11月19日

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サッカー

日本×アルゼンチン、前日練習より
(埼玉・さいたま市)

◆日本代表の練習
(駒場競技場、午後4時)

(レポート・古賀祐一)

「キリンチャレンジカップ2002」に出場する日本代表は19日午後4時から、さいたま市の駒場競技場で前日練習を行った。18日夜に帰国した中村俊輔(レッジーナ)と、左太腿二頭筋痛で18日は完全別メニューだった名良橋晃(鹿島)も合流して、山本昌邦監督代行の指揮の下、セットプレーの練習などに汗を流した。

 試合前日の練習は午後6時過ぎ、スタートした。ランニング、ボールを使いドリブルなどを交えたウオームアップを約10分間こなした後、3組に分かれて、4人が輪になってボールを回し、2人が中央に入ってボールを奪う「ゲーム」で楽しみながら体を十分にほぐした。続いて2人1組で中距離のパス交換でボールの感触を確認し給水時間を取った。

 本格的なメニューはここから。名良橋、秋田豊(鹿島)、松田直樹(横浜)、中西永輔(市原)、福西崇史(磐田)、中田浩二(鹿島)、小笠原満男(鹿島)、中村、鈴木隆行(ゲンク)、高原直泰(磐田)に黄色いビブスが渡され、セットプレー練習に入った。山本監督代行は、練習前に、W杯でのアルゼンチンのセットプレーの場面を集めたダイジェストビデオを選手に見せていた。そのアルゼンチンの特徴を頭に入れて、まずはコーナーキックの守備の確認。山本監督代行が、1人1人のポジションを細かく修正しながら、何度も繰り返した。その後、中村、小笠原がキッカーとなり、攻撃のコーナーキックのパターンを練習。続いてフリーキックでの守備をチェックした。その間、約20分間、アルゼンチン対策と呼べる練習はそれだけだった。

 練習の最後は、ピッチ半分を使用した10人対10人のミニゲームで締めくくった。メンバー分けはアトランダムでリクレーション的な意味合いのメニューで、ゴールのたびに歓声が上がるなど、リラックスしたムードで午後5時半、全体練習は終了した。

山本昌邦監督代行「監督の考え方を引き継いで精一杯やる。アルゼンチンはW杯でも優勝候補だった。やりがいのあるチーム。厳しい試合になる。特に立ち上がりの20分くらいは厳しいプレスに苦しむことになるが、うまくスタートしたい。スタメンは基本的にビブスのメンバーで行く。主将は監督からの引き継ぎで松田に決まっていた。昨日、本人にも伝えた。名良橋については、メディカルグループからゴーサインが出ている」

楢崎正剛「いい経験になる。しのいで、いいリズムでやりたい。先に失点しないようにしたい」

名良橋 晃「アルゼンチンは全員が技術がある。世界のトップとやれるのは数少ないチャンス。チャンスがあれば積極的に上がりたい」

秋田 豊「今日のミニゲームはリラックスしていた。ここ何年か試合前日にこれほどリラックスしたことはなかった。アルゼンチンは10回やって1回か2回勝てればいい相手。そういうチャンスは無駄にしたくない」

松田直樹「いろいろな状況が出てくると思うが、自分の成長のためのいい刺激になる試合にしたい」

中西永輔「W杯の悔しい思いをずっと持ち続けている。アルゼンチンに借りを返すチャンスが来た。相手のメンバーは違うけど、頑張りたい」

福西崇史「集中を切らさないようにしたい。攻撃は自由にやっていいと言われているが、バランスをとることは大事」

中田浩二「僕と福西さんでうまくDFと関係を作りたい。むやみに上がるわけではないが、チャンスがあれば上がりたい」

小笠原満男「アルゼンチンはチームとして強いし、いい選手もそろっている。チームとして内容を求めていきたい」

中村俊輔「ジャマイカ戦は最悪だった。ボールを取られて迷惑をかけた。アルゼンチン戦は得点に絡みたい。自分らしいプレーをしたい。相手が強いので自分のレベルを試せる。代表への思いは、W杯に出られなくなってから強くなっている」

鈴木隆行「強い選手がそろっているのでマークを離さないように皆で話し合った。攻撃ではどんな時でも早い攻撃を意識している」

高原直泰「集中して、チームとして個人としていいプレーを出したい。FW同士の動きを意識したい」

  ◆アルゼンチン代表の練習
   
(埼玉スタジアム2002、午後6時)

 9組に分かれてそれぞれが別のフライトで来日したアルゼンチン代表は、ベロン(マンチェスターU)らが最後に合流し、この日揃って最初で最後の練習を行った。
 選手よりも早く来日して準備をしていたビエルサ監督独自の練習は、ピッチのハーフを6分割に白いテープで区切り、システマチックにマークの確認、プレスをかける位置などを実に細かく、Jリーグの東京FCを相手に約1時間半、行われた。
 ビブスをつけ最終的な確認の練習に臨んだのは以下の11人。GK:カバジェロ(セルタ)、DF:アジャラ(バレンシア)、キロガ(スポルティング)、サムエル(ASローマ)、MF:アルメイダ(インテル)、サネッティ(インテル)、ソリン(ラツィオ)、ベロン、FW:C.ロペス(ラツィオ)、オルテガ(フェネルバフチェ)、クレスポ(インテル)。

