタさんて、住んでるの?」
「そうですよ。」
おばあさんは、優しく答えました。しかしその顔のしわの中には、どこか暗い影がありました。
「氷山の中にこのお家は、あるのじゃよ。だから普通の人には、見つからないんじゃ。」
おじいさんが、弱々しい声でベッドの中から答えました。
「ここに届いた願いは、ほんとうにサンタを信じてる子供達のものなんですよ。だけど年々少なくなってしまって、特に坊やのいる日本からは何年もやってこないわね。でもほかの国では、戦争や事故で親を亡くした子達が、年に一度だけわがままを、それもささやかな望をかなえてもらうのよ。」
おばあさんはそう言うと、いくつかの箱をあけてくれました。中には小さくて見栄えもさほど良くない人形や、形の不揃いなキャンディなどがはいっていました。
「ねえ、ファミコンとかかっこいい服とかは、ないの?」
「ほほほ、ありませんよ。ここにくる願いは、本当にささやかなものですよ。それも、ほとんどは、弟や妹のためにとゆうものなんですよ。」
おばあさんの目は、涙で潤んでいました。
「ねえ、僕達でこれ配ろうよ。」
三太は、プレゼントを箱に戻しながら言いました。
「でも、もう夜も遅いし、ふたりじゃ・・・。」
「ふたりじゃ、ありませんよ。」
「パパ!」
「そうですよ。」
「ママ!」
「ごぶさたしております。」
おじいさんとおばあさんは、びっくりして声を出すこともできませんでした。
「おとうさん、どうかなさったんですか。」
三太のパパはベッドにかけよって心配そうにたずねました。
「なにしにきた。」
おじいさんは、怒ったように言うと、ぷいと背中をむけてしまいました。
「パパたち、しりあいなの?」
「どうしたんですか、おとうさんが仕事を休むなんて。」
「勝手に飛び出していきおって、今更よくのこのこと帰ってこれたもんだ。」
「それはないでしょ、三太をつれだしといて。」
三太の父、黒須世留寿は、実はサンタクロ−スの一人息子だったのです。
「誰もお前の子だと知っとりゃ連れてきたりはせんわ。」
「おじいさん、僕のこと嫌いになっちゃった?」
男の子は、サンタのおじいさんに恐る恐るたずねました。
「グウグウ」
おじいさんは、答えの代わりに大きないびきをかいていました。
「あらあら、困ったおじいさんだこと。」
おばあさんは、笑って様子をみていましたが、困りはているおじいさんを、ついに見かねて、皆をテ−ブルのほうへと誘いました。
「おじいさんたら、本当は嬉しいんですよ。でも強情な人だから・・・」
「わかってますよ。それよりどうしたんですか、おとうさんが仕事を休むなんて。」
「かぜをひいてしまってね。若いときだったら、無理もきいたんでしょうけど、もう年でしょ。それに、最近は、どこのうちも子供達にサンタクロ−スの話をしないのか、ここまでとどく願いもすっかり少なくなってしまって気落ちしてるんですよ。」
「仕方がないですよ。今やどこの国の子供達も、父親や母親が、プレセントをもってきてくれると信じてるんだから。」
セルジュは、おじいさんの方をチラッと横目で見ながら、肩をすくめて言いました。
「さあ、時間がなくなります。急いでそりにプレゼントを積みましょう。」
彼は、椅子から立ち上がると、机の上にある包を次々と大きな袋の中へ詰め込みました。
「ルディ。」
「セルジュ様。」
「おまえも覚えていてくれたのかい。僕が家を出たときは、まだ小さかったのに。」
「勿論ですとも。まだ残ってますよ、ほら。あなたと、氷山登りをしたとき、いっしょ
に落ちた傷跡ですよ。でも、どうしたんです。あんなにサンタクロ−スを嫌がってこの家をお出になられたのに。」
「確かにね。」
ふたりは、大声で笑っていました。
シャンシャンシャン。トナカイ達は、鈴を元気に鳴らしながら走っていきます。
「サンタクロ−スの好きな色知ってるかい。」
「そりゃ赤さ。」
「あ、雨の降ったときに使うやつや。」
「そりゃあ傘。」
「サンタの乗りもんやがな。」
「ソリや!赤や、赤色。」
「ブ−、黒でんがな。」
「なしてや。」
「サンタ、黒、好っきやねん。」
トナカイ達は、そりを引きながら漫才を、しています。
「トナカイさん達って、いつも陽気なんだね。」
