Bi-Weekly Column 1/8「Eye from the SHOT
バスケットで会得した 「ボンバーヘッド」の秘密


「Jリーグでも三指……とはちょっとおこがましいですからね、ここは謙虚に、まあ、五指に入れば、というくらいにしておきます」
 五輪1次予選(香港)を戦い終えた中澤佑二(ヴェルディ川崎)は、茶目っ気たっぶりにそう言うと、周囲を笑いの渦に包み、自らも吹き出した。
 本人が五指に入れば、と言ったのは、ヘディングの強さである。正確に言えば、単に強さではなく、いかに正しいポジショニングで効果的に「頭」を使うか、その技術へのこだわりとでも言えばいいだろうか。
 中澤のヘディングはその風貌とは違い、当たりで勝つようなヘディングではない。しなやかで、しかも立ち位置が極めて正確である。ユニークな経歴がその「技」を支えるようだ。
 いわゆるエリート選手とは無縁である。中学は県大会の前の地区予選1回戦で敗退するような学校だった。あまりに早く負け、中3の夏前にして、「スポーツ浪人」状態になる。そこで、スポーツ好きの仲間たちと、「ストリート・バスケット」のチームを作ることにした。
「本当に熱中しましたよね。今でも大好きなんです。この予選に入る前も、家の近くの体育館にボール持って行って、1人でシュートを打ってきました。サッカーとは全然違いますけれど、最高に楽しいです」
 重要なのは、中澤がこうした「遊び」の中から、ヘディングに必要な要素をいくつも身に付けてきたということだ。バスケットの3オン3は、位置取りの勝負といってもいいゲームで、しかも高い地点でリバウンドを取る、スクリーンアウト(相手を背面でブロックし、リバウンドを取りやすくする技術)をかける技など、どれもがサッカーに直結する。
 高校に入ってからは、練習終了後、1人で2時間もヘディングの跳び方、ボールのとらえ方、ポジション取りを練習したという。
「当たりではなく、むしろ当たらなくても絶対的に強いヘディングを追求してポジショニングを学ばなくてはダメですね。それに自分は、これのおかげで、5センチは得してますからね」
 そう言って、ボンバーヘッドをつまむと、また笑い出した。
 そう言えば、五輪代表GK南雄太(柏レイソル)も中学はバスケット選手だった。日本サッカー界にも、欧米流に悠々と異種目をこなす選手たちが、育ってきたということなのだろう。

(週刊サッカーマガジン・'99.7.7号より再録)

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