熊吉「先生。最近色々な絵がホームページに載ってるがどうやってるんだい。」

先生「方法は幾つかあるがな。簡単なのはこれでパチリとやることだな。」

熊吉「それ見たことあるよ。夜、空地とか行くと木の影に隠れて撮ってるやつがいるよ。え〜と、デバガメ。」

先生「それは覗いてるやつのことだ。これはデジカメだ。」

熊吉「四角で硬くて首が伸びるとこなんざ正に亀だね。」

先生「浮世絵のようなものは、このスキャナで読むな。」

熊吉「なるほど、やらしい絵を読ませるにはいいね、この好きやなってやつは。」

先生「スキャナだ。金造さんといい、熊吉さんといいちゃんと話しを聞いてくださいな。」

金造「先生、ちょっくら教えてくれねえか。なんでえ、あの空地で見かけるデバガメってのは。」

先生「熊吉さんと同じ事を言ってるよ。困った人たちだね。」

金造「あ、これだよ。なんだ先生も持ってんだ。こいつを持って空地に行くんだろ。」

先生「ま、そうだな。」

金造「やはり独身で寂しいんだね。わかるよ。こっそり空地に行って、いちゃついてるやつを覗き見してるんだ。」

先生「拙者は植物を撮ってるんだ。我が国は島国だ。珍しい花が多い。これを写して紹介している。」

熊吉「先生は金公とは違うんだよ。」

金造「先生、数日その亀を貸してもらえないかね。」

先生「構わないが、何に使うんだい。」

金造「今年は本厄で、伊勢参りに行こうと思うんだ。」

熊吉「借金取りから逃げようってんじゃねえのか。」

金造「人聞きの悪い事言うねえぃ。」

熊吉「餞別はやらないよ。」

金造「え、それは困る。熊も勘定に入ってるんだから。」

熊吉「なんだよ。今度は何しよってんだい。」

金造「ここだけの話しだがな。餞別を集めて富くじを買おうてんだ。うまくすりゃ何倍にもなろうってもんだ。」

熊吉「よしなよ。そう当たるものじゃないよ。真面目に稼ぐが一番だ。」

金造「け、所帯持ちは夢がないね。」

熊吉「土産はどうするんだよ。」

金造「だからこの亀を借りようってんだ。これで道中記を作って売る。」

熊吉「買うやつがいるかね。」

金造「そこだよ。普通の風景を撮ったって誰も買わないよ。だが、宿場宿場の若い女性を撮ってくりゃ馬鹿売れするよ。」

つきの無い金造のこと、せっかくの一番くじをなくし、すっからかんになって逃げるように伊勢参りへと出かけます。

金造「参ったね。参ったったって伊勢じゃないよ。そいつはこれからだからね。せっかく当たってた富くじをなくしちまったんだからね。徹夜で探して持っていったら、時間切れって言いやがる。なんであんなとこ貼ったかね。取られちゃいけないってんで、ふんどしに貼り付けてったんだな。ま、過ぎたことをくよくよしてもしかたないね。富くじ当たって人生狂ったってのもいるしね。昨年当たったやつは、ねたまれて放火されたらしいし、その前は言いがかりをつけられて浪人に切られたとも言ってたな。そう考えると良かったかもしれねえな。伊勢から戻りゃ、このデジ亀様で大儲けだからね。」