三太少年は、パパとママの間に座ると初めての空の旅を楽しんでいました。
「そろそろ街の上です。」
トナカイの先頭を行くルディがそう言うと、そりは、一気に高度を下げていきました。
「きゃあ。」
ママは、帽子を片手で押さえながら、もう一方の手でパパの腕をしっかりとつかんでいます。
「ジェットコ−スタ−みたいだ。」
三太は、大喜びです。
「ママこうゆうの弱いの。」
ママは涙を拭くとあえぎながらいいました。一方パパは、しっかり前を向いてはいましたが様子がおかしそうです。
「パパ、どうかしたの。」
「い、いや。な、な、なんでもない、い、い、よ。は、は、は。」
「パパは、高所恐怖症なのよ。」
ママは、そっと三太に耳打ちしました。
「よ、余計なことを、言うんじゃないぞ。パパは、平気だぞ。昔はよくルディに乗って世界中を駆け回ったものさ。なあ、ルディ。」
「そうですとも、あの事件までは。」
「事件?」
「しっ。」
パパは、ルディの話を止めました。
「事件てなあに。」
三太は、パパに尋ねましたが、どうしても教えてもらえません。ママにもききましたが、
「ママも知らないわ。」
と、つれない返事が返ってくるばかりでした。
「街だ、街だ。プレゼントを配るぞ。」
パパは、とうとうごまかしてしまいました。
「最近は、煙突のない家ばかりで入るのが大変なんですよ。」
ルディは、そう言うと子供部屋の前でそりを止めました。
「メンドウサ、君の出番だ。」
二番手を引くトナカイは角が蛇のように曲がりくねっていました。
「めんどくさ。」
彼は一言こう言うと
「わたしの作る亜空間を通って入ってください。」
と言って彼は角を前に向けました。するとその周りに、暗い世界が広がりました。
「パパは、他の家にいくから。」
そう言い残すとルディを、そりからはずし、彼にまたがって三太のパパは街の中へ消えてしまいました。
「さあ、はいりましょ。手を放しちゃいけませんよ。」
三太はママと一緒にメンドウサの作る暗い世界へ飛び込みました。中へ入るとそこは金色の光に満ちた明るい世界でした。そこでは、全てのものが宙に浮いていましたが、その中を大きな鞄をさげた一匹のうさぎがあわただしく横切っていきました。
「あれは、ここの郵便屋さんよ。時計屋が、つぶれちゃったらしいわ。」
ほかに、牛の宅配便に、もぐらの(バナナの)たたき売りや、馬のさくら、かえるの油
屋、ナメクジの塩売りなど、変わった人達がいました。、
「どいたどいた。」
威勢のいい掛け声とともに駆け抜けていくのは、ドラゴンの消防士でした。
「奥さん、そっちは、あぶないよ。カジヤガカジヤデ。」
「?」
「鍛冶屋が火事なんですたい。」
そう教えてくれたのが、天気予報官のあめふらしでした。
「ところで、虎さんは今はどんな仕事をしてるんですか。」
まきをつんだリヤカ−をひいて通る虎をみて、あめふらしにママが尋ねました。
「虎ば、湯屋に、トラバ−ユや。」
「・・・!」
「きゃあきゃあ。たぬきんよ!」
「え、たのきん。」
「いえ、たぬきんです。たぬきと、ヌウと、金魚のトリオで、たぬきんてゆう歌手なんです。あっちが、大きなバクの神子(みこ)で、おおばくみこ。父親は、米屋で、こめとうさん。あちらが、たぬきのしょじょじ隊。こっちには、めでたいふたりの盆暮デイ。ロ−ラ−スケ−トに乗ってる蛍達が、光る源氏(蛍)。」
どうやらここは、パロディ空間のようでした。
「ここは、五次元の世界なんですよ。人間達の考えていることが、総てわかるところなのです。我々は、飛鳥狂香というしょうもない人間の、考えの中にいるようです。」
「しょうもない、ショウモナイ、醤油もないソ−スもない、生姜ない・・・」
「ほらね。」
正直者のあまのじゃくが、いいました。
やがて、三太とママはこの奇妙な世界を抜けました。
「プレゼントを置いて早く帰りましょ。」
ママの優しい声に気が付いた三太は、突然目の前に現われたベッドにびっくりしてしまいました。
そこは、子供部屋の中でした。ふたりはメンドウサの造り出した亜空間を通って、部屋の中へ入ってきたのでした。
ふたりは、あっちの家こっちの家と、次々に、回っていきました。
