熊吉「てえへんだ。」
金造「何だい。またかい。」
熊吉「取り立てがきて大変なんだ。」
金造「妙な女でも引っ掛けたんだろう。」
熊吉「金公じゃねえよ。けど知らないものばかりなんだ。」
金造「そういうことは小金持ちの隠居に聞こう。」
隠居「こりゃ、オンラインショップの請求書だ。熊さん、インターネットで何か買物しなかったかい。」
熊吉「先月1回だけ。そう言われるとそれから妙な請求がきてる。」
隠居「悪い業者にかかったね。熊さんの番号を誰かにつかわれちまったんだ。」
熊吉「誰にも教えてないよ。」
金造「なんだよ。俺にもわかるように教えてくんなよ。」
隠居「インターネットで買物するには、支払い代行の店から札をもらうんだ。そして、その札の番号で買物をすると後日代行店から請求が来るってすんぽうさ。」
金造「じゃあ、番号さえ知ってれば熊の支払いで買物ができるってことですかい。」
隠居「まあ、そうだな。しかし、他人事じゃないね。なにせ、熊さんの保証人はこの私なんだから。とりあえず、奉行所に行かないと。」
役人「次の方。どうしました。・・・あ、その件は、犯人の取り調べ中である。請求書は証拠としてあずかる。」
熊吉「で、あっしはどうすればいいんでしょ。」
役人「支払いは当分控えておくように。代金を払ったものは契約が成立したものとみなされるので、返金はできんから。それから、明後日正午、裁きがあるので白州に来るように。以上。」
金造「よかったじゃねえか。しかし、惜しいなあ。おいらも一度白州を見てえな。」
熊吉「簡単だよ。こないだ、取材だって言って松の湯をのぞいてたろ。ひとっ走り奉行所に行けばすぐしょっ引いてくれら。」
金造「証拠がねえよ。それにお前は被害者じゃないから取り上げられねえ。」
熊吉「それじゃ、こないだ家の1文取ったろ。」
金造「てやんでえ。ありゃ土間に落ちてたんじゃねえか。」
熊吉「違わい。易の先生が来てな、家相が悪いから金目の物を土間に置くといいって言ったんだ。」
お網「あら、どうかしたの。」
熊吉「今、金公の悪行を上げてたんです。しかし、言い逃れしやがって。」
お網「熊吉さんをいじめないでください。金造さんの悪行なら一杯あるわよ。家の風呂を覗くこと3回。腰巻を盗むこと1回。」
熊吉「ひでえ。お嬢さん、こいつを奉行所に突き出しましょう。」
お網「でもねえ。覗かれたのはおとっつあんだし、盗まれたにはまかないのお米ばあさんの腰巻だし。・・・それより、熊吉さん大変だったんですってね。」
熊吉「どうして知ってるんです。」
お網「あら、おとっつあんも保証人になってるから奉行所から連絡がきたの。でね、熊もいつまでも独りでいるからそういう目に会うんだって。だから、会わせたい人がいるの。今夜家に来てね。じゃ後で。」
金造「何だい、見合いかい。ちきしょううらやましいね。」
熊吉「うれしかねえや。」
金造「なんだと。ははあ。さては好きな娘がいるね。誰だい。」
熊吉「金公にゃ関係ねえや。」
金造「わかった。お網さんだな。奇麗だかんな。だったら俺にまかしとけ。ようは見合いをぶち壊せばいいんだな。」
その夜のことでございます。
熊吉「親方。夜分失礼いたします。」
親方「熊吉かい。さあさあ、上がっとくれ。」
熊吉「実は、親方のお心使いは大変うれしいんですが。」
親方「まあまあ、固いことは抜きだよ。おまえは口下手だから、まあ景気付けに一杯つきあえ。」
熊吉「失礼になりませんか。」
親方「なに言ってやがる。俺が飲めってんだ。何が失礼だ。」
熊吉「そうですか。ところでお嬢さんは。」
親方「ん。あいつか。あいつは今ちょっとな。」
熊吉「そうですか。」
親方「いいじゃないか。なあ今日はおめえの一生を決める大事な日になるかもしれねえんだ。」
熊吉「だから・・・。」
親方「なんだなんだ。言いたいことがあればはっきり言うもんだ。だいたい独りでいつまでもいるからだめなんだ。特に金造なんかと一緒にいると良くない。」
お網「熊吉さん。よくお来し下さいました。」
熊吉「いやですよ。改まって。」
お網「いえ、今日は大事な日ですから。」
熊吉「それなんですが、あまり乗り気じゃないんですが。」
お網「え、そんな。」
熊吉「まだ所帯を持つってのは。」
親方「もう三十路を越えたんだ。遅いくらいだ。」
熊吉「実はあっしには・・・。」
親方「そりゃ、片親で育てたからがさつなところはあるよ。でも、器量もさることながら気立ても劣らねえよ。」
熊吉「へ?」
お網「熊吉さん。こないだの手紙うそなの?」
熊吉「手紙?あっしは字が書けないんだが。」
お網「ひどい。これ、大好 網31って。うちで31歳っていたっら熊吉さんしかいないでしょ。」
熊吉「これですか。大女子綱引って書こうとしたんですよ。こないだインターネットのおふれを見てわからねえから、お嬢さんに意味を聞こうとしたら急に赤い顔して消えちゃうし。」
お網「ひどいわ。」
熊吉「すまねえ。でも、お嬢さんのことは大好き。」
親方「なんだか妙なことになっちまったな。改めて聞くが熊吉。お網と所帯を持つ気はあるのか、ねえのか。」
熊吉「あっしでよければ勿論持つ気はあります。」
金造「お〜い。熊吉はいるかい。」
親方「やなのが来たよ。」
金造「いたいた。これから吉原に行こうって約束したろ。若旦那にくっついてきゃただでいけるんだ。」
熊吉「金公。止めとくれよ。もういいんだ。」
お網「熊吉さん。そんなとこ行くんですか?」
金造「こないだも、行ったんだ。勿論花魁とは遊べねえが、芸子たちとぱあと騒いだね。」
熊吉「うそですよ。うそ。金公。おめえは邪魔なんだよ。」
金造「何だと。せっかく来てやったのに。」
親方「どうせ、おまえさんのことだ。熊吉の話をぶち壊しにきたんだろうがそうはいかねえ。そうだ、おまえにも良い相手がいるんだが。」
金造「え?あっし。照れるなあ。どんな娘です。」
親方「ちょっとばかし、年上だがな。器量も年齢のわりにはいいな。旦那が事故でなくなってな。」
金造「そういうの得意。うれしいね。誰です。」
親方「お〜い。お米さんや。金造さんが会いに来てくれたよ。」
お米「どこいしょ。うれしいねえ。老い先短い年寄りに第二の春だね。」
親方「色男。よ、後家殺し。今夜は泊っていくかい。」
金造「冗談じゃねえ。こちとら瓦版屋。(寝)ねたは新鮮でなきゃ。」