パーライトの発泡機構の解明  塙 健三

1.はじめに
 黒曜石、真珠岩(パーライト)、松脂岩などうまく加熱するとポップコーンの様に発泡する天然の鉱石が知られている。これらは組成はほとんど同じで含んでいる構造水の量が異なるだけである。代表的な組成を1に示す。またシラスバルーンで知られるシラスとパーライトの違いはシラスは粉体が堆積しているだけだが、パーライトは岩石として存在しているという違いである。セメントに混ぜて使う軽量骨材が代表的な用途であるが、そのほかにもLPGタンクの保冷材、濾過助材、保水を目的にした土壌改良材などの用途がある。また機械工などが手についたしつこい油よごれをおとすのに良く使われるアブラトーレという商品名で知られている洗剤は発泡したパーライトを混ぜてある。古くから幅広く使われている製品であり、天然の石がプクーと膨らむ現象自身は非常に面白いのだが、研究投資が集中するいわゆるハイテク産業のさかさまの分野であり、単価が高いものではなく、また市場規模もそれほど大きいものではないので、系統的に研究されたことがなかった。今回当社の鉱石を使って発泡機構の解明を試みたのでその結果を報告する。

2.従来の研究のまとめ

 発泡するためには軟化と同時にガス発生する事が必要である。表1の組成のガラスのガラス軟化温度は一般に1050〜1200℃程度である。したがって1050〜1200℃付近でガス発生があれば発泡する事になる。しかし実生産でつかっているバーナーの炎の温度が1200℃程度であり、炉内の温度は750〜900℃と報告されている(1)。1000℃以下で発泡している事は経験上あきらかである。 さらにD. Shackleyは1000℃/分で加熱したときの熱重量測定とホットステージをつかった顕微鏡観察から、400℃から1000℃で発泡が開始する事を確認している(3)。

 またパーライトの生産はバーナーの炎のなかにパーライトの粒子を落として吹き飛ばしている最中に発泡させるのがほとんどであり(2)、加熱速度が重要であり、ゆっくり加熱しても発泡しないが、急速に加熱すると発泡する。急速に加熱している最中の構造水の揮発量をD.Shackleyが熱重量測定で定量化した。さらにH. R. Shaw はパーライトガラスの粘度は構造水を含むと急激に低下する事を指摘した(4)。 D. Shackley は熱重量測定の結果とShawの計算結果を利用して、約1000℃/分で加熱したときの発泡温度を計算した結果、発砲開始温度は610℃であり、それは上記の実験結果と一致するとした(5)。すなわちガラスの軟化点は組成できまるが、パーライトの場合なんか点を決める最も重要な組成は水であり、水が軟化点を飛躍的にさげているので600℃付近で発泡が始まるということである。

3.従来の研究の問題点

 従来の研究の問題点を整理すると以下のとおり。

1)発泡開始温度をはじめ発泡の仕方が鉱石ごとにかなり違うのは公知の事であるがそれを説明することができない。

2)構造水が加熱により水蒸気を発生するのが発泡に必要なガスであることは明らかになっているが、構造水の量が発泡挙動にどう影響しているかは明確になっていない。

3)加熱速度が重要な事は従来からいわれているがどのくらいの速度が良いのか、あるいはいつもおんなじ速度が良いのか、適切な温度プロファイルがあるのか検討されたた事はない。

4)発泡し終わった粒子の形状をきめる要因については何の知見もない。

5)含有される構造水のうち発泡に寄与しているのはほんの一部であるが、鉱石に含まれる構造水にいろいろな種類があるような報告もあり(6)、水蒸気のもととなる構造水がどのようなかたちで存在しているのかについて系統的な研究がない。

 
 この報告は以上の問題点を解明することを目的とした。

4.発泡観察用の装置

 図1に試作した発泡観察装置の構成図を示す。赤外線加熱装置はサーモ理工社製のIR−1000GAである。従来のヒーター加熱式のホットプレートを使うとヒーターの温度上昇に炉内部の温度上昇が追いつかないために温度制御が極めて困難であるのに対し、温度制御が可能となった。

 図2に発泡観測装置の昇温制御特性を示す。250℃/分から1000℃/分の昇温速度を区別して作る事が出来、しかも途中で任意な時間ホールドする事ができる。

5.実験方法

5−1 精石

 本研究に用いた精石を表2に示す。150μmアンダーに粉砕した後、これを比重分離試験に使用した。また75μm〜100μmを篩だし、含有水分量の測定と発泡観察に使用した。

