第1話 消えた学生




 地価の高騰のせいなのか、大学がどんどん郊外の方へ移転するようになった。新設校はもちろん、繁華街などから離れた郊外の、学生は勉強するより他にやることはない、といった絶好の場所に建てられている。
 従って、通勤・通学には、結構な移動距離を強いられることになる。現に筆者も、都市間高速バスで、非常勤生活・・(^^;)

 ある日、隣町までのバスの中に、見知った顔を発見した。私が授業を担当しているクラスの学生である。
 ああ、やっぱりこの時間帯のバスに乗ってくるんだなあ、と私は納得していた。その学生が、私に気付いたかどうかは、わからなかった。

 ところが、いざ授業が始まってみると、その学生は出席していなかった(爆)あれえ、どうなっているのだ、と一瞬思ったが、答えは明白である。
 要するに、学校までは来たものの、ドイツ語のクラスには出なかった、単にそれだけである(笑)

 翌週は教室の中にその学生の顔を発見した私は、出席を取るとき、めげずに尋ねて見た。

「ねえ、先週、私と同じバスに乗っていなかった?」

 何と答えるか。

「・・今日も」

 予想をはずした答えに、私は内心で苦笑した。あれ、そうだっけ、と言って、点呼を継続したのである(笑)


(1997/04/23)