熊吉「先生、近頃うちのパソコンの機嫌が悪いんだが。」
先生「どうしたね。」
熊吉「しばらく止まったり、カリカリいったり、急に青くなったり。」
先生「そりゃ、メモリ不足だな。」
熊吉「この曲尺で足りますか。」
先生「目盛じゃない、メモリだ。いってみれば、部屋の広さみたいなものだ。」
熊吉「でっけえパソコンは邪魔で置けねえ。」
先生「実際の大きさとは関係ない。裏に16Mとか32Mとか書いてあるだろ。」
熊吉「うちのは丸が2つ。」
先生「100Mかい。」
熊吉「いや、縦に2つ。」
先生「縦って・・・そりゃ8Mだ。それじゃあきつい。」
熊吉「8畳と思えばいいんだな。」
先生「そうだな。八畳より十六畳の方が広いから仕事がいっぱいできるだろ。」
熊吉「こないだ、三畳の家を直しに行ったが、大変だった。柱を直してりゃ壁ができないよ。で、壁を塗ってたら、今度は天井から降りられない。」
先生「パソコンも同じだ。いろんな仕事をするためにいちいち物をどけて仕事をしてれば遅くなるし、部屋が埋まれば動けなくもなる。」
熊吉「そのメモリってやつを広げるにはどうすりゃいいんだい。」
先生「買ってくるんだ。1M百文ぐらいだから。」
熊吉「も少し安いとこはないかい。古くても。」
先生「それなら、教え子が中古屋をやってるから紹介してあげよう。」
さっそく熊吉さん、教えてもらった中古屋で16Mのメモリを20文ほどで買ってまいりました。
金造「あれ、熊、パソコン買い換えたのかい。随分、滑らかに動くじゃねえか。」
熊吉「先生にたのんで、メモリって部屋を広げた。」
金造「メモリって部屋が広いと速く動くって訳かい。く〜ま〜、その中古屋教えて〜。」
さっそく金造さん、金の工面をしまして、翌朝早く中古屋へと参ります。
金造「ここだね。薄暗いとこだね。おまけにひどい埃だよ。これじゃ安い訳だね。部屋なんてものは掃除して畳替えしただけで倍の値がつくよ。」
金造さん、風呂敷き一杯のメモリを買い込んできまして、きれいに掃除をします。
金造「この辺がいいね。人通りも多いしね。看板を立ててと。」
しばらく店を出しておりましたが一向に売れません。
先生「おや、金造さん新しい商売ですか。」
金造「おや、先生。だめだよ。メモリがさっぱり売れない。」
先生「おかしいですね。かなり安いようだが。ところで後ろの看板は何です。」
金造「これ、いいでしょ。新品同様・南向き・日当たり最高って。」
先生「メモリに南向きも北向きもありません。それに日に当てちゃいけません。影にしてりゃこれだけきれいならならすぐ売れますよ。」
金造「当然だ。塵一つついちゃいねえや。一生懸命洗ったんだから。」
先生「だめだよ。水をつけたら。しかたない人だ。」
金造「ま、いいや。別の商売考えるから。それより先生に聞きたいことがあるんだ。」
先生「なにかな。」
金造「SCSIってのは、なんのことだい。」
先生「スカジーと周辺装置の接続方法だ。」
金造「風呂敷き婆さんの後は、今度は爺さんですか。」
先生「ディスクとかスキャナとかいろんなものをつなげられる。で、不要なら外しておくこともできて便利だな。」
金造「外れやすいから、スカ爺(すかじい)。」
先生「デージーチェインというつなぎ方をするんだが、最後にターミネータを付ける。」
金造「デージーチャンですか。あっしは、たみ姉さんの方がいいな。」
先生「最近はワイドスカジーってのもある。」
金造「毎度スカ爺ですか。当たりはないの。」
先生「金造さん。そんなことではこれからのハイテクノロジーについてけないよ。」
金造「そこまで、ぼけじゃいないよ。外に出る時はちゃんと付けてるよ。履いてくワラジ。」
異人「おもしろい御方。」
金造「そっちの娘さんは先生のお連れですかい。」
先生「ああ、異国と日本との商いの違いについて勉強したいって塾に留学してきた。レイさんだ。」