一方パパは、ルディに股がって、とんでいました。
「おい、もう少し低く飛んでくれよ。」
「これでも、目一杯低くしてんですよ。」
確かにルディは、地面すれすれをとんでいました。
「おっと。」
かれは、小石につまづきました。
「氷山の事件以来、すっかり臆病になられましたね。」
「うるさい。臆病なんじゃないぞ。慎重なだけだい。それに、おまえも歳なんだからあ
まり高く飛ぶと老眼でよくみえないんじゃないかと気をつかってやってんだぞ。」
「高いところが嫌で、家出したくせに。」
セルジュとルディは、わいわい言いながらもプレゼントを配り続けました。
「さあ、次の街へ急ごう。」
三人は、いろんな国のいろんな街へといきました。ある国では一家が、六畳ほどのところに、とぐろを巻くようにして寝ていました。また別の街では、泣く力もない赤ん坊を抱きかかえるようにして寝ている人達もいました。手足は、小枝のように細く、おなかがとびだした子供達もいました。でも、三人の胸を強く打ったのは死んでしまった子供をだいたまま寝ている母親の姿でした。
「もう少しクリスマスが早くきていたらきっとこの子も幸せな想いで天国へいけたでし
ょうに。」
三太のママは、そういうとそっと小さな包を、すでに冷たくなったその子の手に置きました。
「去年は、この逆のケ−スが、ありましたよ。」
ルディは、そっと三人につげました。
「もうじきその子のところです。」
夜風が、一段と冷たく感じてきたころ、
「そろそろ夜明けだ。これが最後の配達だぞ。」
三太のパパは、そう言って小さな洞窟の入り口へとそりをつけました。
「ここね。ルディが、さっき言ってた子の家は。」
「はい、奥様。」
真っ暗な穴の中に一人の男の子が寝ていました。
「パパ、大変だ。どうしよう。」
プレゼントの入っている袋の中を探っていた三太少年が、青くなって叫びました。
「プレゼントがもう残ってないよ。」
「いいんだよ。この子には、物は必要じゃないんだ。」
パパは、メンドウサを呼びました。
「三太、よくお聞き。この子は、とっても寂しい子なんだ。父親は、家出して、母親も去年死んでしまって。この子の心は、今すっかり冷えきって堅く閉ざされてしまってるんだ。この子に希望をあたえられるのは、おまえしかいない。メンドウサの亜空間でこの子の心にはいるんだ。」
「僕やるよ。」
「でもどんな危険があるかわからないんだぞ。それに、一度はいったらこの子が心を開くまで帰ることができないんだ。それでも行くのか。」
三太は、ちょっぴり迷いました。でも男の子の無表情な寝顔を見ていると、キュンと胸
が締め付けられる想いがしました。
「行くよ。」
三太はきっぱりと答えました。
「気を付けるのよ。」
ママは三太はしっかりと抱きしめました。
三太は、メンドウサの曲がりくねった角からつくられる亜空間へと飛び込みました。気がつくと彼は真っ暗な世界にいました。
「パパ、ママ。」
三太は、おそるおそる声をだしましたが、返事はおろか、こだまさえ返っては、きませんでした。
「おおい、誰か居るのかい。いたら返事をしてくれ。」
三太は、おもいっきり叫びましたが、闇はひっそりと静まりかえり彼の周りをただ取り巻いているのでした。
「どうしたらいいんだろう。」
三太は、迷ってしまいました。行けども行けども果てしない暗闇が広がるだけで、なにもありません。彼の小さな手は、壁一枚さえ触れることはないのでした。やがて三太は、退屈になって座り込んでしまいました。
「だれ。」
彼は急に冷たく重い視線を闇の中から感じました。でも、彼の問に応える声は、どこからもやってはきませんでした。
「パパ、ママ。」
三太は悲しくなって、小さな二つの目に、うっすらと涙が溜まるのを押さえることができませんでした。
「なぜ泣くの。」
三太はその声にドキッとして、顔をあげました。すると闇の中に小さな光があらわれしだいに彼の方へと近づいてくるではありませんか。それはどこか温かく柔らかな光でした。そして、光はやがて三太より少し大きく成ると、女の人の姿になりました。
「坊や、どうしたの。」
そのころ洞窟の中では、三太の両親が、心配そうに少年をのぞき込んでいました。
「あなた。三太は大丈夫でしょうか。」
