めだかの学校は

田植えツアーに行った時にもらった種籾を発芽させ、バケツに植えて水を張ったらボウフラが大発生してしまった。大小取り混ぜてたぶん二百匹くらいいる。脱皮したばかりでバケツの壁にしがみついている蚊もいるではないか。このボウフラがみんな蚊になるのだと思っただけで手足が痒くなってくる。うにょうにょと身をくねらせているボウフラたちを見ているうちに、最近奥さんが飼い始めたメダカのことを思いだした。メダカはボウフラを食べるよな?

玄関に置いてある小さなプラスチックの水槽を持ってきて、その中にいるメダカを稲のバケツに移し替えてみた。メダカたちは急に環境が変わって落ち着かない様子である。周りにいるボウフラのこともあまり気に入ってはいないように見える。水が浅かったので、水替え用に日なたに置いてあったペットボトルの水をバケツに足すと、一匹のメダカが驚いて水面から飛び上がりバケツの外の地面に落ちてしまった。メダカを拾い上げてバケツに戻す。

メダカはボウフラ食べへんのかなあ、と言いつつ眺めていると、一匹のメダカが近くに来た小さめのボウフラをパクッと食べた。他のメダカを見ていた奥さんに「今、ボウフラ食べたで」と報告するが、「ほんま〜?」と半信半疑である。ほんまなんだろうか? 僕はその瞬間を自分の眼で見たはずだが、一瞬の出来事だったので本当に食べたのかどうか確信が持てない。メダカが口をもぐもぐさせていたらハッキリするのだが、ボウフラを一口で飲み込んでしまったメダカは何事もなかったかのような顔をしている。

他のメダカたちも相変わらず稲の根元でじっとしている。よく見ると完全に静止しているのではなく、小さな胸ビレだけはずっと振るわせたままだ。蚊が飛んできて僕の足首にとまったので叩いて潰す。しばらくすると、メダカがまたパクッとボウフラを食べた。と思ったら、また別のメダカもボウフラを食べた。どうやらメダカたちは新しい環境に慣れてきたみたいである。この調子ならメダカに餌をやる手間も省けて、ボウフラも駆除できて一石二鳥だ。またメダカが飛び出すといけないので、奥さんが水を少し汲み出す。というところで今日の観察は終わり。

翌朝、メダカの様子を見に行くと、一匹足りない。昨夜の雨で水位が上がっているので、飛び出したのかもしれない。バケツの周りの地面を探すと、メダカが死んでいた。スコップで拾って花壇に埋める。それはそうと、ボウフラがいないではないか。メダカたちはお腹がずいぶん膨れているような気がする。君ら、食い過ぎじゃないのか? バケツの隅々まで見てもボウフラは一匹もいない。小さい生まれたてのヤツまで、完全に食べ尽くしている。参りました。やっぱり毎日餌をやらなくてはならない。

それからは毎朝餌をやり、水が減っていたら水を足している。餌が足りない時はバケツの壁に付いたコケを食べているようだ。コケを食べる鮎はうまいが、コケを食べたメダカはうまいだろうか、などとアホなことを考えたりする。その後、ボウフラは一匹も見かけない。メダカは蚊の卵を食べるのだろうか。それとも、生まれたボウフラを食べているのだろうか。いずれにせよ、秋になったらメダカたちはまた水槽に戻り、配合飼料を食べることになる。