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※無断転載を一切禁じます 陸上 高橋尚子積水化学退社会見 女子マラソン日本最高記録(2時間19分47秒)を持つ高橋尚子(30歳)が、2月28日付けで6年間在籍した積水化学を退社し、昨年末にすでに退社した小出義雄監督とともに、SAC(佐倉アスリートクラブ)で、アテネ五輪での女子初の連覇を目指すことになった。 高橋尚子の会見から(主旨抜粋) 積水に残って監督の指導を受けたいと思っていましたが、やはり私だけの思いでできるものではありませんでした。いろいろと考えた結果、新しい道として監督についていくことを決心しました。仲間の選手、コーチや会社のみなさん、応援して下さった方々、みなさんへの感謝もあり、悩みましたが、1月の中旬に決めました。アテネ五輪で最大の目標でもある金メダルを獲りたいと思い、こういう決断になりました。これまでの(会社員という形と違い)不安はもちろんあります。未知の世界となりますから。
「転んでも、小石を拾って」 笑顔で臨んだ会見だったが、高橋は途中、緊張や、何より思い出が胸をよぎったのか、声を詰まらせていた。ここまで積水化学でのキャリアによって、世界を捉え、金メダルを獲得し、女子の歴史的な壁を(2時間20分の突破)破ってきただけに、小出監督が退社した時点で既定路線とはいえ、感慨深いものがあったのだろう。 同席した専務らによれば、今後も積水化学はパートナーとして、高橋をテレビコマーシャルやイベントで起用して行く方針で、高橋も「できることは何でも協力します」としている。陸上部からも、小出氏、高橋の後を追う選手、柏に移転する積水陸上部に残る選手が出ることになったが、高橋と監督のメダル獲得には、むしろ勝手のきく環境が整うことになるはずだ。陸上部では、活動でも駅伝、実業団対抗など、ここまで最大編限の理解を得てきたとはいえやはり「縛り」はある。また会社員としての面と、プロランナーとしての賞金獲得など、まだ整備されていない面もあり、高橋にとって今回の退社は今後、メダルのみならず、より活動のしやすい態勢作りを、自らしていくためのスタートともなる。 「柏に移転する陸上部の引越しが昨日終わって、これまで一緒にいた合宿所がガランとしてます。今日からは、これまで使っていた洗濯機、乾燥機、カーテンもないし、何より自炊ですから。今朝も作ってきました。当分はこういう生活でやることになりますが、決めたことですから前向きにがんばります」 大阪国際女子マラソンでは2時間21分台に一挙3人が飛び込むなど、日本女子の層は厚さを増す。一方では世界でわずか3人、20分の壁を破ったランナーのレベルで戦える高橋の走力が、あらためてクローズアップされる状況にある。
積水側も、小出氏との2人三脚を希望して退社を申し入れた高橋に対して、これまでの功績を高く評価し、社として第一号となる「名誉社員」の称号を贈り、今後もパートナーシップは続行する意向を示している。高橋は現在、積水も含めて、ロッテ、大和證券、アシックスなど8社とのスポンサー契約を結んでおり、退社し、佐倉アスリートクラブに所属しても、競技生活に影響は生じないと見られる。一方では、新たなスポンサー探しも行なわれており、退社によって、名実とも五輪へのチャレンジがスタートする態勢となった。
昨年10月に痛めた、肋骨の疲労骨折は2月中旬をめどに完治する見通しで、来月始めには、徳之島で小出監督について合宿に入ることになっている。今後は、リクルート時代から指導を仰いできた監督とともに、五輪連覇を目指して選考レース、本番と、気の抜けないレースに挑む。
骨折のほうは、2月中旬からの復帰を目標にして、すべて先生の指示に従って、今は少し時間がかかっても完全に治すことに専念したいと思います。(大阪女子マラソンで21分台を3人が突破したことについて)いつも(SACで)一緒に練習しているチバちゃん(千葉真子)ががんばったなあと嬉しく思いました。女子のレベルも確実に上がっていると感じるレースでした。
会見を終え、会社を出る際には、いつもの笑顔でフライパンを持つ仕草をしていた。シドニー金メダルの前にも、靭帯の損傷、腕の骨折、食あたりの入院、と苦しみながら代表権を獲得。本番につなげている。
今回も、昨秋の骨折から完治が遅れ、その中で新たなスタートとなる決断をするなど、高橋は最近のインタビューで、「骨の強さをはかる骨密度が高いのは歓迎ですが、なぜか試練密度も高くって」と苦笑して話していた。そして、「転んでばかりではありますが、転んでもただで起きるのではなくて、小石を拾って起きたい。すべてはよきことのために、そう思いたい」と言った。
女子初の五輪連覇の夢をかけて、高橋は、来シーズンの五輪選考会に挑む。失敗は許されない。「あと2本、絶対に失敗できないんです。もちろんあと1本(選考会)と思って挑むんです。百発百中、打ち損じできない」
高橋はそう言って本社を後にした。追い込まれたときに見せる集中力のすさまじさもまた、今回の転機で磨かれることになるのだろうか。
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