初日は野宿をして旅を続けます。当時は野宿は当たり前のご時世でございます。

客引「そこの兄さん。宿は決まってるのかい。まだ。それじゃ家にお泊りよ。安くしとくよ。」

金造「なんだよ。まだ昼時だよ。こんな早くから泊まれるかい。」

客引「いきじゃないね。通てのは昼に宿を決めて荷を預けるだろ。それから町中をゆっくり見物していくもんだ。」

金造「あいにく、そんな暇じゃねえんだ。それとも何かいいことでもあるってのか。」

客引「おう、家はそんじょそこらの宿屋とは訳が違うよ。泊り客はインタネットしほうだいだ。」

金造「それじゃ高いだろ。江戸っ子は宵越しの金は持たねえっていうだろ。そんな銭はねえよ。」

客引「いや、通信料は客持ちだ。」

金造「なんだよ。それじゃ意味がねえじゃねえか。・・・驚いたね。ちょっと旅へ出ない内に世の中変わったね。」

番頭「そこのだんな。江戸から来なすったね。」

金造「え、解るかい。嬉しいね。」

番頭「長年客商売してるからね。」

金造「やっぱり、江戸っ子の粋さが滲み出てくるんだね。」

番頭「いえ、銭がなさそうだ。」

金造「やな野朗だね。こんなやつは相手にしないに限るよ。」

番頭「見れば白装束。どこかにお参りに行くのかい。」

金造「聞いて驚くな。お伊勢さんだ。」

番頭「へ、今何てった。」

金造「伊勢参りにいくんだよ。」

番頭「確か、江戸の人だよね。」

金造「あたぼうよ。こちとらオギャアと産まれ落ちた時からの生っ粋の江戸っ子でぇ。」

番頭「ここは武蔵野、熊谷の宿。東海道とは方向違いだ。」

金造「何だと。朝、お天道さんを背にしてそのまままっすぐ歩けって隠居から聞いたんだ。そんなはずはねえ。」

番頭「間抜けな野郎だね。お天道さんは動いてるんだ。いつまでも背にして歩いてちゃしょうがねえだろ。」

金造「てやんでえ、ちょっと寄り道しただけだ。」

番頭「しょうがないね。ま、その辺で野垂れ死にでもされちゃかなわないからね。いいかい、もう少し行くと分かれ道に出る。左に折れれば中山道だ。大井川で待たされることもないから東海道より早く着くかも知れねえな。」

金造「こちとら、はなっからそのつもりよ。じゃあな。」

番頭「左だよ。折れるんだよ。」

しばらく道なりに歩いておりますってえと、人気の無いところへとさしかかります。

金造「さびしいとこへ来たね。暗くなるってえと山賊とかでそうだね。ええと、左、左と。」

「ドタッ」

辺りに気を取られておりました金造、つい足元がおろそかになって小石につまづき転んでしまいました。

金造「いてえ。けど誰も見てなくてよかったよ。こんなところで、けっつまづいたとあっちゃあいい笑い者だ。よっこらしょ。」

「ボキッ」

金造「あれ、やな音がしたよ。折れたかな。」

薬売「おや、旅の人どうしたい。」

金造「足が、足が・・・折れた。」

薬売「どれ、なんでえちょっとくじいただけだよ。」

金造「そんなはずはねえ。さっきボキッて音がした。」

薬売「おおかた木の枝でもふんづけたんだろ。袖振り合うも多少の縁ってえからな。薬のひとつでも塗ってやろう。ついでに痛み止めもやろう。代はいらねえ。しばらく休めば痛みも引くだろうよ。」