レイ「瓦版屋の金造さんですね。」
金造「随分、流暢な日本語で。しかし、異人さんに知られてるとは、あっしも有名人なんだね。」
レイ「ええ、あきない人として有名ですよ。」
金造「うれしいね。商人(あきんど)としては最高だよ。いっそ異国へいって商売しようかな。でも、言葉が通じないし、いやあ困ったね。」
レイ「ほんと、飽きない人ね。」
先生と娘さんは熊吉さんの親方の家にやってまいりました。
先生「金造さん、さっきから後をつけてるようだけど何か用かい。」
金造「いえ、異人の娘さんが来てんだ。本業の瓦版のねたにと思いましてね。取材でさあ。」
先生「しかたないな。私たちは親方に用があってな。」
金造「じゃあ、あっしも同席を。」
先生「ずうずうしいね。ま、聞かれて困るものでもなし。ご自由になさい。」
さっそく金造も親方の家に入っていきます。ちょうど熊吉夫婦も居合わせております。
先生「本日参ったのは、こちらの娘さんのことでな。」
親方「そうですか、おめでとうございます。いえ、皆まで言わなくてもわかります。本番では自慢の喉で、木遣りを・・・。」
金造「ついてきたかいがあったね。特ダネだよ。」
先生「そうではない。こちらは異国からの留学生なんだが、日本の商習慣について学びたいということでな。それには体験が一番。そこで親方のところに住み込みをさせてもらいたいと思ってな。」
親方「え、こちらを預かるの。あっしが。だめでえ。第一言葉が通じない。」
お米「旦那様、あいにく茶菓子が切れてしまいましたが、いかがいたしましょう。」
親方「米さんかい。なにか適当にないかな。夕飯の残りのおでんがあるだろ。つめたくてもいいからもってきとくれ。」
お米「旦那様、この娘さん随分とご苦労してるようです。お泊めしてあげたらいかがでしょう。」
親方「どうして苦労してるってわかるんだい。」
お米「まだ若いのに髪が真っ白。」
先生「これは遺伝だ。」
お米「いやですよ、まだそこまで惚けちゃいませんよ。おでんはこっち。」
先生「おでんじゃない、遺伝といって生まれつきのことだ。親御さんも髪が白いんだ。」
お米「そうですか、親御さんも苦労されたんですねえ。」
お網「なんだか顔色が青いけど大丈夫ですか。」
先生「これも生まれつきでな。」
金造「青白い顔して白い着物に長い白髪。これで柳の下にでもいたひにゃあ、騒動だよなあ、熊。」
熊吉「ああ、ゆうれい。」
レイ「イエス。アイ アム レイ。」
結局、レイさんは親方の家に住まうことになりました。親方のほうも、一人娘のお綱を嫁に出して寂しい思いをしておりましたところでございます。
男ってのは不思議なもので、若い娘がいるとそれだけでいままでの倍は働こうってもの。
しかし、鼻の下を伸ばしていると気が緩んでまいります。ある日、職人が怪我をしました。
熊吉「大変だ、市松が屋根から落ちた。」
親方「市松は独り身だから不便だろう。動けるようになるまで家の二階で休んでな。」
それからというもの市松は親方のところに泊り込みます。親方や職人は昼間は出払っておりますから、おのずとまかないのお米とレイと三人になります。お米はもう年ですから二階にいる市松の世話はレイがすることに。
そうなると他の職人達も落ち着きません。わざとじゃないんでしょうが、心ここにあらずってやつで仕事をしますから怪我や失敗が増えます。
「梅が柱の下敷きになった。」「今度は竹がのみで指を切った。」「寅が風邪ひいた。」
数日のうちに親方の二階は病人・怪我人で小石川養生所状態でございます。
親方「これじゃ仕事にならないね。先生なんとかしとくれ。」
先生「しかたがありません。この娘はわたしのところで面倒みましょう。親方、僅かだがこれは今までの礼だ。」
親方「れいはいらねえ。それより手当てが欲しい。」