お気楽サラリーマンの未来

今年の春にソニーが人員削減の計画を発表した。新聞なんかでは良いニュースのように書かれていて、ソニーの株は上がったりした。しかしソニーさんにしてリストラせなあかんというのは、何というか、日本や世界の経済システムが非常事態に突入したことの比喩的な宣言みたいなもんじゃないだろうか。だって、ソニーと言えばVAIOとハンディカムとプレイステーションとパフィーを売っている企業グループですよ。今の日本にこれ以上売るものがある会社なんてあるだろうか? いや、無い。つまり、ソニーは日本の大企業メーカーの中で一番状況がマシな会社なのに、そういう会社が雇用を一割減らすのだ。ということは、これから先、日本全体で企業の雇用はかなり減るのだろう。実際、最近の新聞の経済欄には有名な大企業の人員削減の話がしょっちゅう出ている。

経営状態が悪い会社が人を減らすのは当り前のようだが、日本中の会社がそれをやるのだから大変である。失業率がどんどん上がる。失業者が増えれば商品やサービスの売り上げは減るだろう。リストラで企業の生産効率が上がるのはいいが、商品が売れなければ仕事は減る一方だ。だから各企業はますます人を減らす。...というサイクルで経済はどんどん縮小する。これは要するに「大量生産の仕事でもらったお金で大量生産品を買う」というシステムが縮小し始めたことを意味する。

一方、日本製品の主な買い手であるアメリカの経済は好調そうに見える。株価は一万ドルである。アメリカの株価が上がったのは、アジアやロシアや中南米の経済が崩壊して、そこから引き上げられたお金が他に行くところがないのでアメリカに流れ込んだからだ。株が上がるからアメリカ人の貯金や年金などもどんどん株に投資され、更に株式市場にお金が流れ込みますます株価が上がる。株というのは株式市場にお金が入って来れば上がるしそうでなければ下がる。各企業の業績とか将来性などというのは、全体が上がったり下がったりする中での順位付けのネタである。極端なことを言えば、全部の会社の業績が良くても株式市場に流れ込むお金が無くなれば株価は下がるだろう。

とにかく、今のところアメリカの株価は上がっている。株が上がると儲かったような気になってお金をどんどん使う。だからアメリカは景気がいい。それで、景気良くモノを買った結果、輸入が多過ぎてアメリカの貿易収支は大赤字である。アメリカの貿易赤字が今のところ問題になっていないのは、他の国からどんどんお金が投資されているからだ。でも、投資されるというのは借金をするということである。貿易赤字の国がどうやってその借金を返すのだろうか。

ニューヨーク株式市場に流れ込むお金が無くなったら株価の上昇は止まる。株価の上昇が止まると株価が下がる。それはなぜか。例えば50円で買った株に5円の配当があれば10%の利息なわけで、株価が上がらなくても持ち続けていれば儲かる。しかし同じ株を500円で買った人にとっては配当は1%だから少なすぎて、株価が上がらないと儲からない。つまり、高い株を買った人は最初から配当ではなく値上がりを期待しているので株価の上昇が止まると株を売りたくなる(はずである)。それがバブルの崩壊である。アメリカのバブルがはじけたらどうなるのかは想像もつかない。

世界の経済はアメリカの消費で支えられているようなものだが、それがこのまま続くようには思えないのだ。大量生産経済システムは今後ますます縮小するような気がする。ところで、僕もそのシステムの端っこにしがみついて暮らしているわけで、そう考えると僕もお気楽どころか明日をも知れぬサラリーマンである。でも、そういうときこそリラックス&クールな精神でハードでシュールな現実に向かうしかないような気がするわけです。

(99.6.30)