薬をもらった金造、しばらく独りで木陰で休んでおりました。

金造「ありがたいね。世の中まんざらでもないね。お、痛みが引いてきたよ。しかし、折れなくてよかったね。折れちゃ困るよ、一人旅。折れなきゃ喧嘩だ二人旅ってな。」

辺りも暗くなって来たころ、とある宿場へとさしかかりますってえと、道端に若い娘が独りしゃがみこんでおります。

町娘「およよ、およよ。」

金造「どうしたい。」

町娘「はい、持病のしゃくが。」

金造「そりゃいけねえや。さっき、薬売りからもらった痛み止めがあるから飲みねえな。」

町娘「ありがとうございます。少し楽になりました。近くに知り合いの家があります。そこまで連れていってくださいな。」

金造「おやすいごようだ。若い娘が困ってるのを放ってもおけねえや。」

町娘「ここです。」

金造「大きな旅篭だね。」

町娘「いえ、その隣。」

金造「へ、この納屋みてえなのがそうかい。こっちの旅篭の物置かと思った。」

店主「赤城じゃないか。また持病かい。これは旦那、すまなかったね。」

町娘「上がって休んで行ってくださいな。」

金造「そうかい、でもなあ。早いとこ伊勢にいきたいし。」

店主「ここは上州だ。伊勢とは方向違いだ。今日はゆっくり休んで出直しなよ。これ赤城や、仕事に穴空けるんじゃないよ。」

金造「なんだい。まだ働かせようってのかい。」

店主「赤城は身寄りが無いんで置いてやってんだ。それに芸子が芸もしないでどうしようってんだ。」

町娘「いいんですよ。半時も休めば大丈夫ですから。それより上がって休んでいってくださいまし。」

金造「そうかい、じゃ上がらしてもらおうか。」

店主「大部屋でよろしいですか。」

金造「構わねえよ。旅は道連れって言うからね。仲間がいたほうが楽しいやな。」

店主「いえ、客はいねえんで。」

金造「何だい。大部屋に一人ってのはねえ。小さい部屋は無いのかい。」

店主「あいにく家は大部屋一つだ。」

二階へ通されました金造。暗い部屋にぽつんと一人おります。

金造「なんだよ。大部屋てえから広いのかと思ったら4畳半じゃねえか。四人も泊まりゃあ一杯だよ。」

店主「お茶をお持ちしました。これは無料ですから。」

金造「そうかい。・・・ぬるい茶だね。」

店主「人肌にしております。」

金造「茶ってえのは熱いのがいいんだ。」

店主「風呂が沸きましたらお呼びいたしますので。」

金造「風呂も人肌じゃないだろうね。」

店主「当たり。」

金造「なにが当たりだ。風呂も熱いのがいいんだ。ぐらぐら煮えるくらいのを用意しとくれ。」

しばらくしてうとうとしておりますと、店主が風呂が沸いたといってまいります。

金造さっそく手ぬぐいを肩に二階から降りてきます。

店主「風呂は裏庭にあります。」

金造「露天かい。いきだね。・・・って釜が庭にあるけどまさか。」

店主「当たり。」

金造「ま、いいや。石川五右衛門みてえでな。しかし、よく沸いてるね。ぐらぐらって・・・あちち。こら釜茹でにするつもりかい。」

店主「熱いのがいいていうから。」

金造「ものには限度があらあ。水を足して、ああいい湯だね。釜風呂ってのもおつだよ。でも臭いね。え、魚が浮いてるよ。見ると野菜もあるよ。」

店主「あまり、動かないでね。いい具合に下茹でできたね。」

金造「どうするんだい。その野菜。」

店主「夕飯に。湯がもったいなからね、一緒に茹でたんだ。」

金造「冗談じゃない。風呂はもう結構だ。」

赤城「用意できましたよ。」

金造「何だい。」

店主「背中を流す用意ができたようなんですがね。でももう上がられるんでしょ。」

金造「誰が上がるっていったい。」

店主「だってもう結構って。」

金造「大変結構って言ったんだ。せっかくだから流してもらおうかね。随分力があるね。」

店主「強すぎますか?」

金造「わっ、何でお前がそこにいるんだよ。」

店主「背中をお流ししてるんですが。」

金造「もう結構。」

店主「それはよかった。」

金造「もう、しなくていいってことだよ。」

風呂から上がって一休みしてしております金造のもとへ赤城がやってまいります。

赤城「先ほどはありがとうございました。お礼に一本いかがですか。」

金造「すまねえな。しかし、よくこんな店にいるね。おいらならすぐ出ていくけどね。」

赤城「育ててもらった恩がありますから。それに、まだ半人前の芸子ですし。」

金造「泣かせるね。あれ、酒が切れたよ。」

赤城「追加しましょうか。」

金造「頼まあ。このままじゃ寝酒にもならねえ。」

赤城「何にもできませんけど、せめて踊りを見てくださいな。」

その夜、金造と赤城はたいそう盛り上がりました。

店主「起きてください。そろそろお勘定のほうを。」

金造「あれ、タダじゃないの。」

店主「休んどくれとはいったが泊まっとくれとは言ってないよ。」

金造「そうだったかな。で、いくら。」

店主「宿賃と酒代。それと芸子代。しめて、一両になります。」

金造「何だい。酒はお礼だって聞いたぞ。」

店主「はい。ですから最初の一本は入れてません。」

金造「芸子代ってのは何だい。」

店主「赤城の代金で。」

