法科出身ビジネスマンのためのデリバティブ入門ガイド(6/2002改訂)

上海外灘より浦東を望む。
By M.Hayami(^-^).


[要  旨]

 弁護士の身でアメリカのビジネススクール(経営学大学院)にM.B.A.(経営学修士)留学(九二〜九四年)していたとき、デリバティブの概念がなかなか理解できず苦労した経験から、ある程度民法の基礎的理解のある(法科出身程度)ビジネスマンを対象に、デリバティブ理解のための新たなアプローチを提示する。

 すなわち、デリバティブを民法的に構成して説明しようとする試みであり、具体的には、フォワード取引、フューチャーズ取引は履行期先日付の売買契約、オプション取引は売買一方の予約における予約完結権の売買契約、スワップ取引は、理念的には債務履行引受契約、実態的には有償的金銭給付契約と、構成する。

 私はこのアプローチによって教科書の説明が一挙にクリアーになったので、法科出身ビジネスマンの方々にもご提案する次第である。また、身近にデリバティブの理解に困っている法科出身のオジサン、オバサンや上司の方がおられれば、本稿をプリントアウトして見せて上げて下さい。

 なお、本稿につきご批判、ご感想等を右までEメール下されば幸いです: hayami@m.email.ne.jp

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目  次

  1.  はじめに
  2.  フォワード、フューチャーズ
  3.  オプション
  4.  スワップ
  5.  デリバティブ一般の概念


法科出身ビジネスマンのためのデリバティブ入門ガイド(6/2002改訂)


        

・・・デリバティブの民法的構成によるアプローチから・・・


                     弁護士(東京弁護士会)・M.B.A.(経営学修士) 速水 幹由

1 はじめに
 デリバティブ(Derivatives)という言葉が新・外為法の施行、金融ビッグバンの着手を契機に改めて注目を浴びている[註1-1]。しかし、解説書を読んでもさっぱりその内容を理解できないと嘆いておられる方は相変わらず多いようだ[註1-2]。私も、直接のビジネス経験をもたない弁護士の身でアメリカにM.B.A.留学していた時、デリバティブという言葉に接し、しかもそれを英語で学ぶ過程で、なかなかイメージがわかず苦労した経験がある。
 その際、苦しまぎれに、民法的に構成したらどうなるのだろうかと考えてみたところ、非常に理解しやすくなった。そこで、同じ様な苦労をしておられるビジネスマンで民法の基本的な知識をお持ちの方々にも使ってもらえるのではないかと思い、私なりのノウハウを披瀝させていただこうと思う(その意味で、本稿は入門書のさらに手前のいわば入門ガイドである)。
 もっとも、デリバティブは法律なんぞとは無関係に経済的合理性を追求する実務のニーズから生まれたものであり、ましてや日本民法などその眼中にすらないのに、これを日本民法で説明するのは無茶苦茶だと思われるかもしれない。確かにデリバティブの方では日本民法を相手にしていないのだが、法律の方では、いかに相手から無視されようと、しつこく追いかけていって自己の対象に取り込まなければならない宿命がある。それに、デリバティブがどのような素性を持っているかに係わらず、日本で取引される以上、原則として、日本民法の適用があるのだから、後付け的であっても日本民法の下でどのように構成するかを考えることは決して荒唐無稽な話ではなく、実際上も万が一紛争が起きた場合にどのように処理されるかを見通す上で有益である[註1-3](但し、本稿は、デリバティブの構造理解に資することが主たる目的であり、法律的な要件・効果を厳密に検討することが本来の目的ではないので予めご了承願いたい)。
 デリバティブには、いろいろ複雑な組み合わせや応用商品もあるが、ここでは基本的なフォワード(Forward)、フューチャーズ(Futures)、オプション(Option)、スワップ(Swap)の4種類に限って採り上げ、最後にデリバティブ一般の概念について帰納的・要約的に説明することにする。
⇒註記跳ばし読み


註記
*[註1-1]旧・外為法(外国為替及び外国貿易管理法)を改正し大幅に規制緩和した新・外為法は、外国為替及び外国貿易法(「管理」の二文字が落ちた)と改称されて、九八年四月一日から施行されたが、金融ビッグバンの第一走者とみられている。⇒本文に戻る
*[註1-2]近頃はデリバティブを理解することの重要性が盛んに強調されている。例えばオプションについて、企業が為替市場で大きな損失を出すことが多い原因の一つに「本来、為替業務を管理する立場の人が積極的に理解しようとしないことがある」との指摘を紹介し、中高年層にとって、オプションは複雑と映るようだが、オプション抜きで為替相場を語れない時代になっているとする、一九九五年七月一日付日経新聞夕刊六頁「市場の話題」参照。⇒本文に戻る
*[註1-3]一般の概説書の説明を法律家の目からみると、法律構成の説明として詰めが甘いか、あるいは不正確なことも多く、法的素養のある読者は却って混乱を来すことがあるかもしれない。⇒本文に戻る