 練習後には、バティストゥータが代表を退いた後を継ぐとされるクレスポ、ベロンが会見を行い、それぞれ、「W杯で苦い思いをした日本で再スタートを切りたい」と意欲を見せ、一方で「リーグと遠征でかなり厳しい日程」とフィジカルでの不安も口にしていた。

 なお、日本代表ジーコ監督の母マチルデさんの死去に伴い、試合前にはアルゼンチン側の「友情の証しとして」という厚意から、黙祷が行われ、日本チームは喪章をつける。

クレスポ(会見から抜粋)「W杯では苦い思いをした。世界中の期待、何より自分自身の期待に応えられず何もかもがあまりに早く(予選リーグで)終わってしまった事が残念だった。日本代表とここで試合ができることが本当に嬉しいし、新しいスタートとして、選手、スタッフも喜んでいるだろう。(バティの時代が終わりクレスポ時代到来と言われるが)そういうことを思ったことがない。時代という表現は違うと思うし、選手はみな違ったタイプであり比較はナンセンスだ。しかしひとつだけ、どの選手であろうと、輝くアルゼンチン代表の歴史の一部を担っているのだ。バティがいなくても、私の生活、環境、生き方、行動には何ら変りはない。ただ、明日のことに限れば、私はここに来るまでに長旅をしなくてはならず、思ったような試合ができないこともあるかもしれない。何しろ、ここ1か月、毎週2試合の厳しい日程をこなしており、フィジカルのコンディションは100%ではない。メンタルの高さで明日は何とかしたい」

ベロン「W杯で確かにミスを犯したが、それだけではなく何らかのことは生み出され、より強くなったのだと思い、いい部分を伸ばしたい。(日本チームの印象は)とてもスピードがある。フィジカルも強く、ここまで数年非常に伸びてきたチームだと思う。しかし、私たちは対戦相手によって試合をするのではなく、あくまでもアルゼンチンのサッカーをするだけだ。2トップで挑む。(現監督の体制が続行されたことを)時が経ってみないとまだわからない(隣でクレスポは、始まってわずか1日半だ、と話す)。試合は私たちにとってかなり厳しい日程であることは事実だが、もし、代表に招集されたときにそんな気持ちがあるなら、家で留守番でもしていればいい。日本に来たのは、きまぐれやお金を稼ごうという思いではなく、代表に選ばれたことを本当に誇りに思っているからだ、これから先に向けては大きな期待感を持って、この試合に臨みたい。私にとってこれが最後の4年(ドイツ大会までの意味)になるはずだ。ペンディングされているW杯を(優勝を)何としても手にしたい、そのスタートだ」


「W杯の続き、として」

 日本は故障や海外でプレーをするメンバーの辞退によって「ベストメンバー」を組むことができなかった。招待をした側のこうした構成の是非はともかく、アルゼンチンは本気でここ日本で、5か月前、辛酸をなめた日本で再スタートを切るつもりでいることが、揃った顔ぶれだけではなく、前日の練習からもはっきりとうかがえた。

 アルゼンチンがW杯期間中合宿を行った福島のJビレッジから、この日のためにわざわざ日本のスタッフが合流した。独特な練習をサポートするための道具を携えて。ピッチをテープで何分割にもエリアを作りシステムを徹底的に、数十センチの狂いもなく統一する。白いテープは芝を痛めないように工夫されたもので、杭もある。テープによって、ペナルティエリア外からセンターサークルまでの間を6分割し、その中でボランチのサイドにボールが入った場合のカバーリングを確認し、さらに、前線にはコーンを4つ置き、日本のGKがボールを出してからDFがつなぐ最初の地点、極めて高い位置からのプレスの掛け方をチェックするなど、監督も分厚いノートを抱えてピッチを歩きながら選手にとてつもなく細かな指示を出し続けた。

 見学していたユースの大熊監督は「代表でここまで細かく動きを規制し、確認するような練習をするとは驚きました。監督は練習相手を務める東京の選手たちにも、今日の公式練習のための練習を求めていたほどです」と、驚いた様子で話していた。

 彼らにとって、この試合は、日本とのフレンドリーマッチではなく、6月の続きなのだ。優勝候補筆頭に名を連ね、初戦でナイジェリアを完璧に倒し、評判通り勝利を重ねるはずだったはずの日本で失ったのは、タイトルではなく、代表の尊厳と歴史だった。ベロンが言うように、もし金稼ぎなら30時間もの遠征で、しかも帰国してすぐにもそれぞれリーグの決戦を控えている中、来ることもない。

 彼らがこの試合にかける動機がお金ならむしろ楽なものだろうと思う。しかし「別のもの」を目の色を変えて取り返しに来たとなると、90分を覚悟しなくてはならない。相手は、明日、ジャマイカ戦で再スタートを切った日本が見せた華やかな、祭りのような雰囲気とは正反対の位置でリスタートを切ろうとしているのだ。メンバーの揃わなかった日本が、一体何を見せてくるのかを密かに伺い、それを粉砕しようと目を皿のようにしながら。



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