- ゴンドラ山頂駅のアルプス平を歩き始めた。良い天気で日差しが暑かった。平日にもかかわらず登山者は多く、小遠見山手前では約50人の高校生団体に抜かされた。小遠見山、中遠見山と順調に登った。次第に下山者が多くなって来た。
- 大遠見山への最後の急坂を登っていると、「110番だ」と声が聞こえてきた。何事かと思い登って行くと数人の登山者が「人が滑落した」と教えてくれた。「藪の中を大きな音をたてて落ちて行った」らしく、「下に声をかけても応答がない」と言っていた。1人が警察に電話をかけ始め、もう一人がGPSの緯度、経度を通話している人に教えていた。
- 15m程登ると、「下って来た人が実際に滑るところを見た」と言う人がいた。途中で我々を追い抜いて行った体格の良い男性だった。「すぐそこだ」と滑った場所を教えてくれた。こちらも電話をかけ始めたところだった。現場は急坂だったものの道幅は広かった。向かって右手にはガレが迫っていた。ガレの横の草地を滑っていったらしかった。しばらくして藪の中を滑落した人を探しに行った人が戻ってきた。「いなかったけれどこれを見つけた」とストックと男物のメガネを指し示した。
- 大遠見山で灌木の木陰に入って昼食休憩を取った。西遠見山を過ぎると稜線は荒々しくなり鎖場が4ヶ所ほど有った。やがてお花畑になった。白岳の手前で振り返ると、ヘリコプターが大遠見山の先を下りて行くのが見えた。どうやら救助作業が始まったらしかった。
- 山荘では、受付の無線が「保険証が有った。神奈川県だ」と救助隊の交信を伝えていた。
- 翌朝、ネットのニュースは遺体を収容した事を伝えていた。外は雨だった。五竜岳山頂を断念し、そのまま下山することにした。唐松岳への縦走を断念した高校生団体約50人に続いて出発した。西遠見山までの岩場の通過は時間がかかった。
- 前日の事故現場に着いた。目撃者はどのあたりから見たのだろうと通り過ぎてから振り返った。道は崖とは反対側にカーブし木の枝も茂っていた。滑った箇所は3m先からは見えたが5m先からは見えなかった。滑落者は、急に3m先に大柄の男性が現れて驚き、とっさに谷側によけて滑落してたのだろう。同じ状況で「滑落者と同じ行動を取らない」との自信は持てなかった。1秒ずれたら事故は起きなかったかもしれない。ご冥福をお祈りしたい。