5−2 水分量の測定

 5gの精石を蓋付磁製るつぼに入れ、1000℃まで2時間かけて昇温し、2時間保持後、取り出して重量減をだし、この灼熱減量を含有水分量とした。

5−3 比重測定

 臭化亜鉛水溶液を重液として比重分離し、2.1g/ml以下、2.2〜2.25g/ml、2.3〜2.35g/ml、2.4g/ml以上の成分の存在比率を出した。また比重分離して取り出した精石を発泡観察した。

5−4 水の揮発挙動の定量測定

 あらかじめ一定温度に保った電気炉中に、約1gの精石をうすでのガラス容器ごと入れ、所定の時間後とに取り出し、重量を測定した。重量の減少分を5−2の含有水分量から引いた量を各時間熱処理したときに水分量とした。

5−5 発泡観察の条件

 各精石を75〜100μmに分級したものを発泡観察装置をもちいて1000℃/分の昇温速度で観察し、発泡開始温度、発泡挙動の観察をおこなった。また喜多方産と佐賀産の精石を75〜150μm、250〜500μm、850〜1180μmに篩い分け、360℃と560℃で所定の時間熱処理し、含有水分量を変化させ、上記と同様の発泡観察を行った。さらに喜多方産精石を250〜500μmに分級後、含有水分量1.5%に調整し、加熱温度プロファイルをいろいろ変化させて、発泡挙動を観察した。

6.実験結果

6−1 精石ごとの発泡開始温度

 精石ごとの発泡開始温度を表3に示す。含水量との関係を図3に示す。発泡は400℃から600℃で開始した。すなわち表1の組成からは軟化温度は最低でも1050℃と予想されるが、実際にはほとんどのパーライトは600℃以下で発泡が始まっていることが確認できた。この結果はD. Shackleyの報告(3)と同じである。なお各精石6回の観察を行い平均値をもとめた。同じ精石でも最大100℃の差があった。大きな傾向としては含水量が多い精石ほど低い温度で発泡が始まるのがわかる。

6−2 比重分離の結果

 図4に累積密度分布を示す。粒子密度が2.1g/ml以下の粒子と2.4g/ml以上の粒子は発泡しなかった。パーライトの中には長石(d=2.56〜2.62g/ml)、石英(d=2.65〜2.66g/ml)、クリストバライト(d=2.33g/ml)などの結晶を含んでいること、風化が進んだパーライト原石表面は粘土化していることが報告(8)されている。したがってd>2.4g/mlの成分は結晶成分であり、d?2.1g/mlの成分は風化された粘土分であると思われる。

6−3 水の揮発挙動

 図5に喜多方精石を各温度においたときの含有水分の減少挙動を示す。含水量は加熱時間とともに滑らかに減少を続けることがわかる。このグラフの傾きから水分の揮発速度がえられる。その揮発速度が残存水分量に対して各温度でどのように変化するかを図6に示す。
 次に残存水分量ごとに絶対温度(℃+273)の逆数と揮発速度の対数とをプロットすると図7のように直線が得られ、その傾きから揮発速度の活性化エネルギーがえれる。得られた活性化エネルギーの値を表4に示す。活性化エネルギーはその反応によって変化する結合の結合状態を反映していると考えられる(7)。
 佐賀精石と喜多方精石を360℃と560℃とで熱処理したときの水分揮発挙動を図8に示す。はじめの含水量は5.0%と3.4%とでかなり差があるがごく初期にほぼ同じ含水量になりその後は、水分揮発速度はほぼ同じである。

6−4 含水量と発泡挙動

 各精石の含水量を制御して発泡観察した結果を表4にまとめる。含水量が少なくなるにしたがって発泡温度が高くなる。さらに発泡の形態が含水量が多いときはパーライト特有の多気泡発泡であるが、含水量が2%を切ると黒曜石を発泡させたときのような単気泡発泡になり、さらに少なくなって1%より含水量がも少なくなるとうまく発泡しない。重要なことは、含水量の違う産地の精石を用いて違う温度で熱処理しても発泡挙動は含水量でほぼ整理できてしまうことである。

 また粒径が0.5mm以下の小さい精石は含水量が少なくなるにつれて多気泡発泡・単気泡発泡・発泡不良と変化したが、粒径が0.5mm以上の大きい精石は全体として単気泡発泡することはなく、いくつかの単気泡発泡に分離した。分離は精石ないにある亀裂に沿って起こっていると思われる。