ママは、不安そうにパパに尋ねました。
「信じるしかないよ。僕達の子だもの。きっとうまくやるよ。」
セルジュも自信はありませんでしたが、今は手のだしようがなかったのです。ママは、落ち着かないようでした。
「人の心には、他人を排除しようとする働きがあると聞いています。はたしてあの子が罠にかかってしまったら。」
「僕サンタクロ−スのおじいさんの代わりにきたんだ。」
「まあ、そうだったの。おばさんは、この子の母親よ。」
女の人は、そう言うと三太の脇に座りました。
「去年のクリスマスのときに、この子が一人で生きてけるようになれるまでサンタクロ−スに時々様子を見てもらうように頼んだのよ。でも、もうその必要はないわ。この子の心にはいつも私が居ます。」
母親は優しい笑顔で語りかけました。三太少年は迷いました。彼だって早く帰りたかったのです。でもなにか妙なのです。
「ねえ、おばさん。どうしてここはこんなに暗いの。」
「この子は、一人で生きているからですよ。」 「でも、それって寂しくないの。」
「平気ですよ。この子は、一人が好きなんです。それに私が居ますもの。さあ、今なら私が外へ連れていってあげましょう。」
「できないよ。」
三太は、きっぱりと言いました。
「なぜ、他人の事なのにそんなに意地になるの。ほっとけばいいのに。」
母親は少し苛立ち始めたようでした。
「僕は、サンタクロ−スの代わりなんだ。それに、それに僕だっていつも一人っきりだったんだ。僕はパパやママが生きてるけど、それでも独りぼっちの寂しさがわかるんだ。」
「おまえにわかるもんか。早く出ていけ。」
今まで優しい笑顔の漂っていた母親の顔が、急に恐ろしい形相に変わりました。異様な光を放つ目が、三太を鋭く睨みつけ、耳元まで裂けそうに大きく開かれた口からはおどろおどろしい響きを持った声が発せられるのでした。
「出ていかないならおまえを二度と外へ出られないようにしてやるぞ。」
その言葉と共に、闇の中から突如激しい風が吹き出し三太を巻き込みました。
「あああ。」
三太が、気付いた時には、再び辺りは真っ暗な世界へと戻っていました。
「なんだったんだろう。」
少年は、しばらく呆然としていましたが、やがて立ち上がると再びゆっくりと歩き出しました。
「ドン。」三太は、右手を何か堅いものにぶつけました。
「いたた。」
彼は、急いで左へ飛んでよけましたが今度は背中をぶつけてしまいました。周りには高い壁が、四方隈なく張り巡らされていて、出口らしいものはどこにもありません。
「あの子、どうしたんでしょう。随分遅いですわ。」
そう言うとママはすっくと立ち上がりました。
「どこへ行く気だい。」
パパは、ママを止めました。
「決まってます。あの子のところです。」
「待つんだ。」
「もう待てません。あなたは心配じゃないんですか。一人息子なんですよ。あなたがそんな薄情な人だとは思いませんでした。」
ママは、ぷいと顔をそむけると洞窟から出ていきました。
「しかたがない。」
セルジュはそうつぶやくとルディを呼んでこう言いました。 「ノスとラダムの双子を連れてきてくれ。」
「え、あの二匹をお使いになる気ですか。さしでがましいようですけどおよしになった
ほうが。」
「いいから、呼んできなさい。」
ルディはしぶしぶと出ていきました。
「どうしたらいいんだろう。」
三太は、すっかり弱ってしまいました。その時壁の向こうからスウスウとゆう人の息に似た規則的な音が響いてきました。
「誰、誰か居るの。」
しかし、その声に応えるものはなにもありませんでした。
「あれ゛ぇ?!」
三太は、おどけて見ましたが、やはり反応はありませんでした。
「ねえ、話をしようよ。」
「ほう、そんなに話がしたいかい。」
突然地に轟くような声とともに壁のあたりに一つの顔が浮き出しました。
「ようし、話したいなら話すがいい。その代わり私を笑わせることができなければ、壁でおまえを押し潰してしまうぞ。」
「笑わせたら、ここからだしてくれる?」
「いいだろう。」
壁に浮かぶ顔は、うなずきました。
「世界で一番短い話。『わっ!(話)』」
「・・・」
壁の顔は、呆れたように三太を見ていました。