2 フォワード、フューチャーズ
 フォワードおよびフューチャーズは、一般に、「将来の特定の日に、特定の(金融)商品を、特定の数量、特定の価格で売買する契約」等と定義される[註2-1]。俗に先物予約などともいわれるが、法律的には売買契約であって予約ではないと解すべきである[註2-2]。例えば、書店に月刊誌を一年分「予約」し代金の支払いも後日にするといった日常的な取引と同じで、各債務(商品引渡・代金支払)の履行期は将来に訪れるが、売買契約そのものは当事者の合意(申込と承諾)によって成立し、直ちに当事者は発生した債権・債務に拘束される[註2-3]
 為替を例に取ると、三カ月後を期日として一ドル=九五円のレートで一億ドル買うという内容の契約をすると、それによって直ちに売買契約として成立し、理念的には、三カ月後に一億ドルを受け取るのと引き替えに代金九五億円を支払うべき義務が既に発生しており、相手方も三カ月後に代金九五億円と引き替えに一億ドルを引き渡すべき義務を既に負担していることになる[註2-4]
 その経済的効用は、三カ月後に現実の為替レートがどうなっているかに係わらず、当事者の間では一ドル=九五円のレートに約定してしまうことにより、為替変動に伴うリスクを回避できる点にある。卑近な例でいうと、運賃値上げ直前に、値上げ後に乗車するための定期券を購入するのと似ている(為替レートの場合は、将来上がるか下がるか不明なのに対し、運賃の場合は、既に将来の値上げが確定している点、および運賃を全額前払いしなければならない点に違いがあるが、将来の価格変動によるリスクを回避するため事前に契約してしまうという点では同じである)。
 もっとも、期日の現物相場価格が約定価格より高ければ、これらの取引によって安く買える(安く買って高く転売できる)分買主に利益(売主に損害)となる(期日の現物相場価格が約定価格より安ければ、その逆)わけで、現物相場価格と約定価格との差額分の利益又は損害が両当事者に発生し、かつ両価格の乖離はプラスにもマイナスにも際限なく拡がりうるから、これらの取引自体による利益・損害は無限に拡大しうることになる。
 フォワード(先渡取引)とフューチャーズ(先物取引)との違いは、フォワードは当事者間の相対取引であり、契約内容を当事者の自由に決められるのに対し、フューチャーズは取引所に上場して目的物(正確には、未だ目的物の特定がなく、期日における目的物引渡請求権)が転々譲渡されるため、契約内容が規格化されている点に違いがある[註2-5]
 そのため、フューチャーズ取引では、取引所の設置する清算機関(クリアリングハウス)が手続上介在し、清算機関が取引の相手方として売主から買い、買主に売る形式をとり[註2-6]、実質的に清算機関が信用リスクを保証する仕組みになっている[註2-7]。また、決済期日に債務を履行させる担保として、取引開始の際顧客に一定の委託証拠金(当初証拠金)を取引所へ納めさせ、さらに期日までの途中でも、現物相場の値動きに影響されて変動する日々の当該先物相場に基づいて取引所が発表する清算価格と先に契約した約定価格(持値)とを比較し、持値を当日の清算価格で評価し直した(値洗い)結果、計算上の損失額(含み損)が一定限度に達したときは、追加証拠金(変動証拠金)を差し入れて証拠金の積み増しをさせ、期日における不履行の損害回避を図る等、取引の安全のための措置が講じられている[註2-8]
 なお、フューチャーズの場合、受渡期日に現実に約定代金と目的物を交換する受渡決済をすることもあるが、受渡期日までに当初取引とは反対方向の取引をして両取引による損益差額だけを受け渡しする差金決済が通常である(上述の追加証拠金差し入れによる証拠金の積み増しをしないときは、直ちに当初取引と反対方向の取引を行い、ポジションの解消を強制される)[註2-9]
 そこで、フューチャーズ取引の顧客からみると、差金決済をすれば、少額の証拠金を支払うだけで多額な元本(想定元本)の取引ができるため、利益・損害が莫大なものとなり、いわゆるレバレッジ(梃子の作用)効果が働くことになる[註2-10]
 この差金決済の法律構成としては、互いに同種の目的を有する対立債権を対等額で消滅させる相殺とみることができよう[註2-11]。すなわち、当初取引も反対取引も形式上の相手方は取引所の清算機関であり、同種の目的物引渡債権同士及び代金債権同士が対立するので、これらを相殺して残る代金差額だけを授受すれば決済できると構成しうるわけである[註2-12]
 これに対し、フォワードでは、受渡決済が原則である[註2-13]。いわば、フォワードはカスタムメードであり、当事者間の合意で個々の必要に最も則した内容・条件に設定できるかわり処分が困難なのに対し、フューチャーズはレディーメードであり、内容が規格化されているかわり取引所で自由かつ簡単に売買でき期日前に反対取引して手仕舞う[註2-14] ことも容易である[註2-15]
⇒註記跳ばし読み

