皆さんは、バレンタインデイにチョコレートを好きな人に手渡していますか。男の子はもらえたかな。でも、もしチョコレートがなくなっちゃったら、皆さんはどうしますか。これからお話しするのは、チョコレートを独り占めにしたわがままな王様のお話なの。
昔ある国に、お妃のいない王様がいました。
「ああ、またバレンタインデイが、やってくるわい。余はこの日ほど嫌いなものはないぞ。街の者どもは、だれもかれもチョコレートのやりとりをしている。なのにわしはどうじゃ。王様のわしがなんでもらえんのじゃ。法律がだいたいよくない。王様は人から直接ものをもらってはならんなどとゆう決まりがあるからじゃ。送り主は死刑だからな。今年も城に閉じこもってなきゃならんのか。」
王様は、椅子に座ったままぶつぶつとつぶやいております。
「王様、なにをぶつくさ言っておられるのですか。大事な会議中ですぞ。ははあ、また例のバレンタインデイ病ですな。あの法律は先代がお決めになられた事。なんでも先代の王が送り物に入れられた毒によって殺されそうになったのをきっかけに作られたもの。かってにかえることは許されませんぞ。」
いつも口うるさい爺やが、いましめました。
その夜、王様はベットの中で何やら考えておりました。
「なんとか、皆を同じ目に会わせてやりたいものじゃ。そもそもチョコレートがあるのが悪い。つまりは、それを売っている菓子屋がよくない。そうじゃ、いい手を思いついたぞ。はっはっは。」
やがて王様は大きないびきをかき始めました。
翌日は、さっそく男の大臣達を呼ぶと、
「さる国には、虫歯予防デイなるものがあると聞いておる。我が国も医療費が国家予算の半分を占めておる。そこで、せめて一日だけでも歯を大切にしてもらおうと思うのじゃが皆のものどうじゃな。」
皆、大賛成でした。
王様は、さっそく街中におふれを出しました。
「国王様からのおふれである。2月14日は、虫歯予防デイとし、甘いものはいっさい食してはならん。持ち歩くことも禁ず。守らぬものは、歯抜きの刑に処す。」
「ま、いいか。15日に食べりゃいいんだから。」
男達は、いたって気楽でした。ところが、女達は、大騒ぎです。チョコレートを渡せないのです。せっかく作っても届けられなかったのです。勿論一緒に住んでれば問題はないんですが。しかし、結局男しか大臣がいないので王様にごまかされてしまったのでした。そしてこのからくりに彼らが気付いた時には後の祭りでした。
一度決めた法律は、数年間かえることはできず、すぐに撤回するなどとゆうことは、男として恥ずかしいことです。
「まんまと王様にしてやられたわい。しかも、兵隊どもはロボットときている。」
大臣たちは、成す術がありません。
いよいよ2月14日がやってきました。ロボット達は、取り締まりのために一斉に街へ飛び出しました。やがて、お城にはチョコレートを抱えたロボット達が帰ってきました。しかしどのロボットも一本の歯も持ってきません。
「おかしい。いったいこいつらは何をしとるんだ。」
王様は、彼等の後をつけていきました。
「あっ。」
何とロボット達は城の前に積まれているチョコレートを運び込んでいるのでした。
「誰じゃ、誰じゃ。城の前にこのようなものを積んだのは。」
王様はすっかり怒ってしまいました。
「王様。犯人がわかりましたぞ。」
大臣たちは、王様の元へ、一人の男を連れてきました。
「ドドレス村のゼルペスと言う男でございます。」
「ううぬ。そちが知恵者と評判のゼルペスか。」
「いいえ、ただの老いぼれですじゃ。確かに物で愛情を計ることは良くないことですじゃ。じゃが、ロボット兵まで使うのはいささか行き過ぎかと思いましてな。ちょっといたずらをしたまで。」
「そちは余のやり方に逆らうのか。」
王様は少し苛立ちました。
「めっそうもありません。こうでもしないと本日は王様に会えませんでな。まあ王様、街に出てらっしゃい。」
「そちは、わしに惨めな思いをさせる気か。」
「いいえ、そうではありません。確かに今の法律では王は贈り物をもらうことはできません。でもその法律が本当によいことかどうか誰も気付かないのです。もし、法を変えたいなら、街へ出ることです。」
王様はしばらくぶつぶつといやがっておりましたが、好奇心には勝てずついに街へ出かけることにしました。
「王様、そんな裏道へ行っちゃあだめですよ。やぼってもんです。」
「なぜじゃ。」
「今日は、恋人達の愛の道なんですよ。」
ゼルペスにたしなめられて王様は大通りへと出てまいりました。
「王様。」
温かそうなセータやマフラをした数人の若者が王様の行列にひざまずきました。
「よいよい、今日は忍びじゃ。」
王様は若者達にそっと言いました。
「それより、今日は虫歯予防デイじゃ。苦情は聞かぬぞ。」
王様は先手を打って答えました。
「いいえ。我々は王様に感謝しているのです。見てください。このセータは、恋人からのプレゼントです。」
「私のマフラも彼女の手編みです。」
「この帽子もそうです。」
若者達は、次々と集まってきて今日もらったプレゼントの品を王様に見せるのでした。
「毎年チョコレートばかりだったけど、こんな感動は初めてです。恋人の優しさが伝わってきてとっても幸せです。これも王様のおかげです。」
「きゃあ、王様よ。」
若者達と別れて住宅地を通ると、今度は女性達が集まってきました。
「女性達はさぞ、わしを恨んどるだろう。」
王様はゼルペスにそっと耳打ちしました。
「王様。今日は大変ありがとうございました。」
一人の娘が王様の前にでました。