金造「あれも、商売かい。う〜ん、赤城の妙技(妙義)に見とれる内に、一夜越えれば値が張るな(峰が榛名)。じょうもう散々(上毛三山)だね。」

店主「旦那、お参りに行くんでしょ。たんまり餞別もらってるでしょ。」

金造「残念だったな。こちとら文無しだ。無いものは払えないなあ。瓦版なら少し残ってるが。」

店主「しょうがないねえ。瓦版屋かい。おれの甥も江戸で瓦版屋してるって聞いたがな。確か、電脳横丁にいるとか。」

金造「あっしも電脳横丁だ。」

店主「金造ってんだが知ってるかい。」

金造「どっかで、聞いたような気が・・・っておいらじゃねえか。」

店主「なんだって。そういやあ死んだ弟に似てるよ。」

金造「もしかして、昔し京へ上ったっきりの生き別れのおじさんかい。」

店主「お〜い。赤城、いとこを引っかけてどうするんだよ。」

赤城「だって、知らないもの。おとっつあんだってわかんなかったんでしょ。」

金造「へっ、本当の親子だったの。」

店主「実はそうなんで。なんせ客が来ないからああやって客引きしてたんで。」

金造「宣伝しなきゃだめだよ。ちょっと待ってな。」

さっそく金造さん。ホームページの瓦版に店の宣伝を載せます。

看板娘の赤城の写真を載せると、問い合わせが殺到。

やがて、大繁盛するのですが、それは別の話しということで。

店主「甥っ子じゃ金は取れないやな。しかも、文無しじゃ困るだろう。弟の葬式にいけなかったからな。餞別に五両やろう。」

金造「うれしいね。近くの他人より遠くの親戚だね。」

店主「帰りに寄っとくれ。赤城が一度江戸に行ってみたいっていっててな。」

金造「無茶言うねえ。伊勢参りにもいけないんだよ。二度と来れるかどうかわからねえ。」

店主「だから頼んでるんだ。」

宿を出た金造、中山道まで戻ります。

金造「今度は間違えないぞ。薬屋の言った通りに曲がったからね。」

一夜明けると、目の前に大きな海が広がりました。

金造「ありゃ、もう海かい。」

漁師「旅の人。どこへいきなさる。」

金造「伊勢志摩だ。」

漁師「ここは松島だ。」

金造「なんだって。薬屋の言った通り左に曲がったんだよ。」

漁師「そりゃ江戸からならな。」

金造「なるほど。」

漁師「しょうがねえな。しょうがねえと言やあ、江戸に瓦版屋やってるしょうもない甥がいるって聞いたな。」

金造「まさか、金造ってんじゃ。」

漁師「当たり。」

金造「もしや、伊勢参りにでかけて行方知れずになったおじさん。」

漁師「なんだよ。兄貴にそっくりじゃねえか。おめえが金造かい。」

金造「どういう家系なんだろうね。もしやおいらもこのまま行方知れずかね。」

漁師「大兄いに会ったかい。上京ならぬ上州で旅篭かい。ま、今夜は家に泊まるといい。」

伊勢「おとっつあん。また知らない人を連れてきて。」

漁師「何言ってる。おまえのいとこの金造だ。娘の伊勢だ。伊勢にいけなかったからせめてもと娘の名を伊勢にしたんだ。」

金造「べっぴんだね。え、おじさんの子。うそだあ。でも、赤城も美人だったしな。ところで他に兄弟は。」

漁師「いるぞ。大阪にいくってでてったきりの姉貴がいる。妹はおととし蝦夷でばったり会った。江戸の旗本に輿入れに向かって未だに着けないそうだ。もう40年は経ってるね。」

金造「とほほ、えらい家に生まれちまったね。」

漁師「でも、お前はすごい。親戚探しの天才だね。」

金造「別に探してるわけじゃあない。」

漁師「餞別に五両やろう。そのかわり帰りに立ち寄ってくんねえ。娘が一度江戸へいってみたいってんだ。」

金造「無茶言うねえ。伊勢参りにもいけないんだよ。二度と来れるかどうかわからねえ。」

漁師「だから頼んでるんだ。」

金造「旅にでて、十両もらっちまったよ。それで、金の無い子には旅をさせろっていうんだな。これでおばさん2人に会えば、しめて二十両になるよ。」

客引「兄さん。こないだからうろうろしてるがどうしたい。」

金造「ちょっと親戚まわり。」

客引「そんな格好でかい。親戚は坊さんかい。」

金造「そういう訳じゃないんだ。伊勢参りにいく途中なんだ。」

客引「いいねえ。でも、お参り中は禁酒だよ。その前にたっぷり飲んでかねえかい。」

金造「いいねえ。懐も暖かいことだしな。」

悪銭身に付かずと申します。その夜は、金造座敷をあげて大騒ぎをしました。

金造「二日酔いだよ。しこたま飲んだからね。しかし、十両たあ高かったね。ちょうど持ってからよかったな。こりゃ早いとこおばさんを探したほうがいいね。」

町娘「およよ、およよ。」

金造「どうしたい。」

町娘「はい、持病のしゃくが。」

金造「あ、赤城じゃねえか。」

町娘「あら、またあんたなの。」

店主「おめえ、まだ出かけてなかったのかい。」

金造「いや、出かけたんだが親父の弟に会ってね。」

店主「なんだよ、それじゃ親戚回りじゃねえか。しょうがねえなあ。で、泊まってくかい。今度は有料だよ。」

金造「いや、手持ちがなくて。」

店主「何言ってやがる。どうせ、弟のとこでいくらかもらってんだろ。それに見れば二日酔い。飲む銭があって泊まる銭がねえってことがあるかい。江戸っ子がけちけちすんじゃねえや。」

金造「いや、江戸っ子だけに酔い(宵)越しの銭は持たねえ。」