註記
*[註2-1]銀行研修社編著「デリバティブ取引入門」銀行研修社六四頁〈細沼義博〉〈一九九五年〉参照。⇒本文に戻る
*[註2-2]長久保隆英「外為 KEY WORD」銀行法務21五一二号八〇頁・五一三号八〇頁〈一九九五年〉。なお、「当事者が将来の一定の時期において通貨等及びその対価の授受を約する売買取引・・・」を金融先物取引とする金融先物取引法二条四項一号、有価証券先物取引について「売買の当事者が・・・将来の一定の時期において有価証券・・・及びその対価の授受を約する売買取引・・・」とする証券取引法二条一三項、および先物外国為替取引について「・・・売買契約に基づく債権の発生等に係る取引を当該売買の契約日後の一定の時期に一定の外国為替相場により実行する取引」と規定していた旧・外国為替管理令四条二項二号(新・外国為替令では対応規定が削除になった)、各参照。⇒本文に戻る
*[註2-3]売買は、売主が財産権を移転する債務を負い、買主が代金を払う債務を負うだけで成立する、諾成契約である(我妻栄「民法講義・債権各論中巻一」岩波書店二四五頁〈一九五七年〉参照)。⇒本文に戻る
*[註2-4]このように、将来の一定時期に商品とその対価の受渡を履行することを約束し合うものである点で、現物取引と対比される。但し、厳密にいうと、後者の場合も、外国為替の売買契約が成立すると、同時あるいは二営業日以内(インターバンク取引の場合)に外国為替とその対価の受渡を行うこととされ、将来(ごく短期的ではあるが)の履行を約するという要素を含んでおり、直物取引という方が正確である(前掲・長久保「外為 KEY WORD」銀行法務21五一二号八〇頁参照)。⇒本文に戻る
*[註2-5]吉野昌甫=滝沢健三=河西宏之「外国為替入門・第3版」有斐閣新書一七七頁〈河西〉〈一九九三年〉参照。⇒本文に戻る
*[註2-6]正確にいうと、この売主、買主となるのも顧客ではなく、取引所会員である。経済上の効果は委託者たる顧客に帰属し、取引所会員はコミッションを受けるだけだが、法律的には取引所会員が商法上の問屋として売買の当事者となり、取引に基づく権利・義務を持つ(商法五五一条以下。鈴木竹雄「新版 商行為法・保険法・海商法 全訂第一版」弘文堂三三頁〈一九七八年〉、近藤和義「株式取引に関する研究」司法研修所・司法研究報告書第一九輯第三号六四頁〈一九六八年〉、各参照)。⇒本文に戻る
*[註2-7]三宅輝幸「デリバティブ[金融派生商品]入門」日本実業出版社三九頁〈一九九五年〉、前掲・吉野ほか「外国為替入門・第3版」一七九頁・一八三頁〈河西〉、東京銀行調査部編「外国為替の知識」日経文庫(5)九四頁〈一九九一年〉、各参照。⇒本文に戻る
*[註2-8]前掲・三宅「デリバティブ[金融派生商品]入門」三八頁、前掲・吉野ほか「外国為替入門・第3版」一七九頁〈河西〉、前掲・銀行研修社「デリバティブ取引入門」六六頁〈細沼〉、Q各参照。⇒本文に戻る
*[註2-9]前掲・吉野ほか「外国為替入門・第3版」一七七頁・一七九頁・一八四頁〈河西〉、前掲・銀行研修社「デリバティブ取引入門」六九頁・七〇頁〈細沼〉、各参照。⇒本文に戻る
*[註2-10]前掲・三宅「デリバティブ[金融派生商品]入門」四八頁参照。⇒本文に戻る
*[註2-11]但し正確には、相殺契約と解する(民法五〇五条一項、商法五二九条、我妻栄「民法講義IV・新訂債権総論」岩波書店三五三頁以下〈一九六四年〉、磯村哲編集「注釈民法(12) 債権(3)」有斐閣三七九頁以下〈乾昭三〉・四六〇頁以下〈中井美雄〉〈一九七〇年〉、各参照)。⇒本文に戻る
*[註2-12]前掲・吉野ほか「外国為替入門・第3版」一八四頁〈河西〉参照。⇒本文に戻る
*[註2-13]前掲・吉野ほか「外国為替入門・第3版」一七七頁〈河西〉、前掲・銀行研修社「デリバティブ取引入門」六九頁〈細沼〉、各参照。⇒本文に戻る
*[註2-14]但し、シンガポールSIMEXとシカゴCMEの間のユーロ・ダラー預金のように相互決済制度が採用されている場合を除き、当初取引と同じ取引所でしか決済できないことに注意(前掲・三宅「デリバティブ[金融派生商品]入門」一〇四頁参照)。⇒本文に戻る
*[註2-15]前掲・銀行研修社「デリバティブ取引入門」六九頁〈細沼〉参照。⇒本文に戻る

