それから10年くらい経つと、村上氏の予感どおりに価値崩壊が現実化し始めた。僕自身の個人的な立て直しの必要性もあって、村上春樹はその後どんなことを考えているのだろうと手がかりを探していたところ、1996年の末に「村上春樹、河合隼雄に会いにいく」という本が出た。この本で語られているのは「物語」「宗教性」「暴力」といったことがらだった。これらの問題は「無意識」というキーワードで括られるが、無意識というのは我が小脳論の中心的関心事でもある。しかし、色々考えてみてもどうもすっきりしない部分があるので村上氏本人にメールを出したところ、返事をもらうことができた(村上朝日堂CD−ROMに収録されている)。
キャンベルは世界中の神話の共通点を調べた学者で、その神話学に基いて「スターウォーズ」が作られたのだそうな。そういえば、村上春樹の「ダンス・ダンス・ダンス」には「フォースがあなたとともにありますように」というセリフもある。キャンベルの本は確かに面白かった。そこには「価値崩壊の時代を生き延びることは内面的な戦いである、それはある意味で神話的なことがらなのだ」ということが書かれている。価値崩壊の時代を生き延びるには、内面的な価値を自分で探さなくてはならないのだ。