• 前日のアラリンホルンを無事登頂し、次はモンテローザの予定だった。しかし、周辺の山々の雰囲気がとても良かったため、もう一山 Saas Fee 付近の4000m峰に登ってから移動することに変更した。同行の岡田さんによれば Saas Fee に来る車中で隣席になった人が「これから Weissmies に登る」と話していたとの事なので、行き先を Weissmies に決めた。ゴンドラで3100mのところにある Hohsaas まで登れ、標高差は1000m足らずなので手頃な山だと思った。Saas Feeのホテルで、「Hohsaasの小屋に泊まる予定なので電話をかけたい」と言うと、親切にも電話をかけて予約してくれた。
  • 初日はゴンドラ終点の Hohsaas まで移動するだけなので、Saas Fee のホテルをゆっくり出発した。Saas Fee のバス停は、普段はシャッターの下りた広い駐車場の中にあった。バスはスイスパス所持者は無料だった。出発時だけシャッターが開いて、バスが出発した。Saas Grund でバスを下車し、町はずれにある Hohsaas へのゴンドラ乗り場へ向かった。ちょうど昼になったのでレストランで昼食をとってからゴンドラに乗ることにした。荷物の重い岡田さんは、ゴンドラ駅に山行期間中の不要荷物を預けることにした。ゴンドラは12:00~13:00の間、昼休みだった。屋外のレストランで日光に当たりながらのんびりと昼食を食べた。
  • ゴンドラは途中1回乗り換えがあった。終点の Hohsaas 駅のすぐそばに小屋があった。2食付き50フラン(約3500円)だった。テラスからは谷をはさんで4000m峰の Dom が見えた。登山者が何人かテラスで日に当たりながら休んでいた。しばらくすると曇ってきて寒くなったので食堂の中に入った。食堂の隅にはこの日の寝床となる3段ベットがあった。食事前に氷河の手前まで偵察に行った。途中に雪解け水が流れていた。岩のところどころにテントを張っている人たちがいた。後で小屋番に雪解け水は飲めるのか聞いたら、「飲むなら自分のリスクで。ミネラルウォーターならこちらにある。」と奥を指さしながら言われた。夕食はサラダから始まるフルコースで満足した。追加のビールは5.7フラン(約400円)だった。小屋の宿泊者は約35人だった。日本人は他にいなかった。
  • 翌朝、4時に起床して朝食をとった。荷物を置かせてほしいと小屋番に言うと、カゴに入れて棚の上に置くように言われた。他にも何人か荷物をカゴの中に入れている人がいた。準備を終了し、薄暗い中を出発した。懐中電灯は、すでに不要なくらいの明るさだった。氷河に出たところでアイゼンを付た。ロープを結び、岡田さんを先頭に歩き始めた。最初の少し急な登りを終えると、氷河のトラバースになった。ところどころに小さなクレバスがあった。山頂方面は、まだガスにおおわれていた。振り返ると谷の向かいに朝日に照らされた Dom が見えた。氷河を渡り終えて、やや急な登りになると、クレバス帯に入った。下から見た時はとどこを通るのか不安だったが、しっかりしたトレースが続いていた。崩れた雪の壁が15m以上の高さでそびえているところがあり、少し緊張した。180度近く進行方向を変えて稜線に出たところでクレバス帯は終了した。
  • トレースは次第に稜線のやや左側をトラバース気味に登って行った。行く手の山頂付近のガスが、ようやく取れてきた。点々と山頂へ向かう登山者が見えた。反対側にはモンテローザもはっきりと見えてきた。ゆっくりと同じペースを維持して登っていくと、やがて西峰との鞍部に着いた。5-6人のパーティが休んでいた。まだ少し登りがあるので我々も休むことにした。このパーティは、体調不良者がいるのかここで引き返して行った。
  • 山頂間近になると、下りてくるパーティ何組かとすれ違った。「良い天気だ!」などとにこやかに挨拶しながら下って行った。この付近は雪が硬く、少し凍結していた。アイゼンをガリガリときかせながら登って行った。やがて前方に20人くらいの人だかりが見えた。どうやら山頂らしかった。最後をゆっくり登り切ると山頂に着いた。小屋を今朝出発したパーティでは、我々が一番最後だった。雪でおおわれた丸い山頂だった。端の少し坂になっている部分も入れると10~15m四方あり、比較的広かった。あまり端に行かないようして展望を楽しんだ。遠くイタリア側には湖が見えた。Dom の山頂は、いつの間にか雲の中に入ってしまい見えなかった。風もほとんどない穏やかな山頂だった。他の人々も好展望を楽しんでいた。前々日にアラリンホルンに登っていたせいか、高度障害は全く出なかった。やがて、他のパーティは次々と山頂を後にし、最後は我々だけになってしまった。静かになった山頂で、もう一度展望を楽しんだ。記念撮影をしたあと、名残惜しい山頂を後にした。
  • 下りは、経験の少ない私の方が先だった。西峰との鞍部付近で2パーティとすれ違った。ゴンドラの始発にしては早過ぎるので 一つ下の Weissmies 小屋からの人たちと思った。更に、標高3500m付近まで下ると約15人の登山者とすれ違った。こちらは、おそらく朝一番のゴンドラできた人たちだと思った。この付近は登りの時より、雪がだいぶ緩くなっていた。クレバス帯を通過し、氷河に出た。前のパーティが点々となって氷河を渡って行くのが見えた。氷河上は日差しが強く少し暑かった。氷河を渡り終え、少し急な坂を下りると、行きにアイゼンを付けた岩場との境に着いた。前のパーティがアイゼンを外していた。我々もアイゼンとロープを外した。岩場を少し登り気味に歩き、Hohsaas の小屋に着いた。小屋で預けておいた荷物を回収した。ゴンドラ駅に向かって出発すると、小屋の横で休んでいたドイツ人らしき登山者が我々に気が付き「ハイ!」と声をかけてきた。笑顔が「無事登ってきたね。お疲れさん。」と言っていた。こちらも気持ちよく挨拶を返した。
  • 首尾良く、昼休み前にゴンドラ下駅まで下りることができた。岡田さんの荷物を回収し、タイミング良く来たバスに乗って Zermatt に向かった。タイミングが良すぎたため、祝杯を上げたのは Zermatt に着いてからの3時過ぎになってしまった。