3 オプション
 オプション取引は、一般に、「ある資産を一定期間(行使期間)あるいは将来の一定日にあらかじめ決められた一定価格(行使価格)で『買う権利』または『売る権利』を、売買する取引」である等と定義される[註3-1]。そして、この「買う権利」がコールオプション、「売る権利」がプットオプションと呼ばれる。
 私は、オプション設定契約は、予約完結権をもつ一方当事者が売買を完結する意思を表示した時から売買の効力を生じる売買の一方の予約(民法五五六条一項)と構成できると考える[註3-2]
 この予約完結権がオプションであり[註3-3]、完結により効力を生じる売買契約の買主となるべき者がこれを持つときはコールオプション(買いオペ)、売主となるべき者がこれを持つときはプットオプション(売りオペ)である。そして、これらの予約完結権(コールオプションまたはプットオプション)を対価(オプションプレミアム)を払って取得するのがオプションの買いであり、対価を得て予約義務者の拘束を引き受けるのがオプション(コールオプションまたはプットオプション)の売りである。
 オプションも、フューチャーズ同様取引所に上場して取引される上場オプションと、フォワード同様相対で取引される店頭オプションとがあり、上場オプションの場合には、内容は一定の規格に規制されるかわり、極めて流動性に富み、機動的な売買[註3-4]ができる[註3-5]。  すなわち、オプションの場合は、法的には「契約」とみるべき先物予約の場合と異なり、正に民法にいう売買の一方の「予約」と解することができ、オプション購入者(予約権利者)がオプション(予約完結権)を行使するまでは、当事者は未だ売買契約の拘束を受けないのである。
 現実の相場価格に比べ権利行使価格(予約で決められている売買価格)がオプション購入者(予約権利者)にとって有利なときに、オプション購入者が権利を行使して予約を完結すれば、それによって初めて売買契約が両当事者を拘束し、現実の相場価格よりも低額の権利行使価格で相手方から買い(買いオペの場合)、あるいは現実の相場価格よりも高額の権利行使価格で相手方に売る(売りオペの場合)ことができる[註3-6]
 そして、権利行使することによって、有利に買い、あるいは有利に売ることができた権利行使価格と現実の相場価格との差額から、オプション(予約完結権)を取得するために支払ったオプション料(プレミアム)を控除した残額が、オプション購入者の利益となる。
 例えば、権利行使価格一ドル=一〇〇円のドル買いオペを一円のプレミアムを支払って買った場合に、相場価格一ドル=一〇五円の時に権利行使すると、相場価格一〇五円と権利行使価格(予約で決められている買い値)一〇〇円との差額五円を取得でき、プレミアム一円の投資で四円の利益を得ることになる(この場合も、少額のプレミアムを支払うだけで多額な想定元本の取引ができ、大きな利益を期待できるので、レバレッジ効果が働く)。
 あるいはまた、一ドル=一〇〇円の換算売価で輸出した会社が、プレミアム一円を支払って権利行使価格一ドル=一〇〇円のドル売りオペを購入しておけば、売掛金をドルで回収した時のレートが一ドル=九五円になっていても、権利行使によって取得する権利行使価格(予約で決められている売り値)一〇〇円と相場価格九五円との差額五円で円高による損失五円の埋め合わせがつくので、プレミアム一円の負担で為替変動リスクをヘッジできることになる。
 逆に、権利行使価格(予約で決められている売買価格)が現実の相場価格に比べオプション購入者(予約権利者)にとって不利なときは、オプション(予約完結権)を行使せずに権利行使期間を徒過させることになるので、売買は完結されず売買契約による拘束を受けないままで両当事者の関係が消滅して終わる。この場合、オプション購入者(予約権利者)は、オプション(予約完結権)を取得するために支払ったプレミアムが無駄になっただけであり、その分の損害だけを被ったことになる。
 つまり、権利行使価格と現実の相場価格との乖離には理論上限度がないので、オプション購入者(予約権利者)にとって期待できる利益は無限だが、損害は権利を行使せず無駄になるオプション料(プレミアム)の限度に止まるわけである。逆に、オプション売却者の側からみると、現実の相場価格と権利行使価格との乖離が拡がるほど損害が拡大し、被りうる損害は無限だが[註3-7]、期待できる利益は、オプションが行使されずに終わって丸取りできるオプション引受の対価(プレミアム)が限度となる。  なお、満期日までいつでも権利行使できるアメリカンオプション[註3-8]は、予約完結権の存続期間を定めたもの(民法五五六条二項参照)とみれば足りるが、満期日にだけ権利行使できるヨーロピアンオプション[註3-9]の場合は、さらに予約完結権の行使日を一定期日のみに限定する特約が付けられているものとみるべきことになる[註3-10]
 ちなみに、オプションを手付(正確には、解約手付)になぞらえて構成する説明もある[註3-11]。しかし、解約手付は、既に売買契約の効力が完全に生じていることを前提とした上で、解除権を留保するために交付するものであり、買主(手付交付者)は手付を流すことによって売買契約の拘束を脱しうるが、そのためには解除の意思表示を必要とし、しかも相手方が契約の履行に着手した後は解除できないし、売主(手付収受者)も手付金の倍額を償還することによって売買契約を解除できる(民法五五七条一項)とされるものであって[註3-12]、オプションの性質にそぐわない点も多く、権利行使をして初めて売買契約の拘束を受けるという予約構成の方が、オプションの内容に合致していると考える。
⇒註記跳ばし読み

