• 待ち合わせの Saas Fee の小さなホテルに着いたのは、西日がちょうどまぶしい時間帯だった。部屋に入ると、先に着いていた岡田さんは、テラスで日光浴中だった。テラスからは丸い頂上のアラリンホルンが正面に見えた。Saas Fee の回りで最も高い Dom は首が痛くなるような角度でそびえていた。このホテルには2泊し、明日はアラリンホルンに登る予定だった。
  • 翌朝、7時半からの朝食を食べ、支度をしてゴンドラ駅に向かった。ゴンドラは一度に8人も乗れそうな大型サイズだった。混雑もなく、すんなりと乗れた。途中1回乗り換えで、ケープルとの乗換駅の Felskinn に着いた。ケーブルは地下方式だった。ケーブル終点の Mittel Allatin 地下駅から階段で地上に上がり、室内にあったベンチに座って、スパッツとアイゼンを付けた。初めてのスイスアルプス登山とあって、いささか緊張気味だった。回りにはスキーヤーやスノーボーダーが多かった。日本人も多かった。こんなところまでスキーやスノーボードに来るのかと少し驚いた。登山者もちらほらいたが日本人登山者は我々だけだった。駅の外に出ると正面にアラリンホルンが白く大きく見えた。
  • 最初はゲレンデの上にある平らな道を歩いた。おそらく雪上車で踏みしめられたところだろう。やがて徐々に登りになってきた。しばらく進むとスキー場のロープトウを横切った。登っていくスキーヤーとぶつからないよう合間を選んで通過した。ゲレンデ終点で先行登山者がロープの準備をしていた。我々もここからロープを使うことにした。隣には7-8人組が2組ほどいた。お揃いのザックを持っているので、どうやら講習会の様子だった。講習会グループは準備をして次々出発していった。我々も準備ができたところで経験の多い岡田さんを先頭に出発した。
  • 雪上にはトレースがしっかり付いていた。トレースは最初は斜面をトラバース気味に登っていた。次第に急になり、やがて斜面をジグザグに登って行った。しばらく進むと大きなクレバスがあいていた。トレースはクレバスが狭くなって幅20cmくらいになっているところを渡っていた。難無く通過できた。更にジグザグに登っていくと Feejoch と呼ばれる Alphubel とアラリンホルンとの鞍部に着いた。先行の講習会グループも休んでいたので、ここで休むことにした。Feejoch の向こう側には Matterhorn が見えた。振り返ると Dom が見えた。トレースはここで左のアラリンホルンと右の Alphubel 方面に別れていた。
  • Feejoch からは左方向に進路を変え、いよいよアラリンホルンへの最後の登りになった。やや凍結した斜面を右から回り込みような感じで山頂直下の肩の部分に着いた。山頂が狭く、肩の部分の方が広いため、こちらの方に登山者が40人ほど休んでいた。高度障害のせいか頭が少し痛くなった。山頂は左側へ約50m進んだところにあった。山頂部だけ岩が露出していて、白い十字架が立っていた。山頂は狭いので順番で記念撮影をした。次々人が来るので長居もできず、早々に肩の部分に戻った。荷物を置いて、地図を見ながら回りの山々を確認した。快晴で360度の展望だった。遠くモンブランも見えていた。そばの登山者が「あそこにいる人は地元なので山の名前をよく知っている。教えてもらえるよう言って上げよう。」と頼んでくれた。ガイドらしきその人は、次々と山の名前を列挙してくれた。早過ぎた事と、まだ山の名前を覚えていないせいで、断片的にしか頭に入らなかった。回りを見ると、いつの間にか日本人のガイドとお客も来ていた。
  • 1時間近くも山頂にいたため、そろそろ名残惜しい山頂をあとにする事にした。下りは経験の少ない私の方が先だった。行きに比べ若干ゆるんで来た雪面を快調に下った。気温が上がって、少し汗ばむくらいだった。クレバスを慎重に渡り、一気にゲレンデ最上部に着いた。ここでアイゼンとロープを外した。いつの間にかゲレンデにはスキーヤーがほとんどいなくなっていた。暖かくなって雪質が悪くなったからだろうか。Mittel Allalin に着いた時に振り返ると、ロープトウは止まり、ゲレンデには誰もいなくなっていた。ケーブル駅の Mittel Allalin にはスキーヤーや登山者が大勢日光浴をしていた。コーラを買って我々も仲間入りした。ベンチの下には数日前に降った雪が残っていた。
  • 多少歩き足りなかった我々は、ケーブルとゴンドラとの乗換駅 Felskinn から Britaniahutte (ブリタニア小屋)まで歩いてみることにした。やや登り気味の雪道だった。雪がゆるんでいて歩きにくかった。Britaniahutte は、眺めの良い落ち着いた雰囲気の小屋だった。正面に Strahlhorn がよく見えた。時間があったら、この小屋に泊まって Strahlhorn に登ってみたいものだと思った。岡田さんのガイドブックでは小屋から Saas Fee まで歩いて下れると記載されていたが、時間も無くなってきたので後ろ髪を引かれる思いで小屋をあとにし、Felskinn に戻った。Saas Fee に戻り、レストランで祝杯を上げた。