中西一生 当用日記掲載句集



博文館 集文館   掲  載  句   (掲 載 日)
1974年 (昭和49年)   炎昼にわが影をおく我より濃く     (7月27日)
1977年 (昭和52年)   膝突いて立つ母に来る敬老日   (9月15日)
  初鏡おんなは禍福よむ瞳もつ   (正月)
1979年 (昭和54年)   寒鯉のひそむ深さに陽のあそぶ   (1月14日)
1980年 (昭和55年)   榾ひとつ持ちて加はる焚火の輪   (12月13日)
1981年 (昭和56年) 雪柳こぼれ継ぐ日の手毬唄   (4月25日)
じりじり踏む灼け砂のどこかに奈落 (7月29日)
茄子漬に過去が滲みくる母の死後 (8月1日)
いつも誰かに窺はれゐて落葉の径 (11月9日)
黄落や地に甦へる石の翳 (11月21日)
木枯らしや海に果つとき牙白く (12月5日)
1982年 (昭和57年) 夏めく海生きの証しの石抛る (5月17日)
星占いのをんな祭りの夜に妖し (6月)
万緑のなかや白樺にある弧愁 (6月6日)
鵙猛る木曽路のあした夕べかな (9月25日)
鶏は餌を啄ばみ忘れ返り花 (11月18日)
1983年 (昭和58年) 夏木立ひととこ展け木地師小屋 (6月5日)
ななかまどの花にぶ色に通り雨 (7月14日)
閂を外す突如と在る枯野 (12月15日)
1984年 (昭和59年) 土くれを剥がし匂はせ雪解川 (3月11日)
ひとりづつ渡る吊橋風薫る (5月16日)
冬立つ海ひととこ洩れ陽はなやげり (11月7日)
1985年 (昭和60年) 薄氷や方便の嘘壊え易く (3月9日)
からたちの花垣越しに川光る (4月19日)
子の代となりて老舗の氷菓売る (7月7日)
1986年 (昭和61年) オリオンの綺羅を掲げて冬木鳴る (1月30日)
いちまいの切符で帰る枯れ故郷 (12月8日)
1987年 (昭和62年) 故郷捨てしをんな華麗に成人す (1月15日)
筆洗ふ水に余寒の韻きあり (2月6日)
牡丹苑抜けきて風となる妬心 (5月8日)
1988年 (昭和63年) 言葉なく居ればふくらむ春の闇 (3月24日)
いちまいの枯葉となって坂おりる (11月18日)
師走喧噪タクト一つが欲しくなる (12月15日)
博文館 集文館 掲  載  句 (掲載日付)
1989年 (平成元年) 切々と痰つまりくる月おぼろ (3月21日)
蝉ひとつ闇に鳴き初む輸血終ゆ (7月13日)
歳月や籐のゆるびし籐寝椅子 (8月9日)
1991年 (平成3年) 退き際にひとりの死ありや彼岸潮 (3月24日)
くすり指に数珠のつまづく溽暑かな (7月14日)
病衣せめて派手に介護の夜長夫 (10月17日)
落葉だけの温さに堪えて詩を書くか (11月18日)
1992年 (平成4年) 枯枝みな東なびきにさるおがせ (1月28日)
駅の名の玉の井が消え灼ける街 (7月19日)
色草にかしづかれゐる石ほとけ (9月16日)
数え日の手相師小さき灯を守れる (12月24日)
1993年 (平成5年) 梅ほつほつ寓の一字を門標に (3月7日)
砂浜に来て色失せり夏の蝶 (7月16日)
流木が火を欲しがりだして秋 (10月24日)
極月の温き掌なりし別れかな (12月24日)
1994年 (平成6年) 雪女抱かれ消ゆるに海蒼く (1月19日)
水門より許されて入る春の潮 (3月8日)
秋気澄む張子だるまの朱が匂ひ (9月18日)
石階を舐めて秋水光り落つ (10月22日)
1995年 (平成7年) つと降りてつと止む春のだまし雨 (3月13日)
水甕に浮く梅雨の星信じたし (6月25日)
積乱雲の裏が知りたい夏帽子 (7月15日)
雪嶺いくつ超え来て今も母卿なる (12月29日)
1996年 (平成8年) 滴りの芯まで蒼し拝み汲む (8月9日)
岬端に燈台一基山眠る (1月26日)
自分史にひと夜秋思いの筆加ふ (9月25日)
秋霖に杉の秀なだれ渓深む (10月4日)
1997年 (平成9年) 滴りの芯まで蒼し拝み汲む (7月11日)
黄泉よりの便りを乗せて星走る (9月24日)
煙吐く汽車なつかしむ十三夜 (10月14日)
合掌造りの村が絵となる霧時雨 (10月29日)