6−5 昇温プロファイルと発泡挙動

 昇温速度を変えたときの観察結果も模式図を図9に示す。さらに途中で昇温を停止して一定温度に保った場合の観察結果を図10に示す。つぎに昇温途中で昇温速度を変えたり、降温したりしたときの観察結果を図11に示す。1000℃/分で昇温したときにはうまく発泡したが500℃/分では発泡の仕方が悪くなり、250℃/分では発泡しなかった。ただしこの発泡速度が精石の昇温速度と正確に対応しているわけではない。温度を測定しているのは精石を乗せている黒色石英板である。実際の昇温速度はこれよりもだいぶ遅い可能性がある。発泡の途中で温度をとめると、発泡体が破裂して、見えなくなった。破裂するまでの時間は1100℃では数秒、1000℃では数分であった。発泡途中で昇温速度を変えた場合、発泡開始後昇温速度を500℃/分にかえると発泡はそのままよりもうまくいくようにみえた。また発泡中に温度を下げると、破裂した。

7.考察

7−1 含有水の存在形態

 図5より、どの温度において熱処理しても含水量はなめらかに減少を続けており、性質の違う水は観察されない。

 また図5を図6、図7にかきかえることにより水の揮発の活性化エネルギーが表3のように求められた。この結果どの含水量であっても活性化エネルギーはほぼ1eVであることがわかった。みずの揮発速度はSi,Alなどのパーライトを構成する元素を水との結合の切断の速度に支配されていると考えられるので、揮発速度の活性化エネルギーは揮発してくる水が鉱石の中で結合していた結合エネルギーと同程度である。したがってどの含水量であってもほぼ同じ状態で結合しているとがわかる。また、山本らは次のように整理している(7)。

 一対の原子間の結合エネルギーの大きさの順は、共有結合(数eV)>静電結合(1eV)>金属結合(0.5eV)≫分子結合(0.005eV)である。したがって含有水と鉱石の成分とは静電結合で結合していると考えられる。よって水はH2Oの分子の形ではなく、OH-の形で結合していると思われる。

 以上よりパーライトに含まれる水には存在形態の違いはなくOH-の形で静電結合をしていると考えられる。

 表4でまとめたように発泡形態が鉱石の産地や余熱の履歴によらず、含水量で整理できるのは前述のようにパーライトに含まれる水に種類がなくどの場合も同じようにはいっていることから理解できる。

(1)城倉可勝:「我国のパーライト工業の現状」、資源処理技術 Vol.39, No.4(1992),p150−155.

(2)J.B. Murdock , H.A. Stein: Comparative Furnace Designs for the Expansion of Perlite Transactions AIME, Vol.187, Jan.(1950), Mining Engineering, p111-116.
(3)D. Shackley: The Interpretation of the Expansion Process by Thermoanalytical Methods, Perlite Institute Annual Conference, Monterey (1988).
(4)H.R. Shaw:Viscosities of Magmatic Silicate Liquids, American Journal of Science, Vol.272 (1972), pp.870-893.
(5)D. Shackley: Characterization and Expansion of Perlite, PhD Theses, Nottingham University, (1989).
(6)H. Lehamann, M. Rossler: メA Contribution to the Nature Water Binding In Perlites Thermal Analysisモ, Vol.1 (1974), pp.619-628.
(7)山本悟、田辺晃生:「新しい材料科学――量子力学に基づく統一的理解――」1990年、昭和堂、 山本悟:「新しい反応速度論の試み――絶対反応速度論を超えて――」1981年、昭和堂。
(8)浜野 健也:“パーライト焼成基礎研究報告書”、三井金属鉱業株式会社、中央研究所、研究報告748号(1960年)。

表1 パーライトの代表的な組成

表2 本研究に用いた精石の種類
表3 各含有水での活性化エネルギー
表4 各精石を含水量を変えて発泡観察したときの結果のまとめ

図1 発泡観察装置の構成図

図2 発泡観察装置の昇温制御特性
図3 各精石の含水量と発泡開始温度の関係
図4 各精石の累積密度分布
図5 喜多方精石を各温度の保持したときの含有水の減少挙動
図6 揮発速度と含有水の関係
図7 揮発速度と絶対温度の逆数の関係 アレニウスプロット
図8 佐賀精石と喜多方精石とを360℃と560℃とで熱処理したときの水分揮発挙動
図9 昇温速度を変えたときの観察結果
図10 発泡開始後に一定温度に保ったときの観察結果
図11 発泡開始後に騒音速度を変えたときの観察結果