御馴染み電脳横丁に、新しくやって参りました御侍様。名を羽噌紺之進(はそこんのしん)と申しまして、出島でパソコンを学んだという大層ご立派な先生だそうでして。

熊吉「てえへんだ、てえへんだ。」

先生「どうしました。熊吉さん。」

熊吉「それが内の椀頭様が変なんで。」

先生「パソコンに様は付けなくてよろしい。どう変なんです。」

熊吉「突然、画面が乱れたと思ったら妙な音楽が流れ出したんでえ。」

先生「もしかすると、ウィルスに感染したかもしれませんね。」

熊吉「増える酢・・・ですか。」

先生「いやいや、病気だな。」

熊吉「てえと、風邪でも引いたんですかい。」

先生「悪いプログラムが入り込んできたんだ。」

熊吉「先生、病気なら治しちゃもらえねえか。せっかく一年かけて集めた絵が無駄になっちまう。」

先生「いかがなものかなあ。ところで熊吉さん。バックアップは、いつしました。」

熊吉「昨日。フロ・・・」

先生「フロッピーに昨日ですか。それは良かった。」

熊吉「いえ、フロ桶なんですが。」

先生「また妙な物にしましたな。」

熊吉「昨日はえらい疲れたんで、風呂に入って寝ちまおうと思ったら、湯の中で寝込んじまって、気が付いたらアップアップ。」

先生「アップアップじゃないよ。バックアップ。」

熊吉「やだな。先生、俺は男ですよ。しませんよ。ヒップアップなんぞ。」

先生「違うよ。その分じゃ、してないね。パソコンは機械だ。時には壊れたりもする。だから大事なデータはパソコン意外に写しを取っておくわけだ。」

熊吉「写しならありますよ。呉服屋の襖に。」

先生「また、妙なことを言うねえ。」

熊吉「先日、呉服屋の若旦那が来てパソコンがないってのもしゃくだからってんで自分とこの襖に絵を描いたんですが、そのモデルが俺のパソコン。」

先生「写しったって、絵じゃしかたない。」

熊吉「そんなことより、治してくださいよ。」

先生「それじゃ、ワクチンを持って行こう。」

熊吉「なんです?」

先生「ワクチンと言ってな。ウイルスを退治してくれるものだな。このフロッピーに入っとる。」

熊吉「こんな薄いとこにですか。一寸法師だね、まるで。わかった、そのワクチンてえのに、ウイルスって鬼を退治させるんだ。」

先生「そんなとこだな。」

熊吉のパソコンを治しました先生。幸いデータには異常がありませんでしたが、ワクチンのコピーを熊吉に与えます。

熊吉「ありがたいねえ。金公じゃあ、こうはいかないね。あいつのことだ。病気だって聞いたら慌てて医者に持ってくね。」

金造「なんだと。」

熊吉「ありゃ、金公。いつからいた?」

金造「先生が出てくのを見かけたんでな。来てみたんだ。何かもらったみてえだったが。」

熊吉「みられちゃしかたない。ワクチンてえのをもらった。」

金造「なんだい、そのワクチンってのは。」

熊吉「パソコンに住むウイルスって鬼を退治してくれる、一寸法師。」

金造「どうやって使う。」

熊吉「ここの穴に差し込んでスイッチを入れるだけ。」

金造「これが鬼の口かあ。なるほど、ちょっと借りるぜ。」

熊吉からワクチンの入ったフロッピーを借りた金造は急いで表へ飛び出します。

金造「うれしいねえ。こいつが鬼退治してくれるって。鬼退治といやあ、宝物が付き物だ。分捕った宝を横取りすりゃ、大金持ちだ。しかし、どうせ退治するなら金のある鬼じゃなきゃなあ。やっばり、ご隠居だね。あそこの鬼ならきっと飼い主に似て溜めてるね。」

金造「おう、御免よ。」

隠居「おや、金さん。どうしたね。」

金造「最近、パソコンにウイルスってのが流行ってるのを知ってるかい。」

隠居「ああ、知ってるとも。」

金造「そのウイルスってのに、熊のがかかっちまった。」

隠居「おや、それは気の毒だね。」

金造「でだ。俺がそのウイルスってのを退治して回ってる。」

隠居「おや、関心だね。で、首尾はどうだい。」

金造「隠居んとこが手始め。」

隠居「なんだい。まあいいや。町内でウイルスが出たっていったら、信用が落ちる。ちょっと診てもらおうかね。」

金造「待ってました。それから無くなった物があっても返しませんよ。」

隠居「なんだい。まさか金を取るんじゃないだろうね。」

金造「奉仕ですよ。一寸(ちょっと)、奉仕・・・一寸法師。」

隠居「なんだい。ぶつくさと。」

金造「奥へ行っててくんな。企業秘密だから、見ちゃだめだよ。」

金造は早速ワクチンを動かします。やがてチェック終了が表示されます。

金造「あれ、財宝が出ないよ。あ、そうか、このフロッピーってのに入ってんだ。取り出しかた聞いときゃよかった。ご隠居、終わりましたよ。」

隠居「ごくろうさん。無くなったファイルはないだろうねえ。」

金造「さあね。今更返せったってだめだよ。」

それから金造はウイルス退治のために町内を回りまして、すっかり日も暮れてしまいました。そして最後に自分のパソコンも。

金造「先生、たいへんだ。ワクチンてえのをかけたら俺のパソコンが死んじまった。」

先生「どれどれ、こりゃ駄目だ。ウイルスの感染がひどくて全部のファイルが消去されたようじゃ。」

金造「どうしよう。」

先生「どうしようと言われてもなあ。」

金造「そうだ。このフロッピーに入ってる御宝の取り出しかた教えてくんな。」

先生「なんです、御宝って。」

金造「とぼけちゃって。鬼退治と言やあ御宝が付き物だ。さては後でこっそり一人占めする気だったな。」

先生「なんですか。鬼退治ってのは物の例えですよ。」

金造「へえ?御宝無いの。」

先生「無料奉仕ですよ。ところで新しいワクチンが手に入ったんですが上げましょうか。」

金造「法師は結構。今度は桃太郎にします。」