註記
*[註3-1]前掲・銀行研修社「デリバティブ取引入門」五二頁〈細沼〉参照。⇒本文に戻る
*[註3-2]一般に予約とは、本契約に対する観念であって、当事者間に将来本契約を締結する拘束(債務)を生じさせる契約をいう(前掲・我妻「民法講義・債権各論中巻一」二五四頁)が、売買の一方の予約は、予約権利者が完結の意思表示をすれば、予約義務者の承諾の意思表示を要せず直ちに売買の効力が生じるものである。そこで、売買の一方の予約の法的性質については、純然たる予約であって、売買完結の意思表示により本契約たる売買がはじめて成立するとみる売買片務予約説(判例)と、真の意味の予約ではなく、売買は既にいわゆる予約の時に成立するのであるが、いまだその効力を生ぜず、権利者の意思表示により条件が成就してはじめて売買が完全に効力を生じるとみる停止条件付き売買契約説(柚木馨・高木多喜男「新版注釈民法(14)・債権(5)」有斐閣一五二頁〈柚木・生熊〉〈一九九三年〉、前掲・我妻「民法講義・債権各論中巻一」二五七頁)とに、見解が分かれていることに注意。⇒本文に戻る
*[註3-3]有価証券オプション、金融オプションについて「当事者の一方の意思表示により当事者間において・・・取引を成立させることができる権利」と定義する証券取引法二条一五項、金融先物取引法二条四項三号参照。⇒本文に戻る
*[註3-4]ちなみに、予約権利者が権利行使して売買を成立させると売買契約上の債務を負うことになるから、この予約完結権の譲渡には債務の引受を伴い、予約義務者の承諾を要するのではないかとの疑問もないわけではない。しかし、判例は、予約完結権譲渡の段階では未だ売買契約上の債務は生じておらず譲受人が予約完結権を行使して初めて売買契約上の債務を負担するにすぎないことを理由に、また停止条件付き売買契約説も、予約完結権の独立財産化の傾向や予約義務者に同時履行の抗弁権があり先履行を強いられないこと等を考慮して、いずれも予約完結権の譲渡性を認め、予約義務者の承諾を要しないで債権譲渡の規定(民法四六七条)に従って予約完結権を譲渡できるとする(前掲・柚木・高木「新版注釈民法(14)・債権(5)」一五八頁〈柚木・生熊〉、前掲・我妻「民法講義・債権各論中巻一」二五九頁、各参照)。但し、上場オプションの場合には、取引所を介して譲渡されるため、債権譲渡の規定による対抗要件である債務者(予約義務者)への通知・承諾を要しないと考える。⇒本文に戻る
*[註3-5]前掲・銀行研修社「デリバティブ取引入門」五三頁〈細沼〉参照。⇒本文に戻る
*[註3-6]但し、この場合も、フィラデルフィア取引所の通貨オプションのように現実に受渡決済されるものと、日経平均オプションのように差金決済されるものとがある(前掲・吉野ほか「外国為替入門・第3版」一八九頁〈河西〉、一九九五年一〇月二五日付日経新聞夕刊九頁「5分間投資サロン」、各参照)。⇒本文に戻る
*[註3-7]そのため、上場オプションの売主には、委託証拠金や追加証拠金の差し入れが要求される(一九九五年一〇月二五日付日経新聞夕刊九頁「5分間投資サロン」参照)。⇒本文に戻る
*[註3-8]例えば、TOPIXオプション(一九九五年一〇月二四日付日経新聞夕刊九頁「5分間投資サロン」参照)。⇒本文に戻る
*[註3-9]取引最終日にだけ権利行使できる例として、オプション二五、最終取引日の翌日にだけ権利行使できる例として、日経平均オプション、日経三〇〇オプション(一九九五年一〇月二四日付日経新聞夕刊九頁「5分間投資サロン」参照)。⇒本文に戻る
*[註3-10]上場オプションの場合、権利行使期間や権利行使期日に関する特約も、そのようなものとして規格化され周知されているので、これを新譲受人に当然に対抗できると考えられる。⇒本文に戻る
*[註3-11]一九九四年七月一九日付日経新聞朝刊七頁「デリバティブ入門」。⇒本文に戻る
*[註3-12]前掲・我妻「民法講義・債権各論中巻一」二六〇頁以下参照。⇒本文に戻る