「面白い話。『一匹の犬が現われました。頭の白い犬でした。胴は真っ白でした。足も白色をしています。勿論尾も白いです。』」
「あああ、つまらん。だめだな。おれはもう寝るよ。」
壁の顔は、大きなあくびをすると闇の中へ消えました。そして壁がじりじりと三太を押し始めました。
「待って、後一つ聞いて。」
三太は、叫んだ後しまったと思いました。
「ようし、一つだけだぞ。」
顔は、しかたがないといった様子で、待っていました。三太は困りました。そこで、かれは、ルディに教わった話をすることにしました。
「サンタコロ−スは、真っ赤なお鼻のトナカイさんに会う前に、一匹の猿に会いました。『暗い夜道は、てかてかの、わいのお尻が役に立ちまんねん。』猿は売り込みに一生懸命でした。その夜、サンタは、猿をそりの先頭につけました。しかしそりは飛びません
でした。だって、トナカイさんたちの目の前で猿のおしりが光っているんですもの。」
「はっはっは。」
壁の顔が笑うとそこには一人の男の子がたっていました。
「君っておかしいね。」
男の子は、三太に言いました。
「この話は、サンタクロ−スのトナカイのルディに聞いたんだ。この話には、続きがあるんだ。困ったサンタは、猿を後ろ向きにつけました。今度は、トナカイ達は、大空へ舞い上がりました。しかし、プレゼントを配ることはできませんでした。猿が向きを変えようとして進むほうをみると、トナカイ達は彼のお尻の方へと向かってしまうからでした。しかしついにサンタは、名案を思い付き、無事仕事を済ませとそうです。翌朝戻ってきたサンタクロ−スの目には、黒い二つのレンズが光っていました。これが、サンタの眼鏡、サンタ・グラ−ス、サングラス。」
「サンタのおじいさんはどうしたの。」
少年は三太に尋ねました。
「風邪なんだ。」
「えっ。」
少年の顔が急に曇りました。
「きっと僕のせいだ。」
彼はぼそっと言いました。
「僕をサンタのおじいさんに会わせてくんないかなあ。」
三太は困ってしまいました。でも、あまりにも少年が真剣なので断ることができませんでした。
「パパに頼んでみるよ。でも、なぜだい。」
「サンタのおじいさんの風邪っていつからだい。」
「一週間前ぐらいじゃないかな。」
「やっぱりそうだ。」
少年の目は、申し訳なさそうにうつ向いてしまいました。
「一週間前のことさ。僕は生きているのが嫌になったんだ。それで海に飛び込んだんだ。
でもその時僕に会いにきたサンタさんが助けてくれた。だからきっとそのせいなんだ。」
「セルジュ様。ノスとラダムを連れてきました。」
ルディが、北極から戻ってきたのです。
「なんですの。そのノストラ何とかって。」
ママは、セルジュに尋ねました。
「双子のトナカイなんだ。兄のノスは、人の心を読む事が出来るんだ。そして、弟のラダムには、人の心に考えていることを映しだす能力があるんだ。」
「しかし、もしその子が心を閉ざしたままでしたら、ますます頑なになってしまいますよ。」
そう言って洞窟に入ってきたのは、ノスでした。
「やあ、わざわざすまないね。」
「いいえ、いつも留守番で退屈してましたから。」
「ラダムは元気かい。」
そう言われてノスは、後退りをしながら洞窟をでました。そして入れ替わりに入ってきたのがラダムでした。さすがに双子だけあって顔形から毛の色艶に至までそっくりでし
た。
「ここじゃあ、狭いので外に出ましょう。」
ラダムはそう言うと少年を背中に乗せて洞窟からでました。
入り口では、他のトナカイ達が待っていました。そこへ先ず出てきたのがノスの方でした。続いてラダムが後ろ向きに出てきました。彼等は体のつながった双頭のトナカイだったのです。ですからノスが読み取ったことをそのままラダムが伝えることが出来るのです。
「本当にいいんですね。」
ラダムが念を押しました。
「しかたがない。これ以上待っていたらあの子は二度と戻れなくなってしまう。」
「わかりました。」
ノスは、少年の頭を角で挟み込みました。
「いきますよ。」
その時です。
「パパ、ママ。」
ノスの角の間から三太少年が飛び出してきました。
「連れてくわけにはいかんな。」
セルジュは、冷たく言いました。
「どうしてさ。」