「なぜじゃ。女性達はわしを随分と恨らんでおったのではないのかな。」
「はい。おふれが出たときには憎んでいたぐらいです。でもプレゼントはチョコレートだけではないと気付いたのです。彼に手作りの花をプレゼントしたところ彼ったら『君らしいかわいい花だね。』と言ってとってもよろこんでくれました。」
「わたしは、手編みのセータです。」
「わたしは彼とおそろいの手袋。」
「わたし、自作の絵本。そしたら、『君のやさしさがとっても伝わってくる』ですって。それに義理チョコあげずに済んで助かっちゃった。」
「わたち、キチュあげちゃった。」
小さな女の子の大胆な言葉に周りの娘達はキャアキャア騒いでいました。
「ちょちたら、彼もういちきょろよ。」
王様は少女の言葉に胸が熱くなるのを覚えました。
「王様、これ私達の感謝の気持ちです。」
そう言って娘達は大きな箱をひとつもってきました。
「あいにくだが、わしは、受け取れん。」
王様はやさしく彼女らに告げました。
「法によって、王様はプレゼントをうけることができないのです。」
大臣のひとりが娘に耳打ちしました。
「まあ、かわいそうな王様。そんな法律があるなんて。」
「しかたがないのじゃ。この世には悪いやつらがおるんでな。」
「では、お妃様はくれないんですか。」
今まで、隠れるように後ろにいたみすぼらしい娘が言いました。
「どうかな。いずれにしてもわしには妃なぞおらんから関係ないことじゃが。」
王様は寂しそうに言いました。
「妃には、そのような法律はありませんな。」
法務大臣が分厚い本を手にしながら言いました。
「ではお妃様をおもらいになればよろしいのに。」
「それが簡単ではないのです。」
法務大臣はページをめくりながら続けました。
「ええと、先ず憲法三章12項によりますと王様は皇族のものを妃としなければなりません。同じく14項に、王は自ら求婚してはならんとあり、十五章1項には妃となるものは年に一度だけ選べるのです。その日は、竜の下る日とありますから、ここ十年ほどは、2月14日になります。ところが王はバレンタインデイのこの日は、誰にも会おうとはされませんでしたし、女性がたも手ぶらでは会いにこれないでしょう。」
「そうでしたの。」
大臣の言葉に娘達は気の毒がりました。
「この法は王の身と国を守るためにはやむを得ないことなのです。」
「よいのじゃ。それに余にはいいなずけがおったのじゃ。燐国のエスターニャ姫だ。しかし謀反によって今も行方知れずじゃ。」
王様が娘達と話している間、後ろに隠れていた娘はゼルペスと人事大臣に何か告げるとそっと一礼して急いで走り去ってしまいました。
その日、お城の台所は久々に笑顔がもどりました。
「砂糖を使うことができないので、どんな料理にしようか迷っていたのです。」
コック長の傭(ちょう)は、弟子の李(り)とともに調理をしながら、ひとりの女性に話していました。
「これは、東方の国で習ったカレーというもの、それにあれはぎょうざ、サラダのドレ
ッシングには塩を添えました。スープには日出ずる国より教わったすましというものです。」
彼女は、にっこり笑うと料理を続けました。それは先程街で走り去った娘でした。
「くだものは、レモンと酸味の残った固めのキウイ。お茶は砂糖のいらないグリーンティ、お菓子はポテトチップとソーセージ。」
「たいしたものです。それに極め付けが、このハート型のク・・・」
「しっ。」
料理長の言葉をあわてて娘がさえきりました。
食事が済んで、王はコック長を呼びました。
「コック長の傭でございます。なにか不都合がごさいましたでしょうか。」
「いや、今日の料理は得においしかった。甘いものをさけた数々の工夫。強い辛さの後にさっぱりした口直しのスープ。実にみごとじゃ。これは、おまえだけの知恵ではあるまい。」
「おおせの通りにございます。実はすべてこの娘の造りましたもの。」
傭は一人の娘を連れてきました。
「王様最後の食事がまだ残っております。これは運勢をうらなうおみくじクッキーというものです。」
そういって娘がクッキーの入った皿を高く掲げて部屋に入ってきました。
「ほう、おみくじクッキーとな。どれどれ。」
王様は、皿よりひとつのハート型のクッキーを取るとふたつに割りました。しかし中からは、何も出てはきませんでした。あわてて王様は別のを手にしましたが、やはり何も出てはきません。
「余を愚弄する気か。」
「いいえ。吉凶はすでに出ております。それは、王様しだいにございます。」
そう言うと娘は顔をあげました。それは、とても街で見たみすぼらしい娘と同じ人物とは思えないほ
ど美しく飾られておりました。
「エスターニャにございます。」
「おお紛れもない。よく無事で。」
王様はたいそう驚きました。
「ゼルペス殿にかくまってもらっていました。」
娘はクッキーの皿をテーブルに置くと話しを続けました。
「なぜ、尋ねてくださらなかったのです。」
王様は悲しそうに聞きました。
「この城にも敵に通じたものが多く、私と共に逃げてきた侍女がかつて捕まりました。でも今度の騒ぎでやっと城にはいることができました。見習の李は、わたしの弟です。そして、コックの傭さんを紹介してもらったのです。」
姫は、大きな目に涙を浮かべていました。
やがて、王様と姫は結ばれ、姫の無事と謀反の真相を知った燐国の国民が、次々と国境を越えて逃げてきました。そしてついには、謀反を起こした現国王は城を姫と彼女の弟にあけ渡したのでした。
王様も国民達の協力によって悪い法律を次々と改めることができたそうです。