4 スワップ
 スワップは、一般に、「互いのニーズに合わせた、将来の複数回にわたるキャッシュフローの交換を約定する取引」等と定義され[註4-1]、そのうち最も単純な同一通貨間の金利スワップは、「同一通貨間における変動金利と固定金利等、異なった種類の金利条件を交換する取引」をいう等とされる[註4-2]
 その理念型を民法的に構成する(実態に即した法律構成は後述するが、スワップの全体像を理解するために、理念型の理解が不可欠である)と、私は、当事者が互いに債務の履行を引き受け合う契約とみるのが妥当であると考える[註4-3])。
 まず、通貨スワップの理念型のわかりやすい具体例としては、次のようなものが考えられる。昔、なにかの小説で読んだ記憶がある(作者・題名を思い出せないので、知っている方は教えて下さい)のだが、アメリカに留学中の息子に親父さんが学費を米ドルで送る必要があったが、当時厳しい為替管理のため簡単に送金できなかった。そこで、進駐軍として勤務中日本女性に子を生ませた後帰国することになり、アメリカからこの母子に日本での生活費を送金する必要が生じたアメリカ軍人と話し合い、親父さんは軍人に代わって母子に日本円を国内送金する代わり、軍人が親父さんに代わって留学中の息子にその日本円に見合うように取り決めた一定額の米ドルをアメリカで送金することにした。この場合、アメリカ軍人は親父さんの留学中の息子に対する米ドル支払債務の履行を引き受け、逆に親父さんがアメリカ軍人の日本に残した母子に対する日本円支払債務の履行を引き受けることによって、当事者間で実質的に互いの債務を交換し合ったことになる。
 もっとも通貨スワップの一般的な経済的効用は当事者間で取り決めた一定の為替レートに固定することで為替変動リスクをヘッジする点にあり、上述の例はその意味ではあまり適切でないが、仕組みの理解には役立つだろう(それに、当時一ドル=三六〇円の固定レートだったが、闇ドルレートはある程度変動していたから、為替変動リスクヘッジの意味も全くなくはないともいえよう(^-^))。
 つぎに、同一通貨間の金利スワップの理念型の具体例は以下のようなものである。Aに対して変動金利債務を負担するX社とBに対して固定金利債務を負担するY社との間でスワップ契約を締結すると、X社がY社のBに対する固定金利支払債務の履行を引き受け、逆にY社がX社のAに対する変動金利支払債務の履行を引き受けることによって、当事者間で実質的に互いの債務を交換し合うことになる(但し、債務自体が移転するわけではないので、法律的意味での交換ではなく、経済機能的意味で交換するに止まる)。[註4-4]。  この金利スワップの経済的効用は、教科書的な説明によると、あまり信用度の高くない中堅企業の場合、要求されるリスクプレミアムに大きな格差の生じがちな市場で固定金利の社債を発行して資金を調達するよりも、銀行との相対取引で厳密に信用度の査定を受けられる変動金利での借り入れの方が、信用度の高い優良大企業との差別的扱い(金利プレミアム)による不利さの度合いが小さいため、一般に変動金利の方が比較優位であり、逆に優良大企業にとっては、社債発行市場での固定金利の方が銀行との相対取引による変動金利よりも有利さの度合いが一層大きく比較優位なので、各社のニーズにかかわらず、とりあえず自社に比較優位な方法で資金を調達した上で(両社全体で支払う合計金利を最小化する)、それぞれのニーズに応じて利払い債務を交換しあえば[註4-5]、初めからそれぞれにとって比較劣位な方法で資金調達するよりも低利ですみ、スワップによってX、Y両社ともに利益を得ることができる点にあるといわれる[註4-6]
 あるいは、将来金利の上昇を見込む市場の総意を前提にして長期金利が高めに設定されている場合に、変動金利債務を負担するX社がY社の負担する固定金利債務と交換すれば、X社は現在の市場の予測以上に金利が将来上昇することによるマーケットリスクを現在の変動金利の期待値を基準に固定してヘッジでき、他方Y社は将来の金利上昇リスクを負う見返りに市場の予測に反して金利が上昇しない場合のメリット享受を期待できることになる[註4-7]。  但し、上述の法律構成は、スワップの理念型を説明するもの(いわば、説明のための説明に近い)であって、実際は、それぞれ相手方の債権者に直接弁済するのではなく、相手方がその債権者(YがB・XがA)にそれぞれ金利を支払うための資金をX・Y両社当事者間で供給し合うだけなのが通常である。
 また、当事者同士で適当な相手を見つけることは困難であり、相手方が履行するかどうかの信用リスクも伴うので、多くの場合には、X社とY社の間に銀行が介在し、銀行がそれぞれX社との契約およびY社との契約の相手方となってスワップ取引の信用リスクを引き受け、X社とY社は直接の契約関係に立たない[註4-8]。あるいはまた、金利変動に伴うマーケットリスクを銀行自身がとり、銀行と一方の顧客との間だけで個別顧客に最適の内容の契約をすることも多い[註4-9]
 これらの場合、スワップの当事者は、自己のニーズに合った条件で支払う債務を相手方又は銀行に対して負担し、引き替えに自己の元々負担する支払債務と同条件の支払を受ける債権を相手方又は銀行に対し取得して、実質的に債務の交換を果たすことになる。例えば、X社は自社のニーズに沿う固定金利(元本はないので、想定元本に対する固定利率の金銭)をY社又は銀行に支払うのと引き替えに、Y社又は銀行からAに対する利払い債務と同一条件の変動金利(想定元本に対する変動利率の金銭)を受領して(但し、実際には、固定金利による支払金額と変動金利による支払金額との差額分だけを授受して決済することが多い。[註4-10])、これをAに対する利払いに当てるのである。
 したがって、このような実態に即したスワップ契約の法律構成としては、債務履行引受ではなく、直裁に売買類似の有償的金銭給付契約(民法五五九条)と構成すべきだろう(売買は金銭と金銭以外の物や権利とを給付し合うものだが、この場合は金銭と金銭とを給付し合うものである。[註4-11])。
⇒註記跳ばし読み