三太はセルジュに向かってつめよりました。
「無理なものは、無理なんだ。」
「そうよ。パパをせめてはいけないわ。むやみに人を連れてく事はできないのよ。」
「でも、僕は行ったよ。」
「それは、あなたはサンタの家とは知らずにでしょ。それにあなたは孫だから平気でいられるのよ。でなかったら、とっくに記憶を消されてるはずなのよ。」
ママは、優しく三太に言いました。
「僕、記憶を消されてもいいんです。」
少年は、セルジュにたのみました。
「そうか、そこまで君が決心しているなら連れて行ってあげよう。」
「おじいさん、帰ってきましたよ。」
家では、おじいさんとおばあさんが、窓のそばから外を眺めていました。
「ただいま。」
三太は、元気よく家に入ってきました。
「お帰りなさい。さあ、あったかいココアが入ってますよ。」
見るとテ−ブルの上には四つのコップが、並びおいしそうな湯気を立てていました。
「あれ、四つある。おばあさん、どうして四人だってわかったの。」
三太は不思議がりました。
「ラダムが教えてくれたんですよ。」
おばあさんは、笑いながら答えてくれました。
「ほっほっほ、嫌ですよ。おじいさんの風邪は、街でひいたんですよ。」
「言ってはならんぞ。」
大笑いするあばあさんに向かってサンタのおじいさんは、怒鳴りました。
「いいじゃありませんか。それに話をしなきゃこの子も納得しませんよ。実はね、あなたを助けた後、あったまろうとサウナでも、と思い街へ行ったのがそもそもの間違いの元なんですよ。それがね、どこでどうまちがったのかサウナの代わりにソ−プランドとやらへいったらしいんですよ。そこで痴漢に間違えられて、水を掛けられたものだからすっかり風邪をひいてしまったのよ。」
「知らなかったんだからしかたないだろ。わしはてっきり普通の風呂だと思い、前の男についていったんじゃ。最近の風呂はビルの中にあるんかいなと、思いながら部屋に入った途端、男はどなるわ、女の子はキャアキャア叫ぶわで、やがて奥から大男がでてきてわしを表に引きずりだして頭から水を掛けるものだから。ハックション。」
おじいさんは、怒りながら話してくれました。
「家でおとなしくしていればいいものをねえ。」
おばあさんは、あきれたようにいいました。
「こんな婆さんとふたりでおれるかい。たまにはギャルとお茶でも飲みたいだぎゃ。」
「ギャルって歳ですか。皆『ギャ−』といって『る』ってひっくり返りますよ。」
少年は、ほっとしました。
「安心しました。これで心置きなく帰れます。さあ、覚悟はできています。」
「なんのことだね。」
サンタのおじいさんはキョトンとして少年の顔をみていました。
「だって、僕の記憶を消すんでしょ。」
少年は、背筋を延ばすとじっと待ちました。
「いやはや誰じゃい、そんなつまらんことをいったのは。」
老人は椅子から立ち上がると、少年の肩に手を置いていいました。
「誰がわしのことを心配して来てくれた者にそんなことが出来るんじゃね。いいかの、そもそもおまえさんは、わしのことを知っとったじゃろが。それにノスとラダムには、おまえさんを連れてくるように言っといたんじゃがの。」
「おとうさん、私が試したんですよ。」
セルジュが申し訳なさそうにいいました。
「この子が本当に人のことを心配して言っているのか確かめたんですよ。」
「余計なことをしおって。」
「じゃあ、いいんですか。良かった。せっかく皆と知り合えたのに、また独りぼっちになってしまうのかと思ってとっても心配してたんです。」
少年の目は泪でキラキラと輝いていました。
その日三太少年は、よほど疲れていたのでしょう。早々と寝てしまいました。そして
おじいさんは独りぼっちだった少年を送っていきした。
「おじいさん、僕一緒に住んじゃいけない。」
少年はそりの上で探るように尋ねました。
「気持ちは嬉しいんじゃがの、まだおぬしでは無理じゃ。もっと人の心を勉強せにゃのう。そうじゃ、一年間修業の旅にでておいで。旅を終えてもまだその気持ちが変わらなければ一緒に働こうじゃないか。」
その後少年が、はたしてサンタクロ−スと一緒に住むことができたかは、別の話としよう。
「セルジュや。どうしても戻ってはくれないのかね。」
