【6】読売新聞

発行年月日 960814

見出し−− 南太平洋に縄文土器 文様・技法一致、成分も 5000年、6000キロのナゾ(本文1365字)

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   南太平洋の島国バヌアツ共和国から出土した縄文を持つ土器片を調べていたハワイ・ビショップ博物館の篠遠喜彦博士(太平洋考古学)ら日米仏の考古学者ら六人はこのほど、これが約五千年前の日本の縄文土器であると断定した。なぜ、日本から約六千キロ離れたバヌアツで出たのかは謎(なぞ)だが、縄文世界に新視点を与える発見として注目されそうだ。博士らは同国で開催中の西太平洋考古学学会で五日、この研究結果を発表した。(バヌアツ共和国・ポートビラで、坂田誠一郎)

   この縄文土器片は、六〇年代中ごろ、フランスの考古学者ジョゼ・ガランジェ博士(現パリ大学考古学名誉教授)が、バヌアツのエファテ島メレ平野のヤムイモ畑で、同島特有の土器片とともに地表から採集したもの。同博士は七二年、論文で縄文土器とは知らずにこの土器片についても言及したが、論文の掲載写真を見た篠遠博士が、日本の縄文土器との文様の酷似に驚き、調査が始まった。

   土器片は、長さ二―九センチ程度のもの計十四点。うち三点を芹沢長介・東北大名誉教授(考古学)に見せたところ、独特の羽状縄文などから、青森・三内丸山遺跡など東北地方に多い縄文前期円筒下層c、d式土器と同様の縄文を持った土器であることが判明した。

   九三年から行われている太平洋の土器分析の権威、ウィリアム・ディキンソン米アリゾナ大学名誉教授(地質学)による同土器片の成分分析では、バヌアツに存在しない鉱物添加物を含み、しかも青森県出土の典型的な円筒下層c、d式土器の鉱物添加物と組成、量とも一致することがわかった。

   続いて、最近、英オックスフォード大学などの熱ルミネッセンス法による年代測定で約五千年前のものであることが判明したため、研究チームは文様、製造技法、粘土成分、年代などを総合的に判断、日本で作られた縄文土器(複数)が、何らかの原因でバヌアツに運ばれたものと結論づけた。

   ◆漂流の舟に乗って?

   篠遠博士らは、この縄文土器が近年、〈1〉土器収集家が日本から持ち込んだ〈2〉日本の土砂を持ち込んだ際に混入していた――可能性なども十分検討したが「まず、あり得ない」としている。

   逆に、西太平洋地域ではパプアニューギニアで出土した古い土器に日本の縄文早期の土器の影響が見られる、との関連学説があることを支援材料として指摘。出席した考古学者から、フィジーでも縄文土器特有の文様を持つものが出土しているとの情報が寄せられた。

   博士は、現時点では、「偶然に到達した可能性」が強いとし、「縄文土器を積んでいた当時の舟が何らかの原因で日本からバヌアツへ漂着したケース」を推測する。傍証として日本から中部ミクロネシアへ漂流、漂着した過去の多数の例や、一九五一年に長さ八メートルの小舟が中部太平洋マーシャル諸島からバヌアツに到達した例などを挙げた。

   最近では、日米の人類学者により、人骨や歯の比較調査から縄文人が南太平洋へ南下、移動した可能性も指摘されており、今回の縄文土器との関連性にも関心を寄せている。

   同博士らは、この縄文土器片が狭い範囲での一回の採集で得られた四十点のうちの十四点であることに注目。「地元民がヤムイモを地中深くから掘り出す際に出土したことも考えられ、まだ深い地層に多数埋まっている可能性もある」として、本格的な現地発掘調査の必要性を指摘している。