註記
*[註4-1]前掲・銀行研修社「デリバティブ取引入門」九頁〈佐々木郷里〉参照。⇒本文に戻る
*[註4-2]前掲・銀行研修社「デリバティブ取引入門」九頁〈佐々木〉・三一一頁〈日本興業銀行金融商品開発部〉参照。⇒本文に戻る
*[註4-3]ちなみに、狭義の債務引受は、債務をその内容を変じないで移転する契約(平たくいえば、債務の肩代わり)であり、乙(債務者)の甲(債権者)に対する特定の債務を、丙(引受人)の甲(債権者)に対する債務とするものである(前掲・我妻「民法講義IV・新訂債権総論」五〇九頁)。これに対し、履行引受は、最も広い意味では債務引受の一種とされるが、狭義の債務引受と異なり引受債務が移転しない。すなわち、履行引受の場合は、甲(債権者)の乙(債務者)に対する特定の債務を丙(引受人)が弁済する義務を乙(債務者)に対して負う契約であって、丙(引受人)は乙(債務者)の債務を第三者として甲(債権者)に弁済するだけであり、甲(債権者)はこれを丙(引受人)に請求する債権を取得しないのである(前掲・我妻「民法講義IV・新訂債権総論」五七八頁参照)。⇒本文に戻る
*[註4-4]この場合、元本は交換せず、支分債務たる利払い債務の履行だけを引き受けあって交換する(前掲・銀行研修社「デリバティブ取引入門」四一頁〈伊藤大浩〉参照)。なお、異なる通貨の債務履行を引き受け合って交換する通貨スワップの場合は、為替レートの変動リスク回避を目的とすることが多いので、通常、利払い債務だけでなく元本も交換する(前掲・銀行研修社「デリバティブ取引入門」三八頁〈伊藤〉、前掲・三宅「デリバティブ[金融派生商品]入門」三〇頁・三一頁・八九頁、各参照)。⇒本文に戻る
*[註4-5]この場合の交換される各利率は、通常、スワップ期間中の期待される変動金利(フォワードレート)と固定金利の各利払い額(キャッシュ・フロー)の現在価値の合計が理論上等しくなるように設定される(福島良治「デリバティブ取引の法務とリスク管理」金融財政事情研究会六頁<一九九七年>参照)。⇒本文に戻る
*[註4-6]前掲・吉野ほか「外国為替入門・第3版」三〇二頁〈河西〉参照。
 例えば、経営上固定金利で資金を調達するニーズを持つ中堅企業X社の社債固定金利が年9%、銀行変動金利が年公定歩合+2%、他方、変動金利で調達するニーズを持つ優良大企業Y社の社債固定金利が年7%、銀行変動金利が年公定歩合+1%という場合、どちらの金利もY社が絶対優位だが、X社にとっては変動金利が比較優位であり、Y社にとっては固定金利が比較優位である(X社とY社の比較において、固定金利の差は2%だが、変動金利の差は1%であり、X社にとって変動金利の方が絶対劣位の度合いがまだしも少なく、Y社にとって固定金利の方が絶対優位の度合いが一層大きい)。それぞれにとっての比較優位に従い、X社が銀行変動金利、Y社が社債固定金利で調達すれば、両者の支払う金利の合計は公定歩合+9%となり、それぞれのニーズに従ってX社が社債固定金利、Y社が銀行変動金利で調達したときに支払う金利の合計である公定歩合+10%よりも少なくてすむ。そこで、ひとまずそれぞれにとって比較優位な方法で調達した上でそれぞれのニーズにあわせるためにスワップし、X社がY社に年8・5%の固定金利を支払い、Y社がX社に公定歩合+0・5%の変動金利を支払うことにすれば、初めからそれぞれが自己のニーズに従って調達するよりも、どちらも支払金利を減らすことができる。⇒本文に戻る
*[註4-7]前掲・福島「デリバティブ取引の法務とリスク管理」六頁参照。⇒本文に戻る
*[註4-8]前掲・吉野ほか「外国為替入門・第3版」二九九頁・三〇二頁〈河西〉参照。⇒本文に戻る
*[註4-9前掲・銀行研修社「デリバティブ取引入門」四一頁・四九頁〈伊藤〉参照。⇒本文に戻る
*[註4-10]前掲・銀行研修社「デリバティブ取引入門」四一頁〈伊藤〉参照。⇒本文に戻る
*[註4-11]もっとも、外国通貨は「物」だとみるならば通貨スワップは売買だといえるが、ここでは同一通貨間の金利スワップも包括して統一的に説明するため、便宜上外国通貨も「金銭」とみて構成する。
 ちなみに、前掲・我妻「民法講義・債権各論中巻一」三四一頁は、両替について、特定の種類の金銭を給付することも売買代金となるので当事者双方が買主の立場に立つようなものであり、互いに物の所有権その他の財産権(金銭の所有権以外の財産権)を移転し合って当事者双方が売主の立場に立つ交換(民法五八六条一項)とは異なるが、一種特別の有償契約(無名契約)とみて、売買の規定(主として、買主に関する規定)を準用するべきだとする。⇒本文に戻る

5 デリバティブ一般について
 最後に、デリバティブ自体の概念について一言すると、デリバティブ(金融派生商品)とは、一般に、「金利、為替、株式等を原資産(元になる金融商品)として、これらを一定の取り決めで受け渡ししたり、インデックス(指標)として利用する取引の総称」等と定義される[註5-1]
 早い話、現物相場等他の金融商品(原資産)の価格変動をベースとして(派生して)、その価格が動く金融商品である。例えば、現物を対象とするオプションだと、現物相場価格と権利行使価格との比較で利益・損失の有無・大小が決まるので、現物相場の値動きがオプションの価格の変動に大きな影響を及ぼし(他に、満期までの残存期間等も影響する)、逆にいうと、オプション価格は現物相場価格の変動から派生して動くのである。
 デリバティブには、上述した基本型の他にも、より複雑な種々の変型がありうる[註5-2]が、上述した法律構成を基本とすることによって説明できると思う(また、法律の立場からは、是が非でも法的構成によって説明をつけなければならない)。
 また、デリバティブの経済的効能については、取引の多様化、リスク・ヘッジ、レバレッジ効果、市場の流動性促進等がいわれている[註5-3]が、私は、その最大の眼目はリスク・ヘッジ機能を活かしたリスク・マネジメントにあると思う[註5-4]。リスク・ヘッジは、簡単にいえば、自己(ヘッジャー)固有のリスクを他人(スペキュレーター)に転嫁することである(相場の世界ではリスクとは価格「変動」を意味し、ビジネスの世界ではリスクはチャンスと同義語であって、リスクをやりとりすることでマネジメントが可能となるのである)。[註5-5]
 なお、新・外為法の施行により、為銀(外国為替公認銀行)制度の廃止と併せて、有事規制等の場合(法一六条、一九条、二一条、二三条、二四条、二五条、四八条等)を除き事前の許可や届出の制度が原則廃止されて事後報告制度に移行し、対外取引の支払方法も自由化されたため、ネッティング(相殺決済)等も自由にできるようになった[註5-6]。そこで、ネッティングを活用してドル建ての債権と債務を相殺すれば、その限度でデフォルトや為替変動のリスクをヘッジすることができる[註5-7]