おばあさんは、三太が寝付くのを待って尋ねました。
「わしは、ゆるさんぞ。ごほん、ごほん。」
おじいさんは、ぷいと横を向いてしまいました。
「おじいさん、御自分の歳を考えて下さいよ。」
おばあさんは、困ったとゆう表情をして、おじいさんを横目でちらったのぞきました。
「無理ですよ。私も帰る気なんてありませんし。」
セルジュは、きっぱりとことわりました。
「残念だねえ。おじいさんも孫が来たって大喜びしてたんだよ。」
「あの子は今は無理ですよ。でももっと大きく成ったらあの子の好きなようにさせるつもりですから、わかりませんが。」
午後になってやっと目を覚ました三太は、おじいさんとおばあさんといっしょに、プレゼントを配った家々の様子を見に行きました。
一方後に残った彼のパパとママは帰り支度を始めていました。
「ねえ、あなた。」
「ん?」
ママの呼ぶ声に、パパは無愛想に返事をしました。
「どうして、後をお継ぎにならないの。例のご病気のため?」
ママの質問に、パパは手を止めると、窓辺に立ち外を眺めながらゆっくりと話始めました。
「それだけなら、なんとかしてるさ。」
そう言ってからパパは突然服を脱ぎ始めました。
「きゃあ。」
ママは慌てて顔を隠すとしゃがみ込んでしまいました。
「なに恥ずかしがってんだよ。」
「変態。」
「勘違いするなよ。さあこっちを向いてごらん。」
ママは恐る恐る立ち上がりながらパパの方を向きました。
「きゃあ。」
「トナカイアレルギ−なのさ。」
そう言ったパパの体には小さな赤いぶつぶつがびっしりとならんでいました。しかもそれは、おなかと背中だけにありました。
「わかったろ、このせいで僕はルディから落ちて高所恐怖症になったのさ。その時が初めてだったから驚いたよ。」
セルジュは服を素早く着ると、帰り支度を続けました。
「でもどうして、どうしてあなただけが。」
ママは納得がいきませんでした。そりゃそうでしょう。サンタクロ−スの家族にトナカ
イの毛のアレルギ−だなんて。
「どうやら、僕だけではないらしいんだ。実は家は、代々女系家族なんだ。それでいつも婿養子を迎えているらしいんだ。ところが、たまに男が生まれることがあるんだが、なぜか、男性は皆アレルギ−体質なんだ。おじいさんは、婿にきたから知らないしおばあさんも知らないはずさ。ひいおばあちゃんが、ぼくがルディから落ちたと知ってそっと教えてくれたんだ。ひいおばあちゃんの兄がやっぱりそうだったんだって。」
「それじゃあ三太も。」
「たぶん。」
「パパ、ママ。すてきだったよ。皆とっても喜んでたよ。」
三太は、帰ってくると見てきたことを次々と話しました。人形を大切そうに抱えていた女の子のことや、プレゼントの弓矢でインディアンごっこをしていた男の子、三太が間違えて逆に置いてしまったプレゼントに気付き取り替えて仲直りをした兄弟のことなど彼の話は尽きることがありませんでした。そんな三太を見てママは、思わず一筋の涙をこぼしてしまいました。
「うれしいのよ。そう、良かったわね。」
「うん。最高のプレセントさ。何たってパパもママも一緒にいるんだもん。」
その夜三太は、ルディの背中に乗って世界中を飛び回る夢をみました。
「三太、朝ですよ。もう起きなさい。」
ママの声で目覚めた三太少年は、辺りを見てびっくりしました。そこは、彼の部屋だったからでした。
「ママ、サンタさんは。」
「なんですか、三太は、おまえでしょ。」
ママは台所で、朝御飯の用意をしています。
「サンタクロ−スだよ。僕のおじいちゃんの。」
「えっ?!」
「パパは、知ってるよね。」
「さあて、知らんなあ。おまえ夢でもみたんじゃないか。」
「夢なんかじゃないや。」
三太は、自分の部屋へ駆け込むと部屋中探し始めました。彼自身なにを探しているのかわかりませんでしたが、なにか夢でないとゆう証拠が欲しかったのです。でもそんなものは、どこにもありませんでした。
「三太、食事にしますよ。早く着替えてらっしゃい。」
「はあい。」
三太はしぶしぶパジャマをぬぎました。
「あああ、やっぱり夢だったのかな。」
そうつぶやく彼の背中には、小さな赤いつぶが、てんてんとあったのでした。