 以上は、弁護士の私がアメリカのビジネススクール(経営学大学院)でM.B.A.取得のため苦労していた過程で編み出したデリバティブ理解の個人的ノウハウであるが、私同様、少々頭の固くなった(失礼!)法的発想に馴染んでいるビジネスマンの方々にとっても、学生時代に先習の英語を仲立ちにしてドイツ語を学んだように、法律構成からアプローチしてみると、案外わかりやすいのではないかと思う。先ず、上述の法律構成を頭に入れた上で、改めてデリバティブの解説書をお読みいただけば、以前に読んだときよりも格段に理解が進むことに気づかれるはずである(少なくとも、私の場合はそうだった)。
 世上、デリバティブの難しさが盛んに喧伝されているが、難しいのはデリバティブを使って儲けたりリスクをマネジメントする方法(これはコンピューターや数学の知識が駆使され、本当に難解だ)であって、デリバティブの基本的な仕組み自体はそれほど難解なものではない[註5-8]。なおまた、本稿がデリバティブの法的構成に関するたたき台的な試論となりうるならば、私にとって望外の喜びである。
⇒註記跳ばし読み

註記
*[註5-1]前掲・銀行研修社「デリバティブ取引入門」八頁〈佐々木〉参照。ちなみに、デリバティブ(金融派生商品)の名は、他の原資産から派生した商品という意味に由来する(同書八頁参照)。⇒本文に戻る
*[註5-2]デリバティブの分類につき、前掲・三宅「デリバティブ[金融派生商品]入門」一〇六頁参照。⇒本文に戻る
*[註5-3]前掲・三宅「デリバティブ[金融派生商品]入門」一〇九頁参照。⇒本文に戻る
*[註5-4]例えば、不足電力を外部から購入している電力会社が、猛暑等天候変化による仕入れ価格高騰リスクをヘッジできる(ニューヨークNYMEXの電力先物上場を報じる、九六年三月二六日付日経新聞朝刊九頁参照)。また、補助金が廃止されると、農家が先物やオプションを使って農産物価格の変動をヘッジする必要も高まってくる(九八年三月二五日付日経新聞朝刊二九頁参照)。⇒本文に戻る
*[註5-5]ヤクルトのデリバティブ取引失敗による巨額損失(九八年三月二日付日経新聞朝刊一頁等)のような事件が起きると、まるでデリバティブをバクチのように罪悪視する人がいる。たしかに、思惑が外れたとき、現物の価値がゼロになることは滅多にないが、オプションの価値は権利行使期間の経過とともにゼロになるし、先物ではマイナスの底なし沼にも陥る。しかし、事業会社がヘッジャーとしてデリバティブ取引を行うことは、リスクを回避し安定的経営に資するのであり、むしろ推奨されるべきだ。他方、ハイリスク・ハイリターンの財テクのためスペキュレーターとしてデリバティブ取引をする場合、経営陣はレバレッジ効果によって現物取引よりもはるかに大きなリスクを伴うことを自覚して、ハイリスク資産の合理的な限度枠を設定し、枠に達すれば直ちに手仕舞わせるよう監視する等、十分な管理体制を敷いておく必要がある(取締役がこれを怠れば、株主代表訴訟で会社に対して損害賠償を求められることもありうる)。要するに、デリバティブの使い方こそが問題にされるべきなのであり、デリバティブ取引自体を問題にするのはお門違いではなかろうか。
 なお、前掲・福島「デリバティブ取引の法務とリスク管理」二七頁以下は、デリバティブ取引も賭博罪の構成要件(刑法一八五条、一八六条)に該当するとした上で、法令に根拠を持つ先物やオプションおよび手段・目的が正当なヘッジ目的のスワップは刑法三五条により違法性が阻却されるが、スペキュレーション目的のスワップ単体取引は違法の疑いを払拭できないとされる。しかし、ヘッジャーの相手方には常にスペキュレーターが存在するのであり、現代経済社会において有用なものとして定着しているスワップ取引について、目的によっては犯罪が成立するとみるのは現実的でないと思われるし、国際的にも影響が大きいから、全体として刑法三五条の正当行為に当たるとみてもよいのではなかろうか。いずれにせよ、スワップ全般につき正当行為であることを規定した欧米の立法例にならって、この疑いによるリーガルリスクを払拭するのが望ましいといえよう。⇒本文に戻る
*[註5-6]湖島知高編「改正外国為替法Q&A」財経詳報社一二二頁<一九九七年>、前掲・福島「デリバティブ取引の法務とリスク管理」四一頁。なお、本稿はデリバティブの仕組みを説明する目的から、私なりにその法的構成を検討したものにすぎず、実際上デリバティブ取引にまつわる規制等の法律問題については、前掲・福島「デリバティブ取引の法務とリスク管理」第二章デリバティブ取引の法務二〇頁以下等を参照されたい。
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*[註5-7]外為法改正をうけて、貿易業務を行う商社、メーカーを中心に当事者間のネッティングだけでなく、グループ企業間のマルチネッティングを活用する動きも広まっている(日経新聞九八年三月四日付朝刊一頁・三月一〇日付朝刊一一頁・三月一五日付朝刊七頁・四月二日付朝刊一頁各参照)。ただ、その結果、実需取引が減り、投機的な取引だけで為替相場が大きく動きがちになる可能性も指摘されている(日経新聞九八年三月七日付夕刊六頁「市場の話題」)。
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*[註5-8]入門者が概要を把握したり、管理者、経営者が勘所を押さえるためには、難解な数式やグラフは必要ない(前掲・三宅「デリバティブ[金融派生商品]入門」まえがき)。⇒本文に戻る

以上


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